12/17/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスxv ポジショニングその2

ポジショニングについて、ジャックトラウトは「潜在顧客の頭の中にあるあなた自身のイメージを、他と差別化すること」と説きました。そしてリポジショニング(RePositioning)を、「消費者の心を変えるのではなく、消費者の心の中の認識を少しずつ調整していくもの」と述べています。また、リポジショニングのためには、「ライバルを念頭に置いて始める必要」があるとし、「自分が何をしたいかではなく、ライバルが自分に何をさせるかだ」といっています。

消費者の認識を少しずつ調整していくことというのは、消費者の認識を変えることではなく、「消費者の認識に自らを適合させていくこと」であって、これこそが効果的なリポジショニングであり、これには時間と忍耐が必要と説いています。リポジショニングは、少々難解なところがありますが、変化に対応していく時には不可欠な考え方です。

今日のような情報が多すぎる時代では(一方で、本当に必要とする情報が少ない時代でもありますが・・・)、消費者の情報許容量は事実上パンクしている状態といっていいでしょう。そういう状況下にあって、如何に自らのデスティネーションやプロダクトを成功させるかは、そう簡単なことではありません。消費者にイメージしてもらうためには、想起できる他者とは異なる自らの「独自性」を発揮させなければなりません。このためには、消費者がこちらをすぐさま思い浮かべる、簡単な「言葉」が持つことが必要で、トラウトはこの重要性を繰り返し説いています。

トラウトに従えば、差別化に至るステップは次のとおりです。

1. 自らと競合の強みと弱みなどが、消費者にどのように映っているのか把握し、市場の空気感なども含めて素早く掴む。

2. 自らの独自性、他者との違い、差別化のアイデアを探す。

3. 消費者にその独自性の魅力を感じてもらえるように、信頼できる裏付けを示しながら働きかけて、信頼を獲得する。

4. 独自性の良さを認識してもらうように、繰り返しコミュニケーションを徹底する。

シンプルでわかりやすいアプローチ、これならすぐに実行できるかもと思われる方もいらっしゃるでしょうが、対象が消費者の頭の中になるため、決して簡単なことではありません。

トラウトは、コモディティでも差別化は十分可能として、①識別化する、②人間化する、③新しいカテゴリーを作る、④名前を変える、⑤カテゴリーを変える、これら5つが成功の法則と述べています。

他者とは違う価値を、意味のある分かりやすい言葉で、いち早く消費者の頭の中に想起させること。このためには、万人受けは決して狙わず、フォーカスして、良いイメージを抱いてもらえるように働きかけ続けること。フォーカスするということは、いろいろなものを捨てる、或いは犠牲にするということでもあります。デスティネーションやあらゆるプロダクトを売ろうとするやり方は捨てるということです。

プロダクトの特徴もあれやこれやというのではなく、絞り込むことが必要で、これができてはじめてメッセージを伝えることができやすくなります。ターゲットも同様です。競合とは異なるターゲットに集中する。このようにマーケティングの「戦略とは違うレースを選ぶ、自分が勝てるレースを設定するということ」に尽きるといえるでしょう。


12/07/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスxiv ポジショニングその1

マーケティングプランニングは、マーケティングミックス、所謂マーケティングの4P(Product、Price、Place、Promotion)が、構築の核になります。ただ、フィリップコトラーは、4Pの前に、R(Research)を加え、このRからSTPを導き出す重要性を以前から説いており、そこではSTPが戦略、4Pはツールと位置付けています。今回は、このSTP、特にPについて少し取り上げてみたいと思います

STPは、Segmentation/セグメンテーション、Targeting/ターゲティング、Positiioning/ポジショニング、それぞれの頭文字を表しています。このことはよく知られていますが、一般的にいって、このポジショニングについての理解や解釈が果たしてどこまで適切なものか、それを的確に応用できているかというと少々疑問です。

セグメンテーションについては、そもそも顧客を深く知るために行うものです。通常の年齢・性別などのデモグラフィック分類以外に、ジオグラフィック、職業や所得などのソーシャル、ライフスタイルや性格、価値観などのサイコグラフィックといったものがあり、新しい切り口を見つけ出したところが、早期に果実を得られる可能性が高いといえるでしょう。

ターゲティングは、市場を細分化した各セグメントから、ターゲットにするセグメントを決める行為、過程全般を指します。

ポジショニングは、競合との関係を明確にして自らの立ち位置、ポジションをハッキリさせることです。このためには、何で競合と差別化するかということが鍵となります。ただ、その立ち位置は、顧客の頭の中(または、心の中)にあるというのがやっかいなことで、それは外部から目に見えるものではないばかりか、時には顧客自身が自らの頭の中のことについて、気づいていないことが少なくありません。

ジャックトラウトとアルライズは、名著ポジショニング戦略の中で、次のようなことを述べています。

  • マーケティング戦略の基本中の基本は、ライバルのポジションを崩すこと。
  • すでに強力なポジショニングを確立したライバルに正面攻撃を挑んでも、消費者の頭の中をめぐる戦争には勝てない。迂回しても、潜行してもいいが、直接対決だけは絶対に避けるべき。

  • 大きな成功が消費者の頭の中に強力なポジションを築く。商品ラインを広げればポジションが強力になるわけではない。

  • ポジショニングの問題を解決したいなら、商品ではなく、消費者の頭の中を見つめること。
  • 開発資金をどれだけ投じようが、そのサービスが技術的にどれほど興味深かろうが、消費者の心をつかむには、彼ら彼女たちの頭の中にすでに存在しているものと結びつけなければ意味がない。消費者の頭の中のポジションを無視することはできない。

インターネットが台頭する前に提唱されたポジショニング戦略の考え方は、2020年代においても依然として強力なばかりか、尚一層威力を増しているように思います。今日のような情報が溢れかえっている社会で、消費者の頭の中を制するためには、辛抱強く、一貫性をもって、コンセプトを磨き続ける必要があります。競合とは異なるやり方で、ポジションを固めていかねばなりません。ですが、たとえばウェブサイトを見たとき、メールを受け取った時、そこにあるコミュニケーションメッセージは、どれも似たようなものばかりに見えてしまうと感じる人は少なくないでしょう。

購買の検討対象を考慮集合といいます。人がデスティネーション、またはそこで扱われているプロダクトを選択する場合、一足飛びにあるデスティネーションやプロダクトに決めることは通常ありえません。少なくとも2回程度(もしくはそれ以上)のふるい分けがあるはずです。1回目は、多数の選択肢から、3~5つ程度に絞り込みます。2回目はその絞り込んだ中から、ある一つのものに決めていきます。絞り込んだり、最後のひとつに決めたりする過程は、人によってまちまちでしょうが、ここでまず重要なことは、1回目の選択肢に必ず入るということです。仮に、最初の多数の選択肢にさえ入らないようだと、すなわち消費者の頭の中に浮かぶことさえなければ、それは何も始まらないことを意味しています。

もし消費者の頭の中に、そもそもこちらのイメージが浮かんでいないようであれば、想起させることを第一に考えなければなりません。仮に、想起されるとして、次は、消費者が抱いているイメージを如何に活用するかを考えなければなりません。とにもかくにも、こちらの思いはひとまず横に置いておき、消費者の頭の中のポジションをどうやって獲得していくかに知恵を絞ることが重要です。

このためには、市場を細分化し、ターゲットを絞り込んで、自らのポジションを作り上げていくことです。消費者が選択したものを変えさせることは、容易ではありません。したがって、情報の洪水でオーバーヒートしている頭の中に入り込むには、消費者にとって、消費者の頭の中にとって、新しい何かを提供するのが、早道だといえるでしょう。


12/01/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスxiii

今回は、マーケティングプランニングシステム(MPS)における3.2 マーケティングの目的と戦略」についてです。(MPS全体のながれはこちら)

「目的と戦略」としたのは、ツーリズムにおけるマーケティングの意図をハッキリさせるため、「戦略」の前に敢えて「目的」を付けて強調しました。目的とはデスティネーションでマーケティングが実現したいことを指し、戦略はその目的とゴールを達成するためのマーケティングの打ち手をいいます(以前にも触れましたが、戦略とは、ゴールを達成するために、競争優位を発揮できるものを整合的に束ねた打ち手のまとまりです)。

なお、ここでいうマーケティングの目的は、プロダクト(商品/サービス)と市場に限定させるべきでしょう。何故なら、事業者(デスティネーション)は、個人法人を問わず、第三者に対して、何がしかのプロダクトを提供してはじめて、自らの事業を成立させることができるからです。ここでは、シンプルに考えることが重要です。広告宣伝・販促、価格、チャネルといったものは、マーケティングの目的に付随するものと考えることが、マーケティングの本質を捉えやすいといえるでしょう。マーケティングの目的は、次の4つのいずれかを対象にしたものになります。

A. 既存プロダクト x 既存市場

B. 既存プロダクト x 新規市場

C. 新規プロダクト x 既存市場

D. 新規プロダクト x 新規市場

Aはプロダクト改良による市場浸透Bは潜在ニーズを発掘して市場拡大Cは商品ライン拡張などによる商品開発Dは主として技術革新による市場創造(多様化によるポートフォリオ管理)といえます。

マーケティングの目的は、測定できるものにする必要があります。大事なことは、当該マーケティング活動のゴールと成果を明確にすることです。マーケティングは人間を相手に行うものであり、デジタルの最新手法に惑わされることなく、原理原則にそって計画し、実行する姿勢を保つことこそが成功の秘訣です。

繰り返しますが、マーケティング戦略はマーケティングの目的を達成するためのものであり、通常マーケティングミックスに関係しています。

  • プロダクト: プロダクトブランディング、プロダクトポジショニング、プロダクトの改廃と追加、デザイン、パッケージなど
  • プライス: マーケットセグメントにおけるプロダクトグループのためのプライシングポリシー

  • プレイス: 販売チャネルと顧客サービスレベルに関するポリシー

  • プロモーション: 顧客とのコミュニケーション(広告宣伝、販促、営業パーソン、コールセンター、オン/オフラインのメール、パブリックリレーション、展示会、トリプルメディアなど)についてのプロモーションポリシー


マーケティングミックスのそれぞれ、または全部を見直すことで、マーケティング戦略を策定するわけですが、マーケティング戦略を成功させるためには、突出した何かが必要であって、ひととおり競合と同じようにできるというのでは競争に勝てません。また、マイケルポーターが主張しているとおり、競合より少しうまくできたとしても、それは戦略とはいわず、業務の効率化になってしまうということにも注意すべきです。

マーケティングを戦略的に行うということは、自身の強みを如何なく発揮できる顧客セグメントに狙いを定めて、攻略に必要な要件と能力を検討することだといえます。顧客があるデスティネーションを選択する、或いはそこのプロダクトを購入することが自身にとって明白なベネフィットとなる、そういったことを見出せるようにすることが必要です。所謂、顧客提供価値をはっきりさせなければなりません。

最後に、情報が溢れかえっている現在では、いかにデスティネーションを目立たせるか、顧客が得られるベネフィットを明確にするということが、成功の鍵を握るといえるでしょう。そのためには、突出した何を見つけ、磨き上げていくことが必要です。セスゴーディンは「消費者は目新しいものに気づく」といっています。また、「物語は第一印象から始まる」とも述べています。

11/27/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスxii

前回のマーケティングプランニング ②プロセスxiでは、「3.1 マーケティング仮説」における問題発見について述べました。今回は、発見した問題を解決する仮説づくりについて、簡潔に触れてみたいと思います。

前回で、問題解決はプロモーションから行うことになりましたが、そこでの問題は次のようなものでした。

①多数のカスタマータッチポイントを活かせていない。

②打ち手は場当たり的に行われている。

③ターゲット顧客にリーチできているかわからない。

④観光サイトが地域の魅力を発信できていない。

これらの問題に対して、すぐに挙げられる解決策には、以下のようなものが挙げられるのではないでしょうか。

①については、全てのタッチポイントを棚卸しながら、デジタル領域のトリプルメディア(ペイド、オウンド、アーンド)、なかでもオウンドメディアである観光サイトの目的と役割を定義し直します。その上で、地域ブランドの訴求、商品/サービスの情報提供と販売、問い合わせ対応などを、サイトの主旨と合致するものに再構築します。

 このためには、ページやコンテンツのデザイン上の統一感を持たせるのは勿論のこと、コンテンツ公開のフローとチェック体制、KPIなどを明確に設計します。 

これら一連のものは、④に直接つながるばかりでなく、③と②にも関係してきます。幾つかに分類されているであろうターゲット顧客層が欲する情報を、各特性に合わせた提供方法に整理し直します。

ターゲット顧客がサイト上で調べても必要なものが見つからなければあきらめ、当該デスティネーションへの関心を失ってしまう、そういった可能性が絶えずあることを忘れてはなりません。サイトの担当者は、情報ニーズに素早くこたえられる場所でなければならないことを、強く意識する必要があります。SEO(検索エンジン最適化)や、アクセス解析でサイト運用の改善点を把握できるようにします。

②の場当たり的な打ち手については、オウンドメディアである観光サイトの再構築後は、当面サイトの打ち手だけに集中するようにしながら、顧客のステータスごとにアプローチを考えていきます。現在の顧客なのか見込み客か、前者であれば既存の顧客か新規か、或いは休眠している顧客なのか。後者は顕在化している顧客か、潜在顧客か等々。このように、5つ程度のステータスに分けて、基本的な考え方とステータスごとに優先順位付けして、アプローチを練り上げます。 

たとえば、顕在化している顧客については、その人たちの課題を解決することで、売上げに結びつくようにしていきます。休眠顧客も同様です。潜在顧客については来ていただくため(或いはプロダクトを購入して頂くため)のモチベーションを喚起していくことを考えます。既存、新規の両顧客については、エンゲージメントを高めていける打ち手を考えます。なお、これら5つのステータスのうち、顕在顧客へのプロモーションを強化することが、デスティネーションの売上増大につなげやすいため、取組みは最優先で行うべきでしょう。

ほかにも、OTA(Online Travel Agency)の機能をサイトに加え、パートナー企業にもなりうるOTAとの協力関係や、営業体制を強化していくといったことなども挙げられます。

上述したような問題解決策のうち、どれが実際に大きな効果を上げられるのか、投資金額や運用面で投下する人員体制などの効果、実行可能性などの観点から、競合の動きや業界のながれなども考慮しながら、具体的に打ち手を絞り込んでいきます。どれも大事にみえる策かもしれませんが、効果があまり期待できそうにない施策や、効果を得るには時間がかかるであろう施策など、直近では不要と思われる施策を捨てる作業ともいえるでしょう。


11/16/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスxi

今回はマーケティングプランニングシステムにおける「3.マーケティング戦略策定」の最初のステップ、「3.1 マーケティング仮説」についてです。

前回のブログで、顧客を知ることの重要性について触れました。では、どのようにすれば、顧客を知ることができるのでしょうか。たとえば何故あのデスティネーションには人が集まるのか。感覚的に捉えることも大事ですが、議論が感覚的なものだけで終わることは避けなければなりません。事実を集め、集めた事実を元に、分析していくことが必要です。

事実を集めるために、大規模なアンケート調査を行うことがありますが、ただやみくもにデータを集めて分析すればいいというわけではありません。重要なことは、「こういうことだろう」という仮の答え(仮説)をつくって、その仮説をもとに調査内容を決め、調査の対象や調査の方法、調査の項目などを決定していくというながれにすることが重要です。仮説に基づき行った調査結果から、仮説を検証し、必要に応じてその仮説を修正していきます。(仮説については、右記ブログをご参考ください。営業力強化(2)価値ある提案をするために⑨営業力強化(2)価値ある提案をするために①)

仮説をつくるためには、はじめに、何が問題になっているのか、何に対して答えを出さなければいけないのかを明確にすることから始めるのがよいでしょう。そのためには、自らデスティネーションへ行き、そこで過ごしながら自分も観光客の一人になってみることもあるでしょうし、ほかの観光客を観察したり、観光客やサービス提供者などに話を聞いてみることも必要でしょう。また、当然のことながら調査資料にもあたります。こういったことを総合的に組み合わせて、仮の答えである仮説を考えてみるのが一般的といえるのではないかと思います。

ただ、これは一般的なやり方だけであって、人によって方法はいろいろありますから、上記のようにするのが必要だというわけではまったくありません。実際、仮説づくりに慣れている人は、分野にもよるでしょうが、はじめから直観を働かせて、えいやー的に(?)仮の答えを出す人たちがいます。情報の少ない段階から、こういうことができる人に共通していえることは、問題の全体像を考えるからだと筆者は思います。全体像を捉えようとするからこそ、はじめは部分的な仮説であっても、新しい情報を加え分析を重ねていく過程で、仮説の精度を上げていくことができるようになるわけです。

仮に、あるデスティネーションの観光客が年々減少していたとします。ここで考えるべきことは2つあります。はじめに、何が問題なのかを考え、次に、その問題(仮説)を解決する方法を考えること。前者は問題発見、後者は問題解決、この2つをいずれも仮説で行うことです。

問題発見を仮説で行う際、問題はこれではないかというあたりをつけることから始めます。ここで気をつけなければいけないことは、網羅的にしようとしないことです。とにかくこれだと思える問題をざっくりと3つから、せいぜい5つくらいまでを挙げてみることです。たとえば、

競合するデスティネーションと比べてアクセスが不便なため客足が遠のくなどの問題がある(たとえば鉄道の運行が1~2時間に1本の上、最寄り駅から目的地まで徒歩で30分くらいはかかるなど)。

法人などの大口顧客を対象にした販売チャネルへの営業活動に問題がある(営業パーソンの営業活動にあてる時間が少ない、営業パーソンの数が少ない、営業パーソンが魅力的なモノやサービスの提示ができないなど)。

広告・販促は、予算配分が今も10年前も変わらず、マス媒体やラッピング電車などの交通系広告中心に行われている。

次に、問題と考えられる上述の3つ、アクセス、チャネル、プロモーションについての初期仮説を検証します。調べると、たとえば次のようなことがわかりました。

アクセスについては、競合デスティネーションと比べて、一見大差ないように見えていたが、競合はレンタサイクルは当然のこと、料金均一の小型タクシーや、乗り合いタクシーを積極的に投入するなどして、観光客に不便さを感じさせない移動交通/インフラの基盤を整備していた。

チャネルについては、競合と比較して営業パーソンの数は少ないようだが、チャネル別の売上では競合と比較してそうそん色があるわけでもなく、むしろ健闘しているようだ。問題は結局、法人ではなく個人客の取り込みにある。

広告・販促などのプロモーション全般については、多数ある顧客接点(カスタマータッチポイント)を活かしているとはいえず、場当たり的に打ち手を連発している状態。また、そもそもターゲット顧客に情報が届いているのか、見てもらっているのかどうかなども不明。観光サイトは一応あるものの、競合と比べて情報がわかりやすく整理できておらず、地域の魅力をうまく発信できているともいえない。潜在顧客の目で見れば、行ってみたいという動機づけになるようには到底思えない状況下にある。

これらの調査結果から、当面の問題をアクセスとプロモーションに絞ることにしました。なかでも、アクセスについては相応の費用がかかるだけでなく、実現可能性の面でも時間がかかることから、まずはプロモーションにおける問題解決を先行して行います。続きの問題解決の仮説づくりについては、ブログの長さの関係から、次回にまわしたいと思います。


11/09/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスx

今回は、マーケティングプランニングシステムの「2.状況確認/Situation Review」下にある「2.2 SWOT分析と課題特定」についてです。

SWOT分析は、ご存知のとおり、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)について分析を行ったものです。前者の2つが内部環境、後者2つが外部に関するもので、それぞれの頭文字が使われています。随分以前から、優れた戦略はこの4つの条件を考慮したものであるといわれてきました。

強みとは、自ら(企業、デスティネーションなど)の経済価値や競争優位を生み出すうえでの経営資源やケイパビリティのことをいいます。弱みとは、経済価値や競争優位創出を困難にするような経営資源やケイパビリティとなります。

機会とは、経済上のパフォーマンスや競争上のポジションを向上させるチャンスのことで、脅威とはその逆となりますので、機会を捉えながら、脅威を無力化させていくことが必要となります。

SWOT分析のフレームワークはシンプルで、誰にもわかりやすいものです。的確に分析をすすめれば、4つの要素を全て明確に示してくれるため、優れた戦略を考えだす契機となります。ただ、その4要素を特定していく際、そのやり方や基準については何も語ってくれません。

SWOT分析は、導き出した強み、弱み、機会、脅威について、それぞれどのようにすればよいのかという問いかけを、正しく行うために用いるべきです。たとえば、

強みを活かすためにはどうすればいいのか

弱みを克服するか、回避するためには、どうすればいいのか

機会をどうやって、捉えればいいのか

脅威を無力化することはできるのか、等々


続けて、「3. マーケティング戦略策定」にすすみたいと思いますが、このまま書き連ねていくと、また長くなってしまいますので、3.1 マーケティング仮説」以降は、次回に回すことにして、マーケティング戦略全般について、筆者がふだんから思っていることを少し述べて終わりにしたいと思います。

成功するマーケティング戦略とはどういったものでしょうか。差別化や価格といった何か1つに頼るのではなく、様々なものを1つに組み合わせて、独自性の高いものにしたものが成功につながるといえるでしょう。

競合より、いろいろなものを少しずつうまくできたとしても、それは必要かもしれませんが、十分とはいえません。

次のような文言は、成功を約束するものではありません。たとえば、絶えず顧客の期待を上回ること、絶え間ない商品/サービス改良に努めること、高成長市場にいち早く参入すること、サービスを磨き上げること、高品質を維持し続けること・・・。

常識を打ち破ってこそヒットが生まれるなどといわれることがあります。マーケティングには、いろいろなPがあります。Product、Price、Place、Promosionの所謂4P以外にも、Positioning、Package、Publicity、Permission(許可、承認)等々、これらの固定概念を打破すればいいのでしょうか。こういったPにそつなく対処できれば、少しは成功できるかもしれませんが、十分とは到底いえないでしょう。設定したゴール次第なところはありますが、情報があふれかえっている現在では、そもそも全体の中に埋もれてしまいます。

成功の鍵は、目立つこと。これがあまり上品な言い方でなければ、お客様に他者よりいち早く、よく知っていただくことだと筆者は思います。勿論、知ってもらうだけで即、成功につながるわけではありませんが、少なくとも検討の土俵に乗れる可能性がでてきます。加えていえば、常識破りなものであれば、メディアが取り上げてくれるでしょう。ただ、常識を打破することと、非常識な振舞いは当然、別個のものです(当たり前ですが)。

何を目立たさせるか。それは、まず全てのPを見直して、突出したものを見出すこと。ただ、それは独りよがりなものでなく、購入する人、デスティネーションへ来てくれる人の気持ちや立場になって考えることだと筆者は思います。自分のところのデスティネーションを儲けさせてくれる人を特定する。だからこそ、顧客を知ることが必要です。


11/01/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスix

ツーリズム産業にとって、マスメディアの影響力は依然として非常に大きいものがありますが、ウェブサイトの閲覧者数やSNSのフォロワー数なども、即時性、即効性があるという点で、重視すべきことは明白です。ですが、多くの地方自治体では、まだまだそういう状態にはなっておらず、観光客増大に向けた打ち手の面で、改善余地があるように思います。

デジタルマーケティングでは、「リード」という言葉が頻繁に使われます。見込み客のことを指しますが、何をもって見込み客(リード)とするかは、業種や企業によって異なるため、ここでは次のように定義します。

  • デスティネーションが、消費者と何らかの接点を有し、アプローチすることができる。
  • 消費者が、デスティネーションそのものを認知している(名前くらいは聞いたことがあるというレベルのものも含む)。

リードをマネジメントしていくという点において、デスティネーション内にあるリード情報を棚卸して、実数を把握することが重要であり、ここから取組みの第一歩が始まるといえるでしょう。ターゲットに設定しているセグメントの市場規模がどれくらいで、それに対して現在保有しているターゲットのリード数はどうなっているのか、その割合を把握します。

ターゲットに対するリードカバレッジ=保有ターゲットリード数÷市場ターゲットリード数×100


プログラム監査では、デスティネーションの方策に従って、リードに対する調査を行うべきです。たとえば、もし上記のKPIが低ければ、広告宣伝費をかけてリードをもっと増やすようにすべきですし、割合が高いようであれば、保有するリードとの関係を深めていく必要があります。マーケティング監査のプログラム監査では、そういったことがどのように行われているのかを調査することが望まれます。

もしターゲットのリード獲得単価があまりにも高いようであれば、リード獲得に関する施策や活動自体の内容は再考したほうがいいでしょう。

ターゲットリード獲得単価=マーケティング活動費÷ターゲットリード獲得数


保有するリードをいかに見込みの高いリードに変えていくか、見込みありと判断できるリードはどれくらいの数なのか、具体的にデスティネーションへ来てもらえそうな人は何人で、増えているのか変わらないのかといったことなどを把握しておくことは極めて重要です。

プロスペクトリード移行率=プロスペクトリード数÷保有リード数×100%

リード接触指数=リード接触回数÷保有リード数×100%


パーチェスファネル(purchase funnel)という考え方があります。消費者が購入するまでの過程が、逆ピラミッドになる、漏斗のように見えるため、パーチェスファネル(漏斗)と名付けられ、AIDMA(またはAIDA)モデルの発展形といわれています。

Attention: 注意

Interest: 興味

Desire: 欲求

Memory: 記憶

Action: 行動

ファネルの階層には幾つかの説があります。ただ、デジタルのマーケティングファネルを考える時は、こちらのほうがしっくりくるようにも思います。

Awareness: 認知

Consideration: 考慮

Conversion: 購入へ向けたアクション(問い合わせ等含む) 

Loyalty: ロイヤルティ(愛着や信頼)

Advocacy: 支持

ただ、一方でファネルの限界も指摘されています。筆者が在籍していたアクセンチュアでは、2014年くらいに、カスタマーエクスペリエンスには終わりがないとして、パーチェスの道のりはリニアからループへと変わり、カスタマージャーニー自体がダイナミックなものになってきていると語っていました。

道のりや階層をどのように捉えるのか、また、5段階である必要があるのかどうかといったことには、絶対的な正解があるわけではありませんので、デスティネーションにとって使いやすく実効性があるもの、関係者共通で理解を得やすいものにすべきでしょう。ただ、いずれの場合でも、認知興味関心比較検討行動/購入といったながれは、おさえておく必要があるのは間違いありません。


10/28/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスviii

マーケティングプログラムの監査で、収益性評価を外すわけにはいきません。マーケティングプログラムの正当性を検証するのは勿論のこと、マーケティングマネージャーの業績を正しく評価するためにも必要です。

対象はデスティネーション全体の収益性にするのか、顧客の収益性にするのか、特定プロダクトのプロモーションに限定するのか等々、決められた期間内で全てを対象にできれば理想的ですが、ツーリズム特有の地域におけるデータ収集の難しさや、ステークホルダー間の調整なども考えれば、プログラム監査で焦点をあてているところや、最も効果が得られそうなところなどから、まずは着手していくのが現実的でしょう。

投資収益率(ROI/Return on Investment)は、リターンを投資で除することで求められます。リターンは粗利益から投資を引いたもの、その粗利益は収入から売上原価を引くことで算出できます。マーケティングの費用対効果、所謂マーケティングROI(mROI)の算式は次のとおりです。

(粗利益-販売費-マーケティング費用)÷マーケティング費用×100

マーケティング投資とは、不確実な費用のことをいいます。販売を実現するための費用は投資には含まず、粗利益の算出で考慮されることになります。つまり販売がまったく実現されなかったとしても、費用をかけたのであれば、それは投資の範疇に属し、たとえば広告やダイレクトメールなどのマーケティング費用は、投資として扱うのが本来だといえます。

この観点からすれば、マーケティング予算を確保するのはやめにして、戦略的なマーケティング投資計画を策定するほうがよいということになります。個人に予算を割り当てたり、予算の整合性を確認したりするのではなく、プロジェクト毎に予算を配賦し、ROIなどで評価していく。多くのデータを集めるのではなく、仮説に基づき重要なデータを収集してインサイトを得るべきでしょう。

デスティネーションは、マーケティングプロモーションやキャンペーンに投資しますが、これらは需要を喚起させるために行われるのであり、それはとりもなおさず売上げを増大させるために行うといっていいでしょう。

ですが、多くのケースにおいて、プロモーションやキャンペーンの評価は、大きな話題になったかとか、派手にやったかというようなことが先行しがちで、売上げが多少上がっても、どちらかというとそれは二次的なものとしてしか捉えられない傾向があるのではないでしょうか。

また、仮にそのプロモーションなどで売上げが伸びなかった場合には、天気が良くなかったからだとか、プライシングが適切じゃなかったんだ、生産で何か問題があったんだなどと、自分たちには直接コントロールできないほかの何かの理由にすりかえられてしまうといったことが、稀に?あるように思います。

変化する市場において、また、マーケティングという右脳と左脳を組み合わせて思考すべき活動においては、慣習的な発想や行動からでは、新しいものは生まれにくく、また、現状を変えていくことも難しいのではないでしょうか。


10/21/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスvii

前回の地方創生/ツーリズムブログでは、プログラム監査におけるデスティネーション売上創出力の構成要素のひとつであるプロダクトミックスについて述べました。今回はふたつめの要素であるターゲット人数から始めます。

ここでいうターゲット人数とは、当該デスティネーションを認知していて、そこに行こうと思えば、およそいつでも行くことができる人のことを指し、これが売上げの源泉となります。どれだけうまくセグメンテーションをして、ターゲティングをしようとも、ターゲットの大半が当該デスティネーションのことを殆ど認知していなければ、何の意味もありません。ポジショニング以前の問題です。また、デスティネーションに対して誤ったイメージを持たれているようなことがあれば、これもまた深刻な問題で、こういった問題を抱えているデスティネーションが意外と少なくないのではないでしょうか。

ターゲット人数を把握するためには、ターゲットに対するコミュニケーションと流通チャネルが必要です。なお、ここでのコミュニケーションは、主に広告宣伝を指します。

ターゲットについては、

  • ターゲットのプロフィールは明確か
  • その明確なターゲットが実際に来ているのか(または購入しているのか)

コミュニケーションについては、

  • コミュニケーションターゲットが明確になっているか
  • ターゲットにメッセージは届いているか
  • コミュニケーションはプロダクトの要点を伝えているか

といったことを精査していきます。コミュニケーションで気をつけなければいけないことは、ターゲット人数のところで述べたターゲットと、コミュニケーションをとる相手が異なる場合があるということです。たとえば、ミドルエイジの人にコミュニケーションし、その人の親がデスティネーションを訪れたり、コミュニティで影響力を持つ人に対してデスティネーションのことを伝え、実際に訪問する人はほかのひとであったりすることが珍しくないからです。

流通チャネルについては、

  • (初期的段階では)ネット上で自らの観光サイトを開設しているか 
  • サイト上でOTA(Online Travel Agent)の商品を案内しているか

  • ターゲットの検討/購買行動を反映したチャネルになっているか(ネットよりもリアル店舗重視であれば、その販売網がどうなっているかなど)

といったことなどが挙げられます。これ以外にも、リアルの旅行代理店での販売などターゲット層にとっての利便性を確認したり、そもそもターゲット層が居住するエリアでその販売ができているかといったことなども調査の対象に入れるべきでしょう。

顧客化率は、プロダクトの購入見込みがある人と実際に購入した人の和を顧客として、ターゲット人数に対するその顧客の割合とします。

  • 考えられるタッチポイントは全て活かしているか
  • シーズン毎、またはモチベーション毎などに、プロモーションは行っているか
  • 訪問意向者の何%が実際に来ているのか(もしくは購入しているのか)

  • 1回の購入金額を上げることはできるか
  • 1回の購入点数を増やすことはできるか 

  • 再訪(または再購入)につながるアクションを理解しているか
  • 顧客化率の推移(特に、思うように伸びない場合など)の理由は、理解しているか

マーケティングの監査ですから、主に広告宣伝によって作り出された売上げの源泉となるターゲット人数に対して、実際それをどこまで刈り取れるかを示す指標が顧客化率ということになり、その成否はまさに販売促進の中身次第といえます。

10/14/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスvi

今回はマーケティング監査におけるプログラムの監査についてです。ここでいうマーケティングプログラムとは、マーケティングを実践するためのタスクのまとまりとします。

デスティネーション全体、またはデスティネーションの中核プロダクトやアトラクションなど、対象によってプログラム監査の中身は少し変わってくることになります。ですが、何を対象にしてもマーケティングミックスのプロダクト、プライス、プレイス、プロモーションの4つがプログラム監査の中心です。

デスティネーションごとにゴールと戦略は異なりますが、デスティネーション全体の観光消費額や観光生産額(デスティネーションプランニング ③プロセスii)などは軽視できるはずもないため、まずはこれを評価することが必要でしょう。その後それに係るマーケティングプログラムの内容が的確に実践されているかどうかを精査していきます。なお、前段の「1.2 パフォーマンスサマリー(参考: マーケティングプランニング ②プロセスi)」で、観光消費額や生産額について、検討・評価を終えていたら、プログラムの実効性検証へと進みます。

この観光消費額、大きくするには観光入込客数を増やすか、一人当たりの観光消費を増やすかのいずれか、もしくはその両方というのは明らかです。ただ、それをどうやって行うのか、具体的なマーケティングプログラムにどう落し込むのか、毎月または毎四半期などでその進捗をどのように見ていくのかとなると、デスティネーションによってやり方はまちまちでしょうし、殆ど手つかずの状態にあるところも少なくないのではと思われます。

ここではこの観光消費額から一度離れて、デスティネーションの売上創出力について少し考えてみたいと思います。売上げを創り出すときには何を考えるでしょうか。売上げの元となる様々なプロダクトを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。それから、市場規模やシェアを考える方もいらっしゃるはずです。また、プロダクトを実際に購入してもらえるかどうかということも、検討項目でしょう。

最初の様々なプロダクトの組み合わせをプロダクトミックスと呼び、そのプロダクトミックスの平均単価が算定できるものとします。次に、規模やシェアについては、ターゲット人数を元に考えます。最後のプロダクト購入の可能性については、顧客化率で捉えることにします。これら3つの要素を売上創出力を構成する変数と位置付けます。算式は、

売上創出力=プロダクトミックスの平均単価×ターゲット到達人数×顧客化率

プロダクトミックスとは、デスティネーションを取り巻く環境に合わせて、提供(または訴求)するプロダクトの組み合わせを変更し、収益の最大化を実現できるようにする考え方です。監査のポイントは、

  • プロダクトのコンセプトは明確か
  • USPはあるか、それは何か
  • 来訪者の視点や立場で考えられているか、ベネフィットはハッキリしているか
  • 価格は妥当なものか、プロダクトコンセプトに沿ったものか

  • 競合デスティネーションのコストパフォーマンスは高いか 

といったことを精査します。なお価格については、ブランドイメージと関係するため注意が必要です。他所が高く(または安く)設定しているからといって、こちらも高く(または安く)というのはNGです。

長くなりそうなため、ターゲット人数以降は、次回にまわしたいと思います。


10/05/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスv

前回のツーリズムブログは、3つの内部資源のうち、有形資産について述べました。今回は、2つめの内部資源である無形資産から始めます。

無形資産は、ブランドネーム、デスティネーションの評判(デスティネーションであれば神話もここに含まれます)、特許や商標などが挙げられます。ほかにも、デスティネーションで蓄積された経験なども該当します。これらの資産は、多くの場合、競争優位に大きな影響を与えます。優位に重要な要素ですから、逆に、競争劣位にもつながる可能性があると理解しておくべきです。無形資産は活用すればするほど(または活用されればされるほど)、資産が成長(または衰退)していくことに特徴があります。

多くのデスティネーションが、新しい施設やアトラクションなどの観光投資には時間とお金を使うにも関わらず、その地にしかないエピソードやストーリーづくりなどに、何故もっと注力しないのでしょうか。多数あるデスティネーションの中から、そのデスティネーションを選択してもらうためには、もっと無形資産の創造に力を注ぐべきでしょう。USP(Unique Selling Proposition/ユニーク・セリング・プロポジション)、自社の商品やサービスが持つ独自の強みや価値提案をもっと磨き上げる必要があります。

そのデスティネーションはUSPを持っているか。

(Yesの場合)より強固なものにするためには、何をすべきか。

(Noの場合)あなたはそのデスティネーションから何を思い描けるのか。

マーケティングにおいて、設定したターゲットに対して、的確なUSPを、適切な場所と時間で使うことほど、強力な武器はないといえます。

3つめの内部資源である組織のケイパビリティは、有形無形の資産とは根本的に異なるものです。この2つの資産は、アウトプット創出のために投入される要素です。組織のケイパビリティは、インプットそのものではなく、インプットをアウトプットに変換するために用いられるもので、プロセス、アセット、人材などの単体、もしくは組み合わせのことを指します。強固な組織ケイパビリティを有するためには、単体ではなく、組み合わせることが必要で、その組み合わせが複雑で且つ高度なものであれば、ほかのところが模倣することは非常に難しくなります。

競合するデスティネーションと大差ない投入要素であったとしても、当該デスティネーションの優れたケイパビリティによって、素晴らしいアウトプットを生み出したり、効率的なプロセスを実現したり、高い生産性を上げたりすることができます。デスティネーションで提供されるプロダクト/サービスが、優れた顧客応対や高い品質が絶えず保証されていたならば、再訪問につなげる確率が高まるといえるでしょう。ツーリズムのような成熟した産業における機会は、一般的には現行プロダクトの改良と、サービス品質の向上が、有力な手立てであることに留意すべきです。


10/02/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスiv

業界の競争構造を変えるにはどうすればいいのでしょうか。前々回(マーケティングプランニング プロセスii)でも少し触れましたが、市場を細分化して業界を再定義することが有力なやり方のひとつです。

市場細分化の切り口は、市場ニーズの違いを捉えて行います。よくある年齢を5才や10才単位くらいで分けたところで、あまり意味はありません。費者/観光客個々のニーズに合わせたプロダクトを、適切な価格とプロモーションで、流通チャネルをとおして供給することにより消費者を反応させ、当該デスティネーションに来てもらおうとする考え方がセグメンテーションです。

デスティネーションのマーケティングマネージャーに、あなたの顧客は誰ですかと尋ねたら、来る人全員などと答える人はまずいないでしょうが、およそたとえば20代から50代の女性をターゲットにしているとか、30~40代のファミリー層などという答えが返ってくることが多いのではないでしょうか。まったくダメとはいえないでしょうが、できる限り市場セグメントを絞り込み、ターゲット顧客のプロフィールをはっきりさせて、セグメントの優先順位付けを行うことが重要です。

デモグラフィックス(人口統計)に基づくセグメンテーションがまったく意味をなさないというわけではありませんが、各セグメントを構成する個々人のニーズや嗜好、価値観などが多種多様であることは、デスティネーションで働く誰の目にも明らかなはずです。それ故、セグメント構成者のニーズやベネフィットを軸に分類し、それらと相関関係にあると思われるデモグラフィック変数を特定していくべきです。

競争ポジションの変更は、上述の競争構造を変えた段階で、自ずと変わってくるはずです。また、ほかのデスティネーションと戦略的なアライアンスを組んで、ポジションを変えていくということも可能だろうと思います。

内部資源については、内部資源そのものを変えること、もしくは内部資源を強化することが、おそらく最も有効な戦略になるといえるでしょう。内部資源は、有形資産、無形資産、組織のケイパビリティの3つに区分できます。

有形資産には、不動産、原材料、生産・販売などの施設等が含まれます。有形資産は価値を評価しやすく戦略策定には重要なものですが、一方で差別化が難しいという特徴があります。ツーリズムデスティネーションの場合でも、誰もが知り、一度は必ず行ってみたいと思わせるような圧倒的な歴史・文化遺産を有するところは、そう多くはないでしょう。ましてや、一度訪れたらそれで満足、再訪したいと旅行者に思わせるようにするのは容易ではありません。よほどそこに、何らかの価値を付加する必要があります。

長くなりそうなため、無形資産以降は次回とさせていただきます。


9/24/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスiii

ストラテジー監査の2つめの項目、競争ポジションにはフィリップコトラーのマーケットポジション分析を使います。コトラーは競合先を、市場における役割で分類し、その基準はマーケットシェアとしています。デスティネーションでは、マーケットシェアを正確に把握するのは難しいようにも思いますが、たとえイメージ中心で行うことになったとしても、およそだいたいのところで、マーケットリーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーと分けることはできるのではないでしょうか。

メーカーであろうと、デスティネーションであろうと、マーケットポジションの定石は変わらないと筆者は思います。つまり、マーケットリーダーであれば、周辺需要を拡大したり、価格勝負は行わないとか、他所との同質化をはかるといったことは可能であり、また有効でもありますが、チャレンジャーであればそうはいきません。

チャレンジャーは、リーダーとの目に見えるはっきりした差別化をはかることが必要であり、できる限り模倣されない強固な仕組みを作り上げることが重要です。ところが、多くのデスティネーションがやっていることは、何処も似たようなもの、同じようなことをやっているように筆者には映ります。ましてやニッチャーであれば、リーダーやチャレンジャーがやらないことに、積極的に取り組まなければなりません。たとえば、後期高齢者を対象にしたパッケージツアーを大手旅行代理店1社と組んで、添乗員は勿論のこと、数名の介護スタッフによる完全サポートの下、微に入り細に穿つホスピタリティサービスを提供するといったことなどは半ばあって当然のことのように思います。ただ、そういった徹底した差別化につながるものが実際のところどれくらいあるのか・・・。マーケットポジションに従い、何をやっているかを調査していきます。

内部資源については、希少性と模倣困難性をVRIO(ブリオ)を用いて検討します。バーニーの資源ベース(リソースベースドビュー/RBV)の戦略論は、ポーターの業界競争構造に重きを置く戦略論としばしば対比されてきました。VRIOは次の4つで構成されています。

V(Value)/経済価値: その資源で機会を取り込むことができるか。

R(Rare)/希少性: 資源を保有、活用しているところは少ないか。

I(Imitability)/模倣困難性: 資源を獲得するには大きなコスト負担が必要か。

O(Organization)/組織: 資源を有効活用する仕組みやルールは存在するか。

資源には、ブランド力をはじめ、R&Dや製品開発といった組織能力が含まれます。ほかにも、ロジスティックスや販売、更には顧客維持やコミュニケーションといったものも該当します。但し、マーケティング監査ですので、ブランド、商品/サービス開発(商品/サービス自体も含む)、商品と情報の流通、広告PRを中心としたコミュニケーション、販売、あとマーケティング活動全体を束ねるマネジメントといったものを対象にすればよいでしょう。また、これらすべてを対象に調査するには、かなりの時間がかかるでしょうから、マーケットポジションなどからみて重要と判断できるところに絞って行うべきでしょう。

マーケティング監査におけるストラテジーの監査で重要なことは、マーケティング活動において最も注力すべき領域を明確にすることです。3つの柱である業界の競争構造、競争ポジション、内部資源のいずれか、或いは全てを変更することで、デスティネーションの競争優位を発揮させることは可能になります。続きは次回にまわしたいと思います。


9/18/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスii

前回の続きで、今回はマーケティングプランニングシステムの「2. 状況確認/Situation Review」についてです。(2. 状況確認/Situation Reviewは、「2.1 マーケティング監査」と「2.2 SWOT分析と課題特定」で構成しています)

2.1のマーケティング監査では、デスティネーションのパフォーマンスに影響を与えるものを広く体系的に検討します。定期的に行うことの重要性を考え、「監査」という言葉を用いました。日本ではあまり見かけないかもしれませんが、欧米ではふつうに使われている用語です。フィリップコトラーは、大著マーケティングマネジメントの中で、次のように述べています。

マーケティング監査とは、問題のある分野と事業機会を特定し、起業のマーケティングパフォーマンスを改善するための活動計画を推奨する目的で、企業または事業単位のマーケティング環境、目的、戦略及び活動に対して包括的、系統的、独立的、定期的な調査を行うことであるとしています。

コトラーは監査のような徹底した調査の実施を奨励し、行う際には、監査の鉄則として、当該組織のマネージャーから聞きとりを行うだけでなく、顧客と取引先など外部の意見も必ず求めるべきとしています。

ツーリズムはステークホルダーの多さに加え、小規模事業者が多いことから、マーケティング監査を行う意味合いが大きいといえるでしょう。というのも、ツーリズム産業に限らず、産業共通で散見されることに、相対的にいって、事業規模が小さい企業/事業体ほど目的や目標の設定が曖昧だったり、パフォーマンスを評価し改良するためのやり方や手順がはっきりしていません。そればかりか、見直しを行うことさえない場合もあるなど、いつまでたっても同じ誤った(もしくはどうやっても効果など出しようもない)やり方を続けていることがあるためです(ただ、大企業でも、適切な仕組みを持たない企業を筆者は何度も見てきましたが・・・)。

マーケティング監査は2つの柱で構成するのがわかりやすいと思います。ひとつめの柱は今、実践していることが効果・効率よく行われているかを検証します。他方は、そもそも当該デスティネーションの競争環境や業界構造がどうなっているか、内部資源の状況たとえば模倣困難性などを検証します。このブログでは、前者をプログラム監査、後者をストラテジー監査と呼ぶことにします。どちらの監査から始めるのがよいか、正解はありませんが、ふつうはストラテジー監査から行うのが一般的でしょう。

ストラテジー監査は、3つの項目で構成します。第一に業界の競争構造、第二に業界における自身(当該デスティネーション)の競争ポジション、第三に自身の内部資源の希少性と模倣困難性です。

業界の競争構造は、マイケルポーターのファイブフォース(5F)に、PESTを併用して現況を把握します。ただ、業界の捉え方には少し工夫が必要でしょう。デスティネーションを基点に、ツーリズム/観光業界とするのでも構いませんが、かなり幅広い対象となり、工夫を凝らさなければ焦点がぼやけてしまう可能性があります。そのため5F分析をした後に、それで何なの?とか、そんなことわかりきっているじゃないかとなりかねません。そこで、市場を細分化して、該当する業界をより詳細に定義できれば、競争要因の状況や要件などが絞り込めるでしょう。たとえば、欧米からの観光客とか、国内の遠方から列車で訪れる(首都圏から近畿圏に来るような)高齢の観光客、宿泊をする観光客、神社寺院仏閣を見に来る観光客など、いろいろ考えられると思います。(但し、この場合は「業界」の競争構造という言葉は変更したほうがしっくりくるかもしれません)

業界における競争ポジションは、おそらくコトラーのマーケットポジション分析の枠組みを参考にするのが良いと思います。内部資源については、ジェイバーニーのVRIO(ブリオ)を活用します。続きは、次回とさせていただきます。


9/08/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスi

ツーリズム産業にはステークホルダーが多く、業種や職種も多岐にわたります。そのため、マーケティングプランを策定する際は、できるかぎりよく知られている手法を用いて、全体構成をわかりやすいものにすることが重要です。さもなくば、ステークホルダーのエンゲージメントを上げていくことは難しいでしょう。

また、策定プロセスをひとつのシステムとして捉え、繰り返し活用できる(アセットとして活用できる)ものにすべきで、ステークホルダーの誰もが策定に参画(またはレビュー)できるようにしておくことも必要だと思います。

ツーリズムにおけるマーケティングとは何か。デスティネーションと消費者(観光客ほか)双方の目的を達成するために、デスティネーションが提供するモノやコトと、消費者のウォンツをマッチングする機能だといえるでしょう。マーケティングのプランニング全体のながれ(マーケティングプランニングシステム)は、以下のようになります。

1. ゴールセッティング

1.1 ミッションステートメント

1.2  パフォーマンスサマリー

2. 状況確認/Situation Review

2.1 マーケティング監査

2.2 SWOT分析と課題特定

3. マーケティング戦略策定

3.1 マーケティング仮説

3.2 マーケティングの目的と戦略

4. リソース配分とモニタリング

1のゴールセッティングが、プランニングプロセスで最も難しいものかもしれません。言うまでもなく、マーケティング戦略は一貫していなければなりません。ぶれないようにするためには、何よりプランニングの最初のステップで、デスティネーションのゴールをしっかり定めておくことです。そのためには、次のような問いに答えられる必要があるでしょう。たとえば、

  • 我々(デスティネーション)は何者か。
  • 我々が、他のデスティネーションより優れている点は何か。
  • 我々が目指す方向は何処か。

このような問いは、ミッションステートメントを作ることの助けになるはずです。もしミッションという言葉がしっくりこないようであれば、パーパスステートメントと呼び変えてもよいでしょう。ミッションとは、通常、事業者(ここではデスティネーション)の存在目的と事業を表現しているもののことを指します。前者の存在目的はやや抽象的なもの、後者の事業は具体的な部分となり、この2つが合わさったものが、ミッションステートメントになります。少し余談になりますが、日本企業の場合、存在目的を経営理念(もしくは企業理念)、事業をドメイン(事業領域)として、別々に表すことが珍しくありません。

具体的には、次のようなものを1ページ程度に記載しておくことがよいだろうと筆者は思います。

  • マーケティングの役割または貢献(以下のいずれかについて具体的に記載)

売上げ/利益、もしくは提供サービス、或いは機会探索 

  • マーケティング活動の定義(同上)

活動がもたらすベネフィット、もしくは、

活動をとおしてデスティネーションが獲得できるもの

  • 傑出したコンピタンス(具体的に記載)

成功に必要なスキルやケイパビリティ(競合を凌いでいると考えられるもの。もし競合を上回るものがなければ、それは傑出した強みということにはなりません)

  • 将来への示唆(同上)

マーケティングがすること

マーケティングがするかもしれないこと

マーケティングが決してしないこと

ところで、しばしば混同されるものに、ビジョンとバリューがあります。ビジョンとは事業者の願望を表現しているもののことをいい、バリューはその事業者の価値観を表しているものになります。

Hawaii Tourism Authority(ハワイ州観光局)は、ミッションを次のように述べています。

Our mission is to strategically manage Hawai‘i tourism in a sustainable manner consistent with economic goals, cultural values, preservation of natural resources, community desires and visitor industry needs. (出所: https://www.hawaiitourismauthority.org/who-we-are/)

We aim to manage tourism in a way that helps improve the quality of life for residents and communities across the state. Our marketing now includes teaching visitors to be responsible, with the goal of sustainable tourism.

HTA supports the United Nations 17 Sustainable Development Goals (SDGs), and the UN 2030 Agenda for Sustainable Development. HTA is promoting the visitor industry in alignment with the Aloha+ Challenge.

Our measures of success are: visitor satisfaction, resident sentiment, per person per day spend, and total visitor expenditures.

マーケティングマネージャーは、消費者がデスティネーションの4P特にフィジカルプロダクトからどのような体験や経験をしてもらいたいのかを考え、評価の視点(KGI,KPI)を決める必要があります。ゴールなきところに戦略は存在せず、ましてや戦術などあるはずもないからです。プランニングは、具体的なゴール達成に向けたものでなければなりません。


9/01/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ①プリンシプル

デスティネーションにおけるマーケティング活動の重要性は、どれだけ強調しても足りないくらいでしょう。ツーリズムにおけるマーケティングのプリンシプル(原理・原則)には、以下のようなものが挙げられます。

A. デスティネーションの成否は、顧客のニーズとウォンツに基づく。

B. デスティネーションにはライフサイクルがあり、6つのステージで構成される。

C. デスティネーションが大きな成功をおさめるには、マスマーケットを狙うのではなく、市場を細分化し、具体的なターゲット層を設定する。

D. デスティネーションのマーケティングミックスは、古典的な4P(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション)だけでは十分とはいえず、他の要素を加えたものを適用する。

Aについて、異論を唱える人はいないでしょう。ニーズ(必要性)は目的、ウォンツ(欲求)は目的達成の手段、たとえば前者は喉が渇いたので潤したい、後者はミネラルウォーターを飲みたいとなり、ウォンツに実際に支払える購買力が伴うと、デマンド(需要)になります。

ここで注意しなければいけないことは、顧客とは誰にとっての顧客かということです。顧客には、一般のレジャー客もいれば、ビジネス客もいます。ビジネス客であれば、個人だけでなく、法人や行政機関などの団体客も存在します。ほかにも、地域住民も顧客になりうるでしょう。

Bついては、プロダクトライフサイクル(導入、成長、成熟、衰退)のような知名度、浸透度はありませんがツーリズムのライフサイクルとして、1980年にR.W.バトラーが、デスティネーションの成長を6つのステージで表したものがあります。

1. 探検/Exploration

2. 参加/Involvement

3. 発展/Development

4. 完成/Consolidation

5. 停滞/Stagnation

6. 衰退/Decline、または再生/Rejuvenation

Cについては、ポジショニング理論を含めて、別枠で述べることにしたいと思います。

Dは、先述のツーリズム4P(ツーリズム (2)プロダクトとしてのデスティネーション ①4つのP)で、フィジカルプロダクト、プログラム、パッケージ、ピープルについて述べました。ほかにも、サービスマーケティングの観点であれば、8つのPというものがあります。

Product elements/サービスプロダクト

Place and time/場所と時間

Price and other user outleys/価格とその他のコスト

Promotion and education/プロモーションと教育

Process/サービスプロセス

Physical environment/物理的環境

People/人

Productivity and quality/生産性とサービス品質

ラブロックとウィルツは、サービスマーケティングの8Pを、8人の選手がオールを漕ぐシェルボートのレースに例え、統合による相乗効果がなければ、サービスの競争には勝てないと述べています。このサービスマーケティングの8Pをはじめ、サービスマーケティング&マネジメントについては、いずれ詳細にとりあげていきます。次回からは、マーケティングのプランニングについて述べていきたいと思います。


8/26/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスvii

現在、気候変動に関するフレームワークと評価は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース、Task Force on Climate-related Financial Disclosures)が、事実上の標準になるようです。(参考: 脱炭素経営の取組み (2)Scope2⑦サーキュラーエコノミー EUの動きと対策)

TCFDは、不確実な将来においても持続可能な経営を企業が行っていくことを主眼とし、その気候変動に関する提言で、シナリオ分析の検討ステップを紹介しています。(TCFD Knowledge Hub)

環境省の「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ」が、上記について国内事例を交えて解説しています。気候変動緩和策・適応策として、機会は5つ(資源の効率性、エネルギー源、製品/サービス、市場、レジリエンス)に分類。リスクは2つで、移行(政策・法規制、技術、市場、評判)と物理的(急性、慢性)に区分されています。その物理的リスクは、急性を洪水のようなもの、慢性を気象パターンの変化のようなものと定義しています。

これらのうち、ツーリズムでは、たとえば次のようなものが、すぐに挙げられるでしょう。

  • 政策・法規制
    • 中長期のリスクとして炭素税導入による原材料費の高騰

    • 短中期として規制強化による費用の増加

    • これらなどから、増大するコストのサービス価格への転嫁により、観光客への負担が膨らみ、需要減退につながる可能性あり

  • 市場・評判(デスティネーションにおける気候変動への取組みが不十分と捉えられた場合、イメージの低下を招き、結果として)

    • 消費者行動の変化により観光客数が減少し、市場自体が縮小

    • 金融機関や投資家からの資金調達の難易度が上昇

    • 働く人材の流出や、確保自体が困難になる可能性あり

更には、オーバーツーリズムの概念が大きくなり、観光自体が自然環境を破壊する行為としてみなされ、リアルの観光需要が減退し、オンライン上での観光が活発になる可能性もないとは言い切れないように思われます。

一方で、サステナブルツーリズムに限らず、ツーリズムそのものにサステナビリティの考え方を積極的に取り入れ、サステナビリティ経営ならぬサステナビリティツーリズムとして、全ての活動や概念などを見直すことで、リスクを機会に変えてしまうことが可能とも考えられます。

たとえば、気候変動への対応をしっかり行っているデスティネーションを特定の消費者が選好するのは明らかです。気候変動対応が充実した施設や商品などを増やしていく、気候変動リスクに関する情報開示をより積極的に行い投資判断基準を予めちゃんと上回っておくなど、いろいろ考えられるはずです。

ただ、ここで重要なことは、どれだけ良いことをしているのかというよりは、何故それを自身のデスティネーションで行っているのか(他所ではやっていないことを何故ここではやっているのか)を明確にして、わかりやすいメッセージを、様々なチャネルをとおして、発信し続けることです。

この場合、長期的な視点で考えることはいうまでもなく、まさに長期プラン策定の時こそ、積極的に取り組んでいくべきでしょう。

  • ゴールは何か

  • 設定したゴールに向かっているのか

  • 施策はアライメントされているか

  • 実現する能力と仕組みは整備されているか
  • そのゴールに基づいた市場はスケールのあるものか、それはいつ頃に出現しそうなのか

世界規模でのエシカルな消費が台頭してきている今を好機と捉え、デスティネーションが夢を描き、実現させていくべき機会にできるといえるのではないでしょうか。


8/18/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスvi

ツーリズムの長期プランニングプロセス3タイプのうち、今回は「3.シナリオ・プランニング」についてです。

今日のような不確実性の高い時代には、ゼロベースでものごとを考えて意思決定することが重要です。従前の考え方や行動様式などに捉われていたり、ましてや長期プランニングがバイアスの働きやすい環境下で行われるのであれば、シナリオプランニング(SP)は大いに役立つことでしょう。

シナリオを考える時、何をはじめにすべきでしょうか。筆者は、タイムラインバウンダリーステークホルダーを決めることが、シナリオをコンパクトに考えられることになると思います。

タイムラインは、業界によってまちまち、たとえば消費財関連でも、保守的傾向の強い食品産業の幾つかの業界であれば、10年先を見通せるかもしれませんが、IT関連の業界であれば2年先さえ難しいように思います。ツーリズムの場合であれば、コロナという特殊要因はありましたが、通常はおそらく5年先くらいなら大丈夫なのではと思えますし、10年先でもよいのかもしれません。また、その間をとって7年先というのもありではないでしょうか。

ただ、今日、ツーリズムに限らず、全ての業界に共通する要素に、気候変動への対処があります。脱炭素でいえば、2050年にネットゼロ、2030年にほぼ半減させることを日本は国際社会に対して宣言しているわけですから、たとえば今から7年後の2030年にツーリズムがどうなっているのか、当該デスティネーションはそれに向かって何をすべきか、他所との差別化のポイントは、などといったことはホットなトピックでしょう。

バウンダリーとはシナリオの境界線(バウンダリー)のことです。自身のデスティネーションを、地域、商品/サービス、技術、市場、そして競合するデスティネーションなどを考慮して、境界線を何処に引くかを決めます。何にフォーカスするかによって、何処に引くかが変わってきます。たとえば、気候変動に関するものであれば、ほぼ全てのものが影響を受けますし、デスティネーションで提供する国内向けの商品に限定するのであれば、バウンダリーは技術と市場などに絞られることになります。

ステークホルダーは、先に設定したタイムラインとバウンダリーに沿って、考慮すべき関係者を見極めます(参照: プロダクトとしてのデスティネーション③ステークホルダーマネジメント)。ここで重要なことは、ステークホルダーの役割や利害、パワーバランスなどが、時間の経過と共にどう変わっていくかを考察することです。シナリオ分析は未来のことを考えるものですから、その未来の姿を形成するのがどういったステークホルダーなのかを特定していく必要があります。

タイムライン、バウンダリー、ステークホルダーの範囲を決める時、次のような問いかけが役立つでしょう。

  • 競合するデスティネーションは、自らが抱える問題を検討する際、どういった枠組みを使っているのだろうか

  • 過去(たとえば10年前)から今日に至るまで、どのような変化が起こったのだろうか。それは予測できたものだったのか。その変化にどれくらいうまく対処できたのだろうか
  • 我々が考える商品/サービスや技術を用いたデスティネーションは現れるだろうか。それによって、観光客の行動は変わるだろうか。変わるとすればどれくらい変わるのだろうか。

範囲が決まれば、次は、シナリオの元になる情報を集めます。以下のような問いかけは、シナリオを考えていくうえで効果があります。

  • 過去を振り返り、現在わかっていることのうち、過去の時点で知ることができていたならと思うことがあるとすれば、それは何だったのか
  • その過去の時点で何を問いかけるべきだったのか。ツーリズムの変化や不確実性の主だった源泉は何だったのか。
  • 現在のデスティネーション戦略を評価する時、どういった情報があれば、未来に向けた選択肢を作ることができるのか

シナリオ分析を行う際、専門家やツーリズムに対して造詣の深い人たちにインタビューを行い、情報を集め、資料を作っていくことは珍しくありません。この場合、デスティネーション関係者の幹部職員もその対象に入れるべきです。但し、トピックが拡散しすぎてまとまりがつかなくなる可能性がありますので、それを回避するために、インタビュー対象者は将来を考察するうえで鍵を握る人に特定して行うべきです。また、競合するデスティネーション、重要なカスタマーやサプライヤーに対してもインタビューを行ったほうがよく、同様にキーパーソンは慎重に選定すること。そして、変化を生み出す外部の主だった力に関する情報を整理していきます。

変化を生み出す外部の力が、ある方向に向かう可能性はどれくらいあるのか。予想できるところは方向性として扱い、できない場合は不確実性となります。ある先が、方向性なのか不確実性なのかが分かりにくい時は、設定したタイムラインのなかでその力のエビデンスの有用性を考えそれが方向性であることにステークホルダーから同意が得られたら、方向性として捉えてよいのだろうと思いますし、そうでなければ不確実性となります。続きは次回へまわしたいと思います。



8/09/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスv

前回は、ストラテジックプランニング&マネジメント(SPM)における「2.5 戦略の選択」の「2.5.1 重点課題と論点の再確認」について述べました。

「2.5.2 意思決定要素の設定と共有(合意)」では、戦略オプションの賛成派と反対派から挙がった各論点の意味合いに基づいて意思決定の項目価値判断の基準不確実な要因を抜き出します。抽出作業は手間がかかりますが、時間をかけて論理的に、技術的に、時にはアーティスティックに行えば、必ずまとまりのついたちゃんとしたものになるはずです。仮に、論点が嚙み合わないようなことが、ここまでの段階である場合は、この2.5.2で一気に、まとめにかかったほうが、はるかに効率的で、建設的だろうと思います。不毛とも思える議論を延々とやっているよりも、ずっと生産的ですし、物事が前進していきます。つまり、対象を構造化して、全体像を見えるようにしていくことになるわけで、担当者の本当の力量が問われることになります。

ここで気をつけなければいけないことは、上述の意志決定項目、価値判断基準、不確実要因などに沿って論点を整理をする時は、これらの要素を階層化しておくこと、これが重要です。

ここでの階層化とは、戦略レベル、オペレーションレベル、タスクレベルなどにするという意味です。戦略レベルまたはその上位概念であるポリシーレベルで、検討の方向性が決まっていなかったとすれば、下位のレベルであれこれ議論しても仕方がありません。

たとえば、交通インフラの整備に係る費用がどれくらいかわからないにも関わらず、財源確保の方法や、発注方法を検討したり、ましてや外部専門家への協力依頼に要する費用などを決定したりすることはまったく意味がありません。財源確保や発注方法などは、下位のものとして位置付けるべきです。

上位が決まってこそ、下位を決めていくことができます。当たり前のことですが、意外と見落とされがち(?)なため、注意が必要です。また、上位でビジョンステートメントなどに抵触して検討対象外になったものがある場合は、その下位において、ひとつの事項をあれこれ議論することはありえません。議論がグシャグシャにならないようにすることが必要です。

「2.5.3 オプションの比較・評価」のやり方、意思決定アプローチの仕方には幾つかのタイプがあります。一つひとつを挙げてここで論じることは、本ブログの主旨を超えていくことになりますので今回は見送り、注意すべき点に触れて、終わりにしたいと思います。

比較・評価では、戦略オプションの内的整合性を検討することが極めて重要です。その際、当該オプションが既存または現行のものと大きく異なる場合は、不足する資産の獲得の仕方とその計画が必要になります。

決して忘れてならないことは、これまでと異なる結果を目指してオプションを考案してきたわけですから、当然のことながら、これまでとは異なる見方や考え方をもって判断をしなければいけないということです。

度々述べていることですが、従前と同じやり方や発想で、異なる成果を得られることはありません。特に、心理的なトラップ、思考の罠については必ずといってよいほど、判断の過程に潜んでいます。罠を完全に取り除くことは残念ながらできないように思いますが、罠の存在を認識し、回避するために注意を払うことで、賢明な選択への一歩につながることになると言い切れます。(思考の罠i罠ii罠iii罠iv罠v罠vi)


8/07/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスiv

今回は、ストラテジックプランニング&マネジメント(SPM)の「2.5 戦略の選択」についてです。(SPM全体のながれは、こちらを参照してください。)

選択について、日本企業は決められない病に陥っているとしばしばいわれています。これについては、いろいろな書物でその原因や対策が書かれていますが、清水勝彦氏は、意思決定に関係する症状を決められない以外に、決めすぎ、決めたはず、決めっ放し、決めすぎ、があると述べています。それぞれに対する解決策の方針をやや強引かもわかりませんが括ってしまうと、危機感を共有する、考えて準備する、コミュニケーションをしっかり行う、結果を測定するといったものになります。

複数のよくできた戦略オプションから最良、最適なものを選択し、建設的な合意を得ることは簡単なものではありませんが、敢えてハイレベルでそのながれを記載すると、以下のようなものになるでしょう。

2.5.1 重点課題と論点の再確認

2.5.2 意思決定要素の設定と共有(合意)

2.5.3. オプションの比較・評価

「2.5.1 重点課題と論点の再確認」では、全体像を把握し、デスティネーションとしてこれから進むべき方向のベクトルを合わせることが、このタスクですべきことです。「2.3 戦略オプションの創出」でビジョンステートメントなどを作成していれば、2.5.1の重要なインプットになります。ここでは、WhatとWhyを明確にして、成功の定義をあらためて明らかにしておくこと(正確に言えば、明らかにしておいたものをここで再確認すること)が必要です。

ここで気をつけなければいけないことは、ステークホルダーによって、また同一ステークホルダーの中でも職位や立場が違えば、観点が異なってくるということです。何をしようとしているのかを再度確認する際に、2.3で合意形成がしっかりできていて且つそれがハッキリと書面化されていれば問題はほぼ発生しないといえるようにも思いますが、そうでなければあらためて様々な意見が出てくる可能性があります。

2.3のアウトプット次第ではありますが、そういった意見を排除することもできるでしょう。ただ、できれば膝を突き合わせて、相手が腹落ちするまで、徹底した議論をすることが、本来は望ましい姿です。筆者の経験でいえば、ビジョンステートメントで、皆が依って立つところを誰の目にも明らかにできていれば、その後のすすめ方を間違えなければ、手戻りや停滞などはほぼ発生させないようにできるといえます(実際、そのようにできました)。

2.5.1の論点には、戦略オプションのコンセプトオプション実現に係るコスト実現に向けたスケジュールなどが挙げられるでしょう。あと、地方自治体、デスティネーション固有の政策的判断(もしくは政治的要素)という要素が入ってくることだろうと思います。なお、ここでの論点再確認については、2.3で事前につぶしていることが基本のため、本来はそう細かいものが挙げられることはないと思いますが、もし2.3であまり詳細な事項を検討のテーブルに載せられなかったのであれば、ここでは細かいことまで全て洗いざらい出しておくほうが、後々もめずにすみます。一種のガス抜きの場と捉えてよいかもしれません。

長くなっていきますので、続きは次回とさせていただきます。


8/01/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスiii

前回の地方創生/ツーリズムブログでは、デスティネーションの長期プランニングプロセス2つめのタイプ、ストラテジックプランニング&マネジメント(SPM)における現行戦略の評価までを概説しました。今回は戦略オプションの創出について、述べていきたいと思います。

「2.3 戦略オプションの創出」のタスクは、仮に現行戦略を見直す必要がある場合、特に根本的に創りかえなければならない時に必要となるものです。事業範囲を再定義したり、競争優位性を再構築したりすることで、戦略ロジックも変えていく、というか、根本的に変更する、まったく異なる戦略を複数立案することを指します。

たとえば、デスティネーションAが、近郊(半径50km)に住み、マイカーで来るファミリー層を主なターゲットにしていた戦略を、半径100kmに拡げるといったものは、戦略オプションとは呼ばないと筆者は考えます。ですが、ターゲットを根本的に見直す、たとえば遠く離れた首都圏に住むリタイアした富裕層に変更するのであれば、これは戦略オプションと呼べるものになります。つまり戦略オプションというのは、外部・内部の環境変化によって、デスティネーションが新たにとるアクションの単なる羅列などでは決してないということです。

戦略オプションは、2つかそれくらいの数に絞り込むのがふつうですが、はじめからあまり制限は設けないほうがよいでしょう。というのも、戦略はロジックであると同時に、非常に創造的な行為でもあるからです。発想、思考に制約をかけるのはまったく得策ではありません。一人で自由に思考したり、グループで積極的にブレーンストーミングするなどして、初期段階ではできるかぎり多くのオプションを出すべきです。

「2.4 戦略オプションの評価」で重要なことは、幾つも創られた戦略オプションを比較評価する時に、内外環境との整合性が確保されているかをしっかり検討することです。そしてこの場合、戦略オプションですから、既存戦略とは当然異なるため、検討の仕方、見方・考え方も、既存に引きずられるものであってはなりません。たとえば、デスティネーションAには、首都圏から来訪する人たちを迎え入れる交通手段がかなり貧弱で、列車の本数が非常に少なかったり、下車して何十分も歩くことを強いるものだったりするということだったとしましょう。上述のターゲットには、これではまったく通用しません。少なくとも交通の基盤を整備・強化する必要があります。

何をどれだけ、何処までやるか、どのように行うのかが問題です。交通基盤の整備強化の仕方は幾つか考えられますが、新たな費用投下は避けられず、手段と計画を考えだすことが必要になります。これは非常に分かりやすい例ですが、このようにオプションが現在のデスティネーションのコンテクストと合わないことは多いでしょう。不足しているものを如何に獲得するか、ここはまさに知恵の出しどころです。そんなものはできないよとしてすぐにあきらめるのは簡単ですが、それではいつまでたっても、変わる・変えていくことはできず、地域住民の方々の暮らしを含めて、所謂縮小均衡というものになってしまうのではないでしょうか。

新しいことを創りだすときに、おそらく最も重要なことは、古い習慣や考え方を一度は捨て去り、いかにゼロベースで考えられるかということです。これまでの成功要因に注目したり、過去の事例を、まずはあたるといったことは避けるべきだと筆者は思います。未来が予測しづらく、過去が参考にならないような現代ですべきことは、やみくもに流行りものを手を出そうとしたり、イノベーションと称していたずらに革新的といわれているような手法を身につけることでは得られず、また、その必要もないでしょう。

では、どうすればいいのか。大変難しい問いですが、それはおそらく世の理市場の定理や普遍的な価値といったものを、まずはしっかりおさえることから始め、次に、そこから戦略的に思考を飛躍させることだと筆者は思います。これについては、いずれ別枠で考えてみたいと思います。


7/23/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスii

前回の本ブログでは、長期のプランニングプロセス3タイプのうち、1.ステップ・バイ・ステップについて述べました。今回は、2.ストラテジックプランニング&マネジメント(SPM)です。ツーリズムにおけるSPMのながれを、ビジネスストラテジー的な視点で捉えれば、以下のようなものになります。

2.1 現行パフォーマンスの評価

2.2 現行戦略の評価

2.3 戦略オプションの創出

2.4 戦略オプションの評価

2.5 戦略の選択

2.6 戦略の実行

2.7 戦略の評価とコントロール 

2.1ですべきことは、ゴール(業績目標)の達未達を確認することですが、ゴールを明確に設定していなければそれもできません。また、そのゴールが誰にとってのゴールかも曖昧であればパフォーマンスを評価することも一様ではなくなります。更にいえば、ゴールがはっきりしていなければ、もともとの戦略立案自体が意味をなさないことになります。

観光庁によれば、地域の観光生産額把握には3つの要素があり、算式で表すと以下のようになります。

観光総生産額=観光総消費額×域内調達率

観光総消費額=観光入込客数×一人当たり観光消費額 

ここで気をつけなければならないことは、観光総消費額が大きくても、原材料の調達や加工が地域外であったり、サービス提供企業の本社が域外であれば、稼ぎの多くが最終的に地域の外に流出することになります。また、観光入込客数がどれだけ増えたとしても、一人当たりの消費支出が小さければ、経済効果は限定的なものになるということです。

一人当たりの観光消費額を増大させるためには、観光客の滞在時間を増やして、より多くの買い物をしてもらったり、娯楽サービスを含め飲食の機会を増やしたり、日帰りから泊りがけにつながるように宿泊施設を充実させたり、そのための交通インフラを整備するといったことが必要になります。何に注力するか、何処から始めていくかといったことなどは、まさにどういったビジョンを描き、実現に向けた戦略を創っていくか次第といえます。

上記指標以外にも、観光客のリピーター率や満足度、述べ宿泊者数、観光に伴う地域の環境負荷量、観光産業の成長に伴う地域住民の生活の質向上など、いろいろなものが挙げられると思います。

2.2のデスティネーションの現行戦略評価では、デスティネーションがその活動領域やターゲット市場において、実際に何をしているのかをまず明らかにすることが必要です(2.1で一部先行して行うこともあります)。業績を左右する政策や活動、当該デスティネーションの観光市場におけるポジションや能力を考察し、その事業の活動範囲と競争優位性を見極め、現行戦略を明らかにしていきます。この時重要なことは、戦略のロジックが実際の活動から読み取れるか、読み取れたとして戦略は正しくアライメントできているかを判断することです。

現行戦略が明確になったら、次は実際の戦略評価へ進みます。デスティネーションの戦略的資産は何か、組織は策定した戦略に沿って編成されているか、外部環境の機会は活用されているか、脅威は回避できているかといったことを検討していきます。ここでいう戦略的資産とは、基本的に、たとえば侵されることのないユニークなポジショニングであったり、他者が模倣できないような組織能力などを指しています。

デスティネーションの競争優位性の土台が戦略的資産にあることは明白です。従って、成功する戦略ロジックは、デスティネーションのポジショニングか、デスティネーション全体の組織能力、この両者のいずれか、または両者に競争優位性が基づいている必要があります。最も望ましいかたちは、他デスティネーションに対して当該デスティネーションのポジショニングが強固なものであるため、参入障壁が築かれていること、他デスティネーションからみて当該デスティネーションの組織能力を簡単には模倣できないため、観光客が他所には行かない(リピート需要につながる)といったようなことです。

デスティネーション/地域の稼ぐ力を検討するには、デスティネーションをバリューチェーンや5F(マイケルポーターの5Forces)などを用いて、業界を分析するのがよいだろうと思います。デスティネーションにとって、川上と川下にあるプレイヤーの力関係がどのように変化しているかを判断し、競争の度合いや質などを検討します。特に、競合するデスティネーションの戦略は定期的に確認して、将来の動きを予測することが重要です。デスティネーションの戦略的資産であるポジショニングと組織能力については、定点的に他所と比較し評価しておきます。競合デスティネーションが、当該デスティネーション独自のポジショニングを侵してこないか、市場は変化(たとえば拡張または縮小)していないかを検討します。

長くなってきましたので、2.3 戦略オプションの創出は、次回にまわしたいと思います。


7/15/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスi

ツーリズムの長期プラン策定プロセスには幾つかのパターンがありますが、代表的なものは、以下の3タイプになるでしょう。

1. ステップ・バイ・ステップ

2. ストラテジック・プランニング&マネジメント

3. シナリオ・プランニング

漸進的にプランを策定していくステップ・バイ・ステップ(SBS)がおそらく最もポピュラーなものだろうと思います。ストラテジック・プランニング&マネジメント(SPM)と重複するところは多くありますが、異なる点として、SPMでは当たり前とされている環境スキャニング(Environmental Scanning)を、SBSでは通常行わないことが挙げられます(但し、SBSとSPMを組み合わせれば、環境スキャニングは行われることになります)。

SBSの進め方(ハイレベル)は、次のとおりです。

1.1 現状分析

1.2 ビジョニング

1.3 ゴールの設定と戦略の方向導出

1.4 プラン策定

1.5 プラン実行とモニタリング

1.6 プラン評価

1.1では、デスティネーションのフィジカルプロダクト(デスティネーション4Pのひとつ)や、ツーリズムに関係するプログラム(イベントやアクティビティ等観光客のために催される出来事全般、デスティネーション4P)をはじめ、ツーリズムのマーケット動向、政府や自治体の政策などに関する分析を行います。その後、分析の結果を強みと弱み、問題やイシューなどにまとめて、デスティネーションに関する論点を整理します。

次に、状況に合わせてリサーチを詳細に行い、精査していきます。たとえば、スポーツイベント(プログラムのひとつ)に関する他デスティネーションとの比較や競争環環境などについて、10Asのフレームワークなどを用いて考察を進めます。これにより、他所にはない競争優位や、見直さなければならない機能、リソースの再配置、更には需要がまだ開拓されていないような市場などが明らかにしていきます。

1.2は、ビジョンを策定するステップです(参考:新規事業創出 (2)ビジョン②)。ここでのインプットは、前ステップの1.1現状分析の各アウトプットから結論として何が言えるのかを導出したものが該当します。中でも観光客のデスティネーションに対する認知度にどう向き合うかが重要なポイントです。アウトプットは、ビジョンステートメントになります。デスティネーションマネジメントの組織、マーケティング、商品開発それぞれの活動をその中身も含めてどのようにしたいのか、あるべき姿はどういったものかということを検討し、書面化します。

1.3でまずすべきことは、ゴールセッティングです。これまでもほかのブログで何度か述べてきましたが、はじめにゴールで、次に戦略ですので、これは絶対間違ってはなりません。ゴールなきものは戦略とは呼べません。ゴールは前ステップのビジョンステートメントに基づき設定します。長期プランですから、直近のことばかりを見ていては、大胆なゴールにはなりえません。

長期をいつの時点とするかは、デスティネーション次第ですが、およそ5年からくらい先が妥当なところだろうと思います。ただ、前年対比数%増で5年を積み上げたものを数値として設定するということは、できる限り避けたいものです。というのも、設定するゴール次第で、戦略が変わってくるからであり、あまりにも小さくまとめたゴールであれば、戦略もこれまでとさして変わらないありきたりのものになるのは避けられず、であれば長期プラン策定の意義の多くが失われてしまうことになるからです。戦略の方向導出については、どうしても長文化しますので、これは回を改めて、また、1.4以降についても同様とさせていただき、次回はストラテジックプランニング&マネジメントについて述べていきたいと思います。




7/08/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ②コンテンツ

ツーリズムの各プランは、長期プランの内容に基づき、策定・実行されるべきであるのは言うまでもありません。ですが、長期プランの中身が曖昧だったり、前回のブログで述べたようなアウトカムが欠如しているようであれば、プランの一部の内容がいつのまにか一人歩きしてしまい、長期プラン全体ですべきことや、本来の企図したものと異なるものになりかねません。

ツーリズムプランのコンテンツには、およそ以下のような内容を盛り込む必要があります。

  • 進むべき方向と戦略(ミッション、ビジョン、ゴール、ストラテジー)(ストラテジーとは、ゴール達成ための競争優位を発揮できるアライメントされた打ち手のまとまり)

  • 組織構造と財源(組織化の単位と仕事の調整・評価の仕方、ステークホルダーの役割と責任、資金調達の中身)

  • マーケティング&ブランディング(ターゲットマーケット、ポジショニング、観光の仕方と滞在時間の長さなど)
  • 優先順位付けされたアクションプランと予算
  • リサーチ情報

UNWTO(国連世界観光機関)のレコメンデーションを意識しながら、ツーリズムプランを10Asで考えると、以下のようなものを挙げることができます。

  • アウェアネスデスティネーションブランディング、マーケティング戦略
  • アトラクティブネスアトラクションに関する商品開発(新商品/サービスの開発と既存商品/サービスの改良)
  • アクティビティイベントや祭り等に関する商品/サービス開発
  • アクセス: 各交通機関の利便性やサービス、遊歩道等の整備
  • アベイラビリティ: 流通チャネル、カスタマータッチポイント、IT/デジタル化
  • アピアランス: 観光客が到着する場所の環境整備(広義の商品/サービス開発. デスティネーションブランディングとの整合性が保持されている環境、特に最初に足を踏み入れる地点の雰囲気や外観)

  • アプリシエイション: 人材の能力(知識、スキル、ホスピタリティ含む取組み姿勢)、外国語によるコミュニケーション能力(インバウンドの場合)、地域コミュニティに向き合う姿勢

  • アシュアランス: モノ/サービス品質の保証、公衆衛生と食の安全、治安、規則
  • アクション: マーケティングに関するリサーチとプロモーション

  • アカウンタビリティ: 組織構造、業績評価、経済情勢と観光市場の動向


ツーリズムプランを検討する時は、大項目になる論点を一度、英語で挙げてみることをお勧めします。何故ならば、シンプルで分かりやすく、はっきりとするからだと筆者は思います。たとえば、

1. Where are we now?

2. Where we want to be?

3. How do we get there?

1は、デスティネーションは現在何を売り物にしているのか、それは市場においてどういったポジションを占めているのかなどを考えます。そして、観光客の実績と今後を予測します。

2は、ミッション、ビジョン、ゴールなどが該当します。

3は、デスティネーション全体の戦略、たとえば提供する顧客体験が如何に傑出したものであるかとか、新商品/サービス開発に多くの時間とリソースを投入し、他所から決して真似のされようもないものに仕上げているなど、そういったことなどを含めて、具体的に記述します。


7/01/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ①長期プランの重要性

ツーリズムのプランニングは、他産業のものと比べて、より多くのステークホルダーが関係するため、その人たちをうまくプランニング活動に巻き込むことが重要です。行政、観光協会やツーリズムのプロフェッショナル、DMO、商工会議所/商工会、大学等アカデミックな機関、宿泊/飲食/商店/交通等の関係者、地域住民等といったところかと思います。

あと、忘れてはならないのが消費者です。公開されているツーリズムプランニングのドキュメントやプロセスについて、ソーシャルメディアを使って、オープンなディスカッションを望む人たちがいます。こういった人たちをないがしろにするわけにはいきません。中には、外国人の方もいるでしょう。インバウンド需要で恩恵を被っているデスティネーションであれば尚更です。

そういった消費者からの意見や、期待、思いといったものを、一次調査をとおして収集分析し、プランニングの重要なインプットにすることが必要です。デジタル社会でのツーリズムプランは、日々進化(またはアップデート)することが周囲から期待されるため、自ずと包括的・統合的であることが求められることになります。

ツーリズムプランは短期も重要ですが、何より長期の視点が欠かせません。様々なデータを時系列でおさえながら、観光客と地域住民の双方を見て、プランを立て実行していくには、相応の時間がかかります。デスティネーションプランの目標値や成熟度などで相違はあるものの、通常2~3年程度で実現できるものではありません。

長期でプランを立てるベネフィットには、以下のようなものが挙げられます。

  • 将来の展望を描けること(描かざるをえなくなること)。

  • ビジョンとゴールが設定でき(同上)、依ってたつところを明確にできること

    • 地域や社会などからの注目が集められること
    • ビジネスなどの機会探索の場として活用できること
    • プランニングの過程でステークホルダーをしっかり巻き込むことによって、それぞれのオーナーシップを喚起できること

    長期プランのタイムフレームは、5年から長いもので30年くらいまでと考えるべきでしょう。今年は2023年ですから、区切りがいいところで2030年や2050年ということになるのだろうと思います。

    モリソンは、ツーリズムプランニングには次の5つのアウトカムを備えておくべきだと述べています。

    • 取りうる選択肢が確認できること(デスティネーションにとって重要な要素、たとえばマーケティングや商品開発などに対する幾つかのオプションが提示されているなど)
    • 予期せぬ事態に適応できていること(経済情勢の変化や電気・ガス等インフラの需給状況、地場産業の業績、法規制、テクノロジー動向などについて言及されているなど)
    • 他所にはないユニークなものが保持されていること(伝統・文化・自然、祭りやイベントといった地域固有のものが維持されているなど)
    • 優れた価値が生み出されているものであること(ツーリズムにおけるサステナブルな開発、ツーリズムに対するコミュニティの理解、ツーリズムに対するビジネス上の協力姿勢、ツーリズムに適した組織体制、ツーリズムに関する情報が整備されているなど)
    • 不適切なものが回避されていること(不要な競争環境や過度な摩擦、地域住民との敵対的・非友好的な関係、自然や歴史遺産の破壊、文化的アイデンティティの喪失、公害、過度な季節間格差などが回避されているなど)

    以上のようなことを盛り込んだ長期プランの策定及び実行には、どうしても担当責任者に相応のリーダーシップが求められることになります。次回はプランの内容について述べてみたいと思います。



    ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

    市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...