12/17/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスxv ポジショニングその2

ポジショニングについて、ジャックトラウトは「潜在顧客の頭の中にあるあなた自身のイメージを、他と差別化すること」と説きました。そしてリポジショニング(RePositioning)を、「消費者の心を変えるのではなく、消費者の心の中の認識を少しずつ調整していくもの」と述べています。また、リポジショニングのためには、「ライバルを念頭に置いて始める必要」があるとし、「自分が何をしたいかではなく、ライバルが自分に何をさせるかだ」といっています。

消費者の認識を少しずつ調整していくことというのは、消費者の認識を変えることではなく、「消費者の認識に自らを適合させていくこと」であって、これこそが効果的なリポジショニングであり、これには時間と忍耐が必要と説いています。リポジショニングは、少々難解なところがありますが、変化に対応していく時には不可欠な考え方です。

今日のような情報が多すぎる時代では(一方で、本当に必要とする情報が少ない時代でもありますが・・・)、消費者の情報許容量は事実上パンクしている状態といっていいでしょう。そういう状況下にあって、如何に自らのデスティネーションやプロダクトを成功させるかは、そう簡単なことではありません。消費者にイメージしてもらうためには、想起できる他者とは異なる自らの「独自性」を発揮させなければなりません。このためには、消費者がこちらをすぐさま思い浮かべる、簡単な「言葉」が持つことが必要で、トラウトはこの重要性を繰り返し説いています。

トラウトに従えば、差別化に至るステップは次のとおりです。

1. 自らと競合の強みと弱みなどが、消費者にどのように映っているのか把握し、市場の空気感なども含めて素早く掴む。

2. 自らの独自性、他者との違い、差別化のアイデアを探す。

3. 消費者にその独自性の魅力を感じてもらえるように、信頼できる裏付けを示しながら働きかけて、信頼を獲得する。

4. 独自性の良さを認識してもらうように、繰り返しコミュニケーションを徹底する。

シンプルでわかりやすいアプローチ、これならすぐに実行できるかもと思われる方もいらっしゃるでしょうが、対象が消費者の頭の中になるため、決して簡単なことではありません。

トラウトは、コモディティでも差別化は十分可能として、①識別化する、②人間化する、③新しいカテゴリーを作る、④名前を変える、⑤カテゴリーを変える、これら5つが成功の法則と述べています。

他者とは違う価値を、意味のある分かりやすい言葉で、いち早く消費者の頭の中に想起させること。このためには、万人受けは決して狙わず、フォーカスして、良いイメージを抱いてもらえるように働きかけ続けること。フォーカスするということは、いろいろなものを捨てる、或いは犠牲にするということでもあります。デスティネーションやあらゆるプロダクトを売ろうとするやり方は捨てるということです。

プロダクトの特徴もあれやこれやというのではなく、絞り込むことが必要で、これができてはじめてメッセージを伝えることができやすくなります。ターゲットも同様です。競合とは異なるターゲットに集中する。このようにマーケティングの「戦略とは違うレースを選ぶ、自分が勝てるレースを設定するということ」に尽きるといえるでしょう。


12/07/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスxiv ポジショニングその1

マーケティングプランニングは、マーケティングミックス、所謂マーケティングの4P(Product、Price、Place、Promotion)が、構築の核になります。ただ、フィリップコトラーは、4Pの前に、R(Research)を加え、このRからSTPを導き出す重要性を以前から説いており、そこではSTPが戦略、4Pはツールと位置付けています。今回は、このSTP、特にPについて少し取り上げてみたいと思います

STPは、Segmentation/セグメンテーション、Targeting/ターゲティング、Positiioning/ポジショニング、それぞれの頭文字を表しています。このことはよく知られていますが、一般的にいって、このポジショニングについての理解や解釈が果たしてどこまで適切なものか、それを的確に応用できているかというと少々疑問です。

セグメンテーションについては、そもそも顧客を深く知るために行うものです。通常の年齢・性別などのデモグラフィック分類以外に、ジオグラフィック、職業や所得などのソーシャル、ライフスタイルや性格、価値観などのサイコグラフィックといったものがあり、新しい切り口を見つけ出したところが、早期に果実を得られる可能性が高いといえるでしょう。

ターゲティングは、市場を細分化した各セグメントから、ターゲットにするセグメントを決める行為、過程全般を指します。

ポジショニングは、競合との関係を明確にして自らの立ち位置、ポジションをハッキリさせることです。このためには、何で競合と差別化するかということが鍵となります。ただ、その立ち位置は、顧客の頭の中(または、心の中)にあるというのがやっかいなことで、それは外部から目に見えるものではないばかりか、時には顧客自身が自らの頭の中のことについて、気づいていないことが少なくありません。

ジャックトラウトとアルライズは、名著ポジショニング戦略の中で、次のようなことを述べています。

  • マーケティング戦略の基本中の基本は、ライバルのポジションを崩すこと。
  • すでに強力なポジショニングを確立したライバルに正面攻撃を挑んでも、消費者の頭の中をめぐる戦争には勝てない。迂回しても、潜行してもいいが、直接対決だけは絶対に避けるべき。

  • 大きな成功が消費者の頭の中に強力なポジションを築く。商品ラインを広げればポジションが強力になるわけではない。

  • ポジショニングの問題を解決したいなら、商品ではなく、消費者の頭の中を見つめること。
  • 開発資金をどれだけ投じようが、そのサービスが技術的にどれほど興味深かろうが、消費者の心をつかむには、彼ら彼女たちの頭の中にすでに存在しているものと結びつけなければ意味がない。消費者の頭の中のポジションを無視することはできない。

インターネットが台頭する前に提唱されたポジショニング戦略の考え方は、2020年代においても依然として強力なばかりか、尚一層威力を増しているように思います。今日のような情報が溢れかえっている社会で、消費者の頭の中を制するためには、辛抱強く、一貫性をもって、コンセプトを磨き続ける必要があります。競合とは異なるやり方で、ポジションを固めていかねばなりません。ですが、たとえばウェブサイトを見たとき、メールを受け取った時、そこにあるコミュニケーションメッセージは、どれも似たようなものばかりに見えてしまうと感じる人は少なくないでしょう。

購買の検討対象を考慮集合といいます。人がデスティネーション、またはそこで扱われているプロダクトを選択する場合、一足飛びにあるデスティネーションやプロダクトに決めることは通常ありえません。少なくとも2回程度(もしくはそれ以上)のふるい分けがあるはずです。1回目は、多数の選択肢から、3~5つ程度に絞り込みます。2回目はその絞り込んだ中から、ある一つのものに決めていきます。絞り込んだり、最後のひとつに決めたりする過程は、人によってまちまちでしょうが、ここでまず重要なことは、1回目の選択肢に必ず入るということです。仮に、最初の多数の選択肢にさえ入らないようだと、すなわち消費者の頭の中に浮かぶことさえなければ、それは何も始まらないことを意味しています。

もし消費者の頭の中に、そもそもこちらのイメージが浮かんでいないようであれば、想起させることを第一に考えなければなりません。仮に、想起されるとして、次は、消費者が抱いているイメージを如何に活用するかを考えなければなりません。とにもかくにも、こちらの思いはひとまず横に置いておき、消費者の頭の中のポジションをどうやって獲得していくかに知恵を絞ることが重要です。

このためには、市場を細分化し、ターゲットを絞り込んで、自らのポジションを作り上げていくことです。消費者が選択したものを変えさせることは、容易ではありません。したがって、情報の洪水でオーバーヒートしている頭の中に入り込むには、消費者にとって、消費者の頭の中にとって、新しい何かを提供するのが、早道だといえるでしょう。


12/01/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスxiii

今回は、マーケティングプランニングシステム(MPS)における3.2 マーケティングの目的と戦略」についてです。(MPS全体のながれはこちら)

「目的と戦略」としたのは、ツーリズムにおけるマーケティングの意図をハッキリさせるため、「戦略」の前に敢えて「目的」を付けて強調しました。目的とはデスティネーションでマーケティングが実現したいことを指し、戦略はその目的とゴールを達成するためのマーケティングの打ち手をいいます(以前にも触れましたが、戦略とは、ゴールを達成するために、競争優位を発揮できるものを整合的に束ねた打ち手のまとまりです)。

なお、ここでいうマーケティングの目的は、プロダクト(商品/サービス)と市場に限定させるべきでしょう。何故なら、事業者(デスティネーション)は、個人法人を問わず、第三者に対して、何がしかのプロダクトを提供してはじめて、自らの事業を成立させることができるからです。ここでは、シンプルに考えることが重要です。広告宣伝・販促、価格、チャネルといったものは、マーケティングの目的に付随するものと考えることが、マーケティングの本質を捉えやすいといえるでしょう。マーケティングの目的は、次の4つのいずれかを対象にしたものになります。

A. 既存プロダクト x 既存市場

B. 既存プロダクト x 新規市場

C. 新規プロダクト x 既存市場

D. 新規プロダクト x 新規市場

Aはプロダクト改良による市場浸透Bは潜在ニーズを発掘して市場拡大Cは商品ライン拡張などによる商品開発Dは主として技術革新による市場創造(多様化によるポートフォリオ管理)といえます。

マーケティングの目的は、測定できるものにする必要があります。大事なことは、当該マーケティング活動のゴールと成果を明確にすることです。マーケティングは人間を相手に行うものであり、デジタルの最新手法に惑わされることなく、原理原則にそって計画し、実行する姿勢を保つことこそが成功の秘訣です。

繰り返しますが、マーケティング戦略はマーケティングの目的を達成するためのものであり、通常マーケティングミックスに関係しています。

  • プロダクト: プロダクトブランディング、プロダクトポジショニング、プロダクトの改廃と追加、デザイン、パッケージなど
  • プライス: マーケットセグメントにおけるプロダクトグループのためのプライシングポリシー

  • プレイス: 販売チャネルと顧客サービスレベルに関するポリシー

  • プロモーション: 顧客とのコミュニケーション(広告宣伝、販促、営業パーソン、コールセンター、オン/オフラインのメール、パブリックリレーション、展示会、トリプルメディアなど)についてのプロモーションポリシー


マーケティングミックスのそれぞれ、または全部を見直すことで、マーケティング戦略を策定するわけですが、マーケティング戦略を成功させるためには、突出した何かが必要であって、ひととおり競合と同じようにできるというのでは競争に勝てません。また、マイケルポーターが主張しているとおり、競合より少しうまくできたとしても、それは戦略とはいわず、業務の効率化になってしまうということにも注意すべきです。

マーケティングを戦略的に行うということは、自身の強みを如何なく発揮できる顧客セグメントに狙いを定めて、攻略に必要な要件と能力を検討することだといえます。顧客があるデスティネーションを選択する、或いはそこのプロダクトを購入することが自身にとって明白なベネフィットとなる、そういったことを見出せるようにすることが必要です。所謂、顧客提供価値をはっきりさせなければなりません。

最後に、情報が溢れかえっている現在では、いかにデスティネーションを目立たせるか、顧客が得られるベネフィットを明確にするということが、成功の鍵を握るといえるでしょう。そのためには、突出した何を見つけ、磨き上げていくことが必要です。セスゴーディンは「消費者は目新しいものに気づく」といっています。また、「物語は第一印象から始まる」とも述べています。

ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...