1/29/2024

ブランディング (2)ブランド用語②

ブランド・ポジショニングは、コアとなるブランド連想とブランド・マントラを示すことが多いと、ケビン・レーン・ケラーは述べています。

ブランド連想とは、ある特定のブランドが与えられた時に、特定の感情や概念、カテゴリーなどが思い浮かぶこと。たとえばAmazonというブランドなら「品揃えが豊富」とか「すぐに届く」といったことを、筆者が大好きなピエール・エルメなら「楽しい気分」や「独創的なおいしさ」などを人々に想起させます。コアとなるブランド連想とは、ブランドの特徴を最もよく表す属性とベネフィットといった連想の集合体を指します。

一方で、ブランド再生という言葉があります。これはブランド連想とは逆に、ある商品カテゴリーなどが与えられた時に、特定のブランドを想起すること。たとえば「スマートフォン」ならiPhoneとか、「高級な国産車」だとレクサスという具合です。

ブランド・マントラは、ケラーによると、コアとなるブランド・プロミス(顧客に対するコミットメント)やブランド・エッセンス(ブランドの価値を集約したもの)に類似する用語で、ブランドが表現するものをより明確にするためのものとしてブランド・マントラを定義するとし、簡潔に伝達できるものでなければならないとしています。

ブランドを提供する者にとって、いかなる環境下であっても、自らのブランドが(できる限り)アイデンティティどおりに、人々の頭の中に瞬時に、また頻繁に想起されることは非常に重要です。

人々にとってそのブランドが目立っていること、他のブランドよりも真っ先に思い浮かぶことが必要であり、このような突出性を、ブランド・セイリエンスといいます。的確なブランド・セイリエンスがあってこそ、ブランドが購入/利用されるというわけです。

ブランドを知っていること、知ってもらっていること、所謂ブランド認知がなければ何も始まらないことになりますが、このブランド認知は、深さと幅の2つの視点で考えるべきです。

ブランド認知の深さとは、瞬時にブランドを想起するのか、思い出すのに時間がかかるのかというように、認知の程度の差のことをいいます。ブランド認知のとは、思い出される状況や場面のことといっていいでしょう。たとえば、仕事をしている時に思い出されるといっても、どういった時か、オフィスで、お客様先で、または出張先で、オフィスといっても一人で机に向かっている時か、グループワークをしている時か、昼か夜かなど、様々な状況や場面があるはずで、この幅が多ければ多いほど、購入の契機になりやすいといえるでしょう。

ケラーは、ブランドの構造を考える時の概念として、ブランド・ビルディング・ブロック(BBB)を提唱しています。BBBは、6つの要素をピラミッド型で構成させているものです。ピラミッドの底辺にあるのが、ブランド・セイリエンスです。

セイリエンスの上には、左側にブランド・パフォーマンス、右側にはブランド・イメージ、パフォーマンスの上がブランド・ジャッジメント、イメージの上がブランド・フィーリング、そしてジャッジメントとフィーリングの上にあるのがブランド・レゾナンスです。

ブランド・パフォーマンスは、「主要な成分とそれを補う特徴」「製品の信頼性、耐久性、サービス性」「サービスの効果、効率、サービスとの共感」「スタイルとデザイン」「価格」などを含み、ポジショニングはこれらのパフォーマンスにかかっています。

ブランド・イメージは、人々が認識しているブランドの姿 (前回のブログ)ですが、「使用者のプロフィール」「購買状況と使用状況」「パーソナリティと価値」「歴史、伝統、経験」の4つがイメージに係るものとされています。

ブランド・ジャッジメントは、人々のブランドに対する評価や意見などのことで、「品質」「信用」「考慮」「優位性」が判断をするうえで、特に重要とされています。

ブランド・フィーリングは、人々のブランドに対する感情的反応のことをいい、「温かさ」「楽しさ」「興奮」「安心感」「社会的承認」「自尊心」の重要な6つのタイプがあるとしています。

ブランド・レゾナンスとは、人々のブランドに対する同調の程度を指し、「行動上のロイヤルティ」「態度上の愛着」「コミュニティ意識」「積極的なエンゲージメント」に分類できるとしています。

ケラーは、このブランド・ビルディング・ブロックを考えることによって、ブランド・アイデンティティ、ブランド・ミーニング、ブランド・レスポンス、ブランド・リレーションシップの4つのステップを進めやすくなると述べています。


1/22/2024

ブランディング (2)ブランド用語①

ケビン・レーン・ケラーは、ブランドの名称、ロゴ、シンボル、スローガン、キャラクター、パッケージデザイン、サイネージ、URLなどを総称してブランド要素と呼び、自社製品やサービスを他社のものと差別化するための言語的或いは視覚的な情報としています。

そのケラーが提唱した顧客ベースのブランド・エクイティ・モデル(CBBEモデル)には、強いブランドを構築するためには、「アイデンティティ」「ミーニング」「レスポンス」「リレーションシップ」という4つの段階があり、これらをまとめて「ブランディング・ラダー」と呼んでいます。

ラダーは、ブランドがなにものなのかを表すアイデンティから始まり、それが終わると、次の段階のミーニングへと昇っていきます。つまり、アイデンティが創出できなければ何事も始まらないということです。従って、明確なポジショニングを確立するためには、ブランド・アイデンティから着手しなければいけないということになります。

ブランド・アイデンティとは、デビッド・A・エーカーの定義に従えば、「ブランド戦略策定者が創造したり、維持したいと思うブランド連想の集合体」で、ブランドを提供する主体が、自らのブランドをどのように認識してもらいたいのかと思うブランドの姿といえます。

ですが、どれだけブランド・アイデンティをつくっても、消費者がそのように認識してくれるとは限りません。

ブランド・イメージとは、調査などによって明らかにされた消費者が実際に認識しているブランドの姿のこと。端的にいえば、ブランドが消費者にどう思われているかを表します。

強くて良好なブランドイメージを消費者に連想してもらうためには、それを実現するマーケティングプログラムが必要で、プログラムを立案する時には、一貫性のある戦略的なコミュニケーションプランを策定することが重要です。というのも、アイデンティティとイメージにはギャップが存在するか、もしくはそもそもイメージがまだ存在しない場合もあるでしょうから、2者(アイデンティティとイメージ)を橋渡しして、自らが望むアイデンティティに近づけていくのが、コミュニケーションの役割であるからです。そして究極的には、アイデンティティとイメージを完全に一致させ、さらにブランドの提供者と消費者で、ブランドの価値を共創していくことが、ブランドに関するコミュニケーションの目的といえるでしょう。


ブランド・エクイティという概念があります。エクイティに対する見解は必ずしも一様ではなく、結果として、無形資産のブランド論をさらにわかりにくいものにしていると思います(もともとブランド論自体が、ほかの経営理論と比べ、抽象的な要素が多くわかりづらい点があるのですが)。

ブランド・エクイティとはブランドの資産価値を表します。ケラーは「ブランド化された製品やサービスのマーケティングから上がる成果が、ブランド化されていないものと何故異なるのかを説明するもの」としています。

ブランド・エクイティは、もともとエーカーが提唱した概念で、5つの要素で構成されています。①ブランド・ロイヤルティ、②ブランド認知、③知覚品質、④ブランド連想、⑤他の所有権のあるブランド資産(特許、商標、チャネル関係など)

学習院大学の青木幸弘教授は、「ブランドという"器"の中に蓄積されていく無形資産的な価値に着目し、その維持・強化と活用を提唱」したブランド・エクイティ論の登場は大きいとしながらも、ブランド「価値評価の困難性から、"アイデンティティ"概念へと急速にシフトしていくことになる」と述べています。

また、同教授は「マーケティングの本質的役割を"成長の仕組み"或いは"売れるしくみづくり"として考えた場合、ブランド構築とは、それを一歩進めて"売れ続けるしくみ"を作り上げることだという言い方もできる」と指摘されています。

アーカーによるブランド・エクイティの概念を、ケラーが消費者心理学の考え方を取り入れ、顧客ベースのブランド・エクイティという概念で精緻化しました。ケラーの考え方では、知覚品質はブランド連想の一種として扱われています。また、ブランド・ロイヤルティはブランド・エクイティの重要な構成要素としてではなく、ロイヤルティはエクイティの結果として解釈されています。


1/15/2024

ブランディング (1)ブランディングとは②

ブランディングで最も重要なことは、ポジショニングをとおして、独自性に富んだ価値提案を確立し、それを人々の心の中に根付かせることだ前回の本ブログ(ブランディング)で述べました。では、どうすればそれが実現できるのか。チャレンジングなテーマですが、これからここで少し向き合っていきたいと思います。

すすめていくにあたり、はじめに整理すべきことが幾つかあります。たとえば、ブランディングとは何でどうやるものなのかとか、そもそもブランドには幾つかの専門用語(ブランドアイデンティティやイメージなど)があってそれとの関係などをはじめにはっきりさせておくべきだとか、組織としてブランドに取り組む時に前提として必ずおさえておかなければならないこと等々、こういったことを、このブログのはじめの数回で確認します。その上で、独自性に富む価値提案によって裏打ちされたポジショニングを考えていきたいと思います。

今回は、ブランディングの意味とブランディングのプロセスについてです。ブランディングとはブランドを付与する行為を指しますが、アルライズはこれを、「見込み客の頭のなかに、自らの商品と類似する商品は、市場に存在しないという認識を作り出すこと」といいました。また、ライズはトラウトと共に、以下のことをいっています。

「一番手になること」

「もし一番手になれなかったら、自分だけのカテゴリーを作りなさい」

このことから、ブランディングの成功要因は、買う人の立場になって、いかに目立たせるかということだといえるでしょう。また、ブランドが何かを象徴するものでなければ、成功はおぼつかない、というか失敗するともいえるはずです。

では、ブランディングのプロセスは、どういったものになるのでしょうか。ケビンレーンケラーは、ブランドマネジメントのながれを、4つのステージで定義しています。

A. ブランドのポジショニングと価値の確立

B. ブランドマーケティングプログラムの計画と実行

C. ブランドパフォーマンスの測定と解釈

D. ブランドエクイティの強化と維持

この中で、Aのポジショニングと価値を明確にして確立することが最重要であるのは明白です。ここでつまずけば、この後のステップは無意味なものになるばかりか、消費者のブランドに対する認識との相違(ブランドアイデンティティとブランドイメージとのギャップ)を、埋めることができなくなります。そして結果として、せっかく時間をかけて創り出した商品自体が、日の目を見ないまま眠ってしまうことにもなりかねません。

消費者の頭(または心)の中に、自らのブランドと競合ブランドの棲み分けをしっかり行える場所を確保していき、競合よりも自社のほうが優れていて望ましい、また、消費者が競合を想起しないようにもっていくいくことが、ポジショニングですべきことです。競合と何が違うのか、それは圧倒的に違うものなのか、似通った点はあるのか、あればそれはどこの何なのか、何故消費者はこちらの商品を選択してくれるのかといったことを明確にします。

ケラーは、この最初のステップ(ブランドのポジショニングと価値の確立)を行うにあたり、重要な概念として、以下のとおりメンタルマップ、競争上のフレーム・オブ・レファレンス、類似化と差別化のポイント、コアとなるブランド連想、ブランド・マントラの5つを挙げました

  • メンタルマップとは、消費者の頭や心の中で、ブランドに結びついた様々な連想を視覚的に表したもの

  • 競争上のフレーム・オブ・リファレンスは、ターゲット市場と競争の性質を明確にする準拠枠(準拠枠とは心理学などで用いられ、人がものごとを認識したり、判断する時の基準のこと)
  • 差別化ポイントとは、消費者が同内容のものは競合には見つからないだろうと考えるようなブランドの属性やベネフィットのこと。類似化ポイントとはブランドにとって他ブランドと共有されているもの
  • コアとなるブランド連想は、ブランドの特徴を最もよく表す連想(属性とベネフィット)の集合

  • ブランド・マントラとは、ブランドの最も重要な点やコアとあるブランド価値を3~5つの短い言葉で表したもの

ブランドのポジショニングと価値の確立を詳しく見ていく前に、より大きな枠組み、ビッグピクチャーをはじめにおさえたほうがいいでしょう。また、上述のとおり、ブランドに関係する用語の意味や位置づけなどを確認していきます。たとえば、どのようなブランドになりたいのかといったブランドビジョン、どのようなコミットメントを顧客に対してするのかというブランドプロミス、ブランドのアイデンティティやイメージなどについてです。次回はこのあたりから始めたいと思います。


1/09/2024

ブランディング (1)ブランディングとは①

マーケティングや新商品開発を考える時、ブランドまたはブランディングは切っても切り離せません。アルライズは、広範囲に及ぶマーケティング活動で、各機能を結合させる役割を果たすものが、ブランディングのプロセスだといいました。さらに、マーケティングプロセスの本質は、消費者の心の中にブランドを築き上げることであるともいっています。

ブランドは不思議な存在です。というのも、たとえば、ブランドの差別化要因は製品パフォーマンスに関連する場合もあれば、たとえば象徴として、または情緒的実体のないものを想起させることでもあるからです。

米国マーケティング協会は、ブランドを「個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ、競合他社の商品やサービスから差別化するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、或いはそれらを組み合わせたもの」と定義しています(なお筆者は、日本マーケティング協会がブランドについて明確に定義しているものは知りません)。

「ブランドには謎が多い」と仰った元東京大学教授の片平さんは、「ブランドのDNA」という書籍で、巷でまことしやかにいわれていたブランド論の嘘に言及し、事例をとおして、本当のブランドとは何かを具体的に示しました。当時(今でも?)信じられていたブランドの嘘とは、たとえば次のようなものです。

  • 優れた商品やサービスが、強いブランドの必須条件である。(本当は「強いブランドには、商品やサービスだけでなく、卓越したストーリーがある」)
  • 強いブランドは変化しない。(本当は「ブランドは一貫した理念の下で変わり続ける
  • 十分な時間をかけないと、強いブランドにはなれない。(本当は「やり方によっては、数年でブランドは強くなれる」)
  • 大量のマス広告がなければ、ブランドはできない。(本当は「強いブランドの多くがマス広告をしていない」)
  • ブランド一夜にして滅びる。(本当は「強いブランドは簡単にはつぶれない」)

つまるところ、ブランドは人々の心の中に存在する無形資産といえるのでしょう。製品は工場で作られますが、ブランドは人々との関係性や信頼によって作られていきます。

今日、ほんもの、にせものを問わず、ブランドやブランドもどきが溢れかえっています。我々は、似たような属性やメッセージを持った類似ブランドに囲まれ、選択に苦慮することが珍しくありません。同じようなことは、ブランドホルダーである、たとえばメーカーにも当てはまります。

  • 当社の製品/ブランドは競合よりずっと優れているはずなのに、何故売れないのか。
  • 当社のブランドは、何故市場に浸透しないのか。
  • 当社の製品ベネフィットは、顧客に魅力あるものとして映っているのだろうか。
  • 新製品を発売する時に、どのようにすれば効果的なブランディングができるのか。
  • どうすればブランドは成功できるのだろうか。

ブランディングで最も重要なことは、ポジショニングをとおして、独自性に富んだ価値提案を確立し、それを人々の心の中に根付かせることだといえるでしょう。では、どうすればそれが実現できるのか。チャレンジングなテーマですが、できるかぎりこの問いに、本ブログで答えていければと思っています。

Reflectionsというタイトルをつけた弊社のブログも、まもなく3年目に突入します。1年目は、ブログのテーマを、弊社ができること・してきたことを中心に据え、その上でできる限りホットなトピックを選びながら、且つテーマは特定のものに偏ることがないようにして進めてみました。

2年目は、弊社の取組みテーマでもあった地方創生/地域課題解決について、ツーリズムを中心に半年以上の期間を充てました。ツーリズムは巨大な産業であるにも関わらず、国内にはまとまった参考文献があまり見当たらないこともあって、ツーリズムにおけるブログのテーマをできる限り連続性を持たせるよう配慮してきました。

そして3年目となる今年は、謎多きブランドの話から始めていきたいと思います。


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...