6/24/2023

地方創生 沿線価値向上④

沿線価値とは誰にとってのどういった価値を指しているのかということは、関係者の間ではっきりさせておかなければなりません。明文化し共有するのは当たり前のことで、できる限り具体的な数値を用いて、達成状況などをモニタリングするようにもすべきでしょう。

前回ブログで触れたなにわ筋線の続きでいえば、仮に、それが利便性の向上(南海電車のなにわ筋線利用者は乗り換えずに梅田へ行くことができるなど)が主な理由だとしたら、具体的に誰のどういった利便性をどれくらい上げることが狙いなのかは多くの人が知りたいはずです。実際のところ、その利便性をどういった乗降客がどれくらい本当に望んでいることなのか、また、トレードオフは必ずおさけなければならず、鉄道という公共性に鑑みれば、もっと説明がなされてもよいのではと思います。

最近、一部の電鉄会社は沿線住民の声や沿線各地の情報を集めて、何処に何があるのかというようなことを、自社グループが運営するネットのプラットフォーム上で分かるようにしたり、検索できるようにするといった取組みを強くすすめています。デジタルで顧客接点を一元化したプラットフォームを構築するそうですが、果たしてそんなことが実現可能なのでしょうか。

一見、便利なようですが、では、いったいどういった情報を、沿線住民に見せていくのでしょうか。そもそも情報を絶えずアップデートしていくことなどできるのでしょうか。ましてや自分好みのサービスを見つけたり探したりすることができる(と、某電鉄会社は言っています)というのは、あまりにも非現実的ではないでしょうか。

自身の生活で考えたらすぐにわかることだと思います。そういったことを専門にしている会社でも、かなり難しいのが実情です。それでも取り組みを進めるというのであれば、まず沿線の各駅にどういった属性の人たちがどれくらい住んでいて、どういった暮らしを営んでいるのか、何を欲していて何を望まないのかといったことなどを思い描いてみて、その人たちに何を提供していくべきかといったことから、検討を始めるべきでしょう。

とはいえ、データを集めるのも難しいはずです。はたして沿線住民の何割くらいの人たちが、自分たちの情報を開示するのか。最近は、同居人でない者の住民票(たとえば子が親の住民票を取得する)を、区役所や市役所で申請することさえ、開示される側の人間(上記の場合であれば親)の委任状が必要です。今日、多くの消費者がプライベートな情報開示に慎重になっていることは明らかであり、巷に流れているそういった情報が本当の属性データに基づいているのかはかなり疑問です。そういった状況下で、もっと詳しいデータを収集するといったことなどは、そう簡単にはできないでしょう。では、想像して、仮説をおいてやっていくとすれば、かなりしっかりした外部委託先(現実問題として、実際そういうところがあればですが)に、協力を依頼しない限り、実現不可能です。

何を何処までできるようにするのか。今日、無数といえる情報がネット上に散らばっていて、それらはすぐに集められるにも関わらず、何故今さらという感じがします。一方で、本当に貴重な情報や欲しい情報は意外とない・・・。それは多くの人が感じていることだろうと思います。

沿線住民や鉄道利用者の多く(?)は、電鉄会社が自分たちのことをおよそだいたい理解してくれているとは思ってはいないでしょうし、理解してもらえるとも思ってはいないのではないでしょうか(また、理解してもらいたいとも思っていない・・・)。にも関わらず、電鉄会社のほうだけが一方的に理解している(または理解できる)と思っている状況があるように感じています。

今すぐできることは実はたくさんあって、一定の要件が揃わなくても、わかることはいろいろあります。当然のことながら、仮説をおいていろいろなことを試していきながら、絶えずその仮説の精度を上げていく、それはやろうと思えば今すぐにでもできることです。本当に優れた会社というのは、常日頃からそれを当たり前のようにやっています。加えていえば、当たり前のことではあるのですが、ゴールは漠然としたものではなく具体的に設定し、それを達成する戦略をしっかり策定していく。僭越ながら、電鉄会社は何かと影響力が大きいだけに、やる限りはちゃんとやって頂きたいと願っています。


6/17/2023

地方創生 沿線価値向上③

沿線の価値とは、誰にとっての価値でしょうか。その沿線住民にとっての価値が、最も重視されるべきだと筆者は思います。その沿線が鉄道会社であれば、鉄道会社にとっての価値は二の次とすべきでしょうし、ましてやその沿線住民ではない人々にとっての価値は、更にその後位にあるものだと思います。

筆者は以前、東京都目黒区の祐天寺に10年以上暮らしたことがあります。自宅から徒歩5分のところに東急東横線の祐天寺駅がありました。当時は、渋谷駅が東横線の終点で、メトロ副都心線との相互乗り入れをする前のことです。筆者の家族も含め、渋谷が通過駅になることに抵抗感を覚える人は多く、特に3世代くらいにわたって祐天寺に暮らす人ほど、その思いが強かったという記憶があります。実際、それが嫌で引っ越した人は少なくありませんでした。

当時は相互乗り入れによって、渋谷により多くの人たちが集まるようになると言われていましたが、乗り入れが始まってから、結果はその真逆で、渋谷の乗降客数は減り続け、渋谷は通過駅と化し、新宿3丁目や池袋へと人が流れていき、渋谷の姿は当初企図したものとは、大きく変わったように思います。とはいえ、街としての渋谷の魅力低下は、相互乗り入れが開始されてから始まったものではなく、当時のセゾングループ(西武流通グループ)の70年代半ばから90年代初頭にかけての拡大、文化戦略の推進、その後のグループ解体とおよそ軌を一にすると考える人は少なくないでしょう。ただ、相互乗り入れが渋谷離れを決定的なものにしたというのは事実のようです。

電鉄会社の思惑が見事に?裏切られた事例といえますが、似たようなことが起こるかもしれないと筆者が危惧するのが、大阪第2の商業地域である難波です。難波には、大阪メトロ、南海、近鉄、JRの4社が乗り入れています。中でも南海電鉄にとっての難波駅の位置づけは非常に大きく、大阪の玄関口のみならず、同社最大の商業集積エリアです。

南海電車は大阪の難波が始発駅で、梅田へは乗り入れていません。それがJR西日本との共同運行によるなにわ筋線の2031年開業(予定)によって、大阪梅田へ直接行けるようになるとのこと。現在、梅田は大阪で最もホットなエリアとされ、街の再開発が今でも続いています。そこへ直接乗り入れられるようになるわけですから、南海電鉄にとっては長年の悲願が実現されると言われています。ですが、本当にそうでしょうか。それに、そもそも何のために、梅田まで路線を延伸させる必要があるのでしょうか。

難波は南海電鉄にとって最重要な駅であるのは明白です。大事なことは、沿線住民は勿論のこと、それ以外の人たちも多くが難波へ来て、そこでお金を使ってくれることだと思います。今でも、梅田へ行きたい人や、梅田から難波へ来たいと思う人は、大阪メトロを使えばいい、ただそれだけのことです。JR難波駅と違って、メトロ難波駅の改札口は不便なところにあるわけではありませんから。しかも、その南海電鉄が梅田へ乗り入れる路線は、現在の南海難波駅からではなく、新しい難波駅を、今の南海難波駅から少し離れたところにわざわざ作るとのこと。

ところで、首都圏在住の方には理解しにくいかもわかりませんが、梅田の大きな問題のひとつは、阪急、阪神、大阪メトロ、JRの4社の梅田駅または大阪駅が、それぞれ離れたところにあるため、電車を乗り換える場合は、必要以上というか、不要なまでに歩かされます。しかもその間、大量の通行人は四方八方から、思い思いの方向へ歩いています。筆者は昔から、梅田の回遊性の悪さ、不便さに辟易していましたが、東京に長く住んで、大阪の一種、異様ともいえるそのバラバラな状態にガマンできなくなってしまいました。

その最たるものが、梅田の阪急電車の3F改札口から1Fに降りて阪急百貨店本店を右に見ながら進み、メトロ御堂筋線南改札口(また、谷町線東梅田駅)へとつながる動線です。東京であれば、通常、電鉄系百貨店の本店は親会社の電車の改札口を出たところすぐか、その上にあったりします。新宿、池袋、かつての渋谷(東横店が該当、本店は駅から離れすぎ)など、例外はありません。ところが梅田は違います。その理由は、(少なくとも一部の)東京人の目からすれば、明らかなものとして映るんじゃないかと想像します。

街としての魅力が下がり続けていた渋谷と同じようには比較できないとは思いますが、今の難波に流出を食い止めるだけの街としての魅力があるのかというと、個人的には少々疑問です。活気があったころの難波や心斎橋ははるか昔のことです。その後、緩やかに凋落が始まり、そして外国人観光客でごった返していた。その頃よりは、少しは日本人にとっての良い賑わいを取り戻しつつあるようですが、それでもまだまだ(大阪弁的に表現すると)しんどいように思います。続きは次回とさせていただきます。


6/10/2023

ツーリズム (3)DMOの役割とタスク

観光庁は、DMO(Destination Management Organization)を、以下のように定義しています。(DMO=観光地域づくり法人)


観光地域づくり法人は、地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人です。このため、観光地域づくり法人が必ず実施する基礎的な役割・機能(観光地域マーケティング・マネジメント)としては、以下の点が挙げられます。

(1)観光地域づくり法人を中心として観光地域づくりを行うことについての多様な関係者の合意形成

(2)各種データ等の継続的な収集・分析、データに基づく明確なコンセプトに基づいた戦略(ブランディング)の策定、KPIの設定・PDCAサイク ルの確立

(3)地域の魅力の向上に資する観光資源の磨き上げや域内交通を含む交通アクセスの整備、多言語表記等の受入環境の整備等の着地整備に関する地域の取組の推進

(4)関係者が実施する観光関連事業と戦略の整合性に関する調整・仕組みづくり、プロモーション

出所: 観光地域づくり法人(DMO)とは?


「稼ぐ力」については、別途記載することにして、DMOに最も要求される能力は何になるのでしょうか。上記1から4に従えば、リーダーシップとコーディネートする力が最初に挙げられるでしょうし、マーケティングリサーチ、マーケティングプロモーション、ブランドマネジメントいったものが続くように思われます。ほかには、ステークホルダーマネジメントやチームビルディングといったプロジェクトマネジメント全般のスキルも必要になるでしょう。

1から4では具体的には記載されていませんが、3に関係するものとして、観光客のマネジメント、たとえば観光客のエクスペリエンスをデザインしたり、需給を調整したり、万が一の災害発生などを考慮した広義のリスク管理といった能力なども求められるでしょうし、モノやサービスに関係する新商品開発力などは必須となるでしょう。ただ、こういったもの全てをDMO単体で全てを行うのはおそらく不可能ですし、また、実際その全てを行う必要もありません。従って、DMOが最も具備すべき能力は、プロジェクトマネジメント能力、なかでも多岐にわたるステークホルダーとの利害を調整し、方向感をひとつにしていくといったようなコミュニケーション能力や交渉術が、極めて重要になってくると筆者は考えます。

ハワイ州観光局(State of Hawaii, Department of Business, Economic Development & Tourism)は、①ビジネス開発とその支援機能を部門として設置し、次に、②外国人観光客対応の部門、フィルムやアート、カルチャーなどを対象にする③クリエイティブ・インダストリー部門、④リサーチや経済分析を行う部門、ほかには⑤スモールビジネスの規制審査委員会、最後に⑥デジタル関連のオフィスという組織編成になっています。

オーストラリアクイーンズランド観光局(Tourism and Events Queensland)は、マーケティング、イベント、エクスペリエンスのデザインと開発、ステークホルダーエンゲージメント、クルーズ・先住民&自然等へのアクセシブルツーリズム、様々な教育機会の提供といったことを行っています。

日本のDMOはまだ歴史が浅いこともあってか、少々堅いイメージで、やや抽象的なように感じます。具現化していくのは、各地方に存在するDMOということになるのでしょうが、その際、まずは前提として、現状と課題認識を共有することが不可欠です。そのためには、多様なステークホルダーを束ねて、進む方向をひとつにしていくことができるリーダーシップとコーディネートする力、あと、財源の確保、謂わば地域の利益となる稼ぐ力を如何に醸成し、定着させていくかということになります。国内で有名なDMOにおいても、ステークホルダー間でのコミュニケーションに齟齬をきたしているケースは少なくなく、このあたりからまずは見直していくことが必要なように思います。


6/03/2023

ツーリズム (2)プロダクトとしてのデスティネーション ③ステークホルダーマネジメント

デスティネーションマネジメントに関係するステークホルダーは、大きくは5つグループに分類できます

  • 観光客: レジャー、ビジネス 
  • 観光地のコミュニティ: 住民団体、ビジネス団体、タスクフォースなど
  • 観光産業に関係する組織体: ホスピタリティ関連(宿泊、飲食)、アトラクション、交通機関、旅行代理店、メディア(マス、ネット) 、DMO
  • 行政機関: 国、地方(県、区、市、郡など)
  • その他: NGO、環境保護団体、自然保護団体など

ツーリズムの政策を推進する人または団体は、デスティネーションの成否に関わるこれらステークホルダーと持続的にコミュニケーションをはからなければなりません。コミュニケーションは、単なる情報交換や共有にとどまるものではなく、相談や関与、参画といったかたちに発展させていくものであるのが本来だからです。

相談とは、相談をする人が相談する相手に対して漠然と行うものではなく、具体的な事象や事案を、両者間で話し合うことをいいます。広く意見全般を求めること以外に、施策選定にあたっての見解や代替案、アクションプランなどについて、ステークホルダーに確認していくことになります。従って、相談する側は、自身の考えやプランなどをある程度まとめておいた上で相談にのぞむことが必要となり、相談を受けるステークホルダーについても同様のことが求められます。

相談というと、自身の考えがあるなしに関わらず、何でもかんでも聞けばいいと捉えている人が時々いらっしゃいますが、少なくともビジネスではそれはありえません。仮に、相談という言葉の持つ意味やニュアンスを曲解するような方が少なからずいるようであれば、コンサルテーションという言葉に変えたほうが良いでしょう。

ツーリズムにおいて、筆者にとってのコンサルテーションの意味は、ステークホルダーに対して支援の関係を築くことを表します。組織文化の大家、エドガー.H.シャインは、クライアントの思考プロセスを、以下にある3つの方法のうち、1つ以上のものによって組み立て直すことを、コンサルテーションのなかで強く奨励しています。なお、ここで使われているクライアントという言葉を、ステークホルダーに置き換え読み直しても、全く同じことがいえます(同様に、コンサルタントは、ツーリズムの政策立案や実行に関わる人または団体、たとえばDMOなどに置き換えることができます)。つまり、

問題をもう一度、説明する。

クライアント自身の役割が何かを再考する。 

コンサルタントがすべきことは何かを再考する。

筆者が外資の経営コンサルティングの世界に入ったのは、ちょうど2000年1月のことで、当時のプライスウォーターハウスクーパース/PwCコンサルティング(後のIBMビジネスコンサルティングサービス)には、すでにステークホルダーマネジメントのしっかりしたフレームワークと、考え方が存在していました。それは、今でも有効で強力なものであると思っています。

ステークホルダーマネジメントを行う際、ステークホルダーマップを用いることは、全体の状態や関係者の相関関係などを視覚的にわかりやすく捉えるという点で有用です。マップについては、たとえば縦軸に取組みから受ける影響、横軸に取組みに対する反応を置いて、縦を影響度の高中低、横の反応を賛成、反対、不明などとします。これに各ステークホルダーの影響力の強弱や、協力の必要性の高低などを3次元で表記します。

ステークホルダーマネジメントのながれは、次のとおりです。

1. ステークホルダーの選出

2. 情報収集・分析

3. 各ステークホルダーに向き合う基本スタンスの決定

4. 対策の検討とアクションプランの作成

5. 実行と管理

なお、ステークホルダーには、次のような役割を持つプレイヤーを選出することが効果的です。たとえば、取組みの主たるターゲットをチェンジターゲット、取組みを必要とし且つそれを承認できる人をチェンジリーダー、チェンジリーダーの下で活動する人をチェンジエージェント、取組みに理解を示し影響力を行使することができる(但し自ら行動を起こす立場にはない)人をインフルエンサー、取組みの利益を享受する(但し活動自体には参加したり承認することはない)人をカスタマーなどとして、戦略的に考え、関係者の役割を明確に設定していきます。

最後に、「ジョハリの窓」理論に触れて、今回のブログを終了したいと思います。この理論は、ジョセフ・ラフトとバリー・インガムが考案し、両者の名前をとった対人関係における気づきのモデルで、コミュニケーションマネジメントに有効な考え方です。ジョハリの窓は、4つの象限で構成され、縦を「他者」、横を「自分」とします。その縦と横をそれぞれ「知っている」と「知らない」で区分けします。他者が知っていて自分も知っているものを「開放」、他者が知っていて自分が知らないものを「盲点」、他者が知らなくて自分が知っているものを「隠された」もの、他者も自分も知らないものを「未知」とします。

このなかで、開放の領域が広いほど、お互いのことがよく理解できて、率直に話ができる、風通しのよい関係といえます。盲点では、たとえばあるステークホルダーが、全体の取りまとめを行っている私(自分)のはっきりした物言いをどうみているかはわかりません。そこで、できる限り他者が私にそれを話してもらえるような環境を整えることで、盲点の状態から解放の状態へと発展させ、良好な関係を築いていけるようにします。ステークホルダーが発動したりしなかったりするサインやメッセージは、心理的な働きが複雑に絡み合って表されるものであるため、ジョハリの窓を使って検討することができるとされています。

繰り返しとなりますが、ステークホルダーマネジメントは、当該事案のゴールに沿って、戦略的に思考し、ツールを有効活用して、効果的に行うことが重要です。


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...