マーケティングミックス2つめのP、価格についての3回めです(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1、同その2)。
製品やサービスの特性は、価格の決定に影響を与えます。たとえは、モノは多くの場合、在庫が発生するため、納入先である流通業(卸・小売)が納入元であるメーカーに対して、価格決定の面で影響力を行使するのは珍しくないでしょう。サービスであれば、たとえば鉄道、バス、タクシー、飛行機といった交通機関は許認可制のため、価格決定には政府の影響力が大きなものになるのがふつうです。(SMM (1)サービスの種類と特性 ①サービスの定義と4つのカテゴリー)
モノを消費財と生産財に分けて捉えるとどうでしょうか。消費財はその商品/プロダクトの特性によって価格決定についての主導権が大きく異なるため、最寄品、買回品、専門品に分けて考えたいと思います。生産財については、消費財のように膨大ともいえるメーカーの数は存在せず、またインターネット販売でダイレクトに最終消費者へ販売することも通常ありません。生産財メーカーは納入先である法人企業への継続取引をとおして事業を拡大させていくため、納入先が価格決定に対して大きな影響力を持つのが一般的でしょう。
最寄り品というのは、商品単価が比較的安く、日常生活の行動範囲内で繰り返し購入される消費財全般のことをいい、通常同一商圏内での販売価格に大差ありません。食品では一般的な牛乳、パン、調味料、加工食品、青果類、アルコール類など、日用品であればトイレットペーパーや洗剤、シャンプー、歯磨き粉などになります。ほかにも煙草や週刊誌などの大衆雑誌も含まれます。このような最寄り品を扱う小売業態は、食品スーパーやコンビニです。こういった一般的な最寄り品は、流通業に価格決定権があるのがふつうで、イオンやセブン&アイのような巨大小売企業であれば、PB開発などをとおして、価格決定力をさらに強大なものにし、もしメーカーが強気で価格交渉にのぞめば、当該商品が店頭に並ぶことは困難になります。
ですが、全ての最寄り品の価格決定権を流通業が有しているというわけではありません。たとえば地元産の高鮮度な青果類や特定の地域の高級な牛乳などは、最寄り品であっても、生産者が希望する価格で販売できることが多いといえるでしょう。また、パンについても、食品スーパーなどには納入せず、パンの作り手が自ら店舗を運営して販売しているところは、自由に価格を設定しています。
上記の最寄り品の定義はあくまでも一般的なものです。これを書いている筆者が言うのも何ですが、私の家族は最寄り品であっても、買回り品と専門品を購入するような購買行動をしています。それは、価格ではなく味と鮮度のためです。たとえば青果類だと、冬の時期であれば、白菜ひとつとっても、産地によって、味・鮮度・品質・日持ちなどがまったく違うといっても過言ではありません。このため、買う産地と買うお店を、筆者の家族は決めています。イチゴなど、よりデリケートなものになれば尚更です。また牛・豚・鶏・鴨などの精肉類全般については、買う銘柄とお店も決めています。はじめから店を決めていたのではなく、幾つも買い回っての結果、そのようになりました。何が言いたいのかというと、購買行動、消費行動は一様ではなく、人の嗜好によって異なるということです。
このため、差別化できず価格競争に陥りやすい商品、所謂コモディティ化(画一化)している商品、特に最寄り品などは差別化できなくても当たり前とされている一般的な認識は、およそ誤りだと筆者は思っています。実際、セオドア・レビットは、コモディティという概念は存在せず、差別化できない商品はないといっています。自身の生活を振り返れば、まさにそのとおりだと思います。こういった面から、最寄り品こそ、ブランディングの力が試されるといっていいでしょう。
買回り品は、商品購入のために、ネット上含め複数の店舗を見て回って、比較検討するような商品群で、商品単価は高めで購入頻度は比較的低いような衣服・雑貨、家電製品などが該当します。買回り品は、他社商品との違いを打ち出すこと、差別化が重要なポイントになります。ここでの価格主導権は、専門品ほどではないにせよ、少なくとも一般的な最寄り品ほど、流通業にはありません。
専門品は、商品単価が高く、消費者は購入までに相応の時間をかける高額な商品群のことをいい、たとえばハイエンドなファッション衣料雑貨や車、高額な家具や家庭用品、住宅であれば注文住宅(特に高額な注文住宅)などが当てはまります。専門品では、価格決定に対して流通業の影響力は殆どないといって差し支えないでしょう。実際、車であれば、メーカー系列のディーラーなど、高級車になればなるほど、メーカーの価格に対する支配力が大きくなります。
ここまで見てきたように、価格決定には、差別化による商品/ブランドの独自性が流通企業に対して優位性を発揮できるといえます。またここでは触れませんでしたが、市場シェアの占有率が高いほど、原材料を供給する企業(サプライヤー)に対しても優位性を発揮でき、所謂コストリーダーシップで競争優位を構築できる可能性が高まります。
但し、たとえば食品メーカーと香料メーカーの関係のように、差別化要素を創り出すために、特定の原料と技術をサプライヤーである香料メーカーに依存している場合は、たとえ食品メーカーの市場シェアが大きかったとしても、それが即、価格優位につながるとは言えない面があります。このことから、差別化による優位性は、技術的な優位性と深いつながりがあることが多いのが分かります。あと、小麦の買い付けなどに見られる政府による法規制について、規制が少なければ、価格決定の自由度は高まるのは周知のとおりです。
なお、価格の自由度が高いというのは、高い価格をつけることができるというだけで、実際に高い価格をつけることを意味するものではありません。以上、ここまでプロダクトの特性で価格を見てきました。
ほかにも、プロダクトのライフサイクルで価格を考えることができます。プロダクトの導入、成長、成熟、衰退の各ライフサイクルで、とるべき価格戦略が異なるという考え方です。現行商品/プロダクトを改良した新商品か、市場には存在しないような全くの新規商品かによって、価格の優位性は異なりますが、およそ共通して言えることは、新たに市場を開拓できるような新商品であれば、導入と成長期において、高い価格優位性を発揮することができ、成熟や衰退期に入ると、似たような商品が多数市場に参入するばかりではなく、自社商品にとって代わられるような新たな他社の新商品の登場によって、価格の優位性は失われていくことになります。
プロダクトの特性とライフサイクルで価格を考察するアプローチ以外に、消費者の特性や心理で価格を検討するものがあります。端的に言えば、最寄り品、買回り品、専門品のいずれであっても、それぞれに対して消費者にとっての値頃感というのがあります。これについては、後日詳しく述べたいと思います。