前回(価格その6)は先発企業のスキム価格と浸透価格、後発企業の4つの価格戦略(協調、適応、日和見、略奪)について、価格その4と価格その5では、テリスの理論をとおして先発企業の価格戦略について述べてきました。
ここまでいろいろと見てくると、価格については、先発であろうと後発であろうと、理論や研究では説明がつかないものが少なからずあり、検討の枠組みなどの精度の問題はあるにせよ、もっと本質的なことがそこにはあるように思います。
そこで筆者が考えるのは、市場でどういったポジションを獲りたいのかという経営の意志が、価格を決めるのではないかということです。
つまり、プロダクトの企画に基づいて、はじめに開発や設計を行い、次にコストが来て、最後に活動の結果として価格が形成されるというのではなく、はじめに市場で獲得したいポジションを明確にして、次にそれを実現させられる価格が決められ、その後にコストが算定されて、最後にプロダクトの開発や設計が行われるということです。優れた価格設定というのは、こういったながれにすべきですし、実際そのようになっていることが多いのだろうと思います。
端的にいえば、価格がコストを決定するのであって、コストが価格を決めるものではないということです。従って、コスト・プラス法のようなやり方では、市場の需要を満たすことはできないといえるでしょう。
じゃあなんでもかんでもやみくもにえいやーと価格を決めるのかというと、決してそうではありません。そもそも、市場で狙いたいポジションにおける価格は、市場を丁寧に観察すれば、ふつうは自ずとそこでの価格帯・価格の幅が決まってくるでしょうし、その価格帯は必然として許容可能なコストの幅を、企業ごとに決めることができるはずだからです。
前回に触れた、後発企業のモスバーガーが市場リーダーのマグドナルドを上回る価格をつけて成功した事例や、我々がふだん目にする競争環境から推察できるように、価格競争については、価格帯の影響が大きく関係していることが考えられます。
プライシングで知られる経営コンサルティング会社のサイモン・クチャーアンドパートナーズを設立したハーマン・サイモンは、次のように述べています。
価格帯を横断する競争のほうが、同じ価格帯におけるものよりも、競争は緩やかである。
価格帯を横断する競争では、高品質のプロダクトを値下げして、低位にあるプロダクトの顧客を引きつけるほうが、低位のプロダクトを値下げして、高位のプロダクトの顧客を引き寄せるより容易である。
このように、競争環境下にあるプロダクトの、価格は、価格の幅、価格帯として捉えることが非常に重要であることがわかります。市場における自社と自社のプロダクトのポジションによって、つまり、プレイヤー間での競争の程度によっては、価格帯を変更することは効果的であり、同じ価格帯の競争相手からの影響を小さくすることができるということを意味しています。
次回は、ライフサイクルごとの価格についてです。