8/18/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスvi

ツーリズムの長期プランニングプロセス3タイプのうち、今回は「3.シナリオ・プランニング」についてです。

今日のような不確実性の高い時代には、ゼロベースでものごとを考えて意思決定することが重要です。従前の考え方や行動様式などに捉われていたり、ましてや長期プランニングがバイアスの働きやすい環境下で行われるのであれば、シナリオプランニング(SP)は大いに役立つことでしょう。

シナリオを考える時、何をはじめにすべきでしょうか。筆者は、タイムラインバウンダリーステークホルダーを決めることが、シナリオをコンパクトに考えられることになると思います。

タイムラインは、業界によってまちまち、たとえば消費財関連でも、保守的傾向の強い食品産業の幾つかの業界であれば、10年先を見通せるかもしれませんが、IT関連の業界であれば2年先さえ難しいように思います。ツーリズムの場合であれば、コロナという特殊要因はありましたが、通常はおそらく5年先くらいなら大丈夫なのではと思えますし、10年先でもよいのかもしれません。また、その間をとって7年先というのもありではないでしょうか。

ただ、今日、ツーリズムに限らず、全ての業界に共通する要素に、気候変動への対処があります。脱炭素でいえば、2050年にネットゼロ、2030年にほぼ半減させることを日本は国際社会に対して宣言しているわけですから、たとえば今から7年後の2030年にツーリズムがどうなっているのか、当該デスティネーションはそれに向かって何をすべきか、他所との差別化のポイントは、などといったことはホットなトピックでしょう。

バウンダリーとはシナリオの境界線(バウンダリー)のことです。自身のデスティネーションを、地域、商品/サービス、技術、市場、そして競合するデスティネーションなどを考慮して、境界線を何処に引くかを決めます。何にフォーカスするかによって、何処に引くかが変わってきます。たとえば、気候変動に関するものであれば、ほぼ全てのものが影響を受けますし、デスティネーションで提供する国内向けの商品に限定するのであれば、バウンダリーは技術と市場などに絞られることになります。

ステークホルダーは、先に設定したタイムラインとバウンダリーに沿って、考慮すべき関係者を見極めます(参照: プロダクトとしてのデスティネーション③ステークホルダーマネジメント)。ここで重要なことは、ステークホルダーの役割や利害、パワーバランスなどが、時間の経過と共にどう変わっていくかを考察することです。シナリオ分析は未来のことを考えるものですから、その未来の姿を形成するのがどういったステークホルダーなのかを特定していく必要があります。

タイムライン、バウンダリー、ステークホルダーの範囲を決める時、次のような問いかけが役立つでしょう。

  • 競合するデスティネーションは、自らが抱える問題を検討する際、どういった枠組みを使っているのだろうか

  • 過去(たとえば10年前)から今日に至るまで、どのような変化が起こったのだろうか。それは予測できたものだったのか。その変化にどれくらいうまく対処できたのだろうか
  • 我々が考える商品/サービスや技術を用いたデスティネーションは現れるだろうか。それによって、観光客の行動は変わるだろうか。変わるとすればどれくらい変わるのだろうか。

範囲が決まれば、次は、シナリオの元になる情報を集めます。以下のような問いかけは、シナリオを考えていくうえで効果があります。

  • 過去を振り返り、現在わかっていることのうち、過去の時点で知ることができていたならと思うことがあるとすれば、それは何だったのか
  • その過去の時点で何を問いかけるべきだったのか。ツーリズムの変化や不確実性の主だった源泉は何だったのか。
  • 現在のデスティネーション戦略を評価する時、どういった情報があれば、未来に向けた選択肢を作ることができるのか

シナリオ分析を行う際、専門家やツーリズムに対して造詣の深い人たちにインタビューを行い、情報を集め、資料を作っていくことは珍しくありません。この場合、デスティネーション関係者の幹部職員もその対象に入れるべきです。但し、トピックが拡散しすぎてまとまりがつかなくなる可能性がありますので、それを回避するために、インタビュー対象者は将来を考察するうえで鍵を握る人に特定して行うべきです。また、競合するデスティネーション、重要なカスタマーやサプライヤーに対してもインタビューを行ったほうがよく、同様にキーパーソンは慎重に選定すること。そして、変化を生み出す外部の主だった力に関する情報を整理していきます。

変化を生み出す外部の力が、ある方向に向かう可能性はどれくらいあるのか。予想できるところは方向性として扱い、できない場合は不確実性となります。ある先が、方向性なのか不確実性なのかが分かりにくい時は、設定したタイムラインのなかでその力のエビデンスの有用性を考えそれが方向性であることにステークホルダーから同意が得られたら、方向性として捉えてよいのだろうと思いますし、そうでなければ不確実性となります。続きは次回へまわしたいと思います。



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