2/16/2026

ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその6

前回(プロモーションその5)は、購買者の意思決定プロセスには5つの段階があり、最初の「問題認識(または、ニーズ認識)」、2つめの「情報探索」、3つめの「代替品の評価」について述べました今回は、残りの「購買決定」と「購買後の行動」についてです。


購買者の意思決定プロセス4つめの「購買決定」は、評価した代替品の中から1つのプロダクトを決めて、それを購入/利用する段階です。

ここでひとつ気をつけなければならないことは、現在のような異様な価格高騰が続いている状況下では、消費者は最も気に入った商品を購入するとは限らないということです。

また、今に始まったことではありませんが、日本国内の市場特性のひとつである人目を気にする消費者の存在にも注意を払う必要があります(ここでの人目を気にするというのは、何を買っているか、商品棚などで何を見ているかとか、それらの行為の最中に自分が周囲からどのように見られているのかといったこと)。

人目を必要以上に気にする消費者があまりにも多いため、自分が(心の中で)選んだもの(生活レベルに即して買うべきものや必要なもの)とは明らかに違うものを、結果的に購入/利用するという現象には留意すべきです。こういう状況が常態化すると、人目を気にする消費者は、始めからモノの評価(代替品の評価)をすることなく、周囲の購買行動に合わせるということになっていきます。


このような謂わば単純化されたやり方、ヒューリスティックな思考で、プロダクトの購買を決定することが、今日では珍しくありません(ヒューリスティックについては、問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ③思考の罠i)。コトラーとケラーは、消費者のメンタル・ショートカットとして、以下のヒューリスティックを紹介しています。

連結型ヒューリスティック: 消費者が最低限許容できる基準を設定し、それを満たすプロダクトがあれば購入するという選択の仕方

辞書編纂型ヒューリスティック: 消費者が最も重視する属性を備えたプロダクトの中で、最上位のものを選択するというやり方

属性排除型ヒューリスティック: 消費者にとって重要度の高い属性1つを取り上げてプロダクトを比較し、当該属性で許容水準に達しないプロダクトは排除するという方法

これら3つのヒューリスティック以外にも、今日のような極端なインフレが続いている社会状況では、低価格重視のヒューリスティックが存在すると筆者は思います。プロダクトが低価格であれば、迷うことなく、或いは自動的に、品質は度外視して選択するという購買スタイルです。何十年も前から存在していたとは思いますが、今日ではより顕著になっているといえるでしょう。


こういったヒューリスティックは、単純化された経験則やメンタルの近道のため、バイアス(偏見)を生むことが少なくありません。最もよく知られているものに、利用可能性ヒューリスティックがもたらすバイアスがあります(問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ③思考の罠i③思考の罠v)。これは、想起しやすいもの、利用しやすい事柄を優先して判断することによるバイアスです。

たとえば、近年では季節をあまり問わずに食中毒が発生しています。仮に、個人経営のレストランか旅館で食中毒が発生したというニュースがあったとしましょう。これを見たある消費者が、個人経営は食中毒発生のリスクが高いと過剰に捉え、ある程度の規模を擁するチェーン形式のレストランや旅館を選択する方が安全だと考え、チェーン形式のほうを(内容をあまり検討することなく、ある意味やみくも的に)選択するといったことにつながります。

実際のところは、個人経営のほうがより多くの食中毒を発生させているかどうかはわかりません。けれども、その消費者にとっては、情報の新しさであったり、記憶の鮮度が高いといったことが思考に影響を与えることによって、チェーンを選ぶという意思決定につながります

ほかには、たとえばある特定の電気製品は3年を過ぎたら故障する可能性が高いとされているため(実際は、故障した製品が当該製品全体の0.1%にも満たない結果であったとしても)、5年の保証期間がついたものを消費者は選択したがるといったことも、利用可能性ヒューリスティックによるバイアスの典型例として挙げられるでしょう。


利用可能性ヒューリスティックによるバイアス以外でよく知られているものに、代表性ヒューリスティックというのがあります。これは、人は特定の個人や物事に対して判断する時は、その人自身が持つ固定観念に合う特性を見つけようとする傾向があるということを表します。この代表性ヒューリスティックは、はじめにおおよそのところで正解の方向を示してくれるといわれている一方で、大きな誤りをもたらすこともあるとされています。また、このヒューリスティックは、意識、無意識に関係なく発動するともいわれており、人種差別などはその代表例に挙げられます。

人はデータや情報が不足している時のみならず、ほかに適切な利用可能な情報があったとしても、代表的な情報を信用してしまうといった深刻な誤りをもたらす、このようなバイアスで特定の人や物事を判断してしまうことが珍しくないといわれています。

たとえば、高齢で少しくたびれた感じの男性が、高級輸入車の販売店にやってきたとしましょう。その男性は毛玉とりを何度もしたかのようなウール地のカーディガンを着ています。そのカーディガンは、長年クリーニングに出し続けてきたかのようで、薄っぺらく着古されたものに、周囲には見えています。しかもその男性は、その店に、電車とバスを使って一人でやってきているとしたら、その店の営業パーソンはその人をどのように見るでしょうか。営業パーソンの何割くらいが、その男性に客としての魅力を感じるでしょうか。実はその男性は、神戸市東灘区に住む日本でも有数の資産家で、外出時はできる限り目立たないように振る舞っていたとすればどうでしょうか。もし、営業パーソンがその男性の着ている薄っぺらいカーディガンが最高級のカシミアであることに気づいていたら、応対の仕方は変わったかもしれません。一人で来店しているのも、いつもお付きの人がいるので、たまには一人で外出したかったのかもしれません。

別の例を挙げると、大手小売企業が販売しているものを、無条件で信用している人が一定割合存在しているのはよく知られていることです。けれども、(全ての大手がそうではありませんが)品質的には決して安心できるものではなかったり、賞味期限を改ざんしていたり、同一商品カテゴリーでもっと良い品があるにも関わらず、それらは商品仕入時の値入率(利益率)や条件が当該大手小売企業には良くないために店頭には並ばないといったようなことは珍しくありません。ですが、消費者はその小売企業が日本でも有数の規模で全国展開しているというただそれだけの理由で、盲目的なくらいに信用しているといったことも、代表性ヒューリスティックに起因するバイアスです。このように、代表性ヒューリスティックは、有用な意思決定の仕方であるといわれている一方で、多用しすぎると大きな機会損失やしっぺ返しなどにつながります。


もうひとつヒューリスティックのタイプを挙げると、感情ヒューリスティックというのがあります。人が行う判断の多くは、論理的に思考する前に(或いは、論理思考などはまったくせずに)、良し悪しとか、購入するしないを感情に頼って決めている場合が多くあり、昨今の日本市場では特に顕著に観察できるものです。そして、人は自分の得になることを過大に評価し、損失やリスク発生要因は過少に評価するか、そもそも見逃してしまいます。また、いつまでも第一印象に固執しやすいという研究結果もあります。普通に考えれば、時間をかけて相手のことがわかっていくにつれ、第一印象は薄れていきそうなものですが、そうでないケースが多くあるということです。

感情ヒューリスティックは人の低い次元の感覚に訴えて、対象の全体の姿や、複雑なシステムに内在されているマイナスの面を無視するといわれています。今日のデジタル時代では、ふつうに存在する何らかの意図をもった情報源の実態(恐ろしさ)、そういったものに気づいた時には、私たちは感情で即断してしまうのではなく、また第一印象で決めてしまうのでもなく、事実を積み上げて、全体像をしっかり見て判断する必要があります。このようなヒューリスティックについては、あらためて別の機会に取り上げたいと思います。


最後、5つめの「購買後の行動」とは、プロダクト購入/利用後に、感じた満足感や不平不満などに基づいて、消費者がとる行動の段階になります。どれくらいの満足を感じるか、或いは不満を抱くかといったことは、消費者がプロダクトの購入/利用前に思い描いた期待との差といえます。期待が大きかったにも関わらず、得られたものが少なければ大きな不満となるでしょう。

マーケティング/ブランド担当者がすべきことのひとつに、購買後の満足度の調査、モニタリングがあります。新規顧客の獲得は容易ではなく、既存顧客を維持し、継続購買につなげていくことが、安定的な売上向上とブランド構築の強化には欠かせません。本来であれば、プロダクトの購入/利用前に、消費者が期待する値をコントロールすることが望ましく、実際のプロダクトパフォーマンスどおりに、プロダクトをアピールしなければなりません。そう考えると、現在の企業や自治体、お店のホームページやプロモーションなどは、直ちに見直すべきということになるでしょう(あまりにも、極端な、見せかけだけのものが多すぎるからです)。

コンサルティングビジネスでは、シニアクラスのコンサルタントはクライアントの期待値をコントロールすることが、すべきことのひとつです。期待値をいかに管理していくか、これについては、また機会を見て触れてみたいと思います。次回は、消費者を対象としたコミュニケーションプロセスについてです。


ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその6

前回(プロモーションその5) は、購買者の意思決定プロセスに は5つの段階があり、最初の「 問題認識(または、ニーズ認識) 」、2つめの「 情報探索 」、3つめの「 代替品の評価 」について述べました 。 今回は、残りの「購買決定」と「購買後の行動」についてです。 購買者の意思決...