5/30/2022

新規事業創出 (3)アイデア①

筆者個人は、アイデアは属人的で、思いつき、突然、生まれるといったような考えに強く反論するものではありません。ただ、個人商店ならいざしらず、会社は組織ですから、アイデアはできる限り組織的に、体系的に、また、反復できるに越したことはありません。天才的なAさんが退社したから、後には何も残らない、アイデアの素の再利用もできないということでは、機会損失が甚だしいばかりか、早晩、そういった組織は危機的状況に陥るといっても差し支えないでしょう。

書店に行くと、アイデア関係の本がズラリと並んでいます。ご自身に合うものを選んで、そっくりそのまま真似てみるのは一案です。アイデア創出は、体系的で、再利用できること。ある程度の得手不得手はあると思いますが、できる限り多くの従業員がアイデアをだせるような手法を習得することが望ましいですし、また、アイデアを気兼ねなく出せる環境整備は重要だと思います。こんなことを言ったら笑われるとか、恥ずかしいなどということがないような環境を整備したいものです。

但し、アイデアをうまく創出していくことで、ひとつご留意頂きたいことがあります。それは、市場調査というか、部屋に閉じこもって頭で考えるだけでなく、時間を捻出して外を見てまわるということです。仕事帰りや出張や取引先との商談後などに、少し寄り道をしてみることです。

筆者が親しくさせて頂いている方(業界でも有名な100億円ブランドの生みの親)は、時間を見つけて、頻繁に、百貨店や専門店などを含めたストリートウォッチングを欠かさずされています。食品メーカーの研究開発担当常務執行役員のその方は、見て回るだけでなく、店員の方にいろいろ質問したり、勿論、商品を買って帰り、味や中身を確かめられています。筆者も経験がありますが、こういったことを何年、何十年も続けていると、ある時、大きな飛躍につながります。人によっては本人が気づかない場合もあるようですが、周囲にはわかります。それが、鋭い嗅覚や直感となって、他者の追随を許さなくなります。

より効果的なアイデア創出の仕方については、そういった方の行動特性を読み解き、概念化して真似るというのがよいのですが、経験的に言って、その特性を真似るというのはふつうの人にとっては非常に難しいことですので、次回のこのブログでは、筆者がポイントを絞って、できる限り簡潔に、手法を概説してみたいと思います。今回は少し短いですが、ここまでとさせて頂きます。


5/28/2022

新規事業創出 (2)ビジョン②

前回のブログ(ビジョン①)に記載したことを中心に、できる限りコンパクトに、また、大括りで捉え直して、フレームワークとしてまとめると(このブログでは文章だけになります)、研究の場合であれば、次のようになります。

1. 市場のインサイト
2. 戦略的な意図
3. フォーカスするイノベーション
4. 研究のデザイン

1の市場のインサイトでは、①理解した外部環境の自社への意味合い②技術/製品トレンド、③顧客動向などに対する見解を記述します(対象範囲によっては、流通チャネルや競合他社なども含めます)。

2の戦略的な意図は、①企業や事業の戦略との整合性、②研究の戦略的方向(研究領域が対象でなければ、対象領域を挙げる。たとえば開発とか営業などの戦略的な方向)、③研究が目指すゴール、④研究活動で優先すべきことなどが含まれます。

3のフォーカスするイノベーションでは、新しいアイデアを事業化する上で、注力すべきイノベーション領域を明確にします。どういった技術なのか、原材料や部材なのか、または開発へ橋渡しするタイミングや頻度、スピードといったことなどになります。たとえば、技術開発と試作はどうイノベーティブなのかなど。

4の研究のデザインでは、自社の研究能力を踏まえた上での研究業務のデザインを描きます。研究活動の範囲、戦略的にコントロールすべきポイント、提供価値や機能、あと何より市場/顧客の選択になります。何の技術がどういったベネフィットを対象にもたらすのか。どのセグメントを、誰を、ターゲットにするのか。どうやって競合他社(の技術)と戦うのかなど。

1から4は相互に密接に関係しています。このため、シナリオは上記4つのいずれにも深く関係してきますが、特に1の市場のインサイトでは、市場はどのように動き、今後どのようになっていくかを、現状を踏まえて素描することが必要であり、これが他の3つの前提になるともいえます。

難しく考えれば、いくらでも難しいものにしていくことができますが(または、難しいものになってしまいますが)、重要なことは、まずは直接の関係者、担当者の方の手と頭で、範囲を決めて、将来の姿(自社に限るのではなく、対象産業や業界、市場や顧客といったこと全般)を、思い描いてみる、想像してみることです。その際、自身の思い込みだけでは当然NGのため、第三者の目や頭なども活用して、下支えする強固なエビデンスや仮説設定に充てる、冷静な判断ができるようにしていく。データ、ファクトを当てはめてみて考えることが重要です。


5/25/2022

新規事業創出 (2)ビジョン①

ビジョンの根幹はバリューといわれています。バリューとは、組織が最も重要と考えるものであり、組織構成員の行動や考えを司る価値観や、原理原則といったものといえるでしょう。

ビジョン策定のながれは、オーソドックスに言えば、はじめにバリューを明らかにし、次に現在の内外環境を理解した後に、ミッションを再確認して、将来に向けたビジョンを描くということになります。イノベーションマネジメントの領域においても、これに従い、ビジョンを考え、策定していくというのでも、勿論構いませんが、できれば濃淡をつけてビジョンを策定することをお薦めします。

それは第一には、シナリオを考えることが非常に重要であるということです。関係者が自身で考えるシナリオなくして、活きたビジョンをつくるのは難しいでしょう。ひとくちに新規事業といっても、どういった世界、どれくらい先を見据えて取組むかによっても、大きく異なります。筆者が過去に在籍したIBMでは、新規事業を3つに分けて、検討していました。

ホライゾン1(H1):成熟した市場と事業
ホライゾン2(H2):新しい成長が見込める市場と事業
ホライゾン3(H3):長期的な成長のための実験的なポートフォリオ

たとえば、H1とH3では、まったく違います。H1は市場を拡大することに主眼がおかれますが、H3であれば、市場の拡大ではなく、市場そのものを創造することになります。このため、当然のことながら、考えるシナリオは異なるものとなり、ビジョンも変わります(但し、かなり漠然としたビジョンであれば、同じかもしれません・・・)。

どのホライゾンを狙うのか、或いは属するのかといったことを考えることは、シナリオ作成には大いに役立ちます。一切の制約や範囲を定めることなく、ゼロから考えたいという方もおられるかもしれませんが、それはあまり現実的とはいえないでしょう。筆者自身は、必ず範囲を決めて考えるべきだと思っています。

また、ご存知の読者の方も多数いらっしゃると思いますが、アンゾフの成長マトリクスは、よく知られています。縦軸に市場、横軸に製品や技術を据え、且つそれぞれ(市場と製品/技術)を既存と新規に区分し、4つの象限で事業などを考えるというものです。

範囲を考える時は、第二に対象とする業界や産業、顧客、製品、技術について考察すべきです。その上で、戦略的な狙いを明確にしていくといったことが必要です。

対象範囲が明確になれば、当該領域におけるトレンドや、チェンジドライバー(変化を推進するもの)、そのインパクトの大きさと発生する可能性などについて検討を重ね、シナリオ全体をまとめます。

シナリオを考えたら、次はそのシナリオに基づいたビジョンを作ります。その後は、策定したビジョン達成に向けたロードマップ(戦略)を練るというながれで進めます。なお、ロードマップがなければ、単なる掛け声だけで終わる可能性があるため、注意が必要です。

以上から、新規事業においてビジョンを考えるという行為は、戦略的な見地から目指す将来像を描くことだといえます。言い方を変えれば、ビジョンがなければ、具体的な戦略を創ることができないということになります。

続きは次回へまわしたいと思います。

5/23/2022

脱炭素経営の取組み (4)Scope3③

CO2排出量算定の基本式、CO2排出量=活動量×排出原単位について、前回は活動量について記載しました。今回は、排出原単位にはなります。

スコープ3のカテゴリ1の排出原単位の算定は、およそ2つの方法に大別できると言っていいでしょう。ひとつは産業連関表をもとに算定する、もうひとつは積上げ法で行うというものです。

産業連関表は、積上げ法と比べて精度が低いとされています。というのも、複数の財やサービスをまとめた平均値になるからです。ですが、まずはざっくりと算定するためには、非常に有効です。但し、平均値であるが故に、各サプライヤー固有の数値を反映したものではないため、個々のサプライヤーに排出量削減努力を促したり、協力を仰ぐといったことは、具体的にはできません。また、自社サプライヤーの削減努力を、自社製品に反映させることもできません。

従って、排出量の具体的で且つ計画的な削減に向けては、各サプライヤーに確認していくことが必要となるため、現時点では、最終的に積上げ法を採用せざるをえなくなるというのが実情だと思います。

サプライチェーン全体で削減努力を行っていくというのが、スコープ3の主旨とはいえ、自社のサプライヤーがTier1,2,3・・・とネットワークの規模が大きい場合であれば(珍しくないと思います)、大変な労力、コストを伴うことになります。Tier1だけでも大変な作業になることが決して少なくないはずですから、自社製品のうち、いきなり全てを対象にするのではなく、主要製品、主要サプライヤー、主要原材料に、まずは絞るとことが必要です。

サプライヤーにデータを確認する際、製品単位で行うやり方がオーソドックスといえるでしょう。ですが、これでは膨大な負荷がかかることは明白なため、たとえば、企業(サプライヤー)単位で、算定することが考えられます。各サプライヤーのCO2排出量をはじめに把握し、次に、各社の自社に対する割合をおさえれば、その掛け算になります。納入額などで排出量を按分し、製品単位で行うよりはずっと簡易的に算定できるはずです。

最後は、算定した「排出原単位」と、前回のブログで記載した「活動量」を掛け合せて、「CO2排出量」が算定されることになります。


5/19/2022

脱炭素経営の取組み (4)Scope3②

スコープ3のカテゴリ1(自社が「購入した製品・サービス」)について、何処まで正確に把握すべきでしょうか。精度が高ければ高いほど良いのでしょうが、それに係る労力・コストなどを考えると、はじめに排出量を算定する目的を、あらためて確認することが重要です。また、自社の算定作業の進行状況や取組み体制にも依るところがあるでしょう。

仮に、算定結果に基づき、何からどのようにCO2を削減していくか、そういったことを検討するのが主たる目的であるとすれば、まずはざっと可視化しておくというので良いのだろうと思います。ですが、自社の報告書で公表するとか、或いは、何かの認定取得のためであれば、厳密な算定が必要となるでしょう。というのも、精度の高い数値は勿論ですが、算定の過程や、算定に要したデータの取得プロセスなどを提出することが要求されることもあるからです。

従って、目的と対象範囲(たとえば海外も含めるのか、国内のある企業群だけにするのかなど)をはじめに明らかにすることが必要です。

CO2排出量算定の基本式は、CO2排出量=活動量×排出原単位です。

基本式の活動量は、対象範囲にある事業活動を把握できる量や金額といった数値を指します。排出原単位は、活動量当りのCO2排出量のことをいいます。スコープ2などでいうところのCO2排出係数のようなもので、たとえば電気であれば1kWh使用当りのCO2排出量が該当することになります。(環境省「3. サプライチェーン排出量の算定の考え方」P53)

排出原単位については、環境省・経産省のグリーン・バリューチェーンプラットフォームの「排出原単位データベース」に、22年3月リリースの最新版(Ver.3.2)が掲載されています。

なお、上記の基本式は、環境省から推奨されている簡易的な算定方法です。本来は、取引先にCO2排出量を確認するのが、より正しいやり方といえます。ですが、相手方からデータを入手できない場合(取引先が自身のスコープ1と2の算定をまだ行っていないなど)があったり、また、確認作業に膨大な時間を要することもあるでしょうから、簡易な方法で排出量を推測するということになります。一般的にいえば、はじめは、簡易的な算定方法で行い、その後、特に排出量の多いカテゴリについては実測値に切り替えて、削減方法を具体的且つ精緻に検討していくというながれが、望ましいといえるでしょう。

カテゴリ1の購入した製品・サービスの場合、基本式の活動量×排出原単位における活動量の算定には、2とおりの方法があります。一方は調達量をベースに、他方は金額をベースに算出するというもので、より正確な排出量算定には、調達量(重量)が適しています。

カテゴリ1を算定するにあたり、カテゴリ1に該当する自社(グループ企業含む)が購入した全ての製品・サービスを始めから対象にするのは、現実的ではないと思いますので、カテゴリ内での活動を特定する必要があります。

たとえば、事業会社Aにおける工場XとYで扱う主力製品Zを生産するために必要な原材料M,N,O,P,Qを、まずは対象にします。このMからQまでの5つで、製品Zの全調達量(重量)のうち、およそ80%は占めるなどの工夫が必要でしょう。(なお、この80%という数字は、「部分的な算定の許容、その閾値として80%という値をGHGプロトコルが是認していると考えられます」を参考にしています(環境省の21年改訂版のサプライチェーン排出量算定におけるよくある質問と回答集 P18. なお22年改訂版には、この文言は見当たりません)。

続きは次回のブログへまわしたいと思います。


5/17/2022

脱炭素経営の取組み (4)Scope3①

スコープ1と2は自社内での排出量が対象です。スコープ2は他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出、スコープ1は事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)です(環境省・経産省のグリーン・バリューチェーンプラットフォーム)。以前に記載しましたが、ここでいう自社とは、グループ内企業は全て、自社に属することになるため、注意が必要です。

スコープ3は、自社(=自社グループ)の活動に関連する他社の排出で、スコープ1と2以外の間接排出が範囲となり、それは15のカテゴリに分類されています(上記のグリーン・バリューチェンプラットフォームのページをご覧ください)。カテゴリ1から8までがサプライチェーンの上流にあたり、原材料や輸配送、あと従業員の通勤が対象になります、9から15は下流となり、製品の使用や廃棄が対象です。

15のカテゴリのち、カテゴリ1の「購入した製品・サービス」は、原材料・部品・容器・包装資材など、自社の外部で製造するまでに排出される温室効果ガスが該当します。このため、カテゴリ1の算定には相当の時間を要することになります。

最終製品を扱う製造業の多くは、各原材料や部品について、環境省等が公表するデータベース上の原単位(標準値)を利用して、サプライヤーに寄らない算定を行ってきていると思います。ですが、これからは、各サプライヤーの実績値に切り替えていくことで、仕入先に対して適切な削減努力を促すことができるようにしていくことが重要です。また、自社の新製品や特定の製品カテゴリーなどについては、別途、排出量を戦略的にコントロールしていくことが必要になると考えられます。

CDP(Carbon Disclosure Project、イギリスで設立された国際NGO. 機関投資家が企業に対して、気候変動に関する戦略や温室効果ガス排出量の公表を求めるプロジェクト)が、2018/19年に発表したレポートによれば、スコープ3の排出量は、スコープ1と2の合算に対して、平均で5.5倍にのぼると報告しています。それによると、小売・流通では10.9倍製造で6.5倍食品・飲料で5.9倍製薬・ヘルスケアで5.8倍、輸送サービスでは2.1倍、素材で1.3倍などとなっています。

このように、サプライチェーンにおけるCO2排出量は、自社内のオペレーションの何倍にものぼることから、各社はスコープ3での取組みを加速させる必要があります。それは、標準値から実績値に基づいたものへ変更し、各サプライヤーに対してCO2の削減努力を数値を持って、客観的に要請していくことが市場から要請されるといってよいといえるでしょう。


5/13/2022

脱炭素経営の取組み (3)Scope1③

スコープ1の各種省エネ施策には大きな効果が見込めるものもありますが、カーボンフリーを目指すゴールを前提にすれば、やはり小さい感は否めません。ネットゼロに向けては、不確定要素が多少あっても、技術動向から目を離すことはできません。スコープ2の場合、CO2排出量削減の方法は前述のとおり4つに絞られるため、大きな効果を創出しようとすれば、需要家各社がとる方向(4つの選択肢のどれを採用するかなど)は自ずと明確にすることができます。一方で、スコープ1については、現行技術をそのまま適用することでは、そう大きな効果を得るのは難しい。

そこで、電気の一次エネルギー化という考え方がでてきます。一次エネルギーとは、石油、石炭、天然ガスといった化石燃料、天然ウランなどの鉱物燃料、太陽光や風力などの再生可能エネルギーのことを指します。二次エネルギーは、一次エネルギーから変換加工して得られたエネルギーを表し、発電や精製といった加工を経た電気、ガス、ガソリンなどが該当します。この二次エネルギーを、需要家が消費すると、最終エネルギー消費と呼ばれます。なお、省エネはこの段階の使用量を減らしたり、使用料金を抑える活動のことを指すのが一般的で、実際、この段階のものを指標として用います。つまり、需要家が一次エネルギー化した電気を使うことで、始めからCO2をゼロにすることができるということになります。

大幅なCO2削減を目指す観点からすれば、需要場所で燃焼させている化石燃料を削減することに、まず手をつけなければいけないという指摘があります。というのも、日本の最終エネルギー消費のうち、電気が占める割合は20%程度に過ぎず、残り大半は何らかの化石燃料が占めているというデータがあるからです(資源エネルギー庁のR2エネルギー需給実績の速報値)。

長期的には、スコープ2で調達する電力を再エネを主力とし(電力供給サイドの視点では、電源の低炭素化を推進し)、スコープ1の需要サイドでは電化技術への置換を推し進めることが、より効果的に且つ圧倒的にCO2を削減する上で、必要不可欠なことになります。

開発技術そのものや、その商用化の問題などがあってそう簡単にはいきませんが、カーボンフリーに向け、スコープ1では、電化水素、アンモニア、メタネーションといった技術に大きな期待が寄せられています。これらはいずれも、化石燃料フリーの一次エネルギーから作られる電気、再生可能エネルギーを利用した技術になります。

ここでいう電化とは、再エネを利用して熱需要に対応する電化設備を導入し、直接的に化石燃料の消費を削減することを指します。たとえば、生産工程における加熱、蒸気、温水ボイラー、または工業炉といった熱需要が対象になります。但し、対応できる熱領域には技術的に制限がある上、受電設備の増強も必要になることなどから、電化の限界も指摘されてはいます。

とはいえ、技術開発が大きく進展し、投資額が劇的に下がることもありうるでしょうから、考える対策は、選択肢をあまり狭めることなく、適時継続して見直すといったことが重要になるといえます。

最後になりましたが、スコープ1のCO2排出量算定方法については、業種によって多岐にわたります。詳細は、以下のガイドラインをご参照ください。 環境省「温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン」 

次回の「脱炭素経営の取組み」ブログでは、Scope3を取り上げたいと思います。


5/11/2022

脱炭素経営の取組み (3)Scope1②

エネルギーマネジメントシステム(EMS)が、以前より注目され、それは日増しに強くなっています。EMSは、人の手を介さず、効率的に、科学的に、エネルギー使用の最適化を実現する情報システムのことをいいます。この意味から、デマンドコントローラーや、デマンドレスポンス(DR)なども、EMSに含まれると理解しています。

デマンドコントローラーは、使用電力量が予め設定したデマンド値を超えそうになると警報を発信するなど、電力のピークカット(遮断)が主な機能です。デマンドレスポンスは、電力の需給バランスを需要家側で制御することをいい、供給量に需要量を合せる手法です。

EMSには、FEMS(Factory Energy Management System)、BEMS(BUilding Energy Management System)、HEMS(Home Energy Management System)というように機能を限定しているものと、全般に適用できるものがあります。産業用のCO2削減を大きく実現させるという観点からは、FEMS(フェムズ)またはFEMSの機能を有するEMSを如何にうまく活用するかが鍵となります

EMSへの期待が強まっている背景には、分散型電源の普及が大きく影響しています。分散型電源とは、需要場所に設置される比較的小規模な発電設備全般のことをいいます。再エネ利用の設備には、太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱の各発電があります。ほかにも、蓄電池や電気自動車、さらには水素を利用した燃料電池などが挙げられます。

このような分散型電源は、需要家自身が電力供給に参画できると共に、需要家に近いところで発電できるため送電ロスが少なく、また、災害時の非常用電源としての利用も可能となることから、需要家による適切なエネルギー管理が必要となります。

EMSは、今後、AIやIoTといった技術を一段と取り込むことで進化を果たし、普及、浸透に拍車がかかるものと思われます。

自社敷地内で排出される温室効果ガスを対象とするスコープ1では、これまで述べてきた省エネ以外に自社のオペレーションを改革したり、商品やサービスを見直すことで、排出量を削減、またはなくしてしまうといったことが考えられます。これについては、スコープ1の枠に限定せず、枠をとりはらって考えることが必要であり、別の折に考えてみたいと思います。


5/09/2022

脱炭素経営の取組み (3)Scope1①

スコープ1は、自社の敷地内から排出される温室効果ガスが対象のため、省エネが入口になっていますが、省エネだけでは到底、脱炭素で目指すゴールを達成できないのは明白です。したがって、言葉はあまり適切ではないですが、乾いた雑巾をさらにしぼり上げていくというようなことはほどほどにしないと、関係者全員が疲れ切り、場合によっては(達成すべきゴールの初期時点で)取組みが徒労に終わる可能性さえありますので、この点は(言うまでもないことかしれませんが)注意が必要です。

また、省エネでCO2削減を行う場合、前提としておさえておかなければいけないことは、再エネをどれだけ省エネしても、CO2削減には寄与しないということです。再エネは、はじめからCO2を排出していないと言われていますので、これを前提にして考えなければいけません。逆に言えば、再エネを導入すること自体がCO2削減には大きく貢献することになりますので、先のスコープ2で、予め十分検討しておくことが重要です。

省エネ対象の主なカテゴリーには、以下のものがあります。

(1)空調・換気(設定温度の適正化、高効率機器への変更、ポンプ・ファンのインバータ化、機器の清掃・不要時の停止・換気の適正化、冷温水等の適正化、空調エリアの見直し、日射の遮蔽等)

(2)照明・電気(デマンドコントローラー/デマンド監視装置、LED照明/誘導灯への変更、昼光利用による照明制御、不要時の消灯・人感センサ活用、間引き・消灯、自動調光等)

(3)給湯・衛生等(配管等の保温・断熱、空気比の適正化、廃熱回収、高効率機器への変更、冷凍冷蔵庫の設定温度適正化や設備更新等)

(4)受変電設備(高効率機器への変更、統合・休止、力率管理、変圧器遮断) 

(5)生産設備(吐出圧力の適正化ほかコンプレッサ関連、ポンプやファンのインバータ化、設備不要時の停止、工業炉等の保温・断熱、モーターやポンプの高効率化、運転時間の見直しほか)

参考: 経済産業省 関東経済産業局「省エネの進め方と現場で役立つ着眼点」


上記は、設備の変更を伴うものと、運用を変更するものに区分できます。後者の場合は、従業員一人ひとりが意識して精一杯やったとしても(たとえば部屋が無人であればエアコンのスイッチを切るなど)、ほんの僅かしか省エネ効果は得られません。ですが、前者であれば、デマンドコントローラー等を活用したり、変圧器などを高効率なものに変えるといったことで、より大きな効果が得られるはずです。

また、取組みをより実効性あるものにするためには、ミドルマネジメント以上が率先して、ボトムアップ&ダウン的な取組みを推進すべきです。軽視するわけではありませんが、現場レベルでの担当者の創意工夫に大きく依存するのではなく、部長職相当以上の主導で、大胆に、また費用をかけるべきところはかけて、取組みを加速させることが重要です。

次回のこのブログでは、エネルギーマネジメントシステムについて、少し触れてみたいと思います。


5/08/2022

新規事業創出 (1)イントロダクション

既存事業と異なる事業の内容や形態を総称して新規事業とする場合、マインドセットは既存事業のものとは異なります当事者(現場)は言うに及ばず、マネジメントもそうあるべきですが、実際はそうなっていないことが多いのではないでしょうか。(マインドセットとは、考え方の基盤、思考パターンや基本的な考え方などを指します。)

現場は、新しい知識や技術を絶えずブラッシュアップしなければならないことが多く、日々、試行錯誤の連続。既成概念やこれまでの成功体験は捨てるべきであっても、どうしても足かせとなり、従前の価値判断や意思決定を行ってしまいがち。

加えていえば、アイデア創出含めた新規事業創出全体のプロセス整備は必須ですが、巷にあるフレームワークをどれだけうまく活用したとしても、新規事業に携わるメンバーのマインドセットと強い意志が伴わないと、結果的にはうまく事業化できません。

殊更、対象に対する見方や考え方、意志が肝要です。大企業は言うに及ばず、中堅・中小規模の企業であっても、組織には相応の数にのぼる人が働いていますし、いつもあうんの呼吸、暗黙知的に擦り合せなどというわけにはいかないでしょう。

以上のようなことを踏まえ、新規事業を考えた場合、組織として何が最も重要になるかといえば、筆者はビジョンだと思っています。ここでいうビジョンとは、漠然とした思いや夢を語るものを指しているわけではありません。対象とする市場や顧客、技術や製品をどのように見るのか、今後どうなっていくのか、どうしていくことができるのかといったシナリオを内に含めたビジョンを指しています。新規に事業を考える際、シナリオやインサイトというのは必須です。そんなことは当たり前だと仰る方もおられるでしょうが、意外とこれが軽視されていたり、非常に自信無げ、または消極的な態度で向き合うことが少なくないと感じています。ストレートに言えば、当事者に自信がなかったり、覇気がないものに対して、誰が賛同、評価、または支持していけるのでしょうか。そのようなことをする人は、まず、皆無といって差し支えないはずです。

方針を一貫させるためにも、ビジョンは非常に重要で、依って立つところがなければ、チームを一枚岩にすることはおそらくできないでしょう。たとえ、一人で新規事業に関わっていたとしても、迷うこともあるはずで、そのような時に、あらためて自身の熱い思いや、狙いを思い返すことがあるはずです。

ビジョンは、関係者の思いや考えが前提になりますから、一見簡単なように見えて、実は最もやっかいなものかもしれません。これを、どううまくまとめあげていくか、シャンシャンシャンと予定調和的なものにするのではなく、(相応に)尖ったものにしていくべきかなど。次回の「イノベーションマネジメント」ブログでは、このビジョンについて述べてみたいと思います。


5/01/2022

論理的思考(3) 問題を見つける②

「問題を見つける」のなかの問題を構造化することについて、今回は簡潔に述べてみたいと思います。構造化はものごとを分かりやすくまとめたり、検討を深めるために分解したりして、対象を考察することに役立ち、MECEであればまさにそれは論理的であるといえます。構造化する行為をとおして、論点を整理し、自分の見解や会社の立場を明確にすることができます。

多数ある情報を読み取ることは難しいですが、同じ種類のものに集める=括ることで、理解しやすくなります。括ることは人間の習性ともいえるため、括る行為をとおして、考察・分析の軸を幾つか持つことができ、考えの世界を広げられます。

構造化には、①What(全体-部分)、②How(目的-手段)、③Why(結果-原因)の3種類があります。①のWhatの場合、たとえば商品は、既存商品と新商品に分けられます(What)。既存商品は、更に定番とスポットに分類でき、前者は年間と季節、後者はモチベーションとバーゲンに区分できます。このように分類することで、たとえば、どのタイプの商品を改廃、強化するのかといったことを検討しやすくできるでしょう。商品の場合であれば、比較的シンプルに捉えることができるように思えますが、これを顧客にすると、もう少し複雑なものになるでしょうから(たとえば、既存顧客を採算・不採算に分け、不採算を期間や理由などで分けるなど)、検討がより多面的にできるようになるはずです。

②のHowであれば、たとえば売上げを伸ばすためにはどうすればいいか(How)を考えます。顧客の数を増やすか、商品の単価を上げるのかなど。顧客数増大は、新規顧客の開拓、既存顧客の買上頻度向上、既存顧客の買上点数増加などと分解していく。

③のWhyでは、たとえば利益が伸びないのは何故か(Why)を検討します。それは売上が低下していることと、コストが増加していることに分けることができます。売上の低下は、単価の下落と量の減少で考えることができます。量の減少は、市場規模とマーケットシェアに、マーケットシェアはカバレッジと店舗内シェアに分けていくことができるでしょう。コストの増加は、変動費と固定費、さらにそれぞれを細分化していくことができます。

このようなことは、ロジックツリーで図示して、文章で書くだけでなく、見た目にもっと分かりやすくすることができるのは明白です。また、これらは基本的な例として取り上げましたが、こういったことをよりリアリティのある日々起こっている問題に置き換え、構造化し、構造化した後のステップとして、問題解決に向けたアプローチを考えていくことが重要です。なお、そこへ話を進めるのは、このブログが扱う範囲を超えますので、今回はこのあたりで終わりにしたいと思います。

今回のブログは、これまでの「論理的思考」ブログのの内容と、重複または少し前後するところがありますが、はじめに論理的思考の特性を概説し、その後、問題を見つけるステップとして、最初に問題を定義し、次に構造化というながれを確認するために、あえてこのようにしました。構造化は論理的思考の基本ですが、奥が深いといえます。対象を分解、括るといった行為を日々の仕事のなかで繰り返すことで、苦手意識を持たれている方はしばらくの間、悶々とする日々が続くかもしれませんが、いずれは必ず克服できます。また、すでにかなり出来ておられる方々にとっては、更にその力を高めていくことにつなげられるはずです。

たとえば、企業活動全体を、機能面などで分解したり、括ったりすることで、今まで見えなかったことが見えてくるようになり、大所高所から検討することで、部門横断型の問題解決につなげることが容易くなります。このことについては、いずれ事業の全体俯瞰として、述べてみたいと思います。


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...