7/24/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その12

マーケティングミックスの価格12回めは、前回の内的参照価格(その11)の続きで、今回は文脈効果についてです。

内的参照価格は、消費者ごとに変化していきます。これは、自身の買物経験(実際に購入するか否かは関係なく)の積み重ねによる時間の経過が、変化を生み出す(内的参照価格を更新する)ためで、前回で述べた高島屋のハイランドクラブの事例がそのひとつです。


この時間がもたらす変化以外に、もうひとつ内的参照価格が変化する要因があり、それは消費者を取り巻く状況や環境が変わる場合に起こります。

状況/環境が変化する(内的参照価格がシフトする)というのは、たとえば清涼飲料水を街中の自販機で購入する場合と、海水浴場にある海の家で飲む場合では、価格は異なりますが、およそ多くの人は海の家で買う清涼飲料水の値段が高くても受け入れるはずです。同じように、高級リゾートホテルで飲む清涼飲料水と、ビジネスホテルで飲む清涼飲料水では、中身が同じであっても価格が異なることは誰しも想像できるでしょう(実際に支払うかどうかはともかくとして)。こういった状況による内的参照価格の変化のことを、文脈効果(コンテクスト効果)といい、この効果には主に3つの概念があります。


トレード・オフ・コントラスト: 消費者がプロダクトのどのような属性を意識するかで、プロダクトの選択結果が変わることを説明する概念です。これには、バックグラウンド・コントラストとローカル・コントラストの2種類があります。 

前者は過去の購買経験が現在の比較購買の枠組みに影響を与え、内的参照価格をシフトさせる。後者は提示された組み合わせにおいて、消費者が選択肢の長短を考慮して選択肢のどれかを必ず選ばなければならない状況で発生する効果のことをいいます。たとえば、選択肢xとyの場合ではxが選ばれるが、選択肢がxとyに囮プロダクトのzを加えることで、yが選ばれるような状況のことになります。

 

極端の回避: 名称のとおり、両極端の選択肢を選ばず、価格も品質もそこそこの中庸に落ち着くという概念です。消費者は、利益も不利益も小さくすることで、損失を回避しようとする傾向があることを表しています。

 

カテゴライゼーション: 新たなカテゴリーまたはサブカテゴリーを作ることをカテゴライゼーションといい、特に新しいプロダクトを発売/提供する際に、適用できる概念です。 

消費者にとってこれまで存在しなかったような評価の軸を設けて、他の類似するプロダクトとの差異性を打ち出すことで、消費者の内的参照価格を高く保たせるようにします。たとえば、ふつうの野菜や果物を使った高価格の機能性飲料や食品、デザイン性に優れたスターバックスのコーヒーチェーン、従来の白物家電の常識を覆したダイソンの掃除機などが挙げられるでしょう。


参照価格については多数の研究があり、まだまだ解明されていない点はあるようですが、自分自身の消費行動を振り返って考えると、参照価格の概念、ひいては価格に対する消費者心理に基づいた考え方は有効なものといえます。このため、経済学的アプローチの需要関数などでは、プロダクトの利益を最大化させるような価格設定は、現実の消費生活においては、少々難しいのではないかと思われます。


ここまで見てきたような参照価格に関する考察から、以下のようなことが言えるでしょう。

消費者は価格に対して、プロダクト(製品、サービス)の価値を象徴するものであり、 品質を示す1つの指標として捉えている。 

消費者は許容できる価格をプロダクトごとに持ち合わせ、それは消費者毎に異なる。言い換えれば、消費者一人ひとりが、価格に対する標準的なイメージを持っている。

許容できる価格は、消費者の買物体験をとおして、時間の経過と共に変化する。 

許容できる価格は、消費者を取り巻く状況/環境によっても変わる。つまり、オケージョンによって価格の許容範囲は異なる。

新しいカテゴリーを創出したプロダクトについては、消費者の価格感度は従前のものとは異なる。ある意味、感度が鈍感になるといえば、言い過ぎでしょうか。


次回はバリュー・プライシングについて取り上げます。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その12

マーケティングミックスの価格12回めは、 前回の内的参照価格( その11) の続きで、今回は文脈効果についてです。 内的参照価格は、消費者ごとに変化していきます。これは、自身の買物経験(実際に購入するか否かは関係なく)の積み重ねによる時間の経過が、変化を生み出す (内的参照価格を...