4/24/2024

SMM (2)サービスの構成要素 ③サービスマーケティングミックス

モノのマーケティングでは、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の4つの基本項目を組み合わせて、売れるように考えていきます。これがモノのマーケティングミックス、所謂オーソドックスな4Pです。

サービスの場合は、その特性に合わせて、上記の4Pを、

1. サービスプロダクト(service Product)

2. 価格とその他の支出(Price and other user outlays)

3. 場所と時間(Place and time)

4. プロモーションと教育(Promotion and education)

として、これに、

5. 人(People)

6. 物理的環境(Physical environment)

7. サービスプロセス(service Process)

8. 生産性とサービス品質(Productivity and quality)

の4つのPを加えて、8Pで検討します。

これは、当初コトラーが最後のPを除いた7Pでサービスマーケティングの特性を説きましたが、クリストファー・ラブロックが新たに8番目のPである生産性とサービス品質を加えて提唱したものです。その8Pとしてのサービスマーケティングミックスの概要は、次のとおりです。


サービスプロダクト

サービスを提供する環境全てをひとつのトータルパッケージとして捉えた場合に、その中核をなすのがサービスプロダクトです。サービスプロダクトは、サービス提供者が顧客の要望に応えるために、前もって計画した活動全般を指します。詳しくは「SMM (2)サービスの構成要素 ②4つの要素」を、一覧ください。

価格とその他の支出

価格は、サービス提供に係るコストに利益を上乗せしたものであり、顧客が実際にそのサービス提供企業に対して支払う対価です。その他の支出というのは、顧客がそのサービスを受けるためにかかる費用、たとえば交通費であったり、飲食代などが該当します。また、そのサービスを受けることに伴う精神的ストレスや肉体的負担といった不快感などを、その他の支出に含めて考慮することもあります。この「その他の支出」については、サービス提供側はどうしても忘れがちになるため、顧客の側に立って考えることが必要です。

場所と時間

サービス提供には、提供するための場所が必要です。時間は、サービスの場合、所有権の移転を伴わないため、時間が重要な要素になってきます。 

たとえば、温泉旅館のチェックインとアウトの時間などは、分かりやすい例といえるのではないでしょうか。15時にチェックインし、露天風呂付客室に宿泊したとします。翌日のチェックアウトの時間が、10時と11時ではどちらが宿泊客にとってうれしいでしょうか。朝早く出ていく必要がない限り、朝食後にでも、もう1回部屋にある温泉の露天風呂に入りたいと思う人が多くいるのではないでしょうか。ほかのものが殆ど同じ条件で、一方の旅館は11時チェックアウト、他方が10時であれば、多くの人は迷うことなく前者を選ぶでしょう。

プロモーションと教育

プロモーションと教育が対になっているのは、顧客、特に潜在顧客を啓発する必要が多くあるためといえます。ここでいうプロモーションは、モノの場合とやや異なり、もう少し広い概念で捉える方がよいかもしれません。 

プロモーションは、サービスマーケティングの重要なコミュニケーション手段です。なかでも顧客との共同生産の側面が強い医療・福祉などでは尚更です。サービス提供の場所と時間をはじめ、サービスプロセスへの効果的な参加の仕方を周知させることが多々あります。このような理由から、プロモーションは教育とセットで考えるのが適切だといえるでしょう。

サービス業における人の重要性に異を唱える人はいないはずです。どれだけ技術革新が進もうとも、多くのサービス業では顧客とサービススタッフの直接的なインタラクションはなくならないでしょう。人によって、顧客が知覚するサービス品質に大きな差が生まれることは珍しいことではありません。サービススタッフの良し悪しは、顧客の満足度に大きな影響を与えます。 

ここでいう人は、 サービス企業の従業員だけを指しているわけではありません。顧客が別の顧客に影響を及ぼすことも少なからずあります。良いケースもありますが、クレーマー、モンスタークレーマーの存在などは、サービス環境自体を破壊する可能性もあるため、顧客もサービスマーケティングミックス8Pの人に含まれることになります。

物理的環境

建物の外観や内装、乗り物や駐車スペース、AV機器や媒体物(新聞・雑誌、各印刷物等)、各種備品、サービススタッフの制服などが、物理的環境に該当します。これらの視覚的な要素が、顧客の印象を左右するため、サービス企業は物理的な環境に十分注意しなければいけません。

サービスプロセス

プロセスの重要性についてここであらためて触れることはしませんが、サービスのプロセスでは、インプットとアウトプットを合わせた活動全体のながれに、サービスプロセスへの顧客の参加の程度を考慮する必要があります。サービスプロセスは、従業員の生産性や効率性を自ずと規定してしまうため、非常に重要な要素です。不十分なプロセスの定義は、サービス業の場合、従業員のミスを誘発します。

一見して同じようなサービスプロダクトを競合他社が提供している場合などは、サービスプロセスをより慎重に検討・設計することが重要です。十分に練られたサービスプロセスに沿って、提供されるサービスデリバリが、競合と大きな差を生むことはごく当たり前のこととして存在しています。

サービス品質と生産性

全ての製造業にとって、品質と生産性が非常に重要であることに異論の余地はありません。ですが、モノのマーケティングの4Pには、品質と生産性は含まれていません。サービスのマーケティングミックスにこれを含める理由は、サービス5つの特性に起因しているからでしょう(SMM (3)サービスの特性 ①無形性と同時性②同、異質性、消滅性、顧客との共同生産)。 

サービスには形がなく、人を介して生産と消費が同時に行われるため、サービスの品質には差が生じます。多くのサービス企業は営利企業であるため、品質は高めていきながら、生産性を向上させて、コストを下げることが必要です。サービス品質の向上は、マーケティングの観点からも競争を勝ち抜くうえで欠くことのできないものであるため、品質と生産性をセットで考えることが不可欠であるということになります。


4/20/2024

SMM (3)サービスの特性 ②異質性、消滅性、顧客との共同生産

前回は、サービスの無形性と同時性について述べました。今回は、異質性、消滅性、顧客との共同生産についてです。

サービスの異質性とは、サービスの品質がいつも同じではなく、差異が生じることを意味しています。サービスは、提供する従業員、顧客、サービスが提供される場所や時間などの要件次第で、差異が生じるリスクがある、というか大半のサービス業では、差異が生じてしまいがちです。

異質性が生じる要因には、様々なものが挙げられます。但し、サービスプロセスが整備されていないとか、サービスの物理的環境が衛生的に問題があるといったようなことは、サービス提供以前の問題のため、こういった類いのものを外せば、異質性の主な要因には、次の3点が挙げられます。

サービス提供者が人間である以上、精神的、肉体的に、毎日同じように行動するというのは難しいと思います。ミスをすることもあるでしょうし、少し不機嫌な気持ちで仕事に向かうこともあるでしょう。人間はロボットではないからです。また、人間には個性、性格の違いがあるから尚更です。レストランでも、高級になればなるほど、スタッフの違いが目立つように思います。同じ職務についていても、まったく同じように、たとえば、感じがいいということはありえないでしょう。スタッフに対して基本的なトレーニングが終了しているレストランで、そこのマネージャーができることは、スタッフ全員の振舞いを良い方向に持っていけるように、環境を整備することことくらいしかできないかもしれません。

ふたつめに、サービス提供者以上に多様な顧客が、異質性の主たる要因です。顧客の性格、顧客のその日の気分に加え、顧客の言動が別の顧客の行動に影響を与える場合があることなどから、顧客は異質性の主たる要因となります。

様々な外的環境もサービスの異質性をもたらす大きな要因になります。天候が商業施設の入場者数に影響を与えることはよくあることです。その商業施設内で、行列ができる店とできない店では、商品の売れ行きに影響がでるでしょう。小売店舗であれば、行列ができる店は繁盛している証明にもなるため、更なる行列をよびます。一方、銀行などで行列ができる窓口やATMなどでは、客足が遠のくかもしれません。このように、外的環境が、顧客の受けるサービスに大きな違いを生じさせます。こういった外的環境を、サービス企業が自らコントロールすることは容易ではありません。

サービスの異質性を極力なくし、品質の均一化をはかるためのひとつの策として、サービスの工業化、IT化、ロボットやAIによる代替などがあります。実際に、ロボットをフロントに導入しているホテルがあります。食品スーパーやコンビニでも近々で珍しくなくなることでしょう。自動運転によるタクシーも登場しつつあります。いずれ、医師や看護師なども、人手不足の解消や人件費の削減などの観点から、ロボットなどに代替されていくことになるかもしれません。


サービスの消滅性については、生産と消費が同時に行われるため、生産するそばから消滅していきます。サービスが無形であるということは、物と違って、在庫ができません。これが消滅性といわれている所以です。生産されたサービスや生産準備にあるサービスは、消費されなければ成立せず、価値を生みません。生産されたサービスの分かりやすい例は、空席がある状態で運行する飛行機が挙げられるでしょう。生産準備にあるサービスであれば、たとえばランチタイムに、(当初の期待や予想と異なり)お客が入らないレストランなどが挙げられます。このように、消滅性は、サービス企業に需給調整を強いることになります。


顧客との共同生産については、サービスの種類と特性①サービスの定義と4つのカテゴリー②有形の行為③無形の行為によって異なります。人を対象にするサービスは総じてサービスの同時性が高く、そこでの顧客の役割が大きい場合は、顧客との共同生産の特性をさらに強めていきます。レストランで注文を尋ねられたら答えるとか、支払いを要求されたら直ちに精算するといったものであれば、顧客は最小限の役割しか果たしません。

ですが、顧客の役割が大きくなるケース、たとえば医療・福祉の場合などは、その典型といえるでしょう。顧客が積極的にサービス生産に参加しなければ、事態の改善や相手による状況把握・診断といったものは難しくなります。

顧客がサービス生産に関与する度合いが高まれば高まるほど、顧客はサービスプロセスに影響を与える可能性が高まります。顧客が正しく関与せず、サービス生産がうまくいかないこともあるのを想定すれば、サービス企業は、顧客を顧客としてみるのではなく、サービスのプロセスとアウトプットにおける品質と生産性を左右する部分的な従業員と捉える必要があるのかもしれません。部分的従業員であれば、顧客としての存在以上に、もっと積極的に教育をしていくことができるでしょうし、また、それが必要ともいえます。

たとえば、顧客に対して、はじめに果たすべき役割とタスクを説明しながら、具体例をケースで明示する。次に、サービス生産の過程において、役割とタスクを理解して実行できているかを確認しながら、状況に合わせて叱咤激励する。その後、顧客のパフォーマンスを評価し、フィードバックを与えながら、モチベーションの維持・向上に努める。最後に、パフォーマンスが良好であれば継続してサービスを生産・消費し、悪ければサービスの共同生産をとりやめ、やめて頂くといった具合です。

多くのサービス企業で、ある程度そういったことはやっている感はあると思いますが、もっとそれを強めていってよいというか、強めていくべきでしょう。相手の常識や良識に期待するといった思考や行動は、もはや通用しないと考えるべきです。ほかのちゃんとやっている顧客や、サービススタッフに迷惑をかけるというような生易しいものでなく、損失や損害を与えることにつながるからです。

そもそも一番最初に、サービス企業が共同生産について顧客に説明し、仮に顧客が必要な役割を正確に理解できないとか、タスクを実行しそうにもない場合、そういった部分的従業員については、はじめから採用しないというのが正しいやり方です。つまり、マーケティングは、予めサービスの共同生産ができそうな自社にとって潜在的に質が良い顧客を探していくことに資源を集中させることが、すべき重要なことになってくることになります。


4/14/2024

SMM (3)サービスの特性 ①無形性と同時性

サービスの特性には、無形性、同時性、異質性、消滅性、顧客との共同生産の5つを挙げることができます。

無形性は、サービスと物の違いを最もよく表す表現です。あらゆるサービスが等しく無形であるというわけではありませんが、物質的な実体がないという点では同じと言えるでしょう。

サービス品質を測定する尺度としてよく知られるSERVQUALを開発したヴァラリー・ザイスハムル(Valarie A. Zeithaml、米国ノースカロライナ大学チャペルヒル校のディスティングイッシュト・プロフェッサー)は、品質を、探索、経験、使用の3つに区分しています。

探索品質とは、購入前に評価できる品質のことで、価格、色、感触、匂いなどをが該当します。洋服であれば形や色などで、香水であれば匂いを嗅ぐことなどによって、その品質を判断し、商品を選択するとしています。

経験品質は、購入後、または消費する段階で認識できる品質のことを指します。たとえば、理容や美容などは、髪をカットしてもらった後にしか、良いか悪いかが分からないという例が挙げられます。

使用品質は、購入後、または消費した後ですら、評価できないこともある品質のことを指します。使用品質と経験品質の区分には個人差があるものの、車の修理工場でブレーキが調整された具合を、多くの人は評価することが難しいといった例が挙げられます。

この3つの品質のうち、サービスの無形性には、経験品質と使用品質が重要な要素になるといえます。というのも、顧客は消費前に、サービスを評価することができません。このため、サービス企業は顧客に対して、サービス提供プロセスへの参加をとおして、顧客が何を得られるのかをできる限り具体的に提示することによって、購入前のサービス評価を可能にすることができるようになります。ちなみに、昨今、口コミが完全に定着したのは、こういったことも関係しているといえるのでしょう。これは、無形のものを、口コミをとおして謂わば有形化し、顧客が評価できるように支援しているというように解釈できます。


このようにサービス企業は、無形のサービスプロダクトに関して、有形的な側面に焦点をあて、有形要素を抽出することで、顧客に分かりやすく、場合によっては安心感を購入前に与えることで、自社プロダクトの消費を促進させることが必要になるといえます。


サービスの2つ目の特徴は、物はその生産後に消費されますが、サービスの場合は生産と消費が同時に行われるということがあります。顧客は自身が受けるサービスの生産過程に関与し、生産と同時に消費します。但し、同時性の程度は、サービスの種類によって異なります。

サービスの種類と特性(①サービスの定義と4つのカテゴリー②有形の行為③無形の行為)で記載した4つのカテゴリーのうち、人を対象にするサービスのほうが、物を対象にするサービスより、同時性が高いといえるでしょう。たとえば、医療・福祉(有形の行為で人に作用するもの)であれば、病院で患者が診察室に入ると診療が始まる。娯楽/エンターテインメント(無形の行為で人の心に作用するもの)の音楽の場合なら、コンサートホールに行き、演奏が始まると同時に顧客がそれを聴くといったものになります。

一方で、修理(有形の行為で物に作用するもの)や、金融(無形の行為で情報に作用するもの)などであれば、同時性はそれほど高くはなく、部分的なものにとどまるといっていいでしょう。

サービスの生産と消費が同時に行われるということは、サービス提供者と顧客の間でインタラクションが生まれ、これが相互に影響しあうことになります。このインタラクションがサービスの質、満足の程度を決めることが少なくありません。従って、顧客と接する従業員の教育が重要なことは言うまでもないことですが、併せて顧客を教育することも自ずと必要になります。少し極端な例かもしれませんが、キースジャレット(著名なジャズピアニスト、クラシックではない)は、演奏中に観客が咳をしたら、演奏を途中でやめてしまう、退場することもあるということで有名なミュージシャンでした。その是非はともかく、サービスの質は、サービス提供者の努力や能力だけで決まるものではなく、サービス提供プロセスに参加する顧客が自らの役割をしっかり考え実行する必要があります。

異質性、消滅性、顧客との共同生産については、次回とさせていただきます。


4/08/2024

SMM (2)サービスの構成要素 ②4つの要素

前回のSMMブログでは、サービスの構成要素に関する考え方を述べました。今回は、その4つの要素(サービスプロダクト、モノプロダクト、サービスデリバリ、サービス環境)について、以下に概説します。


サービスプロダクト

サービス提供に関わるもの全て(ひとつのトータルパッケージ)のうち、中核をなすものがサービスプロダクトで、まさにサービスの部分にあたります。サービスプロダクトとは、サービス提供者があらかじめ計画した一連の活動のことを指します。一連の活動とは、顧客が必要とする結果を、顧客に提供できるようにするためのものです。

たとえば、有形の行為で人の体を対象にするサービスでは(サービスの種類と特性 ①サービスの定義と4つのカテゴリーサービスの種類と特性 ②有形の行為)、旅客輸送の場合は乗客を安全で定刻どおりに運ぶこと、要介護者を対象にした高齢者施設であれば入所者が不自由さを感じることなく日常の暮らしができることといったものが該当します。有形の行為で有形資産である物を対象にするサービス、たとえば衣服のクリーニングであれば、汚れを落とし白くきれいに仕上げる活動全体となります。つまり、有形・無形を問わず、顧客が望む結果を提供するための計画された全ての要素ということができます。

ところで、旅客輸送では安全と時間以外にも、快適性が重視されることも多いはずです。この場合、旅客輸送では安全性と遅延なく移動することをコアサービスと位置づけ、快適性や利便性といったものは補完的サービスとして捉えるのが一般的でしょう(サービスの構成要素 ①コアサービスと補完的サービス)。但し、コアサービスに属さないものは全て、補完的サービスになるわけではありません。私たちはサービスを認識する時に、以下にあるような3つの要素、モノプロダクト、サービスデリバリ、サービス環境にも関心を払います。

なお、サービスには、モノと異なり、際立った特徴があり、無形性、同時性、異質性、消滅性、顧客との共同生産といったものが挙げられます。これらの特性については、次回のSMMブログ「(3)サービスの特性」で、述べていくことにします。


モノプロダクト

ひとつのトータルパッケージのなかで、顧客に提示される物的な要素のことをいいます。たとえば、小売業などは分かりやすいでしょう。購入する衣服や雑貨、食品といったモノそのものが該当します。レストランであれば、料理そのものになります。 小売業でモノを購入する場合、モノに関する説明を受けたり、購入後の包装、時には自宅への配送、場合によってはアフターサービスが必要になるかもしれません。このように、消費活動には、モノのみを購入するということは意外と少ないものです。サービスについても、レストランの料理や教育機関のテキスト等々、サービスとモノの組み合わせで成立していることが大半を占めているといえるでしょう。


サービスデリバリ

顧客が実際に経験するサービス活動のことを指します。サービスプロダクトと混同しそうですが、サービスプロダクトとは上述のとおり、計画または予定されたものを指します。サービスデリバリは、計画や予定ではなく、実際に経験する活動のことを表します。  

サービスデリバリをサービスの構成要素に加える理由は、サービスの特徴である無形性、同時性、異質性、消滅性、顧客との共同生産といったものに起因します。たとえば、サービスは作り置き、在庫をもつことができず、生産自体が同時に行われます。

ものづくりの場合であれば、計画したとおりに工場などの現場で、機械的に、または化学的に生産されるのが普通であるため、誤差は発生するものの、通常は計画値と実績値にそれほど大きな乖離は発生しないのがふつうです。また、万が一、間違いが発生した時には、その場で生産ラインを止めて点検をしたり、配送途上にあるものを回収することもできます。 

ところが、サービスの場合は、上記のとおり形がなく、しかも生産と消費が同時に起こるため、ものづくりのようにはいきません。このため、サービスの場合は、計画したもの(サービスプロダクト)と、実際に提供したもの(サービスデリバリ)に、ギャップが生じることが少なくありません。 

とりわけ、人の体や人の心を対象にする場合であれば、サービス提供者によって、サービスのバラツキや、顧客から見た印象に、大きな差が生まれることはよくあることといって差し支えないでしょう。また、顧客がサービスの共同生産に大きく関わることになれば、その差は尚更広がります。こういった理由から、サービスデリバリがサービスの構成要素に含まれることになります。

サービスデリバリを経験した顧客は、それに基づいてサービスに対する評価(満足や不満など)を下します。このため、サービスの生産を主に人手に頼っているサービス企業では、サービスデリバリが最も重要な要素になるといえます。


サービス環境

サービス活動が行われる場所の状況、主として物理的な環境のことを指します。リゾートホテルであれば、部屋から眺める外の景色や、部屋の広さ、間取り、部屋の明るさ、部屋でくつろぐ時のソファーの座り心地、館内案内といったものなどが含まれます。また、サービススタッフの制服やフロントデスク、ロビーラウンジ、車寄せのスペース、ホテルの外観など、様々なものが対象になります。 

サービス環境については、常識の範囲でわかることだと思いますが、リゾートホテルにも高級からそうでないものまでランクが幾つかあります。また、リゾートホテルとビジネスホテルでは、当然のことながら異なります。このように、サービス環境は提供するサービス内容によって違いがあり、提供するサービスに見合ったサービスの環境を適切に整備することが重要といえます。当たり前のことですが、意外とこれができていないサービス企業が少なくないのではないでしょうか。


以上のように、サービスは、サービスプロダクトだけでは成立せず、モノプロダクトサービスデリバリサービス環境といったものを、適切に組み合わせることが重要であり、これらをひとつのトータルパッケージとして捉えることが非常に重要です。


4/01/2024

SMM (2)サービスの構成要素 ①コアサービスと補完的サービス

サービス企業が顧客に魅力あるサービスを提供するためには、サービスを供給する環境、サービス提供者が活動する空間全てを、ひとつのパッケージとして見立て、全体をマーケティングしマネジメントすることが重要です。何故ならば、その各要素が、顧客の期待と満足に直結するからです

サービスは、コアのサービスと補完的なサービスの2つに区分されて議論されることがよくあります。 

コアサービスとは、サービスの中核をなすもので、顧客の主要ニーズに応えるベネフィットだったり、顧客の主だった関心事や問題に対するサービスの打ち手のことを指します。旅客/貨物輸送であれば安全で遅延のない移動、レストランであればおいしい食事、ホテルであれば安全で快適な滞在といったものが該当します。

補完的サービスとは、コアサービスに付随するものをいいます。たとえば、旅客輸送の場合であれば機内食であったり、搭乗時の応対に係るサービス、機内で視聴できる映画や音楽、フライトの予約サービスなどが該当します。ホテルであれば、レストランやルームサービス、フロントやコンシェルジェデスク、ランドリー、ポーターサービス、PCやプリンターなどの貸与、アスレチックジムやスイミングプール、TVビデオ音楽、駐車場、アクセスの良さなど、当てはまるものが多数あります。

サービスは、物のような所有権の移転が起こらず、利用したり、体験したりするものです。たとえば、食品スーパーの野菜売り場でじゃがいもを購入すれば、有形物であるじゃがいものの所有権を得ることになります。じゃがいもを使ったポテトチップスを購入しても、所有権は移転します。

ところが、レストランでじゃがいもを使った料理、たとえばジャーマンポテトを食べても、通常それはその料理を所有するという意味にはならないでしょう。シェフが選んだ材料に調理技術を施して仕上げた料理をはじめ、それを盛りつけた皿や、テーブル、いす、店内の照明など料理を食する空間、料理を運ぶ人など、そういったもの全てを含んだものに対して代金を支払います。 このようにサービスには、有形無形を問わず、サービスが提供される環境全体、そこでのサービスパフォーマンスに関わる全ての要素が含まれます

サービスを構成する要素を考える時、研究者の間で若干の相違があります。一つには、上記にあるようなサービスが提供される環境全てをサービスプロダクトとして扱う人たちと、サービスプロダクトをおよそコアサービスに限定する人たちです。本ブログでは、後者の立場をとり、話をすすめていきたいと考えています。

その最たる理由は、全てをプロダクトとして扱うことにした場合、サービスビジネスの問題などをフレームワークを用いて考察したり、問題解決の優先順位付けやアプローチなどを検討することが、少々難しくなると思われるからです。もう少し詳細にいえば、検討すべき事象がわかりにくくなったり、論点が混乱しやすくなるなど、考察にモレやダブリ、或いはズレなどが発生しやすくなるからです。

このため、本稿では、サービスは、サービスプロダクト、モノプロダクト、サービスデリバリ、サービス環境の4つで構成されるものとします。次回は、各要素について述べていきたいと思います。

(4つのサービスカテゴリーについては、(1)サービスの種類と特性 ①サービスの定義と4つのカテゴリーを、ご覧ください。)


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...