3/05/2023

問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ③思考の罠iii

問題解決力における思考の罠の3回目は、問題の根源を取り除こうとせずに、現象や一時的に発生した問題だけに対処することについてです。(思考の罠i思考の罠ii)

多くの事案が適用できますが、ここでは、社内外でのコミュニケーションの円滑化や高度化などを目指してデジタル化を推し進めるも、うまくいかないケースについて、少し取り上げてみたいと思います。

持ち株会社によるグループ内企業の全体統治を行う企業はたくさんありますが、コミュニケーションの停滞により、問題が頻発している会社は少なくありません。本社と事業会社、本社内での経営とスタッフ、さらには一事業会社内における同一部門内の各階層間でも起こっているわけですから、グループ内の事業会社間同士は言うに及ばずです。

デジタル化であろうとなかろうと、本来、職場には多様なコミュニケーションの場があるにも関わらず、本社の事業会社に対する業務の支援が不足していたり(或いは、ほぼ皆無であったり)、一企業内での仕組みが機能不全を起こし、更にそれを改良する新たな仕組みづくりの機会も事実上存在していなかったり、何より、それぞれの職場で省察の場が決定的に不足している、こういった事象はごく一部の企業に限定されるものではないでしょう。このようなことの多くは、今日のデジタル化以前から顕在化していた問題です。それを、現在のデジタル化でいきなり解決しようとしても、そもそも少々無理があるのではないでしょうか。

筆者は、日本人なら誰もがその名を知る大企業の現場で、目を疑うような経験を何回かしてきました。ここでそれらに触れることはありませんが、まさにfreeze(凍りつく)することさえありました。問題は、そのようなことが発生しているというのではなく(勿論これも問題ですが)、本社や事業会社の執行役員含めたマネジメントの多くが、それをわかっているにも関わらず、何ら手を打っていないということです。中には、正義感の強い?役員が、注意し是正しようとすることもあるのですが、現場はお構いなしというか、何を言われているのかよくわからない、或いは、何がいけないのかというような態度でいる状況です。

何故、このようなことが起こっているのでしょうか。遡れば1990年半ば以降、日本の労働生産性(一人当たりのGDP)や、国際競争力の順位が下がり始め、世界的なイノベーションが生まれなくなってしまったことは、多くの人が知ることです。この事実と、デジタル化によるコミュニケーションの高度化がうまくいかないことの理由は、根源的には同じものだと筆者には思えます。

所謂、共同体意識が都度作用し、その時々でどのように振舞うのがよいのか(または、いけないのか、もしくはどれくらいまでなら許されるのかなど)を判断しているからというのが大きな理由なのだろうと思います。その意識の度合いが非常に強く、上述の例のように、悪い方向に作用すると、何をやっても咎められないといった空気が職場を支配しているといえるでしょう。この場合、善悪や是非を判断する人はそこには存在せず、空気が決める、空気に従い行動するというようなことになってしまいます。ただ、唯一(?)の救いは、研究や開発といった理系出身者が多くを占める職場には、こういった空気感を感じることはあまりありません。

ところで、少しデータが古く、また、サンプル数が不明ではありますが、ギャラップ社によると、日本で、熱意溢れる社員は全体の6%、周囲に不満をまき散らしている無気力な社員は24%、やる気のない社員は70%という2017年の調査データがあります。また、野村総研が2005年に20~30代の正社員に対して行った調査では、仕事に対して無気力感がある人は75%、3年前と比較して成長実感がない人は43%、潜在的な転職希望者が44%に上るという、当時、衝撃的な結果がでました(ピュアな気持ちでこの数字を見ると、今でも十分衝撃的ではありますが・・・)。実際、日本の職場では、欧米と違って、同僚が困っていても助け合わないし、知識やノウハウも教え合わないといった調査結果を、過去に見た記憶があります。

このような状況に陥った理由をここで考察することは、本ブログ(問題解決力の思考の罠)の主旨に沿うものではないため、ほどほどにとどめておきますが、ひとつには日本では特に強い共同体の同調圧力、これを下支えする非公式な組織の存在が挙げられるでしょう。非公式な組織では、暗黙のルールに従わなければ、そこではやっていけず、このため、仕事をしなければ周囲に迷惑をかけ、一方で、仕事をしすぎると周囲も同様に頑張らなければならなくなるので許されないといったような状態が続いています。はじめから、いきなりこのような状態ではなかったはずですが、いつの間にか暗黙のルールのようなものが徐々に増え、大きなものになってしまったのだろうと思います。

加えて、人事制度の問題があります。3~5年程度で本人の意志とは別に異動があることが多いうえ、やってもやらなくても評価はさして変わらず、ましてや高評価を続けて得ようものなら昇格(または昇進)はあっても昇給はわずか、挙句の果てに責任ばかりとらされるようになる、というような状況が延々と続いている。であれば、そこそこに働いて、そこそこの給与のほうがいいんじゃないかということになってしまう。このような共同体意識での同調圧力、社員には暗に組織に従属(または隷属)することを要求しつつ、一方で通常以上の?成果(及び報酬)を期待することはできないわけですから、過去にあった成果主義がうまくいかなったのは当然のことかと思われます。

3つめの思考の罠として挙げた現象や一時的に発生した問題だけに対処することについては、覚知の限界がその理由を説明できるのではと筆者は思います。長くなってきましたので、続きは次回とさせていただきます。


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