2/26/2024

ブランディング (3)セグメンテーション ③法人市場

前回は消費者市場のセグメンテーションについて述べました。今回は、法人(Business to Business)市場のセグメンテーションについて、簡潔に述べたいと思います。

法人市場のセグメンテーション変数は、消費者市場の変数2分類とおよそ同じと捉えることもできますが、様々な法人企業が存在する上、各社のコーポレートや事業会社、部門、担当者の顔などが、消費者よりもずっと見えやすい、或いは分かりやすい(と筆者は思っています)ということもあって、より具体的なアクションにつなげられるようにすることが必要です。このため、消費者市場よりも、多くの段階に分けて深堀していくことが重要だろうと思います。なお、変数の多くは、日々の営業活動で収集していく情報です。

企業特性

業界・業種

売上高や従業員数などの企業規模

企業や事業の成長性

リーダーやチャレンジャーなどの業界における位置づけ

本社等所在地、支社支店等の数

自社(プロダクト提供者)プロダクト購買/利用額

顧客内シェア

顧客とのリレーションの有無や強さの程度、等

購買特性

用途・機能・技術など焦点を合わせる領域

品質・サービス・知名度や安心感・経済性・利便性・迅速性などのベネフィット

スイッチングコスト(使い慣れた製品を他社製のものに変更する時に生じる切替障壁)

ステークホルダー、特に意思決定者のエンドユーザーに対する態度やパワー

リスクを許容する組織の風土や文化

意思決定(もしくはプロダクト評価)の仕方、認知・関心・購買意思などの購買に至る段階

コミュニケーション行動、等

法人市場は、消費者市場の顧客以上に、パレートの法則(全体の8割の売上は、顧客全体の2割によって達成される)が、適用できるといわれることがよくあります。実際、筆者も経験上、厳密に80/20ではありませんが、そのように感じることが時々ありました。以前、筆者が勤務していた某大手外資系企業の営業部門は、顧客の国内市場における売上げがどれだけ大きくても、顧客の業界での位置付けがどれだけパワフルなものであったとしても、自社との取引高が大きくなければ、当該セグメントにおけるポジションはかなり後位で、営業活動の優先度も非常に低い、場合によってはアプローチすることさえしませんでした。このようなことからも、サービス提供者のプロダクトの購買(または利用)額は、企業特性を検討する上で重要な変数だといえます。

法人顧客をセグメンテーションしていく時、ターゲティング前の段階では、以下のような項目を使って行うことが効果的です。

(1)顧客の魅力度

(2)自社のポジション

(3)収益性

(4)成長性

(1)と(2)は拡販の期待度、(3)と(4)は収益力としての括りです。

(1)は、将来儲かる顧客かどうかを、成長性や顧客内シェア、新規大型案件保有の有無、顧客の価格交渉力などをとおして考えます。

(2)は、自社の差別化要素や価格優位性などにより、競合と伍して戦うことができるかをみます。

(3)は、現在儲かっているかを、売上げ、利益、顧客の価格交渉力で判断します。

(4)は、売上げ成長率や利益成長率で、伸びているかを検討します。

なお、顧客の事業規模が大きい場合は、上記の考え方が適用しやすくなります。規模が小さい場合は、所在地によるセグメンテーションがまずは有効というか、現実的です。ただ、最終的には、各顧客の購買者が異なるニーズやベネフィットを持っていることが十分想像に難くないため、ニーズやベネフィットをもとに細分化することが、マーケティング戦略を実行する上で正解だといえるでしょう。


2/19/2024

ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場

今回は、前回のブランディングについてのブログで述べたセグメンテーションの変数をベースに、消費者を直接相手にしている市場(Business to Consumer)について、特に消費者向けのプロダクト(製品/サービス)を提供している消費財(Consumer Products)の市場で少し考えてみたいと思います。

はじめに、おさえておかなければならないことを書き留めておきます。消費財市場では、特に、セグメンテーションを考える際、基礎的な前提事項が2つあります。

第一に、顧客はモノやサービスとしてのプロダクトそのものよりも、むしろプロダクトから得られるベネフィットを求めているということ。その得られるベネフィットと、その対価であるコストとの組合せを絶えず考慮している。

第二に、顧客や潜在顧客は自分たちが経験してきたプロダクトの利用状況などから、利用可能な代替できるプロダクト、つまりとってかわることのできるベネフィットを常に検討している


消費財市場では、セグメンテーションの変数は、およそ次の大きな2つに大別できます。(消費特性は「態度」特性と「行動」特性に分けて考えることができますが、ここでは極力シンプルに捉えられるように、「消費」特性として一括りでまとめています)

消費者特性:客観的な尺度(ジオグラフィックとデモグラフィックの変数)、主観的な尺度(サイコグラフィック変数)

消費特性品質・サービス・プレステージ・経済性・利便性・迅速性などのベネフィット購買経験の有無など過去の購買状況、ヘビー・ライト・未使用などの使用者のタイプ、認知・関心・購買意思などの購買に至る段階、熱狂的や否定的などのプロダクトに対する態度、購買や返品に関するパターンや仕方、コミュニケーション行動、等

ここで注意しなければならないことは、消費者特性は、消費者が誰であるかを示してはくれるが、消費者が何故そのような行動をしたのかという理由については明らかにすることはないということです。このため、消費特性を把握することが、消費者特性の不十分さを補い、何故そういった行動をしたのか、その理由に近づくことができるようになります。


ベネフィットとは利用者にとっての便益、ここでは消費者にとって便利で得になること、良いことといったものなどを表します。コトラーが過去に言及したベネフィットのわかりやすい例に、歯磨き粉があります。通常、歯磨き粉を買う人は、それを所有したいから買うのではなく、歯磨き粉がチューブに入ったものを使って歯磨きすることで、大きく分ければ、以下のようなものを求めているといえます。

薬用効果(虫歯の予防、歯槽膿漏の予防、煙草のヤニの除去など)

健康/ビューティ志向(白い歯・健康的に見える歯、爽快感、口臭予防など)

味覚志向(主に子供向けの味・フルーツやミント味など)

ほかにも、感性消費、たとえば旅行で得られるベネフィットなどは、比較的イメージもしやすく、わかりやすいのではないでしょうか。アクセス性や経済性以外にも、JR東海エージェンシーの調査では、①「特性体感・経験」、②「自己拡大」、③「リフレッシュ」、④「関係強化」、⑤「自然満喫」、⑥「現地交流」を用いて、「観光地としての価値ベネフィットに関するイメージ分析」を行っています。①から⑥のイメージは、それぞれ次のとおりです。

「その場でしかできない経験ができる」「ワクワク・ドキドキを味わえる」「話題になっている場所を訪問できる」

「自分の生活や生き方について考えることができる」「自分自身を見つめ直すことができる」

「気分的にリフレッシュできる」「日頃の疲れを癒すことができる」

「同行者と今まで以上に仲良くなれる」「同行者と語り合うことができる」

「大自然を満喫できる」「自然を身近に感じることができる」

「さまざまな人たちと出会うことができる」「現地の人たちと仲良くなることができる」

D・A・アーカーは、四半世紀以上も前に、ベネフィットを機能的情緒的自己表現の3タイプに分け、情緒的と自己表現ベネフィットを追求すべきと述べました。

市場はどのようにセグメントできるのか。細分化した各市場には、どのような人たちが、どういったベネフィットを求めているのか。プロダクトに求めるベネフィットに応じて、消費者をグルーピングしていくことが必要です。新商品開発に携わったことのある方なら、活動の最初から最後まで、ベネフィットという言葉がついてまわることをよくご存知のはずです。それほどベネフィットは重要であり、誤解を恐れずにいえば、ベネフィットこそが最も重要なものといえます。

最後に、セオドア・レビットは、消費者セグメントについて、次のようにいっています。心に留めておくべき名言だと思います。「消費者はひとつのセグメントに属しているのではなく、同一時間帯の中でも、その都度多種類のセグメントに属していると見なければならない


2/12/2024

ブランディング (3)セグメンテーション ①主旨と要件

ブランドのポジショニングを考えることは、マーケティング活動で最も重要なことと言って良いのではないでしょうか。「製品を売るのではなく、ポジションを作り出すこと」という言葉もあるくらいです。

ポジショニングとは、自社プロダクトが他とはハッキリ異なる点、すなわち差別化のポイントや、利用者にとっての主たるベネフィットを、潜在顧客の頭または心の中に刷り込んでいく活動のことをいいます。ちなみに、直訳では、Positioning(ポジショニング)は位置付け、Position(ポジション)は位置ということになります。位置付けるためには、連続、不連続関係なく、行為が集積されている必要があります。

ジャックトラウトは、差別化できるまでのステップを、分かりやすく4つに分けています。

はじめに、自社と競合が消費者にどのように見られているかを把握する。

次に、他者との違いを考えて自社が差別化できるアイデアを探す

その後、独自性を感じてもらえるように、エビデンスを示しながら、信頼を獲得していく。

最後に、独自性の良さを分かってもらえるように、コミュニケーションを繰り返す。(ツーリズム(5)マーケティングプランニング ②プロセスxv ポジショニングその2)


ポジショニングは、その検討を始める前に、セグメンテーションとターゲティングを考え、決めておかなければいけません。(ツーリズム(5)マーケティングプランニング ②プロセスxiv ポジショニングその1)

ケラーは、消費者のブランドに対する知覚や選好などが人によってまちまちであるため、市場を明確に細分化し、ターゲット市場を選定しなければならないと述べています。ここでいう市場(マーケット)は、当該プロダクト(製品、サービス)に対して顕在化している顧客と潜在顧客の集合体のことをいいます。

市場セグメンテーションとは、消費者の特徴やニーズ、行動などに基づき、異なるプロダクトを求めることが考えられる集団ごとに分類していく行為のことをいいます。ただ、市場をできる限り厳密に分割しようとして、細かく捉えていくことが実効性の面でできればいいのですが、リサーチなどに要する時間や費用などを考慮すると、ほどほどにしておくのが賢明でしょう。

セグメンテーションの変数は、一般的にいって以下のようなものが挙げられます。

  • 地理的/ジオグラフィック変数(国、地域、市、近隣区域、居住地、気候、人口密度、地域特性や都市化の進展度、規制等)
  • 人口動態/デモグラフィック変数(性別、年齢、世代、家族構成、ライフステージ、所得、職業、学歴、人種、国籍、宗教等)
  • 心理的/サイコグラフィック変数(社会的階層、ライフスタイル、価値観、嗜好、趣味、習慣、性格、購買理由等)
  • 行動/ビヘイビアル変数(購買経験の有無など過去の購買状況、ヘビー・ライトなどの使用頻度、品質・サービス・プレステージ・経済性・利便性・迅速性などのベネフィット、購買や返品に関するパターンや仕方等)


攻略したいセグメント、つまりターゲティングを検討する際、定量的に推定しやすいジオグラフィックやデモグラフィックの変数を用いることが、どうしても多くなってしまいがちです。ですが、新しい切り口を見つけ出したところが、他社よりもずっと早く、より大きな成果を得られる可能性が高いことを考えると、サイコグラフィック変数はもっと活用されるべきでしょう


フィリップコトラーは、効果的なセグメンテーションの条件として、次の5つを挙げています。

  • 測定可能性:セグメントの規模、実質賃金などの購買力、プロフィールが測定できること
  • 維持可能性セグメントから十分な利益を獲得できること 
  • 到達可能性:マーケティング活動を行う上で、セグメントに到達できること
  • 実行可能性:セグメントを惹きつけるマーケティングプログラムが実行可能であること(例として、小規模事業者が市場を幾つかにセグメントし、それぞれに対してマーケティングプログラムを策定したくても、人員不足やスキルの欠如などの理由から実行できない場合、そのセグメンテーションは当該事業者には意味をなさないということ)
  • 差別可能性:マーケティングプログラム毎に異なる反応が得られること。(コトラーは例として、未婚と既婚の女性が香水の販売に同じような反応をする場合は異なるセグメントにはならないとしていることに注意が必要です) 


意思決定を含めて、マーケティングプログラムを策定・実行するプロセスを的確に機能させるためには、セグメンテーションが当該事業者にとって実効的でなければなりません。さもなくば、そのセグメンテーションはまったく意味をなさないことになります。

加えて、そのセグメンテーションが、独自性に富んでいることも非常に重要な要件であることは、これまでの一連のポジショニングのブログをお読みになられている方なら、すぐにおわかりになられることだと思います。戦略から実行に至るマーケティング活動は、セグメントが的確か否か、つまり実施するセグメンテーションの質の高低に左右されるといえます。それほど市場セグメンテーションのタスクは重要です。続きは次回とさせていただきます


2/05/2024

ブランディング (2)ブランド用語③ パーパスブランディング

ESGs、サステナビリティ、脱炭素、サーキュラーエコノミー等々、気候変動に対応した経営、また、CSV(Creating Shared Value/共有価値の創造)経営が、今日求められています。世の中が変わりつつある以上、企業や事業体も経営やオペレーションの変革を進めていく必要があります。

ブランディングについても、従前のやり方に加え、新たな視点を取り込んで行うことが重要です。近年、パーパス経営という言葉をよく耳にします。パーパスはご存知のとおり、目的とか意図といった意味ですが、ビジネスでは存在意義という意味で捉えられています。

パーパスとは、社会に対して、どのような存在意義を示して、どういった面で社会に働きかけていくのか、貢献するのかということを表し、パーパスステートメントはこれらを記述したもの

ストラテジックファクターズのグラハムケニーは、パーパスステートメントは、通常、顧客に向けたものであり、ステートメントの意義は顧客を単なる取引の相手としてではなく、関係性を築くものとして捉える要素を組織に加えるものとしています。

ケニーは、パーパス、ミッション、ビジョン、バリューの違いを次のように述べています。ミッション、ビジョン、バリューといった方向性を示すステートメントの大半は、組織そのものを中心に据えている一方で、パーパスは組織を外から見つめて、事業が人々の暮らしにもたらす違いを考えるもの。

ミッションとは、通常、事業者の存在目的と事業を表現しているもののこと。存在目的はやや抽象的なもの、事業は具体的な部分となり、この2つが合わさったものがミッションステートメント(参考: ツーリズム(5)マーケティングプランニング②プロセスi)

ビジョンは企業や組織のなりたい姿を指し、漠然とした思いや夢を語るものではななく、望ましいのは5年後や10年後といった時間を区切ったもの(参考: 新規事業創出 (1)イントロダクション)

バリューとは、組織が最も重要と考えるものであり、組織構成員の行動や考えを司る価値観や原理原則といったもので、ビジョンの根幹にあるものがバリュー(参考: 新規事業創出 (2)ビジョン①)

上述に沿ってパーパス・ブランディングを考えると、次のように捉えることができるでしょう。

パーパス・ブランディングとは、社会における自らの存在意義を、組織の内外に認知してもらい、多くの共感を獲得していく行為を指し、コーポレートブランドの範疇に属するもの

このブランディングに関するブログは、主にプロダクトブランドを対象に記述していますので、パーパス・ブランディングについて、詳細に述べることは割愛させて頂きますが、プロダクトブランディングを考える上でも非常に重要な概念であることには変わりありません。

パーパス・ブランディングは、製品/商品開発活動においては、ポジショニング戦略を考える上で、前提となる重要な概念です。従来のブランディングが顧客のイメージをコントロールしていく側面が強かったのに対して、パーパス・ブランディングは顧客に行動を起こしてもらおうとする要素が強いといえ、これはまさにインターネット社会だからこそ実現できる考え方です。

パーパス・ブランディングでおそらく最も重要なことは、社会に対して提示した自分たちの存在意義、思い、思想といったものに対して、共感してくれる人たちが、自分ごととしてそのストーリーを創りだしていく、そういった仕組みをデザインしていくことといえるでしょう。


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...