8/26/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスvii

現在、気候変動に関するフレームワークと評価は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース、Task Force on Climate-related Financial Disclosures)が、事実上の標準になるようです。(参考: 脱炭素経営の取組み (2)Scope2⑦サーキュラーエコノミー EUの動きと対策)

TCFDは、不確実な将来においても持続可能な経営を企業が行っていくことを主眼とし、その気候変動に関する提言で、シナリオ分析の検討ステップを紹介しています。(TCFD Knowledge Hub)

環境省の「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ」が、上記について国内事例を交えて解説しています。気候変動緩和策・適応策として、機会は5つ(資源の効率性、エネルギー源、製品/サービス、市場、レジリエンス)に分類。リスクは2つで、移行(政策・法規制、技術、市場、評判)と物理的(急性、慢性)に区分されています。その物理的リスクは、急性を洪水のようなもの、慢性を気象パターンの変化のようなものと定義しています。

これらのうち、ツーリズムでは、たとえば次のようなものが、すぐに挙げられるでしょう。

  • 政策・法規制
    • 中長期のリスクとして炭素税導入による原材料費の高騰

    • 短中期として規制強化による費用の増加

    • これらなどから、増大するコストのサービス価格への転嫁により、観光客への負担が膨らみ、需要減退につながる可能性あり

  • 市場・評判(デスティネーションにおける気候変動への取組みが不十分と捉えられた場合、イメージの低下を招き、結果として)

    • 消費者行動の変化により観光客数が減少し、市場自体が縮小

    • 金融機関や投資家からの資金調達の難易度が上昇

    • 働く人材の流出や、確保自体が困難になる可能性あり

更には、オーバーツーリズムの概念が大きくなり、観光自体が自然環境を破壊する行為としてみなされ、リアルの観光需要が減退し、オンライン上での観光が活発になる可能性もないとは言い切れないように思われます。

一方で、サステナブルツーリズムに限らず、ツーリズムそのものにサステナビリティの考え方を積極的に取り入れ、サステナビリティ経営ならぬサステナビリティツーリズムとして、全ての活動や概念などを見直すことで、リスクを機会に変えてしまうことが可能とも考えられます。

たとえば、気候変動への対応をしっかり行っているデスティネーションを特定の消費者が選好するのは明らかです。気候変動対応が充実した施設や商品などを増やしていく、気候変動リスクに関する情報開示をより積極的に行い投資判断基準を予めちゃんと上回っておくなど、いろいろ考えられるはずです。

ただ、ここで重要なことは、どれだけ良いことをしているのかというよりは、何故それを自身のデスティネーションで行っているのか(他所ではやっていないことを何故ここではやっているのか)を明確にして、わかりやすいメッセージを、様々なチャネルをとおして、発信し続けることです。

この場合、長期的な視点で考えることはいうまでもなく、まさに長期プラン策定の時こそ、積極的に取り組んでいくべきでしょう。

  • ゴールは何か

  • 設定したゴールに向かっているのか

  • 施策はアライメントされているか

  • 実現する能力と仕組みは整備されているか
  • そのゴールに基づいた市場はスケールのあるものか、それはいつ頃に出現しそうなのか

世界規模でのエシカルな消費が台頭してきている今を好機と捉え、デスティネーションが夢を描き、実現させていくべき機会にできるといえるのではないでしょうか。


8/18/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスvi

ツーリズムの長期プランニングプロセス3タイプのうち、今回は「3.シナリオ・プランニング」についてです。

今日のような不確実性の高い時代には、ゼロベースでものごとを考えて意思決定することが重要です。従前の考え方や行動様式などに捉われていたり、ましてや長期プランニングがバイアスの働きやすい環境下で行われるのであれば、シナリオプランニング(SP)は大いに役立つことでしょう。

シナリオを考える時、何をはじめにすべきでしょうか。筆者は、タイムラインバウンダリーステークホルダーを決めることが、シナリオをコンパクトに考えられることになると思います。

タイムラインは、業界によってまちまち、たとえば消費財関連でも、保守的傾向の強い食品産業の幾つかの業界であれば、10年先を見通せるかもしれませんが、IT関連の業界であれば2年先さえ難しいように思います。ツーリズムの場合であれば、コロナという特殊要因はありましたが、通常はおそらく5年先くらいなら大丈夫なのではと思えますし、10年先でもよいのかもしれません。また、その間をとって7年先というのもありではないでしょうか。

ただ、今日、ツーリズムに限らず、全ての業界に共通する要素に、気候変動への対処があります。脱炭素でいえば、2050年にネットゼロ、2030年にほぼ半減させることを日本は国際社会に対して宣言しているわけですから、たとえば今から7年後の2030年にツーリズムがどうなっているのか、当該デスティネーションはそれに向かって何をすべきか、他所との差別化のポイントは、などといったことはホットなトピックでしょう。

バウンダリーとはシナリオの境界線(バウンダリー)のことです。自身のデスティネーションを、地域、商品/サービス、技術、市場、そして競合するデスティネーションなどを考慮して、境界線を何処に引くかを決めます。何にフォーカスするかによって、何処に引くかが変わってきます。たとえば、気候変動に関するものであれば、ほぼ全てのものが影響を受けますし、デスティネーションで提供する国内向けの商品に限定するのであれば、バウンダリーは技術と市場などに絞られることになります。

ステークホルダーは、先に設定したタイムラインとバウンダリーに沿って、考慮すべき関係者を見極めます(参照: プロダクトとしてのデスティネーション③ステークホルダーマネジメント)。ここで重要なことは、ステークホルダーの役割や利害、パワーバランスなどが、時間の経過と共にどう変わっていくかを考察することです。シナリオ分析は未来のことを考えるものですから、その未来の姿を形成するのがどういったステークホルダーなのかを特定していく必要があります。

タイムライン、バウンダリー、ステークホルダーの範囲を決める時、次のような問いかけが役立つでしょう。

  • 競合するデスティネーションは、自らが抱える問題を検討する際、どういった枠組みを使っているのだろうか

  • 過去(たとえば10年前)から今日に至るまで、どのような変化が起こったのだろうか。それは予測できたものだったのか。その変化にどれくらいうまく対処できたのだろうか
  • 我々が考える商品/サービスや技術を用いたデスティネーションは現れるだろうか。それによって、観光客の行動は変わるだろうか。変わるとすればどれくらい変わるのだろうか。

範囲が決まれば、次は、シナリオの元になる情報を集めます。以下のような問いかけは、シナリオを考えていくうえで効果があります。

  • 過去を振り返り、現在わかっていることのうち、過去の時点で知ることができていたならと思うことがあるとすれば、それは何だったのか
  • その過去の時点で何を問いかけるべきだったのか。ツーリズムの変化や不確実性の主だった源泉は何だったのか。
  • 現在のデスティネーション戦略を評価する時、どういった情報があれば、未来に向けた選択肢を作ることができるのか

シナリオ分析を行う際、専門家やツーリズムに対して造詣の深い人たちにインタビューを行い、情報を集め、資料を作っていくことは珍しくありません。この場合、デスティネーション関係者の幹部職員もその対象に入れるべきです。但し、トピックが拡散しすぎてまとまりがつかなくなる可能性がありますので、それを回避するために、インタビュー対象者は将来を考察するうえで鍵を握る人に特定して行うべきです。また、競合するデスティネーション、重要なカスタマーやサプライヤーに対してもインタビューを行ったほうがよく、同様にキーパーソンは慎重に選定すること。そして、変化を生み出す外部の主だった力に関する情報を整理していきます。

変化を生み出す外部の力が、ある方向に向かう可能性はどれくらいあるのか。予想できるところは方向性として扱い、できない場合は不確実性となります。ある先が、方向性なのか不確実性なのかが分かりにくい時は、設定したタイムラインのなかでその力のエビデンスの有用性を考えそれが方向性であることにステークホルダーから同意が得られたら、方向性として捉えてよいのだろうと思いますし、そうでなければ不確実性となります。続きは次回へまわしたいと思います。



8/09/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスv

前回は、ストラテジックプランニング&マネジメント(SPM)における「2.5 戦略の選択」の「2.5.1 重点課題と論点の再確認」について述べました。

「2.5.2 意思決定要素の設定と共有(合意)」では、戦略オプションの賛成派と反対派から挙がった各論点の意味合いに基づいて意思決定の項目価値判断の基準不確実な要因を抜き出します。抽出作業は手間がかかりますが、時間をかけて論理的に、技術的に、時にはアーティスティックに行えば、必ずまとまりのついたちゃんとしたものになるはずです。仮に、論点が嚙み合わないようなことが、ここまでの段階である場合は、この2.5.2で一気に、まとめにかかったほうが、はるかに効率的で、建設的だろうと思います。不毛とも思える議論を延々とやっているよりも、ずっと生産的ですし、物事が前進していきます。つまり、対象を構造化して、全体像を見えるようにしていくことになるわけで、担当者の本当の力量が問われることになります。

ここで気をつけなければいけないことは、上述の意志決定項目、価値判断基準、不確実要因などに沿って論点を整理をする時は、これらの要素を階層化しておくこと、これが重要です。

ここでの階層化とは、戦略レベル、オペレーションレベル、タスクレベルなどにするという意味です。戦略レベルまたはその上位概念であるポリシーレベルで、検討の方向性が決まっていなかったとすれば、下位のレベルであれこれ議論しても仕方がありません。

たとえば、交通インフラの整備に係る費用がどれくらいかわからないにも関わらず、財源確保の方法や、発注方法を検討したり、ましてや外部専門家への協力依頼に要する費用などを決定したりすることはまったく意味がありません。財源確保や発注方法などは、下位のものとして位置付けるべきです。

上位が決まってこそ、下位を決めていくことができます。当たり前のことですが、意外と見落とされがち(?)なため、注意が必要です。また、上位でビジョンステートメントなどに抵触して検討対象外になったものがある場合は、その下位において、ひとつの事項をあれこれ議論することはありえません。議論がグシャグシャにならないようにすることが必要です。

「2.5.3 オプションの比較・評価」のやり方、意思決定アプローチの仕方には幾つかのタイプがあります。一つひとつを挙げてここで論じることは、本ブログの主旨を超えていくことになりますので今回は見送り、注意すべき点に触れて、終わりにしたいと思います。

比較・評価では、戦略オプションの内的整合性を検討することが極めて重要です。その際、当該オプションが既存または現行のものと大きく異なる場合は、不足する資産の獲得の仕方とその計画が必要になります。

決して忘れてならないことは、これまでと異なる結果を目指してオプションを考案してきたわけですから、当然のことながら、これまでとは異なる見方や考え方をもって判断をしなければいけないということです。

度々述べていることですが、従前と同じやり方や発想で、異なる成果を得られることはありません。特に、心理的なトラップ、思考の罠については必ずといってよいほど、判断の過程に潜んでいます。罠を完全に取り除くことは残念ながらできないように思いますが、罠の存在を認識し、回避するために注意を払うことで、賢明な選択への一歩につながることになると言い切れます。(思考の罠i罠ii罠iii罠iv罠v罠vi)


8/07/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスiv

今回は、ストラテジックプランニング&マネジメント(SPM)の「2.5 戦略の選択」についてです。(SPM全体のながれは、こちらを参照してください。)

選択について、日本企業は決められない病に陥っているとしばしばいわれています。これについては、いろいろな書物でその原因や対策が書かれていますが、清水勝彦氏は、意思決定に関係する症状を決められない以外に、決めすぎ、決めたはず、決めっ放し、決めすぎ、があると述べています。それぞれに対する解決策の方針をやや強引かもわかりませんが括ってしまうと、危機感を共有する、考えて準備する、コミュニケーションをしっかり行う、結果を測定するといったものになります。

複数のよくできた戦略オプションから最良、最適なものを選択し、建設的な合意を得ることは簡単なものではありませんが、敢えてハイレベルでそのながれを記載すると、以下のようなものになるでしょう。

2.5.1 重点課題と論点の再確認

2.5.2 意思決定要素の設定と共有(合意)

2.5.3. オプションの比較・評価

「2.5.1 重点課題と論点の再確認」では、全体像を把握し、デスティネーションとしてこれから進むべき方向のベクトルを合わせることが、このタスクですべきことです。「2.3 戦略オプションの創出」でビジョンステートメントなどを作成していれば、2.5.1の重要なインプットになります。ここでは、WhatとWhyを明確にして、成功の定義をあらためて明らかにしておくこと(正確に言えば、明らかにしておいたものをここで再確認すること)が必要です。

ここで気をつけなければいけないことは、ステークホルダーによって、また同一ステークホルダーの中でも職位や立場が違えば、観点が異なってくるということです。何をしようとしているのかを再度確認する際に、2.3で合意形成がしっかりできていて且つそれがハッキリと書面化されていれば問題はほぼ発生しないといえるようにも思いますが、そうでなければあらためて様々な意見が出てくる可能性があります。

2.3のアウトプット次第ではありますが、そういった意見を排除することもできるでしょう。ただ、できれば膝を突き合わせて、相手が腹落ちするまで、徹底した議論をすることが、本来は望ましい姿です。筆者の経験でいえば、ビジョンステートメントで、皆が依って立つところを誰の目にも明らかにできていれば、その後のすすめ方を間違えなければ、手戻りや停滞などはほぼ発生させないようにできるといえます(実際、そのようにできました)。

2.5.1の論点には、戦略オプションのコンセプトオプション実現に係るコスト実現に向けたスケジュールなどが挙げられるでしょう。あと、地方自治体、デスティネーション固有の政策的判断(もしくは政治的要素)という要素が入ってくることだろうと思います。なお、ここでの論点再確認については、2.3で事前につぶしていることが基本のため、本来はそう細かいものが挙げられることはないと思いますが、もし2.3であまり詳細な事項を検討のテーブルに載せられなかったのであれば、ここでは細かいことまで全て洗いざらい出しておくほうが、後々もめずにすみます。一種のガス抜きの場と捉えてよいかもしれません。

長くなっていきますので、続きは次回とさせていただきます。


8/01/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスiii

前回の地方創生/ツーリズムブログでは、デスティネーションの長期プランニングプロセス2つめのタイプ、ストラテジックプランニング&マネジメント(SPM)における現行戦略の評価までを概説しました。今回は戦略オプションの創出について、述べていきたいと思います。

「2.3 戦略オプションの創出」のタスクは、仮に現行戦略を見直す必要がある場合、特に根本的に創りかえなければならない時に必要となるものです。事業範囲を再定義したり、競争優位性を再構築したりすることで、戦略ロジックも変えていく、というか、根本的に変更する、まったく異なる戦略を複数立案することを指します。

たとえば、デスティネーションAが、近郊(半径50km)に住み、マイカーで来るファミリー層を主なターゲットにしていた戦略を、半径100kmに拡げるといったものは、戦略オプションとは呼ばないと筆者は考えます。ですが、ターゲットを根本的に見直す、たとえば遠く離れた首都圏に住むリタイアした富裕層に変更するのであれば、これは戦略オプションと呼べるものになります。つまり戦略オプションというのは、外部・内部の環境変化によって、デスティネーションが新たにとるアクションの単なる羅列などでは決してないということです。

戦略オプションは、2つかそれくらいの数に絞り込むのがふつうですが、はじめからあまり制限は設けないほうがよいでしょう。というのも、戦略はロジックであると同時に、非常に創造的な行為でもあるからです。発想、思考に制約をかけるのはまったく得策ではありません。一人で自由に思考したり、グループで積極的にブレーンストーミングするなどして、初期段階ではできるかぎり多くのオプションを出すべきです。

「2.4 戦略オプションの評価」で重要なことは、幾つも創られた戦略オプションを比較評価する時に、内外環境との整合性が確保されているかをしっかり検討することです。そしてこの場合、戦略オプションですから、既存戦略とは当然異なるため、検討の仕方、見方・考え方も、既存に引きずられるものであってはなりません。たとえば、デスティネーションAには、首都圏から来訪する人たちを迎え入れる交通手段がかなり貧弱で、列車の本数が非常に少なかったり、下車して何十分も歩くことを強いるものだったりするということだったとしましょう。上述のターゲットには、これではまったく通用しません。少なくとも交通の基盤を整備・強化する必要があります。

何をどれだけ、何処までやるか、どのように行うのかが問題です。交通基盤の整備強化の仕方は幾つか考えられますが、新たな費用投下は避けられず、手段と計画を考えだすことが必要になります。これは非常に分かりやすい例ですが、このようにオプションが現在のデスティネーションのコンテクストと合わないことは多いでしょう。不足しているものを如何に獲得するか、ここはまさに知恵の出しどころです。そんなものはできないよとしてすぐにあきらめるのは簡単ですが、それではいつまでたっても、変わる・変えていくことはできず、地域住民の方々の暮らしを含めて、所謂縮小均衡というものになってしまうのではないでしょうか。

新しいことを創りだすときに、おそらく最も重要なことは、古い習慣や考え方を一度は捨て去り、いかにゼロベースで考えられるかということです。これまでの成功要因に注目したり、過去の事例を、まずはあたるといったことは避けるべきだと筆者は思います。未来が予測しづらく、過去が参考にならないような現代ですべきことは、やみくもに流行りものを手を出そうとしたり、イノベーションと称していたずらに革新的といわれているような手法を身につけることでは得られず、また、その必要もないでしょう。

では、どうすればいいのか。大変難しい問いですが、それはおそらく世の理市場の定理や普遍的な価値といったものを、まずはしっかりおさえることから始め、次に、そこから戦略的に思考を飛躍させることだと筆者は思います。これについては、いずれ別枠で考えてみたいと思います。


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...