ここまでは、コミュニケーションを効果的に行うための8つのステップのうち、最初の3ステップについて述べました。1「市場の理解とターゲットオーディエンスの明確化」、2「コミュニケーション目的の設定」、3「コミュニケーションの設計」。今回は、4ステップめのチャネルの選択についてです。
4「コミュニケーションチャネルの選択」
プロモーションには多くの種類がありますが、組み合わせはどのようにすればよいのでしょうか。組み合わせ方のひとつに、前回(プロモーションその8)で概説した心理上のプロセス(たとえばAIDMAなど)に沿って、つまり消費者の心理段階に合わせてプロモーションの方法を適用するというやり方があります。
たとえば、A(Attention)では、消費者の注意を引くため、認知度を上げていくために、広告やPRを使います。I(Interest)では、認知されても興味が薄いようであれば、広告やPR以外に、イベントやSPなども行いながら消費者の関心を惹きつけます。街角に著名人や芸能人が突然現れるといったイベントなどは、ターゲットの興味をかきたてるものです。
D(Desire)では、ニーズを喚起するため、SPやダイレクトマーケティング、人的販売などを組み合わせて、ターゲットセグメント毎にマッチするベネフィットをアピールしていきます。このDでは、販売現場の対応が重要になります。特に最寄り品をはじめ、シーズンに入ったばかりの衣料品、人気の高いAV機器やスマートフォンなどの新製品といった買回り品については、消費者の衝動買いや、ブランドの変更(ブランドスイッチ)が、売上げに大きな影響を与えます。そのため、店頭陳列の仕方、セールスパーソンの接客術、POP、景品、季節性を捉えた催事など、多様なSPを組み合わせることが必要で、他社との違いを見せていくことが重要です。(最寄り品、買回り品についてはこちらを参照してください→ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その3)
M(Memory)は、記憶を呼び覚ましたり、悩む消費者の背中を押せるような口コミや、SP、人的販売を用います。A(Action)は、購入/利用につながる具体的な機会を、SPや人的販売などで行います。心理段階でどれか1つのプロモーションだけを用いるということはまずなく、一般的には多くの手法を用いることが多いはずで、その典型が新車の販売になるでしょう。
或いは、上記のような一連の流れで捉えるのではなく、個別にチャネルを考えていくというやり方もあります。この場合は部署ごとにタスクをこなせるため、ある意味効率的ともいえ、実務では多く使われるかもしれません。ただ、最後にそれぞれを組み合わせて、ひとつのブレない、一貫性のあるメッセージにして発信することは難しくなるため、注意が必要です。
コミュニケーションの手段は、人的なチャネル、或いは非人的/ノンパーソナルなチャネルに分けて考え、そのいずれか或いは両方を選択します。
人的コミュニケーション・チャネルとは、コトラーによれば、複数、一対一問わず、対面、電話、eメール、手紙、チャット(AIによるものもこちらに含まれるものとします)、口コミなどの評価サイト、さらには企業や専門家のチャネルなども含めます。こういたチャネルを通したコミュニケーションは、消費者と直接コミュニケーションが行いやすく、且つフィードバックも得やすくなります。
非人的/ノンパーソナルコミュニケーション・チャネルとは、個人との直接的な接触やフィードバックは関係なく、コミュニケーションメッセージを届ける手段全般を指すものとコトラーはいっています。メディア、セールスプロモーション(SP)、イベントなどで、一人または複数の人に対するコミュニケーションの手段です。(なお、SPはやり方次第では、人的コミュニケーションになる場合もありますが、ここではノンパーソナルなチャネルとして捉えます。)
メディアには、新聞雑誌などの印刷媒体、テレビやラジオなどの放送媒体、衛星やケーブルなどのネットワーク媒体、ビデオなどの電子媒体、広告・看板・ポスターなどのディスプレイ媒体が挙げられます。セールスプロモーションには、サンプル、プレミア、クーポン、小売流通企業向けの販促奨励金などになります。
イベントとは、ターゲットオーディエンスに対して何らかのメッセージを伝達するために催されるもので、スポーツやアートなどの展示会をはじめ、招待/サービス/インセンティブ旅行、パーティ、広報による記者会見などが含まれます。イベントには人的側面が強く表れることがあるため、非人的コミュニケーション・チャネルという言い回しよりも、ノンパーソナル・コミュニケーション・チャネルという方がしっくりくるかもしれません。
なお、コトラーは、この非人的/ノンパーソナルコミュニケーション・チャネルに、雰囲気を含めていることがあります。プロダクトを購入/利用しようという気持ちにさせたりするような仕掛けや環境などを指しています。この雰囲気は、物理的環境/physical environmentという言葉に置き換えたほうが、よりふさわしいでしょう。メーカー以上に、サービス業ではコミュニケーションを行う上で、重視すべき不可欠な要素といえます(SMM (2)サービスの構成要素 ③サービスマーケティングミックス)。
人的、非人的問わず、コミュニケーションする相手が、自社または自社プロダクトをどのように見ているかによって、コミュニケーションメッセージの受け取り方は変わってきます。企業やプロダクトに対する信頼度が高ければ、メッセージを好意的に受けとめてくれるでしょうが、そうでなければ受け取り自体を拒否されることもあるため、コミュニケーション手段の選択には注意が必要です。
メッセージを伝達した後は、できればフィードバックを得たいものです。特に、重点ターゲットオーディエンスからでは尚更です。コミュニケーション担当者は、少なくとも、ターゲットの認知度と反応はおさえなければなりません。
たとえば、新興のITメーカーが発売したデバイスに関するウェブ広告を打った場合、フィードバック調査の結果、ターゲットに据えたある地域に住むアニメ好きの10代の85%がその広告を見て、そのうちの60%がそのデバイスを家電量販店などで試用したけれども、実際の購入にはその60%のうちの5%しかいなかったとしましょう。この場合は、プロモーション自体は認知度向上の点では成功しているといえますが、プロダクトの実売につながったとは言い難いでしょうから、製品自体を改善するか、或いは顧客接点を改良する必要があると考えられます。もしこれが仮に、10代の20%しか広告は見ていないが、その75%が購入しているという結果であったとすれば、実売につながるだけの魅力が製品にはあると判断できる一方で、認知度の大幅な向上を企図したプロモーションプログラムを練らなければならない必要があることがわかります。
IMC(統合型マーケティング/Integrated Marketing Communications)を提唱したといわれているドン・シュルツは、企業は多数あるコミュニケーション・チャネルを統合して、それぞれを調整しながら、一貫性のある説得力に富んだ明快なメッセージを発信しなければならないと説いています。ここでいうコミュニケーション・チャネルとは、主として、広告、セールスプロモーション、PR、人的販売、ダイレクトマーケティングの5大要素を組合せたプロモーションミックス(ブランディング (7)マーケティングミックス⑤ プロモーションその1)を指しますが、多種多様なチャネルを全てシームレスに統合することを、IMCは企図しています。ロシターとパーシーは、IMCは次の3点を行うことと簡潔に定義しています。
①適切なタイプの広告とプロモーションを選択的に組み合わせること(現実には、多くの企業が別々に行い、それぞれが意思決定している)。
②ブランド独自のマクロのポジショニングを支援するものであること。
③顧客に対しては、時間の経過による変化が起こっても、一貫したコミュニケーションを行うこと。
次回は、5番目のステップ「コミュニケーション予算の決定」についてです。