10/28/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスviii

マーケティングプログラムの監査で、収益性評価を外すわけにはいきません。マーケティングプログラムの正当性を検証するのは勿論のこと、マーケティングマネージャーの業績を正しく評価するためにも必要です。

対象はデスティネーション全体の収益性にするのか、顧客の収益性にするのか、特定プロダクトのプロモーションに限定するのか等々、決められた期間内で全てを対象にできれば理想的ですが、ツーリズム特有の地域におけるデータ収集の難しさや、ステークホルダー間の調整なども考えれば、プログラム監査で焦点をあてているところや、最も効果が得られそうなところなどから、まずは着手していくのが現実的でしょう。

投資収益率(ROI/Return on Investment)は、リターンを投資で除することで求められます。リターンは粗利益から投資を引いたもの、その粗利益は収入から売上原価を引くことで算出できます。マーケティングの費用対効果、所謂マーケティングROI(mROI)の算式は次のとおりです。

(粗利益-販売費-マーケティング費用)÷マーケティング費用×100

マーケティング投資とは、不確実な費用のことをいいます。販売を実現するための費用は投資には含まず、粗利益の算出で考慮されることになります。つまり販売がまったく実現されなかったとしても、費用をかけたのであれば、それは投資の範疇に属し、たとえば広告やダイレクトメールなどのマーケティング費用は、投資として扱うのが本来だといえます。

この観点からすれば、マーケティング予算を確保するのはやめにして、戦略的なマーケティング投資計画を策定するほうがよいということになります。個人に予算を割り当てたり、予算の整合性を確認したりするのではなく、プロジェクト毎に予算を配賦し、ROIなどで評価していく。多くのデータを集めるのではなく、仮説に基づき重要なデータを収集してインサイトを得るべきでしょう。

デスティネーションは、マーケティングプロモーションやキャンペーンに投資しますが、これらは需要を喚起させるために行われるのであり、それはとりもなおさず売上げを増大させるために行うといっていいでしょう。

ですが、多くのケースにおいて、プロモーションやキャンペーンの評価は、大きな話題になったかとか、派手にやったかというようなことが先行しがちで、売上げが多少上がっても、どちらかというとそれは二次的なものとしてしか捉えられない傾向があるのではないでしょうか。

また、仮にそのプロモーションなどで売上げが伸びなかった場合には、天気が良くなかったからだとか、プライシングが適切じゃなかったんだ、生産で何か問題があったんだなどと、自分たちには直接コントロールできないほかの何かの理由にすりかえられてしまうといったことが、稀に?あるように思います。

変化する市場において、また、マーケティングという右脳と左脳を組み合わせて思考すべき活動においては、慣習的な発想や行動からでは、新しいものは生まれにくく、また、現状を変えていくことも難しいのではないでしょうか。


10/21/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスvii

前回の地方創生/ツーリズムブログでは、プログラム監査におけるデスティネーション売上創出力の構成要素のひとつであるプロダクトミックスについて述べました。今回はふたつめの要素であるターゲット人数から始めます。

ここでいうターゲット人数とは、当該デスティネーションを認知していて、そこに行こうと思えば、およそいつでも行くことができる人のことを指し、これが売上げの源泉となります。どれだけうまくセグメンテーションをして、ターゲティングをしようとも、ターゲットの大半が当該デスティネーションのことを殆ど認知していなければ、何の意味もありません。ポジショニング以前の問題です。また、デスティネーションに対して誤ったイメージを持たれているようなことがあれば、これもまた深刻な問題で、こういった問題を抱えているデスティネーションが意外と少なくないのではないでしょうか。

ターゲット人数を把握するためには、ターゲットに対するコミュニケーションと流通チャネルが必要です。なお、ここでのコミュニケーションは、主に広告宣伝を指します。

ターゲットについては、

  • ターゲットのプロフィールは明確か
  • その明確なターゲットが実際に来ているのか(または購入しているのか)

コミュニケーションについては、

  • コミュニケーションターゲットが明確になっているか
  • ターゲットにメッセージは届いているか
  • コミュニケーションはプロダクトの要点を伝えているか

といったことを精査していきます。コミュニケーションで気をつけなければいけないことは、ターゲット人数のところで述べたターゲットと、コミュニケーションをとる相手が異なる場合があるということです。たとえば、ミドルエイジの人にコミュニケーションし、その人の親がデスティネーションを訪れたり、コミュニティで影響力を持つ人に対してデスティネーションのことを伝え、実際に訪問する人はほかのひとであったりすることが珍しくないからです。

流通チャネルについては、

  • (初期的段階では)ネット上で自らの観光サイトを開設しているか 
  • サイト上でOTA(Online Travel Agent)の商品を案内しているか

  • ターゲットの検討/購買行動を反映したチャネルになっているか(ネットよりもリアル店舗重視であれば、その販売網がどうなっているかなど)

といったことなどが挙げられます。これ以外にも、リアルの旅行代理店での販売などターゲット層にとっての利便性を確認したり、そもそもターゲット層が居住するエリアでその販売ができているかといったことなども調査の対象に入れるべきでしょう。

顧客化率は、プロダクトの購入見込みがある人と実際に購入した人の和を顧客として、ターゲット人数に対するその顧客の割合とします。

  • 考えられるタッチポイントは全て活かしているか
  • シーズン毎、またはモチベーション毎などに、プロモーションは行っているか
  • 訪問意向者の何%が実際に来ているのか(もしくは購入しているのか)

  • 1回の購入金額を上げることはできるか
  • 1回の購入点数を増やすことはできるか 

  • 再訪(または再購入)につながるアクションを理解しているか
  • 顧客化率の推移(特に、思うように伸びない場合など)の理由は、理解しているか

マーケティングの監査ですから、主に広告宣伝によって作り出された売上げの源泉となるターゲット人数に対して、実際それをどこまで刈り取れるかを示す指標が顧客化率ということになり、その成否はまさに販売促進の中身次第といえます。

10/14/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスvi

今回はマーケティング監査におけるプログラムの監査についてです。ここでいうマーケティングプログラムとは、マーケティングを実践するためのタスクのまとまりとします。

デスティネーション全体、またはデスティネーションの中核プロダクトやアトラクションなど、対象によってプログラム監査の中身は少し変わってくることになります。ですが、何を対象にしてもマーケティングミックスのプロダクト、プライス、プレイス、プロモーションの4つがプログラム監査の中心です。

デスティネーションごとにゴールと戦略は異なりますが、デスティネーション全体の観光消費額や観光生産額(デスティネーションプランニング ③プロセスii)などは軽視できるはずもないため、まずはこれを評価することが必要でしょう。その後それに係るマーケティングプログラムの内容が的確に実践されているかどうかを精査していきます。なお、前段の「1.2 パフォーマンスサマリー(参考: マーケティングプランニング ②プロセスi)」で、観光消費額や生産額について、検討・評価を終えていたら、プログラムの実効性検証へと進みます。

この観光消費額、大きくするには観光入込客数を増やすか、一人当たりの観光消費を増やすかのいずれか、もしくはその両方というのは明らかです。ただ、それをどうやって行うのか、具体的なマーケティングプログラムにどう落し込むのか、毎月または毎四半期などでその進捗をどのように見ていくのかとなると、デスティネーションによってやり方はまちまちでしょうし、殆ど手つかずの状態にあるところも少なくないのではと思われます。

ここではこの観光消費額から一度離れて、デスティネーションの売上創出力について少し考えてみたいと思います。売上げを創り出すときには何を考えるでしょうか。売上げの元となる様々なプロダクトを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。それから、市場規模やシェアを考える方もいらっしゃるはずです。また、プロダクトを実際に購入してもらえるかどうかということも、検討項目でしょう。

最初の様々なプロダクトの組み合わせをプロダクトミックスと呼び、そのプロダクトミックスの平均単価が算定できるものとします。次に、規模やシェアについては、ターゲット人数を元に考えます。最後のプロダクト購入の可能性については、顧客化率で捉えることにします。これら3つの要素を売上創出力を構成する変数と位置付けます。算式は、

売上創出力=プロダクトミックスの平均単価×ターゲット到達人数×顧客化率

プロダクトミックスとは、デスティネーションを取り巻く環境に合わせて、提供(または訴求)するプロダクトの組み合わせを変更し、収益の最大化を実現できるようにする考え方です。監査のポイントは、

  • プロダクトのコンセプトは明確か
  • USPはあるか、それは何か
  • 来訪者の視点や立場で考えられているか、ベネフィットはハッキリしているか
  • 価格は妥当なものか、プロダクトコンセプトに沿ったものか

  • 競合デスティネーションのコストパフォーマンスは高いか 

といったことを精査します。なお価格については、ブランドイメージと関係するため注意が必要です。他所が高く(または安く)設定しているからといって、こちらも高く(または安く)というのはNGです。

長くなりそうなため、ターゲット人数以降は、次回にまわしたいと思います。


10/05/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスv

前回のツーリズムブログは、3つの内部資源のうち、有形資産について述べました。今回は、2つめの内部資源である無形資産から始めます。

無形資産は、ブランドネーム、デスティネーションの評判(デスティネーションであれば神話もここに含まれます)、特許や商標などが挙げられます。ほかにも、デスティネーションで蓄積された経験なども該当します。これらの資産は、多くの場合、競争優位に大きな影響を与えます。優位に重要な要素ですから、逆に、競争劣位にもつながる可能性があると理解しておくべきです。無形資産は活用すればするほど(または活用されればされるほど)、資産が成長(または衰退)していくことに特徴があります。

多くのデスティネーションが、新しい施設やアトラクションなどの観光投資には時間とお金を使うにも関わらず、その地にしかないエピソードやストーリーづくりなどに、何故もっと注力しないのでしょうか。多数あるデスティネーションの中から、そのデスティネーションを選択してもらうためには、もっと無形資産の創造に力を注ぐべきでしょう。USP(Unique Selling Proposition/ユニーク・セリング・プロポジション)、自社の商品やサービスが持つ独自の強みや価値提案をもっと磨き上げる必要があります。

そのデスティネーションはUSPを持っているか。

(Yesの場合)より強固なものにするためには、何をすべきか。

(Noの場合)あなたはそのデスティネーションから何を思い描けるのか。

マーケティングにおいて、設定したターゲットに対して、的確なUSPを、適切な場所と時間で使うことほど、強力な武器はないといえます。

3つめの内部資源である組織のケイパビリティは、有形無形の資産とは根本的に異なるものです。この2つの資産は、アウトプット創出のために投入される要素です。組織のケイパビリティは、インプットそのものではなく、インプットをアウトプットに変換するために用いられるもので、プロセス、アセット、人材などの単体、もしくは組み合わせのことを指します。強固な組織ケイパビリティを有するためには、単体ではなく、組み合わせることが必要で、その組み合わせが複雑で且つ高度なものであれば、ほかのところが模倣することは非常に難しくなります。

競合するデスティネーションと大差ない投入要素であったとしても、当該デスティネーションの優れたケイパビリティによって、素晴らしいアウトプットを生み出したり、効率的なプロセスを実現したり、高い生産性を上げたりすることができます。デスティネーションで提供されるプロダクト/サービスが、優れた顧客応対や高い品質が絶えず保証されていたならば、再訪問につなげる確率が高まるといえるでしょう。ツーリズムのような成熟した産業における機会は、一般的には現行プロダクトの改良と、サービス品質の向上が、有力な手立てであることに留意すべきです。


10/02/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスiv

業界の競争構造を変えるにはどうすればいいのでしょうか。前々回(マーケティングプランニング プロセスii)でも少し触れましたが、市場を細分化して業界を再定義することが有力なやり方のひとつです。

市場細分化の切り口は、市場ニーズの違いを捉えて行います。よくある年齢を5才や10才単位くらいで分けたところで、あまり意味はありません。費者/観光客個々のニーズに合わせたプロダクトを、適切な価格とプロモーションで、流通チャネルをとおして供給することにより消費者を反応させ、当該デスティネーションに来てもらおうとする考え方がセグメンテーションです。

デスティネーションのマーケティングマネージャーに、あなたの顧客は誰ですかと尋ねたら、来る人全員などと答える人はまずいないでしょうが、およそたとえば20代から50代の女性をターゲットにしているとか、30~40代のファミリー層などという答えが返ってくることが多いのではないでしょうか。まったくダメとはいえないでしょうが、できる限り市場セグメントを絞り込み、ターゲット顧客のプロフィールをはっきりさせて、セグメントの優先順位付けを行うことが重要です。

デモグラフィックス(人口統計)に基づくセグメンテーションがまったく意味をなさないというわけではありませんが、各セグメントを構成する個々人のニーズや嗜好、価値観などが多種多様であることは、デスティネーションで働く誰の目にも明らかなはずです。それ故、セグメント構成者のニーズやベネフィットを軸に分類し、それらと相関関係にあると思われるデモグラフィック変数を特定していくべきです。

競争ポジションの変更は、上述の競争構造を変えた段階で、自ずと変わってくるはずです。また、ほかのデスティネーションと戦略的なアライアンスを組んで、ポジションを変えていくということも可能だろうと思います。

内部資源については、内部資源そのものを変えること、もしくは内部資源を強化することが、おそらく最も有効な戦略になるといえるでしょう。内部資源は、有形資産、無形資産、組織のケイパビリティの3つに区分できます。

有形資産には、不動産、原材料、生産・販売などの施設等が含まれます。有形資産は価値を評価しやすく戦略策定には重要なものですが、一方で差別化が難しいという特徴があります。ツーリズムデスティネーションの場合でも、誰もが知り、一度は必ず行ってみたいと思わせるような圧倒的な歴史・文化遺産を有するところは、そう多くはないでしょう。ましてや、一度訪れたらそれで満足、再訪したいと旅行者に思わせるようにするのは容易ではありません。よほどそこに、何らかの価値を付加する必要があります。

長くなりそうなため、無形資産以降は次回とさせていただきます。


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...