9/24/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスiii

ストラテジー監査の2つめの項目、競争ポジションにはフィリップコトラーのマーケットポジション分析を使います。コトラーは競合先を、市場における役割で分類し、その基準はマーケットシェアとしています。デスティネーションでは、マーケットシェアを正確に把握するのは難しいようにも思いますが、たとえイメージ中心で行うことになったとしても、およそだいたいのところで、マーケットリーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーと分けることはできるのではないでしょうか。

メーカーであろうと、デスティネーションであろうと、マーケットポジションの定石は変わらないと筆者は思います。つまり、マーケットリーダーであれば、周辺需要を拡大したり、価格勝負は行わないとか、他所との同質化をはかるといったことは可能であり、また有効でもありますが、チャレンジャーであればそうはいきません。

チャレンジャーは、リーダーとの目に見えるはっきりした差別化をはかることが必要であり、できる限り模倣されない強固な仕組みを作り上げることが重要です。ところが、多くのデスティネーションがやっていることは、何処も似たようなもの、同じようなことをやっているように筆者には映ります。ましてやニッチャーであれば、リーダーやチャレンジャーがやらないことに、積極的に取り組まなければなりません。たとえば、後期高齢者を対象にしたパッケージツアーを大手旅行代理店1社と組んで、添乗員は勿論のこと、数名の介護スタッフによる完全サポートの下、微に入り細に穿つホスピタリティサービスを提供するといったことなどは半ばあって当然のことのように思います。ただ、そういった徹底した差別化につながるものが実際のところどれくらいあるのか・・・。マーケットポジションに従い、何をやっているかを調査していきます。

内部資源については、希少性と模倣困難性をVRIO(ブリオ)を用いて検討します。バーニーの資源ベース(リソースベースドビュー/RBV)の戦略論は、ポーターの業界競争構造に重きを置く戦略論としばしば対比されてきました。VRIOは次の4つで構成されています。

V(Value)/経済価値: その資源で機会を取り込むことができるか。

R(Rare)/希少性: 資源を保有、活用しているところは少ないか。

I(Imitability)/模倣困難性: 資源を獲得するには大きなコスト負担が必要か。

O(Organization)/組織: 資源を有効活用する仕組みやルールは存在するか。

資源には、ブランド力をはじめ、R&Dや製品開発といった組織能力が含まれます。ほかにも、ロジスティックスや販売、更には顧客維持やコミュニケーションといったものも該当します。但し、マーケティング監査ですので、ブランド、商品/サービス開発(商品/サービス自体も含む)、商品と情報の流通、広告PRを中心としたコミュニケーション、販売、あとマーケティング活動全体を束ねるマネジメントといったものを対象にすればよいでしょう。また、これらすべてを対象に調査するには、かなりの時間がかかるでしょうから、マーケットポジションなどからみて重要と判断できるところに絞って行うべきでしょう。

マーケティング監査におけるストラテジーの監査で重要なことは、マーケティング活動において最も注力すべき領域を明確にすることです。3つの柱である業界の競争構造、競争ポジション、内部資源のいずれか、或いは全てを変更することで、デスティネーションの競争優位を発揮させることは可能になります。続きは次回にまわしたいと思います。


9/18/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスii

前回の続きで、今回はマーケティングプランニングシステムの「2. 状況確認/Situation Review」についてです。(2. 状況確認/Situation Reviewは、「2.1 マーケティング監査」と「2.2 SWOT分析と課題特定」で構成しています)

2.1のマーケティング監査では、デスティネーションのパフォーマンスに影響を与えるものを広く体系的に検討します。定期的に行うことの重要性を考え、「監査」という言葉を用いました。日本ではあまり見かけないかもしれませんが、欧米ではふつうに使われている用語です。フィリップコトラーは、大著マーケティングマネジメントの中で、次のように述べています。

マーケティング監査とは、問題のある分野と事業機会を特定し、起業のマーケティングパフォーマンスを改善するための活動計画を推奨する目的で、企業または事業単位のマーケティング環境、目的、戦略及び活動に対して包括的、系統的、独立的、定期的な調査を行うことであるとしています。

コトラーは監査のような徹底した調査の実施を奨励し、行う際には、監査の鉄則として、当該組織のマネージャーから聞きとりを行うだけでなく、顧客と取引先など外部の意見も必ず求めるべきとしています。

ツーリズムはステークホルダーの多さに加え、小規模事業者が多いことから、マーケティング監査を行う意味合いが大きいといえるでしょう。というのも、ツーリズム産業に限らず、産業共通で散見されることに、相対的にいって、事業規模が小さい企業/事業体ほど目的や目標の設定が曖昧だったり、パフォーマンスを評価し改良するためのやり方や手順がはっきりしていません。そればかりか、見直しを行うことさえない場合もあるなど、いつまでたっても同じ誤った(もしくはどうやっても効果など出しようもない)やり方を続けていることがあるためです(ただ、大企業でも、適切な仕組みを持たない企業を筆者は何度も見てきましたが・・・)。

マーケティング監査は2つの柱で構成するのがわかりやすいと思います。ひとつめの柱は今、実践していることが効果・効率よく行われているかを検証します。他方は、そもそも当該デスティネーションの競争環境や業界構造がどうなっているか、内部資源の状況たとえば模倣困難性などを検証します。このブログでは、前者をプログラム監査、後者をストラテジー監査と呼ぶことにします。どちらの監査から始めるのがよいか、正解はありませんが、ふつうはストラテジー監査から行うのが一般的でしょう。

ストラテジー監査は、3つの項目で構成します。第一に業界の競争構造、第二に業界における自身(当該デスティネーション)の競争ポジション、第三に自身の内部資源の希少性と模倣困難性です。

業界の競争構造は、マイケルポーターのファイブフォース(5F)に、PESTを併用して現況を把握します。ただ、業界の捉え方には少し工夫が必要でしょう。デスティネーションを基点に、ツーリズム/観光業界とするのでも構いませんが、かなり幅広い対象となり、工夫を凝らさなければ焦点がぼやけてしまう可能性があります。そのため5F分析をした後に、それで何なの?とか、そんなことわかりきっているじゃないかとなりかねません。そこで、市場を細分化して、該当する業界をより詳細に定義できれば、競争要因の状況や要件などが絞り込めるでしょう。たとえば、欧米からの観光客とか、国内の遠方から列車で訪れる(首都圏から近畿圏に来るような)高齢の観光客、宿泊をする観光客、神社寺院仏閣を見に来る観光客など、いろいろ考えられると思います。(但し、この場合は「業界」の競争構造という言葉は変更したほうがしっくりくるかもしれません)

業界における競争ポジションは、おそらくコトラーのマーケットポジション分析の枠組みを参考にするのが良いと思います。内部資源については、ジェイバーニーのVRIO(ブリオ)を活用します。続きは、次回とさせていただきます。


9/08/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスi

ツーリズム産業にはステークホルダーが多く、業種や職種も多岐にわたります。そのため、マーケティングプランを策定する際は、できるかぎりよく知られている手法を用いて、全体構成をわかりやすいものにすることが重要です。さもなくば、ステークホルダーのエンゲージメントを上げていくことは難しいでしょう。

また、策定プロセスをひとつのシステムとして捉え、繰り返し活用できる(アセットとして活用できる)ものにすべきで、ステークホルダーの誰もが策定に参画(またはレビュー)できるようにしておくことも必要だと思います。

ツーリズムにおけるマーケティングとは何か。デスティネーションと消費者(観光客ほか)双方の目的を達成するために、デスティネーションが提供するモノやコトと、消費者のウォンツをマッチングする機能だといえるでしょう。マーケティングのプランニング全体のながれ(マーケティングプランニングシステム)は、以下のようになります。

1. ゴールセッティング

1.1 ミッションステートメント

1.2  パフォーマンスサマリー

2. 状況確認/Situation Review

2.1 マーケティング監査

2.2 SWOT分析と課題特定

3. マーケティング戦略策定

3.1 マーケティング仮説

3.2 マーケティングの目的と戦略

4. リソース配分とモニタリング

1のゴールセッティングが、プランニングプロセスで最も難しいものかもしれません。言うまでもなく、マーケティング戦略は一貫していなければなりません。ぶれないようにするためには、何よりプランニングの最初のステップで、デスティネーションのゴールをしっかり定めておくことです。そのためには、次のような問いに答えられる必要があるでしょう。たとえば、

  • 我々(デスティネーション)は何者か。
  • 我々が、他のデスティネーションより優れている点は何か。
  • 我々が目指す方向は何処か。

このような問いは、ミッションステートメントを作ることの助けになるはずです。もしミッションという言葉がしっくりこないようであれば、パーパスステートメントと呼び変えてもよいでしょう。ミッションとは、通常、事業者(ここではデスティネーション)の存在目的と事業を表現しているもののことを指します。前者の存在目的はやや抽象的なもの、後者の事業は具体的な部分となり、この2つが合わさったものが、ミッションステートメントになります。少し余談になりますが、日本企業の場合、存在目的を経営理念(もしくは企業理念)、事業をドメイン(事業領域)として、別々に表すことが珍しくありません。

具体的には、次のようなものを1ページ程度に記載しておくことがよいだろうと筆者は思います。

  • マーケティングの役割または貢献(以下のいずれかについて具体的に記載)

売上げ/利益、もしくは提供サービス、或いは機会探索 

  • マーケティング活動の定義(同上)

活動がもたらすベネフィット、もしくは、

活動をとおしてデスティネーションが獲得できるもの

  • 傑出したコンピタンス(具体的に記載)

成功に必要なスキルやケイパビリティ(競合を凌いでいると考えられるもの。もし競合を上回るものがなければ、それは傑出した強みということにはなりません)

  • 将来への示唆(同上)

マーケティングがすること

マーケティングがするかもしれないこと

マーケティングが決してしないこと

ところで、しばしば混同されるものに、ビジョンとバリューがあります。ビジョンとは事業者の願望を表現しているもののことをいい、バリューはその事業者の価値観を表しているものになります。

Hawaii Tourism Authority(ハワイ州観光局)は、ミッションを次のように述べています。

Our mission is to strategically manage Hawai‘i tourism in a sustainable manner consistent with economic goals, cultural values, preservation of natural resources, community desires and visitor industry needs. (出所: https://www.hawaiitourismauthority.org/who-we-are/)

We aim to manage tourism in a way that helps improve the quality of life for residents and communities across the state. Our marketing now includes teaching visitors to be responsible, with the goal of sustainable tourism.

HTA supports the United Nations 17 Sustainable Development Goals (SDGs), and the UN 2030 Agenda for Sustainable Development. HTA is promoting the visitor industry in alignment with the Aloha+ Challenge.

Our measures of success are: visitor satisfaction, resident sentiment, per person per day spend, and total visitor expenditures.

マーケティングマネージャーは、消費者がデスティネーションの4P特にフィジカルプロダクトからどのような体験や経験をしてもらいたいのかを考え、評価の視点(KGI,KPI)を決める必要があります。ゴールなきところに戦略は存在せず、ましてや戦術などあるはずもないからです。プランニングは、具体的なゴール達成に向けたものでなければなりません。


9/01/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ①プリンシプル

デスティネーションにおけるマーケティング活動の重要性は、どれだけ強調しても足りないくらいでしょう。ツーリズムにおけるマーケティングのプリンシプル(原理・原則)には、以下のようなものが挙げられます。

A. デスティネーションの成否は、顧客のニーズとウォンツに基づく。

B. デスティネーションにはライフサイクルがあり、6つのステージで構成される。

C. デスティネーションが大きな成功をおさめるには、マスマーケットを狙うのではなく、市場を細分化し、具体的なターゲット層を設定する。

D. デスティネーションのマーケティングミックスは、古典的な4P(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション)だけでは十分とはいえず、他の要素を加えたものを適用する。

Aについて、異論を唱える人はいないでしょう。ニーズ(必要性)は目的、ウォンツ(欲求)は目的達成の手段、たとえば前者は喉が渇いたので潤したい、後者はミネラルウォーターを飲みたいとなり、ウォンツに実際に支払える購買力が伴うと、デマンド(需要)になります。

ここで注意しなければいけないことは、顧客とは誰にとっての顧客かということです。顧客には、一般のレジャー客もいれば、ビジネス客もいます。ビジネス客であれば、個人だけでなく、法人や行政機関などの団体客も存在します。ほかにも、地域住民も顧客になりうるでしょう。

Bついては、プロダクトライフサイクル(導入、成長、成熟、衰退)のような知名度、浸透度はありませんがツーリズムのライフサイクルとして、1980年にR.W.バトラーが、デスティネーションの成長を6つのステージで表したものがあります。

1. 探検/Exploration

2. 参加/Involvement

3. 発展/Development

4. 完成/Consolidation

5. 停滞/Stagnation

6. 衰退/Decline、または再生/Rejuvenation

Cについては、ポジショニング理論を含めて、別枠で述べることにしたいと思います。

Dは、先述のツーリズム4P(ツーリズム (2)プロダクトとしてのデスティネーション ①4つのP)で、フィジカルプロダクト、プログラム、パッケージ、ピープルについて述べました。ほかにも、サービスマーケティングの観点であれば、8つのPというものがあります。

Product elements/サービスプロダクト

Place and time/場所と時間

Price and other user outleys/価格とその他のコスト

Promotion and education/プロモーションと教育

Process/サービスプロセス

Physical environment/物理的環境

People/人

Productivity and quality/生産性とサービス品質

ラブロックとウィルツは、サービスマーケティングの8Pを、8人の選手がオールを漕ぐシェルボートのレースに例え、統合による相乗効果がなければ、サービスの競争には勝てないと述べています。このサービスマーケティングの8Pをはじめ、サービスマーケティング&マネジメントについては、いずれ詳細にとりあげていきます。次回からは、マーケティングのプランニングについて述べていきたいと思います。


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...