6/03/2023

ツーリズム (2)プロダクトとしてのデスティネーション ③ステークホルダーマネジメント

デスティネーションマネジメントに関係するステークホルダーは、大きくは5つグループに分類できます

  • 観光客: レジャー、ビジネス 
  • 観光地のコミュニティ: 住民団体、ビジネス団体、タスクフォースなど
  • 観光産業に関係する組織体: ホスピタリティ関連(宿泊、飲食)、アトラクション、交通機関、旅行代理店、メディア(マス、ネット) 、DMO
  • 行政機関: 国、地方(県、区、市、郡など)
  • その他: NGO、環境保護団体、自然保護団体など

ツーリズムの政策を推進する人または団体は、デスティネーションの成否に関わるこれらステークホルダーと持続的にコミュニケーションをはからなければなりません。コミュニケーションは、単なる情報交換や共有にとどまるものではなく、相談や関与、参画といったかたちに発展させていくものであるのが本来だからです。

相談とは、相談をする人が相談する相手に対して漠然と行うものではなく、具体的な事象や事案を、両者間で話し合うことをいいます。広く意見全般を求めること以外に、施策選定にあたっての見解や代替案、アクションプランなどについて、ステークホルダーに確認していくことになります。従って、相談する側は、自身の考えやプランなどをある程度まとめておいた上で相談にのぞむことが必要となり、相談を受けるステークホルダーについても同様のことが求められます。

相談というと、自身の考えがあるなしに関わらず、何でもかんでも聞けばいいと捉えている人が時々いらっしゃいますが、少なくともビジネスではそれはありえません。仮に、相談という言葉の持つ意味やニュアンスを曲解するような方が少なからずいるようであれば、コンサルテーションという言葉に変えたほうが良いでしょう。

ツーリズムにおいて、筆者にとってのコンサルテーションの意味は、ステークホルダーに対して支援の関係を築くことを表します。組織文化の大家、エドガー.H.シャインは、クライアントの思考プロセスを、以下にある3つの方法のうち、1つ以上のものによって組み立て直すことを、コンサルテーションのなかで強く奨励しています。なお、ここで使われているクライアントという言葉を、ステークホルダーに置き換え読み直しても、全く同じことがいえます(同様に、コンサルタントは、ツーリズムの政策立案や実行に関わる人または団体、たとえばDMOなどに置き換えることができます)。つまり、

問題をもう一度、説明する。

クライアント自身の役割が何かを再考する。 

コンサルタントがすべきことは何かを再考する。

筆者が外資の経営コンサルティングの世界に入ったのは、ちょうど2000年1月のことで、当時のプライスウォーターハウスクーパース/PwCコンサルティング(後のIBMビジネスコンサルティングサービス)には、すでにステークホルダーマネジメントのしっかりしたフレームワークと、考え方が存在していました。それは、今でも有効で強力なものであると思っています。

ステークホルダーマネジメントを行う際、ステークホルダーマップを用いることは、全体の状態や関係者の相関関係などを視覚的にわかりやすく捉えるという点で有用です。マップについては、たとえば縦軸に取組みから受ける影響、横軸に取組みに対する反応を置いて、縦を影響度の高中低、横の反応を賛成、反対、不明などとします。これに各ステークホルダーの影響力の強弱や、協力の必要性の高低などを3次元で表記します。

ステークホルダーマネジメントのながれは、次のとおりです。

1. ステークホルダーの選出

2. 情報収集・分析

3. 各ステークホルダーに向き合う基本スタンスの決定

4. 対策の検討とアクションプランの作成

5. 実行と管理

なお、ステークホルダーには、次のような役割を持つプレイヤーを選出することが効果的です。たとえば、取組みの主たるターゲットをチェンジターゲット、取組みを必要とし且つそれを承認できる人をチェンジリーダー、チェンジリーダーの下で活動する人をチェンジエージェント、取組みに理解を示し影響力を行使することができる(但し自ら行動を起こす立場にはない)人をインフルエンサー、取組みの利益を享受する(但し活動自体には参加したり承認することはない)人をカスタマーなどとして、戦略的に考え、関係者の役割を明確に設定していきます。

最後に、「ジョハリの窓」理論に触れて、今回のブログを終了したいと思います。この理論は、ジョセフ・ラフトとバリー・インガムが考案し、両者の名前をとった対人関係における気づきのモデルで、コミュニケーションマネジメントに有効な考え方です。ジョハリの窓は、4つの象限で構成され、縦を「他者」、横を「自分」とします。その縦と横をそれぞれ「知っている」と「知らない」で区分けします。他者が知っていて自分も知っているものを「開放」、他者が知っていて自分が知らないものを「盲点」、他者が知らなくて自分が知っているものを「隠された」もの、他者も自分も知らないものを「未知」とします。

このなかで、開放の領域が広いほど、お互いのことがよく理解できて、率直に話ができる、風通しのよい関係といえます。盲点では、たとえばあるステークホルダーが、全体の取りまとめを行っている私(自分)のはっきりした物言いをどうみているかはわかりません。そこで、できる限り他者が私にそれを話してもらえるような環境を整えることで、盲点の状態から解放の状態へと発展させ、良好な関係を築いていけるようにします。ステークホルダーが発動したりしなかったりするサインやメッセージは、心理的な働きが複雑に絡み合って表されるものであるため、ジョハリの窓を使って検討することができるとされています。

繰り返しとなりますが、ステークホルダーマネジメントは、当該事案のゴールに沿って、戦略的に思考し、ツールを有効活用して、効果的に行うことが重要です。


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