5/12/2024

ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます(ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目)。規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめったにないからです。

最も重要なことは、ターゲットにするセグメントが自社にとって価値があり、且つ一定の地位を確保できるか、防御できるかということです。このためには、当該セグメントにおいて、自社が強みを発揮できるかどうかを見極めなければなりません

自社が競争に勝てるセグメントか否か、攻めるべきセグメントかどうかを検討するためには、次の3つの視点で考察するのがよいでしょう。

自社の現行マーケットポジション (相対的マーケットシェア、マーケットシェアの変化率、高付加価値プロダクトの受容可能性、マーケティングアセットの有効性)

自社の経済的・技術的ポジション (相対的なコスト構造、技術開発力、生産能力)

自社の特徴 (人的資産特に経営層のリーダーシップ、川上や川下をコントロールできる力とその範囲)


自社の現行マーケットポジション

相対的マーケットシェアは、企業が顧客にどれだけ受け入れられているかを表す指標です。高いシェアを持つ企業は、より幅広い顧客から認知され、通常、広範囲に及ぶ流通網を築いているため、そのシェア自体がより一層市場に浸透していく上で有利な状況を生み出します。

その高いシェアを誇るブランドが、市場のトップブランドで、消費者市場を対象にしているのであれば、尚更でしょう。というのも、相対的にいえば、多くの消費者はトップブランドを購入したがる傾向があるためで、これはデジタル時代の今日、ますます顕著になってきているように筆者は感じています。加えていえば、トップブランドは新規参入含めて競合するブランドのシェア獲得・拡大に、何もせずただ見ているということがないからです。

なお、この相対的マーケットシェアは、 ターゲットセグメントにおけるシェアを表したものでなければなりません。何故なら、当該プロダクトが市場全体を対象にしていない限り、ターゲットセグメントにおけるシェアではないものを云々することは、意味がないからです。

 

マーケットシェアの変化率は、ターゲットセグメントにおいて、シェアを維持しているか、伸ばしているか、落しているかといったことを知る点で重要です。仮に、自社の売上げが順調に伸びていたとしても、シェアが低下しているようであれば、ターゲット市場の成長率に自社が追いつかず、競合がシェアを伸ばしているということがわかります。こういった場合は、状況に応じて、マネージャーは量的に拡大させるのか、利益率の向上を目指すべきなのかといったことを、再度、判断し直すことが必要となります。前者であれば、値下げをすることが有効な手段でしょうし、後者ならば差別化できる要素をプロダクトに付加するということが考えられます。

 

高付加価値プロダクトの受容可能性は、優れたプロダクトが市場に受け入れられるか、顧客が継続して購入してくれるかといったことを見るわけですが、これは当該ターゲットセグメントの潜在力を検討する上で重要です。仮に、価格変動に敏感な消費者が多数を占め、品質よりも低価格であることにまず反応するようであれば、自社にとって当該セグメントは魅力的なものではないのかもしれません。

 

マーケティングアセットの有効性も、自社の現行マーケットポジションを考える上で、重要な項目です。ここでいうマーケティングアセットには、顧客ベース、流通ベース、インターナルの3つがあります。

 

顧客ベースのアセットには、 企業名やまさにブランドネームであったり、企業の名声、プロダクトの独自性や優位性、市場支配力といったものが含まれます。中でも、企業名が誰の目にもはっきりわかるものであれば、それはブランドネームに転化し、企業のあらゆる製品に利用されることになります。筆者が以前、在籍していたIBMは、まさに20世紀から2010年(?)くらいまで長く続いた顧客に強く支持されるブランドでした(今でも続いているかもしれませんが、クラウドの時代になって、IBMが少し遅れた感は否めません)。

流通ベースのアセットには、 配送または配荷リードタイムや安定供給などを含めた流通のネットワーク、流通の独自性などが挙げられます。前者であればその代表格はアマゾンやクロネコヤマトなどが、はじめに挙がるのではないでしょうか。後者については、以前の化粧品訪問販売や生協などが該当すると思います。

インターナルアセットについては、 技術力、コスト競争力、著作権と特許、生産ノウハウ、フランチャイズやライセンス、現有顧客基盤などが対象となります。

企業があるセグメントに向き合う際、マーケティングアセットがどういった働きをするのかを考えなければなりません。ターゲットセグメントについては、強みを発揮できたとしても、それ以外のセグメントに対しては弱みになりうる場合があります。ターゲットセグメントにおいて、マーケティングアセットを引き続き開発する価値や意味、開発することが妥当と判断できれば、企業はそのセグメントにおいて、潜在的な強みを持つことができるといえるでしょう。

自社の経済的・技術的ポジションと、自社の特徴については、このまま続けていくと、長くなりすぎるため、次回にしたいと思います。


5/02/2024

ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目

ターゲティングは、はじめにセグメントした市場を評価し、次に自社が競争に勝てそうなセグメント、或いは攻めるに値するセグメントを特定するというステップで進めます。

セグメントを評価する項目には、以下のようなものが挙げられます。

市場要因 (セグメントの規模、セグメントの成長率、価格の弾力性、需要の季節変動性、顧客の交渉力、産業のライフサイクル、予測可能性) 

経済的要因 (参入と撤退の障壁、製造業などサプライヤーの交渉力、技術の蓄積と変化のスピード、投資の必要性、マージンのレンジ)  

競争要因 (競争の強度、競争相手の成熟度、差別化の程度、代替品の脅威)

政治的・社会環境要因 (法規制、倫理や社会的な責任行動、気候変動対等)


市場要因

セグメントの規模は、販売拡大や生産における規模の経済達成のためには、必要不可欠で、市場の魅力度を評価する上で重要な項目です。 

セグメントの成長率についても、多数の企業が重視します。というのも、市場の成長と共に、自社も比較的たやすく成長することが可能とみることができるからです。

価格の弾力性については、通常、低い市場のほうが高い市場よりも魅力的です。価格弾力性が高い市場は、価格に対して敏感なため、価格競争が起こる可能性が高くなります。特に、成熟市場においてはそれが顕著であり、多くの企業が市場から撤退していく可能性があります。

需要の季節変動性は、見方によっては魅力的な要因となります。一年の上半期に大きな需要を抱える企業が、下半期の需要も得て、年間をとおして需要が見込めるようになると、自社リソースを安定的に活用できるようになる、こういったことが考えられます。

顧客の交渉力は、エンドユーザーや流通業者などの購買力を指します。一般的にいえば、購買者のパワーが強大であればあるほど、その市場は魅力的ではありません。メーカーが市場を独占している度合いの高いほうが、まだ、ましといえるでしょう。

産業のライフサイクル(またはプロダクトのライフサイクル)については、台頭/導入期、成長期、成熟期、衰退期といった4つのライフサイクル・ステージによって、直面する問題や立案する戦略が変わってきます。 

たとえば、台頭/導入期であれば技術や商業面での不確実性が高く、それによってとるべき戦略はたとえばデファクトスタンダートの確立や初期ユーザーを後押しする施策を矢継ぎ早に打つといったことが求められます。一方、成熟期であれば、不確実性が低くなる一方で、競争は激化し、低成長で低収益に悩むことが多くなります。顧客をつなぎ留めたり、マーケティング4Pの精緻化や、業務の効率化などが必要になるなど、企業にとっての魅力度は、企業そのものの成長や資金調達などによって異なってきます。

予測可能性は、産業のライフサイクルとも関係してきますが、市場の予測可能性が高いほど、セグメントの潜在的価値を予測することがたやすくなるといえます。

 

経済的要因

参入と撤退の障壁は、企業のおかれている状況によってまちまちです。たとえば、スイッチングコストが高い市場は、参入障壁を築けます。すでに参入している企業には魅力的な市場となりますが、これから参入を検討する企業にとってはそうとはいえないでしょう。一般的にいって、参入障壁を克服するには、多額の費用がかかる割には、得るものが少ないように思います。反対に、撤退障壁が高い、たとえば設備を使い続けなければならないような状態に陥っていることなどがあります。投資した設備が、高い参入障壁を築いたとしても、それは撤退障壁も高くなることが多いといえます。 

製造業などサプライヤーの交渉力は、メーカーが独占または独占に近い状態にある市場は、メーカーが競争し合っている状態のものより、魅力が劣ります。

技術の蓄積と変化のスピードは、競争相手の状況によって異なります。高い技術力を蓄積している企業は、その技術を用いて他社に対する高い参入障壁を築けるはずです。但し、その市場の技術変化が非常に速い場合は、そうとは限りません。

投資の必要性は、上記にあるような幾つかの要因と同様に、市場の魅力度に影響を及ぼします。大きな投資を必要とする場合は、すでに参入している企業にとっては他社に対する障壁となりえます。実際、多くの市場ターゲットには到達できないことを示していることが少なくありません。

マージンのレンジは、誰もが知るとおり、業種・業界、市場によってまちまちです。小売業でも、食品を扱うスーパーマーケット(SM)と、衣料品を扱う専門店では大きく異なるのがふつうです。SMでも、高級スーパーと呼ばれるようなところと、ディスカウントストア的な品揃えをしているスーパーでは変わってきます。

 

競争要因

競争の強度は、基本的に競争相手の数に関係します。1社独占か、複数による寡占状態か、或いは支配的な企業がまだ存在しないかといったことです。当然のことながら、ごくわずかな企業数によって支配されているような市場に参入するには、相手を上回る競争力が必要となります。完全競争またはそれに近い環境下では、価格競争が盛んであることが少なくありません。価格競争で勝てる見込みがほぼない小規模企業は、差別化できるプロダクトを提供しなければなりませんが、国内においては、多くの場合、それがうまくできずにいるのではないでしょうか。

競争相手の成熟度は、ルール順守やフェアな競争環境を維持しようとする企業で構成されている市場は、ある面で魅力的といえます。一方で、競争相手がしばしば変わり、その動きが予測しづらいような市場は、自らの手でコントロールすることが難しいといえ、故に魅力的な市場とはいえないでしょう。

差別化の程度については、差別化が進まない市場ほど、価格競争に走りがちです。差別化ができない市場は、閉塞感から、価格競争を生み、その競争がさらに市場を悪化させています。

代替品の脅威は、ほぼ全ての市場で起こりえるのではないでしょうか。技術革新は代替製品/サービスの登場につながります。自社があまり技術革新的でないと考える場合は、代替が起こりにくいと思える市場をターゲットすべきです。 


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...