3/25/2024

SMM (1)サービスの種類と特性 ③無形の行為

今回は、サービスプロダクト4つのカテゴリーの残り2つ「無形の行為」について、述べたいと思います。(前回の「有形の行為」はこちら)

無形の行為で人の心に作用するサービス

教育、心理療法、情報通信、娯楽/エンターテインメント、広告宣伝のように、顧客に情報提供や専門的なアドバイスをすることで、顧客の心に働きかけるこれらのサービスは、その提供過程で、顧客の態度、言動、行動などに影響を与えます。このカテゴリーにおけるサービスでは、顧客は必ずしもサービスの現場にいる必要はありませんが、顧客はサービスを受ける一定の時間、我慢や忍耐、精神面での努力を強いられることがふつうです。

本来、サービス提供側には高い倫理観が求められる一方で、サービス受領側には一種の鍛錬や訓練、高度な理解と実行力が、多くの場合必要になります。一例として、ラブロックとウィルツは、旅客輸送では顧客は眠っていてもサービスの目的は達成される(目的地まで到着できる)が、教育では顧客が眠っていては、求める知識は何も得ることができないといっています。

経営コンサルティングについては、情報に作用する分野に属するサービスとの見方もできると思います。実際、ラブロックは人の心に作用するサービスと情報に作用するサービスは明確に区分できないことがあるとしています。ただ、ラブロックが経営コンサルティングを人の心に作用するサービスに分類したのは、本来の経営コンサルティングの姿、あり方からすれば、こちらのほうがより適切と判断したからでしょう。ただ、昨今の経営コンサルティングと呼ばれているものには、システム導入やデジタル武装といったものが多数含まれ、本来のコンサルティングとはかけ離れたサービスになっている感が多分にあるように思います。

無形の行為で情報に作用するサービス

投資顧問等含む金融、法律、会計、調査、データ処理、プログラミングといった情報に作用するものは、各専門家が専門知識を用いて、情報を処理し、処理した情報を顧客に、媒体(CD-ROM、DVD、レポート、出版物等)を介して提供しています。サービスのアウトプットとしての情報の品質や精度は、他の3カテゴリーとは異なり、分かりづらい側面があることは否めないでしょう。

ここまでサービスの4つのカテゴリー(有形の行為で人に作用するもの、有形の行為で物に作用するもの、無形の行為で人の心に作用するもの、無形の行為で情報に作用するもの)について述べてきました。このカテゴリー分類は、主に、サービスの有形・無形の程度、サービスが生産され提供されるプロセスにおける顧客の関与の度合い、サービスを受け取る場所や時間の違いなどをもとに分類されたものです。

この分類に沿って、自社が属するカテゴリー内の他の業種や業界を参照することで、優先して解決したほうがよい課題の選定や、その課題解決の打ち手、さらには一歩先を行くようなサービスの戦略やオペレーションなどについて、きっかけやヒントを掴むことができるといえます。次回は、サービスの構成要素について考えてみたいと思います。


3/18/2024

SMM (1)サービスの種類と特性 ②有形の行為

今回は、前回のサービスマーケティングマネジメント(SMM)述べたサービス業における4つのカテゴリーのうち、有形の行為を対象とした2つのサービス(人に作用するサービス、物に作用するサービス)について考えたいと思います。

有形の行為で人に作用するサービス

このカテゴリーは、多くの人がサービス業と聞いてすぐに連想するもので、サービス業の典型といえるタイプです。飛行機や鉄道、タクシーなどの旅客輸送、レストランやホテルなどの飲食・宿泊、健康増進を目的にしたフィットネスセンター、理容や美容・ネイルサロンなど、そして高齢者施設等含めた医療・福祉などが代表的なものでしょう。

これらの業種に共通することは、顧客自身がサービスプロセスを構成するということです。顧客は、多くのケースにおいて、提供されるサービスを受け取るために、それらの施設へ直接出向く必要があり、その場所でサービの提供と受領が同時に行われます(自宅などへサービス提供者が訪問しサービス提供を行う場合、たとえばプロの調理人が顧客の指定する場所たとえば自宅などで料理を作るとか、髪をセットするということもありますが、こういったケースはここでは例外的なものとして扱います)。

顧客はサービスから得られる対価、自分が十分納得できるベネフィットを得たいのであれば、積極的にサービスオペレーションに加わらなければなりません

業種が多岐にわたるこのカテゴリーでは、顧客がサービスを享受する時間はまちまちです。たとえば、飛行機で米国本土へ行く場合であれば最低でも10時間はかかるでしょうし、国内線であれば1時間程度で済む場合も珍しくありません。女性が美容院へ行く場合などは、カットとシャンプーだけであれば1時間くらいかもしれませんが、ヘアダイをしてパーマをあて、ネイルチェックなどまでするようだと、(詳しくは知りませんが)5時間くらいは、その場所を占有することでしょう。フィットネスセンターなども、取り組むプログラムによってまちまちでしょう。 

ホテルなどは、さらにバリエーションが広がります。同じシティホテルでも、宿泊だけの人もいれば、飲食もそこで全て済まし、ジムやプールなども使い、仕事もそこで行って、何日も滞在するとなると、顧客はチェックインからアウトまで、終日ホテルのサービス提供プロセスに関わっていることになります。長時間、しかもその顧客のリピート需要が期待できるビジネス客であれば、サービスプロセスと各サービスの成果を、事前に推測したり、できれば測定するなど、広く検証、検討しなければなりません。顧客が得られるであろうサービスベネフィットは、顧客が支払う代金以外に、顧客が費やす時間に見合うものかどうか、精神、肉体の面においても考える必要があるはずです。

製造業以上に、サービス業、特に有形無形問わず人に作用するサービス業においては、サービス提供者は、サービス利用者の気持ちや満足感などを推し量るのが難しいことが多くなるのが特徴で、それが高額なサービスや高付加価値を生み出すものになれば、尚更だといえるでしょう。

有形の行為で物に作用するサービス

このカテゴリーは、顧客がサービス提供の場に居合わせることは少なく、サービスの生産と消費が別々に行われるのが特徴で、この点において上記の人に作用するサービスとは大きく異なります。貨物輸送、倉庫、修理やメンテナンス関連、清掃やクリーニングなどは、まさにそういった業種になります。同じ輸送でも、旅客のほうは顧客が運ばれるわけですが、貨物のほうは顧客が依頼した物が運ばれるわけです。

小売については、オフラインであればサービス提供の場にいることがふつうですが、オンラインの場合だとサービスの現場にいることはありません。造園・園芸については、剪定(センテイ、樹木の枝を切り取ること)を行う場合、サービス提供と受領の両者が、現場に一緒にいることはありますが、それも通常、限定的です。

このように、有形の行為で物に作用するもの(有形資産を対象とするサービス)は、サービスは物の生産工程と同じようなものと捉えることができるでしょう。サービスの生産と消費は別々に行われることとなり、顧客がサービスプロセスに直接関与するというのは、かなり限定的といえます。

無形の行為については、次回にしたいと思います。



3/11/2024

SMM (1)サービスの種類と特性 ①サービスの定義と4つのカテゴリー

(Reflectionsではしばらくの間、サービスのマーケティングとマネジメントについて取り上げていくことにします。SMMは、Service Marketing & Management/サービスマーケティングマネジメントの略語になります。)


私たちはサービスという言葉を様々な意味で使っていますが、このブログでは、市場における売り手と買い手の価値交換の行為で、本質的に無形であり且つ購入者に所有権をもたらさないものと定義します。その上で、私たちは誰もが、期待通りの結果を求めてサービスを購入しているということを前提とします。

総務省統計局のサービス業基本調査項目を参考にすると、サービス業には、情報通信業、不動産業、飲食・宿泊、医療・福祉、教育・学習支援、協同組合の複合サービス事業、これらに加えてその他サービス業、たとえば学術・開発研究機関、洗濯、理容・美容、娯楽、廃棄物処理、自動車整備、機械等の修理、物品賃貸、広告、専門サービス(法律、会計、調査、経営コンサルティング等)といったものがあります。

ほかにも、金融、輸送・倉庫、卸売、小売といった業種もサービス業に含めることができ、実際、米国のGDPを構成するサービス業の内訳には、これらがカウントされています。

サービスマーケティング研究のパイオニアであるクリストファー・ラブロックによると、サービスはサービス行為の性質とサービスが提供される対象によって、4つのカテゴリーに分けることができるとしています。


  • 有形の行為で、人に作用するもの(人の体を対象とするサービス)

旅客輸送、飲食・宿泊、理学療法、フィットネス/トレーニング関連、医療・福祉、理容・美容、冠婚葬祭関連

  • 有形の行為で、物に作用するもの(有形資産を対象とするサービス)

貨物輸送、倉庫、修理やメンテナンス関連、清掃やクリーニング、廃棄物処理、卸売、小売、造園・園芸

  • 無形の行為で、人の心に作用するもの(人の心を対象とするサービス)

教育、心理療法、情報通信、娯楽/エンターテインメント、広告宣伝、経営コンサルティング

  • 無形の行為で、情報に作用するもの(無形資産を対象とするサービス)

投資顧問等含む金融、法律、会計、調査、データ処理、プログラミング


サービス業は、製造業(業界問わずモノづくり関係する業種)と異なり、顧客がサービスの生産プロセスに関わることが多い。また、提供されるサービスの手順が、顧客によって違いが生じる可能性があるため、サービス提供事業者の経営企画やマーケティング、営業/販売といった部署に関係する人たちは、サービスが提供されるまでのプロセスを把握する必要があります。

本来、サービス業も製造業同様に、オペレーションを、事業規模の大小や全国・ローカル等の展開問わず、決められた作業手順で、チェックや管理含めて厳格に行わなければなりません。それができていないために、最近の例でいえば(あまりにも低いレベルの例ですが)、季節外れの食中毒などが、有名無名問わず、頻発しているといえるでしょう。

ラブロックは、上述の4カテゴリーに属する業種はそれぞれが異なるものでも、サービスプロセスに重要な共通点があると指摘しています。故に、同一カテゴリーに属する業種の人たちは、それぞれの業種を学ぶことで貴重な発見が得られるとも述べています。

次回は、その4つのカテゴリー特性について、述べていくことにしたいと思います。


3/03/2024

ブランディング (3)セグメンテーション ④実行の成否を左右するポイント

セグメンテーションは、次のステップであるターゲティングにつなげることが必要です。そのためには、セグメンテーションの段階から、ターゲティングしていく先(落としどころ)を、漠然としたものでもいいので、イメージしながら行っていくことが重要です。

一般的にいえば、変数は主に以下のようなものになるでしょう。

  • 地理的/ジオグラフィック変数(居住地、気候、地域特性や都市化の進展度)
  • 人口動態/デモグラフィック変数(性別、年齢、家族構成、所得、職業)
  • 心理的/サイコグラフィック変数(社会的階層、ライフスタイル、性格)
  • 行動/ビヘイビアル変数(購買経験の有無など過去の購買状況、ヘビー・ライトなどの使用頻度)


このような変数を組み合わせて、攻略したいターゲットセグメントを考えていくわけですが、その際、以下の点は必ずおさえて行わなければいけません。それは、(3)セグメンテーション①主旨と要件に記載した5つの可能性です。

当該セグメントは、

  • 規模と潜在購買力が測定できるか(測定可能性)
  • 最低限の売上げと利益を獲得することができるか(維持可能性)
  • 当該セグメントに働きかけることができるか(到達可能性)
  • 自社の経営資源でうまくアプローチすることができるか(実行可能性)


米国MBAの古典的なケースに、ブルドーザー市場のキャタピラー社とジョンディア社のスタディがあります。大企業のキャタピラー社と競っていたジョンディア社は、地域ディーラーネットワーク・低価格・サービスサポートの3つを武器に、小型ブルドーザー市場にマーケティング資産を集中させ、自社のマーケットポジションを確立しました。このスタディで重要な点は、大型と小型のブルドーザーでは、顧客企業の要求が異なることから、ジョンディアにとって独自のセグメンテーション、つまり差別化可能性を成立させることができたということです。

大半の市場において、セグメンテーションをプロダクトの用途と顧客が求めるベネフィットに基づいて行えば、有益な結果は得られます

そもそもセグメンテーションは、潜在顧客のうち同じような属性を持ったグループを識別するために行うものです。ですが、セグメンテーションは単に市場の異質性を認識するだけの手段ではありません。セグメンテーションは、あるマーケティングミックスで、見込み客を、同じように反応する幾つかのセグメントに切り分け、効果的で効率的なマーケティング戦略を立案する視点を与えるものであり、また、そうでなければ良いセグメンテーションとはいえないでしょう。

ところで、セグメンテーションはマーケティングの中心的なトピックであるにも関わらず、あまり適切に行われてこなかったのではないでしょうか。冒頭でも記したとおり、セグメンテーションはターゲティングにつなげていくために行うものです。どれだけ、どこまでセグメントしていくのが適切かは、当事者の考え方次第です。プロダクトの提供者がターゲットのイメージを、何処まで具体的に(想像力を駆使して)行っているかで、セグメンテーションの成否が変わってくるといえるでしょう。つまり、事前の仮説が非常に重要になってくるわけです。

プロダクトの提供者は、狙いたい単一のセグメントを選択し、ほかのセグメントに対しては有効でないマーケティングミックスを行うのか、或いはセグメント毎にニーズが異なっていようとも、セグメント全体に対して有効であろうマーケティングミックスを行うのか。ざっくりいって、このどちらかしか方法はありません。というのも、セグメント毎に、リソースを分散して投下できるような体力のある企業、しかも策は必ず的確に打てる、そういったことができる企業は極めて少数(または皆無?)だからです。

多くの企業が、規模の経済を得たいと思っています。この場合、ひとつの同じマーケティングミックスで、効率よく行いながら、可能な限り多くのセグメントに訴求し、できる限り多くの顧客を惹きつけていく、そういった大規模な企業集団が存在します。ですが、セグメントを絞り込み、それに適したマーケティングミックスを行う企業が突如として現われたとしたら、先の企業集団にとっては脅威な存在として映るはずです。

セグメントするかしないか、するのであれば何処までセグメントするのが適切かといったことは、異質な市場において共通のニーズがあるかどうかが検討の前提となり、そのうえで規模の経済と複数のマーケティングミックスを用いる場合のコストのバランスが問題となります。

たとえば、B2C市場における小麦粉や食用油などの食料品、肌着・靴下などのインナーウェア、防虫剤などの日用雑貨品等々、所謂コモディティ化した消費財関連の商品などの需要は、多くの場合、極めて同質的といって差し支えないでしょう(とはいえ、筆者は食用油や肌着類などはかなり拘っているのですが・・・)。

このため、各企業が提供する製品は、同じようなものに収斂していき、各社いずれもできる限り幅広い顧客を惹きつけられるマーケティングミックスを行うことになります。こういった製品カテゴリーにおいても、セグメント市場は存在するでしょうが、それぞれ別個に対応しなければならないほどの違いや必要性といったものは、存在しないといえるでしょう。少なくとも、各市場における主力企業にとっては、そのはずです。(B2B市場については、顧客の要望に合わせカスタマイズした商品とサービスは、上記のようなB2C市場のものとは異なります)

但し、マーケットシェアの小さい企業や事業規模が大きくない企業などは、セグメントすることで、シェアを拡大させたり、新たに参入する機会を獲得するといったことが珍しくありません。それ故、こういったタイプの企業は特に、まずは市場をセグメントしてみることで、大きなビジネスチャンスのヒントをつかめる可能性があるといえるでしょう。


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...