4/22/2023

サーキュラーエコノミー EUの動きと対策

EUのサーキュラーエコノミーに対する取組みは、以下のようなながれで、グローバルマーケットにおける競争の軸を変えるべく、十数年以上の時間をかけて戦略的に行われてきています。

  • 2001年 EU第6期環境行動計画
  • 2011年「欧州での資源の効率的な利用」
  • 2015年 循環経済行動計画
  • 2018年 欧州プラスチック戦略
  • 2019年 欧州グリーンディール
  • 2020年 新循環経済行動計画
  • 2020年 EUタクソノミー規則
  • 2022年 エコデザイン指令エネルギーラベル指令
  • 2022年「コミュニケーション持続可能な製品を標準に」

なかでも、気候変動対応として、2019年に新欧州委員会を発足させ、欧州グリーンディールを策定したことは大きなマイルストーンといえるでしょう。そこでは、2050年のGHG排出量実質ゼロの達成、経済成長と資源利用のデカップリング、ネットゼロに向けてEU域内のいかなる地域も取り残さないことの3点を重点テーマに掲げました。

新循環経済行動計画は、製品中のリサイクル材含有に関する要件を導入し、拡大生産者責任を強化しています。

EUタクソノミー規則(Taxonomy Regulation)は、「持続可能な投資の促進のための枠組み」のことをいい、EUグリーンディールを実現するために必要な資金を投資家から集める際、投資対象がサステナブルか否かを判断する基準のこと。6つの環境目標と4つの判断基準があり、目標のひとつにサーキュラーエコノミーへの移行が加えられています。

EU域内の各事業者は、サーキュラーエコノミーに関する取組みを、企業イメージの向上として活用、もしくはイメージ向上の前提条件として位置付けながら、投資家を含めたステークホルダーとのコミュニケーションの手段にしています。

サーキュラーエコノミーに関する様々な指令や規制等がおよそ欧州発であることを踏まえると、法令が制定される前から取組みの準備をすすめることによって、競争の土台に乗ることができるばかりでなく、コスト含めた競争優位性を獲得できる可能性が高いといえます。以上のようなことから、最低限おさえるべきことは、以下の2点です。

第一に、従来は製品を開発・生産・販売することに加え、たとえば植林にみられるような環境配慮/対応の活動を企業内の一部の部門が行っていたことで良しとされていたCSRの時代から、TCFDにみられるような事業活動の全てにおいてサステナビリティが浸透していること。(TCFD/Taskforce on Climate-related Financial Disclosure、気候関連財務情報開示タスクフォース)

第二に、ゴミを減らそうとかリサイクルしようといった謂わば相対的な取組みから、絶対的な基準を用いた持続可能な取組み、つまり2050年までのネットゼロ、100%の資源循環といったサーキュラーエコノミーを、企業活動の中心に据えること

上記2点への対応を誤ると、企業活動は早晩、立ち行かなくなる可能性さえ考えられます。今後、産業界、経済界、社会全般がどのようになっていくかは、実際のところわかりませんが、少なくとも、日本企業は茹で蛙的な状態に陥らないようにすることが肝要です。そのためには企業の規模問わず、先手を打って行動することが必要です。その過程で、自社のマーケットプレゼンスを高めていき、結果として競争に打ち勝つことにつなげられるといえるでしょう。より慎重な言い方をすれば、その競争に勝つ抜く機会を得ることにつながるといえます。


4/15/2023

サーキュラーエコノミー 6つのモデルと事例③

(CE6モデルのうち、「モノのサービス化」と「消費や利用の共同化」はこちら、「原材料の改変」と「資源の再利用」はこちらをご覧ください。)

デザインによる廃棄物ゼロについては、以前にご紹介したフィンランドのノッラや、開発途上ですがアディダスのフューチャークラフト.ループがあります。同社は、100%リサイクル可能なランニングシューズを19年4月に発表し、その後も新作を公開していますが、正式な製品発売には至っていません。コンセプトは素晴らしいのでしょうが、量産化の面などで課題があるようです。

フェアフォンのスマホは静かなブームになっています。10年以上も前に、世界初の「エシカルなモジュール式スマホ」としてオランダで発売されました。故障しても部品を買い替えれば使用可能で、21年発売のモデルはなんと5年間の長期保証です。

日本では、ミツカングループのZENB(ゼンブ)」という取組みが該当するのだろうと思います。このブランドは素材をまるごと原材料として使用することで、廃棄物を減らすことを企図したとのこと。2020年8月に京都市と「食品ロス削減に資する取り組みの連携に関する協定」を締結しています。

同じ食の領域であれば、以前にも取り上げたエシカル・スピリッツ社の取組みが秀逸で、引き続き要注目でしょう。なお、同社製品については、デザインによる廃棄物ゼロとして取り上げましたが、原材料の改変や資源の再利用にも該当します。

食品以外では、やはり着物を挙げるべきで、デザインによる廃棄物ゼロとして取り上げたいと思います。サーキュラーな国②日本その1に記載したとおり、着物は洋服と異なり立体裁断がありません。それ故、端切れがでることは殆どありません。縫い目も直線のため、仕立て直しがしやすいことから、傷んできたら例えば子供用の着物に、下駄の鼻緒や雑巾などでの再利用がすぐにできます。このようなことから、着物は商品ライフサイクルの拡張にも該当します。

商品ライフサイクルの拡張については、サーキュラーエコノミー事例②で述べたように、ルイ・ヴィトンやサルバトーレ・フェラガモなど、欧州のトップブランドの製品ポリシーや、実際に購入した顧客の当該製品の使い方などを見れば、明らかです。日本とは異なり、フランスやイタリアの消費者は、本当に良いものをいつまでも長く愛用し、大切にしています(勿論、日本人でもそういう方はいらっしゃいますが、日本の場合はどちらかというと、皆が買っているから自分も買うというスタンスかと・・・)。欧州では、誰もが購入する(または購入したい)ブランドではない分、より顕著といえるでしょう。

デジタルを活用した典型的な取組みでは、2016年創業の米国トローヴ(Trove)を挙げるべきかと思います。ブランド品の再販プラットフォーマーである同社は、再販売のバリュー チェーンをはじめからおわりまで統合的に管理(リコマース・オペレーティングシステム)し、2025年までに数千万の商品の再販を計画、これは年間4000台の車をなくすことに相当すると自社ホームページで主張しています。日本にもブランド品を再販売する会社は少なくありませんが、対象業務(または機能)の広さや深さ、それを実現するデジタル投資の規模、そして変化に対応するだけでなく、変化そのものを生み出していこうとするスピード感といったようなものには、大きな差があるといわざるをえません。

ほかには、グローバルで展開するブリジストンのリトレッドソリューションが挙げられます。すり減ったタイヤの路面と接する部分(トレッドゴム)を貼り替え、使用済タイヤを再利用するリトレッドタイヤは、新品タイヤと比べて、原材料の使用が3分の1未満になるだけでなく、トレッドゴム以外の部材(台タイヤ)を再利用できるため、廃タイヤの削減にも寄与するとのことです。

環境経営として有名なリコーグループは、1997年に複写機として初の再生機を発売。新品同様の保証がある高品質な再生機として、日本はもとより、欧米アジアで製品とサービスを展開しています。再生機の回収から出荷までの製造を中心としたフローを、ホームページで紹介しています。この取組みは、資源の再利用やデザインによる廃棄物ゼロにも該当するものといえます。

小田急電鉄グループのサーキュラーエコノミーの取組みである神奈川県座間市のホシノタニ団地再生はよく知られています。この取組みは、築50年以上の団地をリノベーションし循環型コミュニティ(広場や賃農園等配置)を創出した成功例として、Sitra(フィンランド)の「世界を変えるサーキュラーエコノミー・ソリューション」に、日本企業で初めて選出されました。また、20年8月から、廃棄物処理テックベンチャーの米ルビコン・グローバル社と、ゴミ収集に関する実証実験を開始。同市の人手不足をデジタルで解消することにも取り組んでいます。

最後に、和歌山にあるみなべ・田辺の梅システムです。サーキュラーな国②日本その2でも述べましたが、開墾した山を全て梅林にするのではなく、薪炭林(しんたんりん)として森を守り、持続可能な農林業を維持。多くの梅の品種は自家受粉できず、ミツバチによる受粉で梅が育つという共生関係下で、薪炭林から海辺まで続く多様な生態系を保持しています。2015年に世界農業遺産に認定されたこの梅システムは、商品ライフサイクルの拡張のみならず、原材料の改変、資源の再利用、デザインによる廃棄物ゼロにも適応しているといえるでしょう。




4/08/2023

サーキュラーエコノミー 6つのモデルと事例②

前回ブログ(CE6つのモデルと事例①)の続きです。

原材料の改変については、サーキュラーな国③フィンランドその2で、プラスティックの代替素材として、フィンランドの針葉樹からつくったパルプを用いたパブティックをご紹介しました。ほかにも、米国のエコベイティブ・デザイン社などがあります。プラスチックに代わる成型材料として、麻と菌糸体を使用するこの企業は2007年に創業しました。化石燃料や動物性原料への依存をやめて、廉価で汎用性の高い植物性素材を開発しています。パッケージのほかに、食品、アパレル、シューズ、化粧品等の分野での素材開発を広く行っています。国際的な優良企業(デル、イケアほか)と提携するなどして、実用化を進めています。

日本では、TBMを挙げるべきでしょう。「時代の架け橋になるような会社(Times Bridge Management)を」との想いから、2011年に創業した同社は、石灰石や使用済みプラスチックなどを主原料にする素材メーカーで、日本では数少ないユニコーン企業です。ほかには、たとえばソニーグループが、小型製品のプラスチック包装全廃を目指して、2023年度にスマートフォンなどの小型製品から着手するとのこと。

アパレルでは、サーキュラーエコノミー事例②でも触れたナイキのサステナブルシューズのスペースヒッピーが最も有名ではないでしょうか。日本では、ファーストリテイリングも知られていますが、やはりここではワールドグループの取組みを挙げるべきだろうと思います。同社は、23年秋冬シーズンから、製造過程で残った端切れや、ペットボトル、廃棄衣料品を原料とする再生素材「CIRCRIC(サーキュリック)」ブランドを立ち上げ、OEMやODMも含め、業界を横断して拡大展開を計画しています。原材料の改変については、技術力やデザイン性の問題に加え、かかる費用をどのように扱うかが、大きなポイントになっています。

資源の再利用については、サーキュラーな国②日本その1で述べたとおり、日本の企業・事業者の取組みは秀逸であり、これこそ循環経済と呼ぶべきもの。漬物や日本酒、ハチミツやお米などについては、およそ業界全体がサーキュラーな取組みを、何百年にもわたって続けてきています。ですが、広く知られているとはいえないのではないでしょうか。1事業者、1団体で行うには自ずと限界があるため、日本全体の取組みとして、もっと広く、深く、世界に発信して頂きたいと思います。(なお、着物については、筆者は「デザインによる廃棄物ゼロ」のほうに分類していますが、資源の再利用として挙げることも勿論可能です)

ほかにも、たとえばファーストリテイリングが、回収した服でリユースできないものを、自動車用防音材や高カロリー固形燃料(RPF)にして、資源の再利用を促進する活動を行っています。同社ホームページによると、「約22枚のTシャツ(約4.3kgの古衣料)が、裁断・反毛されたのちに、車1台分に使われる防音材にリサイクルされ、自動車のエンジン音や電気自動車の高周波を低減する」とのことです。ケミカルメーカーでは、たとえば帝人フロンティアが「全国の野外イベント会場で発生したごみを資源としてリサイクルする地産地消型」の仕組みを構築し、運用しています。

海外では、オランダにスタートアップのクロージング・ザ・ループがあります。同社は、アフリカ諸国で廃棄された携帯電話を、メタルを抽出する欧州の精錬所に販売するビジネスを展開しています。ガーナにある世界最大規模の電子廃棄場で、多発する有毒ガス発生による死亡事故をなくすために起業したとのこと。

ユニークなところでは、フィンランドのリパックがあります。但し、「使用可能な資源を廃棄物や副産物から回収して再利用」するものではありません。同社は、再利⽤できる包装袋を利用したデリバリーサービスを提供しています。ミディアムサイズの20サイクル使用時には、生産から廃棄までのCO2排出量を使い捨てプラスチック比で78%、ダンボール比で75%削減可能とのことで、現在、北米で事業を拡大中です。

デザインによる廃棄物ゼロと商品ライフサイクルの拡張については、次回に回したいと思います。



4/01/2023

サーキュラーエコノミー 6つのモデルと事例①

昨年の初夏から初秋にかけて掲載したサーキュラエコノミー(CE)の事例などから、サーキュラーエコノミーは、6つのモデルに区分できると述べました(サーキュラーなアプローチ①)。

(1)モノのサービス化:PaaS(Product as a Service)型ビジネスとして、モノ/資源の生産性向上を企図

(2)消費や利用の共同化:多くのシェアリングビジネスを指し、モノや空間、移動等のシェア、使用率の向上を企図

(3)原材料の改変高度にリサイクル可能な原材料に変更

(4)資源の再利用使用可能な資源を廃棄物や副産物から回収して再利用

(5)デザインによる廃棄物ゼロ廃棄物が発生しないデザインの導入

(6)商品ライフサイクルの拡張修理、加工、アップグレードによる製品寿命の延長

今回はこれらを振り返りながら、事例を少しアップデートしたいと思います。

サーキュラーエコノミーでは、バリューチェーンをサーキュラー/循環型へ転換させることが前提ですので、「モノのサービス化」や「消費や利用の共同化」といったモデルは、CEの典型といえます。

モノのサービス化については、パナソニックがナノケアのヘアードライヤー、空気清浄機、乾燥機、食洗器、調理家電、テレビ、ビデオなど、様々な商品を対象に行っています。

サーキュラーエコノミー事例③で記載したレンタルファッションの先駆け的存在である米国レント・ザ・ランウェイは、コロナ禍での業績不振から、現在ほぼ全店舗を閉鎖し、人件費などを大幅に圧縮させ、高収益事業への転換を進めているとのこと。モノのサービス化は、扱う商品にもよりますが、基本的に参入障壁は低く、ミートゥー(me too)企業がどうしても多くなりがちです。このため、モデルのコモディティ化、陳腐化も早くなりますから、商品の改廃、サービス要件の改良が欠かせず、また商品特性によっては顧客の組織化も必要になることなどから、低利益構造であれば、今後、長く続けることは難しいように思われます。

消費や利用の共同化については、国内でも多数の事例があり、シェアリングビジネス真盛りといった感があります(但し、シェアリングビジネスの全てが、サーキュラーエコノミーというわけではありません)。筆者個人としては、タクシーとバスの中間のような相乗り交通手段であるmobiの動向から目が離せません。これは、半径約2キロ内に多数のバス停を仮想的に設定し、乗客は一定額を支払えば、希望する乗降地点を選択して乗り放題が可能になるというものです。地方で何処まで広がっていくか、JRやローカルバスの廃線問題などと絡めて要注目です。また、国内長距離のライドシェア(相乗り)サービスを提供するnottecoは、ドライバーの自家用車を利用して、相乗り希望者とマッチングさせるというサービスを提供しています。但し、国内でのライドシェアの潜在的な市場規模は大きいといわれていますが、法令の壁があって事実上禁止されているような状況です。同様の理由から、ウーバーイーツも日本国内での事業拡張には限界があるため、今後の法整備が待たれます。

原材料の改変以降については、次回の本ブログに記載することにします。






ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...