2/27/2023

問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ③思考の罠ii

今回は、問題解決力における思考の罠の2回目です。前回(思考の罠i)では、予め用意された解/ソリューションに当てはめるようにして問題を定義することについて述べました。今回は、二つ目のもっと大きな問題があるにも関わらず、見逃してしまうことについて取り上げたいと思います。

これに関しては、新商品(または新製品)開発の活動で考えてみるのがわかりやすいだろうと思います。これまでのReflectionsでも何度か言及してきましたが、新しくモノを創るという行為には、多くの人が関わっています。人数もさることながら、職種が多岐にわたります。メーカーでいえば、商品企画やマーケティング、研究開発、調達、生産技術、生産、物流、営業、経営/事業企画、そして経営陣などです。一般的に言って、これらの人たちが考えていることや見ている方向などが同じであることは、まずありません。ましてやマーケティング部門ともなると、同じ部門内でも役員、ミドルマネジメント、実務担当者などの間でさえ大きく異なることが珍しくありません。

全社挙げて取り組み、満を持して新商品を発売する。ところが、思ったように売れず、リアル・ネットいずれも反応が冴えない等々。社内会議で、何が問題だったのか原因と対策を話し合うも、集められた部課長クラスは自分のことはそっちのけで相手が悪いと言い、全体を仕切るはずの経営企画は調整型の役割しか果たしてこなかったために、議論が収束することはなく、さらに経営トップが、売れなかったのは営業部の責任などと発言しようものなら、それで一件落着?になってしまう。こういったことは、一部の企業で起こっている限定的なものではないでしょう。実際、売上は計画値どおりに推移しなかった上、この会社ではもともと営業部の力量不足が問題視されていたとしたら、もっと大きな問題などにはたどり着くはずもありません。

ですが、どれだけ能力の高い営業パーソンであっても、たとえば、商品コンセプトがかなり曖昧(またはいい加減)で、(故に顧客である一般消費者や買い手企業にはまったく伝わらず)、且つ量産化に手間取り納期/発売日どおりにモノができなかったら、どれだけ売る力を持った営業パーソンがいたとしても、しっかり売ることなど、そもそも難しいでしょう。元々売れるはずなどなかったにも関わらず、営業部の責任になってしまう・・・。こういったケースなど滅多にないこととはいえないはずです。このようなことには、幾つかのバイアスが考えられますが、筆者は確証バイアスの表われだと考えます。

確証ヒューリスティックがもたらすバイアスとは、人間は自分が正しいと思っていることを追認するようなデータや情報を探して用いたり、反証するような情報などは初めから探そうとしないか、そもそも探すこと自体を嫌って無視するようなことを指します。この確証バイアスは認知バイアスのひとつといわれています。ちなみに認知バイパスとは、自身の経験による固定概念や先入観、思い込みなどによって、認識が偏って、合理的に行われなくなる心理現象のことをいいます。

それでは、こういったバイアス、なかでも確証バイアスにはどう対処すればいいのでしょうか。対処案を幾つか挙げることはできますが、おそらく最も現実的なものは、意思決定者と共に、事実を一つひとつ積み上げて考えていく行動をすることだと筆者は思います。

このためには、常日頃から、事実、たとえば新商品開発活動において重要となるポイントを、現場と経営が一体になって、確認することが前提として必要になります。活動の見える化は非常に有効ですが、何でも可視化して経営が理解しておくというのは現実的ではありませんし、そもそもその見える化された状態が適切なものかどうかは、また別の話です。ですが、少なくとも新商品開発活動のあるべき姿を作って、これに照し合せて、判断すべきことを明確にしておくことは必要です。

このようにいうと、当社にはあるべき姿やプロセスを詳細に定義したものはあるが、実際上そういうものは役立たない。そんなことより、もっとうまい戦略を作ることが必要とか、そもそもビジネスモデルの問題なんだという方が時々おられます。たしかに、そういうケースもあるでしょうが、筆者の経験でいえば、そのような見解は誤りであることのほうが多く(もしくは、その前に前提としてすべきことをしていない、たとえば踏むべき手順を踏まずに業務を進めているなど)、本来する必要のない戦略変更を行ったり、組織や人をいじっくったりしている企業が多いと感じます。

そういったことを考えたり、行ったりする前に、本当にその策定したあるべき姿が正しく実行されているか(そして、そのあるべき姿が本当にあるべき姿なのか)といったことを、よく考えてみることが必要です。

ここでこれ以上論じることは、本ブログ(問題解決力の思考の罠)の主旨に合うものではありませんので、これで終わりにしたいと思いますが、最後にもう一言、付け加えさせてください。それは、社内で信じられていることは、本当に、きちんと検証されたのかどうか、鵜呑みにすることなく、少なくとも以下のような問いかけを自身にしてみることが重要です。たとえば、

  • 上司や自分は、我々が考え、判断するために必要な情報やデータを、直観だけに頼ることなく集めているか? 
  • 分析する時は客観的に行っているか? 何故そういえるのか?


2/20/2023

問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ③思考の罠i

問題を定義するには、前々回の本ブログ(②問題を定義するi)で、3つのC(Context, Criteria, Constraint)を活用して、考察することが効果的と述べました。また、その検討過程では、問題を解く人が、その解く問題を的確に捉えることが、まずはじめに、何より重要であるということも記載しました。

ですが、問題を解く人、(仮にそれが読者のあなたである場合)ご自身が解く問題を、あなたの上長(たとえば経営者)が、自分と同じように、正しく理解するということはそう多くはなく、ましてや共に行動していくということは、極めて稀といえるはずです。理解が十分ではないわけですから、判断が適切に行われることはないでしょう。

上長の意志決定がしばしば誤ったもの(もしくは自分が期待していたものとは異なるもの)になるのは、主として以下にあるような理由によると考えられます。

第一に、予め用意された解/ソリューションに当てはめるかたちで問題を定義するということが挙げられます。

20年程前の所謂ビッグバンといわれたERP導入、今日でいえばデジタル化などがその好例といえるでしょう。IoTであれば、「IoTで何かできないか」から始まり、最後に問題が列挙されるといった具合です。

たとえば、農業分野では、IoTで解決できることは、問題全体の一部であり、IoT以外で問題を解決することのほうが多いことは、誰にとっても想像に難くないはずです。更に、仮にそのIoTをうまくはめ込むことができたとしても、POC(Proof Of Concept)をないがしろにして、いきなり開発・実装・運用へとすすめば、トラブルなくうまくいくことのほうが珍しいのではないでしょうか。根底にある問題をしっかりあぶり出し、課題を特定していくことが、はじめにすべきことです。

それでも、課題特定の前に、IoTを使って生産性を倍増させたような隣町の農家の話などをはじめに聞かされたり、知識人と言われるような人々や農家内で影響力のある人物の発言などが頭の中に強く残っているとすれば(たとえば「IoTで効果が出るのは明らかだからすぐにやるべき」云々)、それに引きずられて、自分のところの農家の問題を適切に洗い出すことなく、いきなりIoTで問題を解決しようとする。こういった傾向は、利用可能性ヒューリスティックがもたらすバイアスと呼ぶべきものといえます。

ヒューリスティックとは、単純化された方策と定義できます。PCにたとえるならば、頭の中のショートカットキーと呼べるようなものではないでしょうか。日々、多忙な時間を過ごす上級管理職、ましてや経営トップともなれば、自社を取り巻く複雑な状況に対して、(もっともらしいと思われる)単純な方法を用いて対処することは、ある意味至極当然なことともいえるでしょう。実際、ウィキペディアでは、ヒューリスティックを「必ずしも正しい答えを導けるとは限らないが、ある程度のレベルで正解に近い解を得ることができる方法」と記載されています。

利用可能性ヒューリスティックとは、想起しやすい(出現頻度が高い)、利用しやすい事柄を優先して判断することといえます。ですが、いくら想起しやすいからといって、それが解になるのとは、まったく別の事柄です。

そして、この場合のバイアスはどういった類いのものかといえば、それは、はっきりとした新しい記憶(しかも、その新しいものを活用して問題解決することが奨励されている)と、その新しさに基づく想起の容易性といえるのだろうと思います。

上長の意志決定がしばしば誤ったものになる理由の二つめに、もっと大きな問題があるにも関わらず、見逃してしまうといったことが挙げられます。

そして三つめとして、問題の根源を取り除こうとせずに、現象や一時的に発生した問題だけに対処すること、こういったことも珍しいことではなく、頻発しているといえるでしょう。

この二番目と三番目については、ブログの長文化を避けるため、次回で述べてみたいと思います。


2/13/2023

問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ②問題を定義するii

前回の「問題解決力」ブログ(②問題を定義するi)では、問題定義の3つのCについて述べました。今回は、自分自身が所属する組織(または会社)の目線で、問題解決に向き合う時の組織のあり方・姿を考えます。

ここでは形式や建前、体裁や見た目などに捉われることなく、実際の姿、ありのままの本当の姿、組織の実態を考えます。形式と実態については、次のようなものとして捉えてください。たとえば、信賞必罰や実力主義を強く謳っている組織があるとします。ですが、実のところは、努力して成果を挙げた者も、何もしない者も同じように処遇しているとします。この場合は、信賞必罰や実力主義を唱えていることは形式(または建前)であり、やってもやらなくても同じというのが実態です。問題解決に対する組織の向き合い方を考える時は、このような実態ベースで検討、分析することが必要です。

おさえるべき項目は、次のようなものです。

  • 改善(または改革、変革などの)案に関する意思決定者と意思決定の仕方

  • 意思決定者のバイアス(相手/対象者が自分と同じ現実を見ているとは限りません)

  • ステークホルダーの特徴(意思決定とその後の案を実行する時に影響力を持つ人、社内のみならず社外、たとえば主だったサプライヤーや顧客なども対象にします)
  • 組織における暗黙のルールやタブー
  • 過去の取組みの結果

上記に関する問いには、以下のようなものが挙げられます。

    • 当該案の是非と実行時期を決める人は誰か(形式的な承認者ではなく、実質的に判断する人を指します。たとえば、それを部長が行う場合は部長が該当し、常務であれば常務になります)。

    • その人はどのように意思決定しているのか(たとえば独裁者的にものごとを決めたり、民主的に多数決で重要事項を決定するとか、或いは周囲の目を気にして判断したり/判断できなかったり、前例のないものについてはとりあえず判断を見送ったりするなど、意思決定の仕方、傾向や特徴を確認します)。

    • その意思決定者は、事実をどのように受け止めているか。

    • その意思決定者は、自分にとって都合のいいように理解したり、期待してはいないか。

    • その意思決定者の過去の経験が、判断の邪魔をしないか。

    • 案の是非判断に対して、影響力の大きいステークホルダーは誰か。

    • 同、協力をしてもらう必要のあるステークホルダーは誰か。

      • 案実行により、影響を強く受けるステークホルダーは誰か。

      • 案は、組織内の暗黙のルールに逆らうものか。

      • 過去の案(取組み)で、似通ったものはあるか。(あればその結果を、なければ何故なかったのかの理由も確認します)

    それぞれの問いに答える時は、「それは何故か」、「つまりどういうことか」など、もう1段階、2段階は掘り下げて考えていくことが重要です。問題を定義するという行為は、定義する人の問題に対する見方や解決方向などに対する考え方に、大きく依存します。同様に、意思決定する人の見方やものの考え方にも、影響を受けることになります。

    したがって、問題を解決する人の能力(スキル、知識、姿勢)が極めて重要ということがいえます(ここでいう問題を解決する人というのは、問題とアプローチを考え、問題を解き、結果をまとめて説得する人のことを指しています)。このようなことから、まずはじめに、問題を定義することが必要です。


              2/06/2023

              問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ②問題を定義するi

              問題を定義するにあたり、筆者は3つのCで考えることにしています。3つのCとは、Context(コンテキスト)、Criteria(クライテリア)、Constraint(コンストレイント)です。コンテキストは問題の文脈や状況・関係について、クライテリアは問題と考える基準(何をもって問題としているのか)を、コンストレイントは制約条件(インプットを制限したり、活動を制約しているものは何か)を表します。

              ここで注意しなければならないことは、いきなりデータ収集には走らないことです。まずは、3つのCについて、仮説ベースで考えていきます。3つのCで活用できるフレームワークは、オーソドックスにいえば、次のようなものになります。

              コンテキスト

              • 3C(顧客/Customer、競合他社/Competitor、自社/Company)
              • ビジネスシステム(企業内及び企業間におけるビジネスの仕組み)
              • 5F(バイヤーの交渉力、サプライヤーの交渉力、新規参入の脅威、代替品の脅威、業界の競争状況)

              • 7S(ストラテジー、ストラクチャー、システム、スキル、スタッフ、スタイル、シェアードバリュー)

              代表的な問いには、次のようなものが挙げられるでしょう。
                • 顧客・競合に対して、当社はどういう状況にあるのか。
                • 当社の競争優位は何か。
                • 業界のチェンジドライバーは何か。
                • 現行組織にはどういったギャップがあるか。

                • 当社が直面している最大の問題は何か。

              クライテリア

              • 業績(売上、利益、コスト・・・)
              • 整合性(ミッション/戦略/価値観等との調和やフィット感、その他イニシアチブとの一貫性など)
              • タイミング(イニシアチブの連続性、初期投資の期間、閾値など)

              問いの幾つかには、以下のようなものがあります。

                • 当社の成功を測る物差しは何か。
                • 改善(または改革、変革などの)案は、当社のアイデンティティや今後の方向と、どれくらいフィットするか。
                • 改善(同)案が、成果をあげるまでの猶予期間は何週間(または何ヵ月間など)か。

                • 改善(同)案は、どういった基準で実行に移されるか(或いは、移されないのか)。

              コンストレイント

              • 情報
              • 人材
              • 組織の単位

              • 事業の単位

              たとえば、次のような問いがあります。
                • 必要なデータや情報は入手可能か。
                • 問題解決に必要な能力を、当該組織の人材は有しているか。
                • 例外扱いされたり、障害となるような組織はあるか。
                • 特例扱いされるような事業や製品/サービス、市場、或いは関係会社などは存在するか。

                • 案が実行に移される段階で、制約になるものには何があるか(或いは、最後まで残ることになる最大の制約は何か)。

              3つのCを使って、次々と仮説ベースで問題を考えていきます。ひとつの問いに答えたら、その後すぐに、それは何故か、どうしてそういるのか、だから何なのか、といったことを自らに問いかけ、仮説を掘り下げていくことが重要です(問題の掘り下げについては、論理的思考(3) 問題を見つける②をご参照ください。また、問題とアプローチを考える」の「構造化」でも記載予定です)。

              そして、次に、自身がとった範囲や立場を踏まえた上で、新たな問いかけをします。それは自身が所属する組織(または会社)の目線で、問題解決に向き合う組織の本当の姿を、確認するものです。これについては、次回の本ブログで述べたいと思います。


              ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

              市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...