5/12/2024

ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます(ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目)。規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめったにないからです。

最も重要なことは、ターゲットにするセグメントが自社にとって価値があり、且つ一定の地位を確保できるか、防御できるかということです。このためには、当該セグメントにおいて、自社が強みを発揮できるかどうかを見極めなければなりません

自社が競争に勝てるセグメントか否か、攻めるべきセグメントかどうかを検討するためには、次の3つの視点で考察するのがよいでしょう。

自社の現行マーケットポジション (相対的マーケットシェア、マーケットシェアの変化率、高付加価値プロダクトの受容可能性、マーケティングアセットの有効性)

自社の経済的・技術的ポジション (相対的なコスト構造、技術開発力、生産能力)

自社の特徴 (人的資産特に経営層のリーダーシップ、川上や川下をコントロールできる力とその範囲)


自社の現行マーケットポジション

相対的マーケットシェアは、企業が顧客にどれだけ受け入れられているかを表す指標です。高いシェアを持つ企業は、より幅広い顧客から認知され、通常、広範囲に及ぶ流通網を築いているため、そのシェア自体がより一層市場に浸透していく上で有利な状況を生み出します。

その高いシェアを誇るブランドが、市場のトップブランドで、消費者市場を対象にしているのであれば、尚更でしょう。というのも、相対的にいえば、多くの消費者はトップブランドを購入したがる傾向があるためで、これはデジタル時代の今日、ますます顕著になってきているように筆者は感じています。加えていえば、トップブランドは新規参入含めて競合するブランドのシェア獲得・拡大に、何もせずただ見ているということがないからです。

なお、この相対的マーケットシェアは、 ターゲットセグメントにおけるシェアを表したものでなければなりません。何故なら、当該プロダクトが市場全体を対象にしていない限り、ターゲットセグメントにおけるシェアではないものを云々することは、意味がないからです。

 

マーケットシェアの変化率は、ターゲットセグメントにおいて、シェアを維持しているか、伸ばしているか、落しているかといったことを知る点で重要です。仮に、自社の売上げが順調に伸びていたとしても、シェアが低下しているようであれば、ターゲット市場の成長率に自社が追いつかず、競合がシェアを伸ばしているということがわかります。こういった場合は、状況に応じて、マネージャーは量的に拡大させるのか、利益率の向上を目指すべきなのかといったことを、再度、判断し直すことが必要となります。前者であれば、値下げをすることが有効な手段でしょうし、後者ならば差別化できる要素をプロダクトに付加するということが考えられます。

 

高付加価値プロダクトの受容可能性は、優れたプロダクトが市場に受け入れられるか、顧客が継続して購入してくれるかといったことを見るわけですが、これは当該ターゲットセグメントの潜在力を検討する上で重要です。仮に、価格変動に敏感な消費者が多数を占め、品質よりも低価格であることにまず反応するようであれば、自社にとって当該セグメントは魅力的なものではないのかもしれません。

 

マーケティングアセットの有効性も、自社の現行マーケットポジションを考える上で、重要な項目です。ここでいうマーケティングアセットには、顧客ベース、流通ベース、インターナルの3つがあります。

 

顧客ベースのアセットには、 企業名やまさにブランドネームであったり、企業の名声、プロダクトの独自性や優位性、市場支配力といったものが含まれます。中でも、企業名が誰の目にもはっきりわかるものであれば、それはブランドネームに転化し、企業のあらゆる製品に利用されることになります。筆者が以前、在籍していたIBMは、まさに20世紀から2010年(?)くらいまで長く続いた顧客に強く支持されるブランドでした(今でも続いているかもしれませんが、クラウドの時代になって、IBMが少し遅れた感は否めません)。

流通ベースのアセットには、 配送または配荷リードタイムや安定供給などを含めた流通のネットワーク、流通の独自性などが挙げられます。前者であればその代表格はアマゾンやクロネコヤマトなどが、はじめに挙がるのではないでしょうか。後者については、以前の化粧品訪問販売や生協などが該当すると思います。

インターナルアセットについては、 技術力、コスト競争力、著作権と特許、生産ノウハウ、フランチャイズやライセンス、現有顧客基盤などが対象となります。

企業があるセグメントに向き合う際、マーケティングアセットがどういった働きをするのかを考えなければなりません。ターゲットセグメントについては、強みを発揮できたとしても、それ以外のセグメントに対しては弱みになりうる場合があります。ターゲットセグメントにおいて、マーケティングアセットを引き続き開発する価値や意味、開発することが妥当と判断できれば、企業はそのセグメントにおいて、潜在的な強みを持つことができるといえるでしょう。

自社の経済的・技術的ポジションと、自社の特徴については、このまま続けていくと、長くなりすぎるため、次回にしたいと思います。


5/02/2024

ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目

ターゲティングは、はじめにセグメントした市場を評価し、次に自社が競争に勝てそうなセグメント、或いは攻めるに値するセグメントを特定するというステップで進めます。

セグメントを評価する項目には、以下のようなものが挙げられます。

市場要因 (セグメントの規模、セグメントの成長率、価格の弾力性、需要の季節変動性、顧客の交渉力、産業のライフサイクル、予測可能性) 

経済的要因 (参入と撤退の障壁、製造業などサプライヤーの交渉力、技術の蓄積と変化のスピード、投資の必要性、マージンのレンジ)  

競争要因 (競争の強度、競争相手の成熟度、差別化の程度、代替品の脅威)

政治的・社会環境要因 (法規制、倫理や社会的な責任行動、気候変動対等)


市場要因

セグメントの規模は、販売拡大や生産における規模の経済達成のためには、必要不可欠で、市場の魅力度を評価する上で重要な項目です。 

セグメントの成長率についても、多数の企業が重視します。というのも、市場の成長と共に、自社も比較的たやすく成長することが可能とみることができるからです。

価格の弾力性については、通常、低い市場のほうが高い市場よりも魅力的です。価格弾力性が高い市場は、価格に対して敏感なため、価格競争が起こる可能性が高くなります。特に、成熟市場においてはそれが顕著であり、多くの企業が市場から撤退していく可能性があります。

需要の季節変動性は、見方によっては魅力的な要因となります。一年の上半期に大きな需要を抱える企業が、下半期の需要も得て、年間をとおして需要が見込めるようになると、自社リソースを安定的に活用できるようになる、こういったことが考えられます。

顧客の交渉力は、エンドユーザーや流通業者などの購買力を指します。一般的にいえば、購買者のパワーが強大であればあるほど、その市場は魅力的ではありません。メーカーが市場を独占している度合いの高いほうが、まだ、ましといえるでしょう。

産業のライフサイクル(またはプロダクトのライフサイクル)については、台頭/導入期、成長期、成熟期、衰退期といった4つのライフサイクル・ステージによって、直面する問題や立案する戦略が変わってきます。 

たとえば、台頭/導入期であれば技術や商業面での不確実性が高く、それによってとるべき戦略はたとえばデファクトスタンダートの確立や初期ユーザーを後押しする施策を矢継ぎ早に打つといったことが求められます。一方、成熟期であれば、不確実性が低くなる一方で、競争は激化し、低成長で低収益に悩むことが多くなります。顧客をつなぎ留めたり、マーケティング4Pの精緻化や、業務の効率化などが必要になるなど、企業にとっての魅力度は、企業そのものの成長や資金調達などによって異なってきます。

予測可能性は、産業のライフサイクルとも関係してきますが、市場の予測可能性が高いほど、セグメントの潜在的価値を予測することがたやすくなるといえます。

 

経済的要因

参入と撤退の障壁は、企業のおかれている状況によってまちまちです。たとえば、スイッチングコストが高い市場は、参入障壁を築けます。すでに参入している企業には魅力的な市場となりますが、これから参入を検討する企業にとってはそうとはいえないでしょう。一般的にいって、参入障壁を克服するには、多額の費用がかかる割には、得るものが少ないように思います。反対に、撤退障壁が高い、たとえば設備を使い続けなければならないような状態に陥っていることなどがあります。投資した設備が、高い参入障壁を築いたとしても、それは撤退障壁も高くなることが多いといえます。 

製造業などサプライヤーの交渉力は、メーカーが独占または独占に近い状態にある市場は、メーカーが競争し合っている状態のものより、魅力が劣ります。

技術の蓄積と変化のスピードは、競争相手の状況によって異なります。高い技術力を蓄積している企業は、その技術を用いて他社に対する高い参入障壁を築けるはずです。但し、その市場の技術変化が非常に速い場合は、そうとは限りません。

投資の必要性は、上記にあるような幾つかの要因と同様に、市場の魅力度に影響を及ぼします。大きな投資を必要とする場合は、すでに参入している企業にとっては他社に対する障壁となりえます。実際、多くの市場ターゲットには到達できないことを示していることが少なくありません。

マージンのレンジは、誰もが知るとおり、業種・業界、市場によってまちまちです。小売業でも、食品を扱うスーパーマーケット(SM)と、衣料品を扱う専門店では大きく異なるのがふつうです。SMでも、高級スーパーと呼ばれるようなところと、ディスカウントストア的な品揃えをしているスーパーでは変わってきます。

 

競争要因

競争の強度は、基本的に競争相手の数に関係します。1社独占か、複数による寡占状態か、或いは支配的な企業がまだ存在しないかといったことです。当然のことながら、ごくわずかな企業数によって支配されているような市場に参入するには、相手を上回る競争力が必要となります。完全競争またはそれに近い環境下では、価格競争が盛んであることが少なくありません。価格競争で勝てる見込みがほぼない小規模企業は、差別化できるプロダクトを提供しなければなりませんが、国内においては、多くの場合、それがうまくできずにいるのではないでしょうか。

競争相手の成熟度は、ルール順守やフェアな競争環境を維持しようとする企業で構成されている市場は、ある面で魅力的といえます。一方で、競争相手がしばしば変わり、その動きが予測しづらいような市場は、自らの手でコントロールすることが難しいといえ、故に魅力的な市場とはいえないでしょう。

差別化の程度については、差別化が進まない市場ほど、価格競争に走りがちです。差別化ができない市場は、閉塞感から、価格競争を生み、その競争がさらに市場を悪化させています。

代替品の脅威は、ほぼ全ての市場で起こりえるのではないでしょうか。技術革新は代替製品/サービスの登場につながります。自社があまり技術革新的でないと考える場合は、代替が起こりにくいと思える市場をターゲットすべきです。 


4/24/2024

SMM (2)サービスの構成要素 ③サービスマーケティングミックス

モノのマーケティングでは、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の4つの基本項目を組み合わせて、売れるように考えていきます。これがモノのマーケティングミックス、所謂オーソドックスな4Pです。

サービスの場合は、その特性に合わせて、上記の4Pを、

1. サービスプロダクト(service Product)

2. 価格とその他の支出(Price and other user outlays)

3. 場所と時間(Place and time)

4. プロモーションと教育(Promotion and education)

として、これに、

5. 人(People)

6. 物理的環境(Physical environment)

7. サービスプロセス(service Process)

8. 生産性とサービス品質(Productivity and quality)

の4つのPを加えて、8Pで検討します。

これは、当初コトラーが最後のPを除いた7Pでサービスマーケティングの特性を説きましたが、クリストファー・ラブロックが新たに8番目のPである生産性とサービス品質を加えて提唱したものです。その8Pとしてのサービスマーケティングミックスの概要は、次のとおりです。


サービスプロダクト

サービスを提供する環境全てをひとつのトータルパッケージとして捉えた場合に、その中核をなすのがサービスプロダクトです。サービスプロダクトは、サービス提供者が顧客の要望に応えるために、前もって計画した活動全般を指します。詳しくは「SMM (2)サービスの構成要素 ②4つの要素」を、一覧ください。

価格とその他の支出

価格は、サービス提供に係るコストに利益を上乗せしたものであり、顧客が実際にそのサービス提供企業に対して支払う対価です。その他の支出というのは、顧客がそのサービスを受けるためにかかる費用、たとえば交通費であったり、飲食代などが該当します。また、そのサービスを受けることに伴う精神的ストレスや肉体的負担といった不快感などを、その他の支出に含めて考慮することもあります。この「その他の支出」については、サービス提供側はどうしても忘れがちになるため、顧客の側に立って考えることが必要です。

場所と時間

サービス提供には、提供するための場所が必要です。時間は、サービスの場合、所有権の移転を伴わないため、時間が重要な要素になってきます。 

たとえば、温泉旅館のチェックインとアウトの時間などは、分かりやすい例といえるのではないでしょうか。15時にチェックインし、露天風呂付客室に宿泊したとします。翌日のチェックアウトの時間が、10時と11時ではどちらが宿泊客にとってうれしいでしょうか。朝早く出ていく必要がない限り、朝食後にでも、もう1回部屋にある温泉の露天風呂に入りたいと思う人が多くいるのではないでしょうか。ほかのものが殆ど同じ条件で、一方の旅館は11時チェックアウト、他方が10時であれば、多くの人は迷うことなく前者を選ぶでしょう。

プロモーションと教育

プロモーションと教育が対になっているのは、顧客、特に潜在顧客を啓発する必要が多くあるためといえます。ここでいうプロモーションは、モノの場合とやや異なり、もう少し広い概念で捉える方がよいかもしれません。 

プロモーションは、サービスマーケティングの重要なコミュニケーション手段です。なかでも顧客との共同生産の側面が強い医療・福祉などでは尚更です。サービス提供の場所と時間をはじめ、サービスプロセスへの効果的な参加の仕方を周知させることが多々あります。このような理由から、プロモーションは教育とセットで考えるのが適切だといえるでしょう。

サービス業における人の重要性に異を唱える人はいないはずです。どれだけ技術革新が進もうとも、多くのサービス業では顧客とサービススタッフの直接的なインタラクションはなくならないでしょう。人によって、顧客が知覚するサービス品質に大きな差が生まれることは珍しいことではありません。サービススタッフの良し悪しは、顧客の満足度に大きな影響を与えます。 

ここでいう人は、 サービス企業の従業員だけを指しているわけではありません。顧客が別の顧客に影響を及ぼすことも少なからずあります。良いケースもありますが、クレーマー、モンスタークレーマーの存在などは、サービス環境自体を破壊する可能性もあるため、顧客もサービスマーケティングミックス8Pの人に含まれることになります。

物理的環境

建物の外観や内装、乗り物や駐車スペース、AV機器や媒体物(新聞・雑誌、各印刷物等)、各種備品、サービススタッフの制服などが、物理的環境に該当します。これらの視覚的な要素が、顧客の印象を左右するため、サービス企業は物理的な環境に十分注意しなければいけません。

サービスプロセス

プロセスの重要性についてここであらためて触れることはしませんが、サービスのプロセスでは、インプットとアウトプットを合わせた活動全体のながれに、サービスプロセスへの顧客の参加の程度を考慮する必要があります。サービスプロセスは、従業員の生産性や効率性を自ずと規定してしまうため、非常に重要な要素です。不十分なプロセスの定義は、サービス業の場合、従業員のミスを誘発します。

一見して同じようなサービスプロダクトを競合他社が提供している場合などは、サービスプロセスをより慎重に検討・設計することが重要です。十分に練られたサービスプロセスに沿って、提供されるサービスデリバリが、競合と大きな差を生むことはごく当たり前のこととして存在しています。

サービス品質と生産性

全ての製造業にとって、品質と生産性が非常に重要であることに異論の余地はありません。ですが、モノのマーケティングの4Pには、品質と生産性は含まれていません。サービスのマーケティングミックスにこれを含める理由は、サービス5つの特性に起因しているからでしょう(SMM (3)サービスの特性 ①無形性と同時性②同、異質性、消滅性、顧客との共同生産)。 

サービスには形がなく、人を介して生産と消費が同時に行われるため、サービスの品質には差が生じます。多くのサービス企業は営利企業であるため、品質は高めていきながら、生産性を向上させて、コストを下げることが必要です。サービス品質の向上は、マーケティングの観点からも競争を勝ち抜くうえで欠くことのできないものであるため、品質と生産性をセットで考えることが不可欠であるということになります。


4/20/2024

SMM (3)サービスの特性 ②異質性、消滅性、顧客との共同生産

前回は、サービスの無形性と同時性について述べました。今回は、異質性、消滅性、顧客との共同生産についてです。

サービスの異質性とは、サービスの品質がいつも同じではなく、差異が生じることを意味しています。サービスは、提供する従業員、顧客、サービスが提供される場所や時間などの要件次第で、差異が生じるリスクがある、というか大半のサービス業では、差異が生じてしまいがちです。

異質性が生じる要因には、様々なものが挙げられます。但し、サービスプロセスが整備されていないとか、サービスの物理的環境が衛生的に問題があるといったようなことは、サービス提供以前の問題のため、こういった類いのものを外せば、異質性の主な要因には、次の3点が挙げられます。

サービス提供者が人間である以上、精神的、肉体的に、毎日同じように行動するというのは難しいと思います。ミスをすることもあるでしょうし、少し不機嫌な気持ちで仕事に向かうこともあるでしょう。人間はロボットではないからです。また、人間には個性、性格の違いがあるから尚更です。レストランでも、高級になればなるほど、スタッフの違いが目立つように思います。同じ職務についていても、まったく同じように、たとえば、感じがいいということはありえないでしょう。スタッフに対して基本的なトレーニングが終了しているレストランで、そこのマネージャーができることは、スタッフ全員の振舞いを良い方向に持っていけるように、環境を整備することことくらいしかできないかもしれません。

ふたつめに、サービス提供者以上に多様な顧客が、異質性の主たる要因です。顧客の性格、顧客のその日の気分に加え、顧客の言動が別の顧客の行動に影響を与える場合があることなどから、顧客は異質性の主たる要因となります。

様々な外的環境もサービスの異質性をもたらす大きな要因になります。天候が商業施設の入場者数に影響を与えることはよくあることです。その商業施設内で、行列ができる店とできない店では、商品の売れ行きに影響がでるでしょう。小売店舗であれば、行列ができる店は繁盛している証明にもなるため、更なる行列をよびます。一方、銀行などで行列ができる窓口やATMなどでは、客足が遠のくかもしれません。このように、外的環境が、顧客の受けるサービスに大きな違いを生じさせます。こういった外的環境を、サービス企業が自らコントロールすることは容易ではありません。

サービスの異質性を極力なくし、品質の均一化をはかるためのひとつの策として、サービスの工業化、IT化、ロボットやAIによる代替などがあります。実際に、ロボットをフロントに導入しているホテルがあります。食品スーパーやコンビニでも近々で珍しくなくなることでしょう。自動運転によるタクシーも登場しつつあります。いずれ、医師や看護師なども、人手不足の解消や人件費の削減などの観点から、ロボットなどに代替されていくことになるかもしれません。


サービスの消滅性については、生産と消費が同時に行われるため、生産するそばから消滅していきます。サービスが無形であるということは、物と違って、在庫ができません。これが消滅性といわれている所以です。生産されたサービスや生産準備にあるサービスは、消費されなければ成立せず、価値を生みません。生産されたサービスの分かりやすい例は、空席がある状態で運行する飛行機が挙げられるでしょう。生産準備にあるサービスであれば、たとえばランチタイムに、(当初の期待や予想と異なり)お客が入らないレストランなどが挙げられます。このように、消滅性は、サービス企業に需給調整を強いることになります。


顧客との共同生産については、サービスの種類と特性①サービスの定義と4つのカテゴリー②有形の行為③無形の行為によって異なります。人を対象にするサービスは総じてサービスの同時性が高く、そこでの顧客の役割が大きい場合は、顧客との共同生産の特性をさらに強めていきます。レストランで注文を尋ねられたら答えるとか、支払いを要求されたら直ちに精算するといったものであれば、顧客は最小限の役割しか果たしません。

ですが、顧客の役割が大きくなるケース、たとえば医療・福祉の場合などは、その典型といえるでしょう。顧客が積極的にサービス生産に参加しなければ、事態の改善や相手による状況把握・診断といったものは難しくなります。

顧客がサービス生産に関与する度合いが高まれば高まるほど、顧客はサービスプロセスに影響を与える可能性が高まります。顧客が正しく関与せず、サービス生産がうまくいかないこともあるのを想定すれば、サービス企業は、顧客を顧客としてみるのではなく、サービスのプロセスとアウトプットにおける品質と生産性を左右する部分的な従業員と捉える必要があるのかもしれません。部分的従業員であれば、顧客としての存在以上に、もっと積極的に教育をしていくことができるでしょうし、また、それが必要ともいえます。

たとえば、顧客に対して、はじめに果たすべき役割とタスクを説明しながら、具体例をケースで明示する。次に、サービス生産の過程において、役割とタスクを理解して実行できているかを確認しながら、状況に合わせて叱咤激励する。その後、顧客のパフォーマンスを評価し、フィードバックを与えながら、モチベーションの維持・向上に努める。最後に、パフォーマンスが良好であれば継続してサービスを生産・消費し、悪ければサービスの共同生産をとりやめ、やめて頂くといった具合です。

多くのサービス企業で、ある程度そういったことはやっている感はあると思いますが、もっとそれを強めていってよいというか、強めていくべきでしょう。相手の常識や良識に期待するといった思考や行動は、もはや通用しないと考えるべきです。ほかのちゃんとやっている顧客や、サービススタッフに迷惑をかけるというような生易しいものでなく、損失や損害を与えることにつながるからです。

そもそも一番最初に、サービス企業が共同生産について顧客に説明し、仮に顧客が必要な役割を正確に理解できないとか、タスクを実行しそうにもない場合、そういった部分的従業員については、はじめから採用しないというのが正しいやり方です。つまり、マーケティングは、予めサービスの共同生産ができそうな自社にとって潜在的に質が良い顧客を探していくことに資源を集中させることが、すべき重要なことになってくることになります。


4/14/2024

SMM (3)サービスの特性 ①無形性と同時性

サービスの特性には、無形性、同時性、異質性、消滅性、顧客との共同生産の5つを挙げることができます。

無形性は、サービスと物の違いを最もよく表す表現です。あらゆるサービスが等しく無形であるというわけではありませんが、物質的な実体がないという点では同じと言えるでしょう。

サービス品質を測定する尺度としてよく知られるSERVQUALを開発したヴァラリー・ザイスハムル(Valarie A. Zeithaml、米国ノースカロライナ大学チャペルヒル校のディスティングイッシュト・プロフェッサー)は、品質を、探索、経験、使用の3つに区分しています。

探索品質とは、購入前に評価できる品質のことで、価格、色、感触、匂いなどをが該当します。洋服であれば形や色などで、香水であれば匂いを嗅ぐことなどによって、その品質を判断し、商品を選択するとしています。

経験品質は、購入後、または消費する段階で認識できる品質のことを指します。たとえば、理容や美容などは、髪をカットしてもらった後にしか、良いか悪いかが分からないという例が挙げられます。

使用品質は、購入後、または消費した後ですら、評価できないこともある品質のことを指します。使用品質と経験品質の区分には個人差があるものの、車の修理工場でブレーキが調整された具合を、多くの人は評価することが難しいといった例が挙げられます。

この3つの品質のうち、サービスの無形性には、経験品質と使用品質が重要な要素になるといえます。というのも、顧客は消費前に、サービスを評価することができません。このため、サービス企業は顧客に対して、サービス提供プロセスへの参加をとおして、顧客が何を得られるのかをできる限り具体的に提示することによって、購入前のサービス評価を可能にすることができるようになります。ちなみに、昨今、口コミが完全に定着したのは、こういったことも関係しているといえるのでしょう。これは、無形のものを、口コミをとおして謂わば有形化し、顧客が評価できるように支援しているというように解釈できます。


このようにサービス企業は、無形のサービスプロダクトに関して、有形的な側面に焦点をあて、有形要素を抽出することで、顧客に分かりやすく、場合によっては安心感を購入前に与えることで、自社プロダクトの消費を促進させることが必要になるといえます。


サービスの2つ目の特徴は、物はその生産後に消費されますが、サービスの場合は生産と消費が同時に行われるということがあります。顧客は自身が受けるサービスの生産過程に関与し、生産と同時に消費します。但し、同時性の程度は、サービスの種類によって異なります。

サービスの種類と特性(①サービスの定義と4つのカテゴリー②有形の行為③無形の行為)で記載した4つのカテゴリーのうち、人を対象にするサービスのほうが、物を対象にするサービスより、同時性が高いといえるでしょう。たとえば、医療・福祉(有形の行為で人に作用するもの)であれば、病院で患者が診察室に入ると診療が始まる。娯楽/エンターテインメント(無形の行為で人の心に作用するもの)の音楽の場合なら、コンサートホールに行き、演奏が始まると同時に顧客がそれを聴くといったものになります。

一方で、修理(有形の行為で物に作用するもの)や、金融(無形の行為で情報に作用するもの)などであれば、同時性はそれほど高くはなく、部分的なものにとどまるといっていいでしょう。

サービスの生産と消費が同時に行われるということは、サービス提供者と顧客の間でインタラクションが生まれ、これが相互に影響しあうことになります。このインタラクションがサービスの質、満足の程度を決めることが少なくありません。従って、顧客と接する従業員の教育が重要なことは言うまでもないことですが、併せて顧客を教育することも自ずと必要になります。少し極端な例かもしれませんが、キースジャレット(著名なジャズピアニスト、クラシックではない)は、演奏中に観客が咳をしたら、演奏を途中でやめてしまう、退場することもあるということで有名なミュージシャンでした。その是非はともかく、サービスの質は、サービス提供者の努力や能力だけで決まるものではなく、サービス提供プロセスに参加する顧客が自らの役割をしっかり考え実行する必要があります。

異質性、消滅性、顧客との共同生産については、次回とさせていただきます。


4/08/2024

SMM (2)サービスの構成要素 ②4つの要素

前回のSMMブログでは、サービスの構成要素に関する考え方を述べました。今回は、その4つの要素(サービスプロダクト、モノプロダクト、サービスデリバリ、サービス環境)について、以下に概説します。


サービスプロダクト

サービス提供に関わるもの全て(ひとつのトータルパッケージ)のうち、中核をなすものがサービスプロダクトで、まさにサービスの部分にあたります。サービスプロダクトとは、サービス提供者があらかじめ計画した一連の活動のことを指します。一連の活動とは、顧客が必要とする結果を、顧客に提供できるようにするためのものです。

たとえば、有形の行為で人の体を対象にするサービスでは(サービスの種類と特性 ①サービスの定義と4つのカテゴリーサービスの種類と特性 ②有形の行為)、旅客輸送の場合は乗客を安全で定刻どおりに運ぶこと、要介護者を対象にした高齢者施設であれば入所者が不自由さを感じることなく日常の暮らしができることといったものが該当します。有形の行為で有形資産である物を対象にするサービス、たとえば衣服のクリーニングであれば、汚れを落とし白くきれいに仕上げる活動全体となります。つまり、有形・無形を問わず、顧客が望む結果を提供するための計画された全ての要素ということができます。

ところで、旅客輸送では安全と時間以外にも、快適性が重視されることも多いはずです。この場合、旅客輸送では安全性と遅延なく移動することをコアサービスと位置づけ、快適性や利便性といったものは補完的サービスとして捉えるのが一般的でしょう(サービスの構成要素 ①コアサービスと補完的サービス)。但し、コアサービスに属さないものは全て、補完的サービスになるわけではありません。私たちはサービスを認識する時に、以下にあるような3つの要素、モノプロダクト、サービスデリバリ、サービス環境にも関心を払います。

なお、サービスには、モノと異なり、際立った特徴があり、無形性、同時性、異質性、消滅性、顧客との共同生産といったものが挙げられます。これらの特性については、次回のSMMブログ「(3)サービスの特性」で、述べていくことにします。


モノプロダクト

ひとつのトータルパッケージのなかで、顧客に提示される物的な要素のことをいいます。たとえば、小売業などは分かりやすいでしょう。購入する衣服や雑貨、食品といったモノそのものが該当します。レストランであれば、料理そのものになります。 小売業でモノを購入する場合、モノに関する説明を受けたり、購入後の包装、時には自宅への配送、場合によってはアフターサービスが必要になるかもしれません。このように、消費活動には、モノのみを購入するということは意外と少ないものです。サービスについても、レストランの料理や教育機関のテキスト等々、サービスとモノの組み合わせで成立していることが大半を占めているといえるでしょう。


サービスデリバリ

顧客が実際に経験するサービス活動のことを指します。サービスプロダクトと混同しそうですが、サービスプロダクトとは上述のとおり、計画または予定されたものを指します。サービスデリバリは、計画や予定ではなく、実際に経験する活動のことを表します。  

サービスデリバリをサービスの構成要素に加える理由は、サービスの特徴である無形性、同時性、異質性、消滅性、顧客との共同生産といったものに起因します。たとえば、サービスは作り置き、在庫をもつことができず、生産自体が同時に行われます。

ものづくりの場合であれば、計画したとおりに工場などの現場で、機械的に、または化学的に生産されるのが普通であるため、誤差は発生するものの、通常は計画値と実績値にそれほど大きな乖離は発生しないのがふつうです。また、万が一、間違いが発生した時には、その場で生産ラインを止めて点検をしたり、配送途上にあるものを回収することもできます。 

ところが、サービスの場合は、上記のとおり形がなく、しかも生産と消費が同時に起こるため、ものづくりのようにはいきません。このため、サービスの場合は、計画したもの(サービスプロダクト)と、実際に提供したもの(サービスデリバリ)に、ギャップが生じることが少なくありません。 

とりわけ、人の体や人の心を対象にする場合であれば、サービス提供者によって、サービスのバラツキや、顧客から見た印象に、大きな差が生まれることはよくあることといって差し支えないでしょう。また、顧客がサービスの共同生産に大きく関わることになれば、その差は尚更広がります。こういった理由から、サービスデリバリがサービスの構成要素に含まれることになります。

サービスデリバリを経験した顧客は、それに基づいてサービスに対する評価(満足や不満など)を下します。このため、サービスの生産を主に人手に頼っているサービス企業では、サービスデリバリが最も重要な要素になるといえます。


サービス環境

サービス活動が行われる場所の状況、主として物理的な環境のことを指します。リゾートホテルであれば、部屋から眺める外の景色や、部屋の広さ、間取り、部屋の明るさ、部屋でくつろぐ時のソファーの座り心地、館内案内といったものなどが含まれます。また、サービススタッフの制服やフロントデスク、ロビーラウンジ、車寄せのスペース、ホテルの外観など、様々なものが対象になります。 

サービス環境については、常識の範囲でわかることだと思いますが、リゾートホテルにも高級からそうでないものまでランクが幾つかあります。また、リゾートホテルとビジネスホテルでは、当然のことながら異なります。このように、サービス環境は提供するサービス内容によって違いがあり、提供するサービスに見合ったサービスの環境を適切に整備することが重要といえます。当たり前のことですが、意外とこれができていないサービス企業が少なくないのではないでしょうか。


以上のように、サービスは、サービスプロダクトだけでは成立せず、モノプロダクトサービスデリバリサービス環境といったものを、適切に組み合わせることが重要であり、これらをひとつのトータルパッケージとして捉えることが非常に重要です。


4/01/2024

SMM (2)サービスの構成要素 ①コアサービスと補完的サービス

サービス企業が顧客に魅力あるサービスを提供するためには、サービスを供給する環境、サービス提供者が活動する空間全てを、ひとつのパッケージとして見立て、全体をマーケティングしマネジメントすることが重要です。何故ならば、その各要素が、顧客の期待と満足に直結するからです

サービスは、コアのサービスと補完的なサービスの2つに区分されて議論されることがよくあります。 

コアサービスとは、サービスの中核をなすもので、顧客の主要ニーズに応えるベネフィットだったり、顧客の主だった関心事や問題に対するサービスの打ち手のことを指します。旅客/貨物輸送であれば安全で遅延のない移動、レストランであればおいしい食事、ホテルであれば安全で快適な滞在といったものが該当します。

補完的サービスとは、コアサービスに付随するものをいいます。たとえば、旅客輸送の場合であれば機内食であったり、搭乗時の応対に係るサービス、機内で視聴できる映画や音楽、フライトの予約サービスなどが該当します。ホテルであれば、レストランやルームサービス、フロントやコンシェルジェデスク、ランドリー、ポーターサービス、PCやプリンターなどの貸与、アスレチックジムやスイミングプール、TVビデオ音楽、駐車場、アクセスの良さなど、当てはまるものが多数あります。

サービスは、物のような所有権の移転が起こらず、利用したり、体験したりするものです。たとえば、食品スーパーの野菜売り場でじゃがいもを購入すれば、有形物であるじゃがいものの所有権を得ることになります。じゃがいもを使ったポテトチップスを購入しても、所有権は移転します。

ところが、レストランでじゃがいもを使った料理、たとえばジャーマンポテトを食べても、通常それはその料理を所有するという意味にはならないでしょう。シェフが選んだ材料に調理技術を施して仕上げた料理をはじめ、それを盛りつけた皿や、テーブル、いす、店内の照明など料理を食する空間、料理を運ぶ人など、そういったもの全てを含んだものに対して代金を支払います。 このようにサービスには、有形無形を問わず、サービスが提供される環境全体、そこでのサービスパフォーマンスに関わる全ての要素が含まれます

サービスを構成する要素を考える時、研究者の間で若干の相違があります。一つには、上記にあるようなサービスが提供される環境全てをサービスプロダクトとして扱う人たちと、サービスプロダクトをおよそコアサービスに限定する人たちです。本ブログでは、後者の立場をとり、話をすすめていきたいと考えています。

その最たる理由は、全てをプロダクトとして扱うことにした場合、サービスビジネスの問題などをフレームワークを用いて考察したり、問題解決の優先順位付けやアプローチなどを検討することが、少々難しくなると思われるからです。もう少し詳細にいえば、検討すべき事象がわかりにくくなったり、論点が混乱しやすくなるなど、考察にモレやダブリ、或いはズレなどが発生しやすくなるからです。

このため、本稿では、サービスは、サービスプロダクト、モノプロダクト、サービスデリバリ、サービス環境の4つで構成されるものとします。次回は、各要素について述べていきたいと思います。

(4つのサービスカテゴリーについては、(1)サービスの種類と特性 ①サービスの定義と4つのカテゴリーを、ご覧ください。)


3/25/2024

SMM (1)サービスの種類と特性 ③無形の行為

今回は、サービスプロダクト4つのカテゴリーの残り2つ「無形の行為」について、述べたいと思います。(前回の「有形の行為」はこちら)

無形の行為で人の心に作用するサービス

教育、心理療法、情報通信、娯楽/エンターテインメント、広告宣伝のように、顧客に情報提供や専門的なアドバイスをすることで、顧客の心に働きかけるこれらのサービスは、その提供過程で、顧客の態度、言動、行動などに影響を与えます。このカテゴリーにおけるサービスでは、顧客は必ずしもサービスの現場にいる必要はありませんが、顧客はサービスを受ける一定の時間、我慢や忍耐、精神面での努力を強いられることがふつうです。

本来、サービス提供側には高い倫理観が求められる一方で、サービス受領側には一種の鍛錬や訓練、高度な理解と実行力が、多くの場合必要になります。一例として、ラブロックとウィルツは、旅客輸送では顧客は眠っていてもサービスの目的は達成される(目的地まで到着できる)が、教育では顧客が眠っていては、求める知識は何も得ることができないといっています。

経営コンサルティングについては、情報に作用する分野に属するサービスとの見方もできると思います。実際、ラブロックは人の心に作用するサービスと情報に作用するサービスは明確に区分できないことがあるとしています。ただ、ラブロックが経営コンサルティングを人の心に作用するサービスに分類したのは、本来の経営コンサルティングの姿、あり方からすれば、こちらのほうがより適切と判断したからでしょう。ただ、昨今の経営コンサルティングと呼ばれているものには、システム導入やデジタル武装といったものが多数含まれ、本来のコンサルティングとはかけ離れたサービスになっている感が多分にあるように思います。

無形の行為で情報に作用するサービス

投資顧問等含む金融、法律、会計、調査、データ処理、プログラミングといった情報に作用するものは、各専門家が専門知識を用いて、情報を処理し、処理した情報を顧客に、媒体(CD-ROM、DVD、レポート、出版物等)を介して提供しています。サービスのアウトプットとしての情報の品質や精度は、他の3カテゴリーとは異なり、分かりづらい側面があることは否めないでしょう。

ここまでサービスの4つのカテゴリー(有形の行為で人に作用するもの、有形の行為で物に作用するもの、無形の行為で人の心に作用するもの、無形の行為で情報に作用するもの)について述べてきました。このカテゴリー分類は、主に、サービスの有形・無形の程度、サービスが生産され提供されるプロセスにおける顧客の関与の度合い、サービスを受け取る場所や時間の違いなどをもとに分類されたものです。

この分類に沿って、自社が属するカテゴリー内の他の業種や業界を参照することで、優先して解決したほうがよい課題の選定や、その課題解決の打ち手、さらには一歩先を行くようなサービスの戦略やオペレーションなどについて、きっかけやヒントを掴むことができるといえます。次回は、サービスの構成要素について考えてみたいと思います。


3/18/2024

SMM (1)サービスの種類と特性 ②有形の行為

今回は、前回のサービスマーケティングマネジメント(SMM)述べたサービス業における4つのカテゴリーのうち、有形の行為を対象とした2つのサービス(人に作用するサービス、物に作用するサービス)について考えたいと思います。

有形の行為で人に作用するサービス

このカテゴリーは、多くの人がサービス業と聞いてすぐに連想するもので、サービス業の典型といえるタイプです。飛行機や鉄道、タクシーなどの旅客輸送、レストランやホテルなどの飲食・宿泊、健康増進を目的にしたフィットネスセンター、理容や美容・ネイルサロンなど、そして高齢者施設等含めた医療・福祉などが代表的なものでしょう。

これらの業種に共通することは、顧客自身がサービスプロセスを構成するということです。顧客は、多くのケースにおいて、提供されるサービスを受け取るために、それらの施設へ直接出向く必要があり、その場所でサービの提供と受領が同時に行われます(自宅などへサービス提供者が訪問しサービス提供を行う場合、たとえばプロの調理人が顧客の指定する場所たとえば自宅などで料理を作るとか、髪をセットするということもありますが、こういったケースはここでは例外的なものとして扱います)。

顧客はサービスから得られる対価、自分が十分納得できるベネフィットを得たいのであれば、積極的にサービスオペレーションに加わらなければなりません

業種が多岐にわたるこのカテゴリーでは、顧客がサービスを享受する時間はまちまちです。たとえば、飛行機で米国本土へ行く場合であれば最低でも10時間はかかるでしょうし、国内線であれば1時間程度で済む場合も珍しくありません。女性が美容院へ行く場合などは、カットとシャンプーだけであれば1時間くらいかもしれませんが、ヘアダイをしてパーマをあて、ネイルチェックなどまでするようだと、(詳しくは知りませんが)5時間くらいは、その場所を占有することでしょう。フィットネスセンターなども、取り組むプログラムによってまちまちでしょう。 

ホテルなどは、さらにバリエーションが広がります。同じシティホテルでも、宿泊だけの人もいれば、飲食もそこで全て済まし、ジムやプールなども使い、仕事もそこで行って、何日も滞在するとなると、顧客はチェックインからアウトまで、終日ホテルのサービス提供プロセスに関わっていることになります。長時間、しかもその顧客のリピート需要が期待できるビジネス客であれば、サービスプロセスと各サービスの成果を、事前に推測したり、できれば測定するなど、広く検証、検討しなければなりません。顧客が得られるであろうサービスベネフィットは、顧客が支払う代金以外に、顧客が費やす時間に見合うものかどうか、精神、肉体の面においても考える必要があるはずです。

製造業以上に、サービス業、特に有形無形問わず人に作用するサービス業においては、サービス提供者は、サービス利用者の気持ちや満足感などを推し量るのが難しいことが多くなるのが特徴で、それが高額なサービスや高付加価値を生み出すものになれば、尚更だといえるでしょう。

有形の行為で物に作用するサービス

このカテゴリーは、顧客がサービス提供の場に居合わせることは少なく、サービスの生産と消費が別々に行われるのが特徴で、この点において上記の人に作用するサービスとは大きく異なります。貨物輸送、倉庫、修理やメンテナンス関連、清掃やクリーニングなどは、まさにそういった業種になります。同じ輸送でも、旅客のほうは顧客が運ばれるわけですが、貨物のほうは顧客が依頼した物が運ばれるわけです。

小売については、オフラインであればサービス提供の場にいることがふつうですが、オンラインの場合だとサービスの現場にいることはありません。造園・園芸については、剪定(センテイ、樹木の枝を切り取ること)を行う場合、サービス提供と受領の両者が、現場に一緒にいることはありますが、それも通常、限定的です。

このように、有形の行為で物に作用するもの(有形資産を対象とするサービス)は、サービスは物の生産工程と同じようなものと捉えることができるでしょう。サービスの生産と消費は別々に行われることとなり、顧客がサービスプロセスに直接関与するというのは、かなり限定的といえます。

無形の行為については、次回にしたいと思います。



3/11/2024

SMM (1)サービスの種類と特性 ①サービスの定義と4つのカテゴリー

(Reflectionsではしばらくの間、サービスのマーケティングとマネジメントについて取り上げていくことにします。SMMは、Service Marketing & Management/サービスマーケティングマネジメントの略語になります。)


私たちはサービスという言葉を様々な意味で使っていますが、このブログでは、市場における売り手と買い手の価値交換の行為で、本質的に無形であり且つ購入者に所有権をもたらさないものと定義します。その上で、私たちは誰もが、期待通りの結果を求めてサービスを購入しているということを前提とします。

総務省統計局のサービス業基本調査項目を参考にすると、サービス業には、情報通信業、不動産業、飲食・宿泊、医療・福祉、教育・学習支援、協同組合の複合サービス事業、これらに加えてその他サービス業、たとえば学術・開発研究機関、洗濯、理容・美容、娯楽、廃棄物処理、自動車整備、機械等の修理、物品賃貸、広告、専門サービス(法律、会計、調査、経営コンサルティング等)といったものがあります。

ほかにも、金融、輸送・倉庫、卸売、小売といった業種もサービス業に含めることができ、実際、米国のGDPを構成するサービス業の内訳には、これらがカウントされています。

サービスマーケティング研究のパイオニアであるクリストファー・ラブロックによると、サービスはサービス行為の性質とサービスが提供される対象によって、4つのカテゴリーに分けることができるとしています。


  • 有形の行為で、人に作用するもの(人の体を対象とするサービス)

旅客輸送、飲食・宿泊、理学療法、フィットネス/トレーニング関連、医療・福祉、理容・美容、冠婚葬祭関連

  • 有形の行為で、物に作用するもの(有形資産を対象とするサービス)

貨物輸送、倉庫、修理やメンテナンス関連、清掃やクリーニング、廃棄物処理、卸売、小売、造園・園芸

  • 無形の行為で、人の心に作用するもの(人の心を対象とするサービス)

教育、心理療法、情報通信、娯楽/エンターテインメント、広告宣伝、経営コンサルティング

  • 無形の行為で、情報に作用するもの(無形資産を対象とするサービス)

投資顧問等含む金融、法律、会計、調査、データ処理、プログラミング


サービス業は、製造業(業界問わずモノづくり関係する業種)と異なり、顧客がサービスの生産プロセスに関わることが多い。また、提供されるサービスの手順が、顧客によって違いが生じる可能性があるため、サービス提供事業者の経営企画やマーケティング、営業/販売といった部署に関係する人たちは、サービスが提供されるまでのプロセスを把握する必要があります。

本来、サービス業も製造業同様に、オペレーションを、事業規模の大小や全国・ローカル等の展開問わず、決められた作業手順で、チェックや管理含めて厳格に行わなければなりません。それができていないために、最近の例でいえば(あまりにも低いレベルの例ですが)、季節外れの食中毒などが、有名無名問わず、頻発しているといえるでしょう。

ラブロックは、上述の4カテゴリーに属する業種はそれぞれが異なるものでも、サービスプロセスに重要な共通点があると指摘しています。故に、同一カテゴリーに属する業種の人たちは、それぞれの業種を学ぶことで貴重な発見が得られるとも述べています。

次回は、その4つのカテゴリー特性について、述べていくことにしたいと思います。


3/03/2024

ブランディング (3)セグメンテーション ④実行の成否を左右するポイント

セグメンテーションは、次のステップであるターゲティングにつなげることが必要です。そのためには、セグメンテーションの段階から、ターゲティングしていく先(落としどころ)を、漠然としたものでもいいので、イメージしながら行っていくことが重要です。

一般的にいえば、変数は主に以下のようなものになるでしょう。

  • 地理的/ジオグラフィック変数(居住地、気候、地域特性や都市化の進展度)
  • 人口動態/デモグラフィック変数(性別、年齢、家族構成、所得、職業)
  • 心理的/サイコグラフィック変数(社会的階層、ライフスタイル、性格)
  • 行動/ビヘイビアル変数(購買経験の有無など過去の購買状況、ヘビー・ライトなどの使用頻度)


このような変数を組み合わせて、攻略したいターゲットセグメントを考えていくわけですが、その際、以下の点は必ずおさえて行わなければいけません。それは、(3)セグメンテーション①主旨と要件に記載した5つの可能性です。

当該セグメントは、

  • 規模と潜在購買力が測定できるか(測定可能性)
  • 最低限の売上げと利益を獲得することができるか(維持可能性)
  • 当該セグメントに働きかけることができるか(到達可能性)
  • 自社の経営資源でうまくアプローチすることができるか(実行可能性)


米国MBAの古典的なケースに、ブルドーザー市場のキャタピラー社とジョンディア社のスタディがあります。大企業のキャタピラー社と競っていたジョンディア社は、地域ディーラーネットワーク・低価格・サービスサポートの3つを武器に、小型ブルドーザー市場にマーケティング資産を集中させ、自社のマーケットポジションを確立しました。このスタディで重要な点は、大型と小型のブルドーザーでは、顧客企業の要求が異なることから、ジョンディアにとって独自のセグメンテーション、つまり差別化可能性を成立させることができたということです。

大半の市場において、セグメンテーションをプロダクトの用途と顧客が求めるベネフィットに基づいて行えば、有益な結果は得られます

そもそもセグメンテーションは、潜在顧客のうち同じような属性を持ったグループを識別するために行うものです。ですが、セグメンテーションは単に市場の異質性を認識するだけの手段ではありません。セグメンテーションは、あるマーケティングミックスで、見込み客を、同じように反応する幾つかのセグメントに切り分け、効果的で効率的なマーケティング戦略を立案する視点を与えるものであり、また、そうでなければ良いセグメンテーションとはいえないでしょう。

ところで、セグメンテーションはマーケティングの中心的なトピックであるにも関わらず、あまり適切に行われてこなかったのではないでしょうか。冒頭でも記したとおり、セグメンテーションはターゲティングにつなげていくために行うものです。どれだけ、どこまでセグメントしていくのが適切かは、当事者の考え方次第です。プロダクトの提供者がターゲットのイメージを、何処まで具体的に(想像力を駆使して)行っているかで、セグメンテーションの成否が変わってくるといえるでしょう。つまり、事前の仮説が非常に重要になってくるわけです。

プロダクトの提供者は、狙いたい単一のセグメントを選択し、ほかのセグメントに対しては有効でないマーケティングミックスを行うのか、或いはセグメント毎にニーズが異なっていようとも、セグメント全体に対して有効であろうマーケティングミックスを行うのか。ざっくりいって、このどちらかしか方法はありません。というのも、セグメント毎に、リソースを分散して投下できるような体力のある企業、しかも策は必ず的確に打てる、そういったことができる企業は極めて少数(または皆無?)だからです。

多くの企業が、規模の経済を得たいと思っています。この場合、ひとつの同じマーケティングミックスで、効率よく行いながら、可能な限り多くのセグメントに訴求し、できる限り多くの顧客を惹きつけていく、そういった大規模な企業集団が存在します。ですが、セグメントを絞り込み、それに適したマーケティングミックスを行う企業が突如として現われたとしたら、先の企業集団にとっては脅威な存在として映るはずです。

セグメントするかしないか、するのであれば何処までセグメントするのが適切かといったことは、異質な市場において共通のニーズがあるかどうかが検討の前提となり、そのうえで規模の経済と複数のマーケティングミックスを用いる場合のコストのバランスが問題となります。

たとえば、B2C市場における小麦粉や食用油などの食料品、肌着・靴下などのインナーウェア、防虫剤などの日用雑貨品等々、所謂コモディティ化した消費財関連の商品などの需要は、多くの場合、極めて同質的といって差し支えないでしょう(とはいえ、筆者は食用油や肌着類などはかなり拘っているのですが・・・)。

このため、各企業が提供する製品は、同じようなものに収斂していき、各社いずれもできる限り幅広い顧客を惹きつけられるマーケティングミックスを行うことになります。こういった製品カテゴリーにおいても、セグメント市場は存在するでしょうが、それぞれ別個に対応しなければならないほどの違いや必要性といったものは、存在しないといえるでしょう。少なくとも、各市場における主力企業にとっては、そのはずです。(B2B市場については、顧客の要望に合わせカスタマイズした商品とサービスは、上記のようなB2C市場のものとは異なります)

但し、マーケットシェアの小さい企業や事業規模が大きくない企業などは、セグメントすることで、シェアを拡大させたり、新たに参入する機会を獲得するといったことが珍しくありません。それ故、こういったタイプの企業は特に、まずは市場をセグメントしてみることで、大きなビジネスチャンスのヒントをつかめる可能性があるといえるでしょう。


2/26/2024

ブランディング (3)セグメンテーション ③法人市場

前回は消費者市場のセグメンテーションについて述べました。今回は、法人(Business to Business)市場のセグメンテーションについて、簡潔に述べたいと思います。

法人市場のセグメンテーション変数は、消費者市場の変数2分類とおよそ同じと捉えることもできますが、様々な法人企業が存在する上、各社のコーポレートや事業会社、部門、担当者の顔などが、消費者よりもずっと見えやすい、或いは分かりやすい(と筆者は思っています)ということもあって、より具体的なアクションにつなげられるようにすることが必要です。このため、消費者市場よりも、多くの段階に分けて深堀していくことが重要だろうと思います。なお、変数の多くは、日々の営業活動で収集していく情報です。

企業特性

業界・業種

売上高や従業員数などの企業規模

企業や事業の成長性

リーダーやチャレンジャーなどの業界における位置づけ

本社等所在地、支社支店等の数

自社(プロダクト提供者)プロダクト購買/利用額

顧客内シェア

顧客とのリレーションの有無や強さの程度、等

購買特性

用途・機能・技術など焦点を合わせる領域

品質・サービス・知名度や安心感・経済性・利便性・迅速性などのベネフィット

スイッチングコスト(使い慣れた製品を他社製のものに変更する時に生じる切替障壁)

ステークホルダー、特に意思決定者のエンドユーザーに対する態度やパワー

リスクを許容する組織の風土や文化

意思決定(もしくはプロダクト評価)の仕方、認知・関心・購買意思などの購買に至る段階

コミュニケーション行動、等

法人市場は、消費者市場の顧客以上に、パレートの法則(全体の8割の売上は、顧客全体の2割によって達成される)が、適用できるといわれることがよくあります。実際、筆者も経験上、厳密に80/20ではありませんが、そのように感じることが時々ありました。以前、筆者が勤務していた某大手外資系企業の営業部門は、顧客の国内市場における売上げがどれだけ大きくても、顧客の業界での位置付けがどれだけパワフルなものであったとしても、自社との取引高が大きくなければ、当該セグメントにおけるポジションはかなり後位で、営業活動の優先度も非常に低い、場合によってはアプローチすることさえしませんでした。このようなことからも、サービス提供者のプロダクトの購買(または利用)額は、企業特性を検討する上で重要な変数だといえます。

法人顧客をセグメンテーションしていく時、ターゲティング前の段階では、以下のような項目を使って行うことが効果的です。

(1)顧客の魅力度

(2)自社のポジション

(3)収益性

(4)成長性

(1)と(2)は拡販の期待度、(3)と(4)は収益力としての括りです。

(1)は、将来儲かる顧客かどうかを、成長性や顧客内シェア、新規大型案件保有の有無、顧客の価格交渉力などをとおして考えます。

(2)は、自社の差別化要素や価格優位性などにより、競合と伍して戦うことができるかをみます。

(3)は、現在儲かっているかを、売上げ、利益、顧客の価格交渉力で判断します。

(4)は、売上げ成長率や利益成長率で、伸びているかを検討します。

なお、顧客の事業規模が大きい場合は、上記の考え方が適用しやすくなります。規模が小さい場合は、所在地によるセグメンテーションがまずは有効というか、現実的です。ただ、最終的には、各顧客の購買者が異なるニーズやベネフィットを持っていることが十分想像に難くないため、ニーズやベネフィットをもとに細分化することが、マーケティング戦略を実行する上で正解だといえるでしょう。


2/19/2024

ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場

今回は、前回のブランディングについてのブログで述べたセグメンテーションの変数をベースに、消費者を直接相手にしている市場(Business to Consumer)について、特に消費者向けのプロダクト(製品/サービス)を提供している消費財(Consumer Products)の市場で少し考えてみたいと思います。

はじめに、おさえておかなければならないことを書き留めておきます。消費財市場では、特に、セグメンテーションを考える際、基礎的な前提事項が2つあります。

第一に、顧客はモノやサービスとしてのプロダクトそのものよりも、むしろプロダクトから得られるベネフィットを求めているということ。その得られるベネフィットと、その対価であるコストとの組合せを絶えず考慮している。

第二に、顧客や潜在顧客は自分たちが経験してきたプロダクトの利用状況などから、利用可能な代替できるプロダクト、つまりとってかわることのできるベネフィットを常に検討している


消費財市場では、セグメンテーションの変数は、およそ次の大きな2つに大別できます。(消費特性は「態度」特性と「行動」特性に分けて考えることができますが、ここでは極力シンプルに捉えられるように、「消費」特性として一括りでまとめています)

消費者特性:客観的な尺度(ジオグラフィックとデモグラフィックの変数)、主観的な尺度(サイコグラフィック変数)

消費特性品質・サービス・プレステージ・経済性・利便性・迅速性などのベネフィット購買経験の有無など過去の購買状況、ヘビー・ライト・未使用などの使用者のタイプ、認知・関心・購買意思などの購買に至る段階、熱狂的や否定的などのプロダクトに対する態度、購買や返品に関するパターンや仕方、コミュニケーション行動、等

ここで注意しなければならないことは、消費者特性は、消費者が誰であるかを示してはくれるが、消費者が何故そのような行動をしたのかという理由については明らかにすることはないということです。このため、消費特性を把握することが、消費者特性の不十分さを補い、何故そういった行動をしたのか、その理由に近づくことができるようになります。


ベネフィットとは利用者にとっての便益、ここでは消費者にとって便利で得になること、良いことといったものなどを表します。コトラーが過去に言及したベネフィットのわかりやすい例に、歯磨き粉があります。通常、歯磨き粉を買う人は、それを所有したいから買うのではなく、歯磨き粉がチューブに入ったものを使って歯磨きすることで、大きく分ければ、以下のようなものを求めているといえます。

薬用効果(虫歯の予防、歯槽膿漏の予防、煙草のヤニの除去など)

健康/ビューティ志向(白い歯・健康的に見える歯、爽快感、口臭予防など)

味覚志向(主に子供向けの味・フルーツやミント味など)

ほかにも、感性消費、たとえば旅行で得られるベネフィットなどは、比較的イメージもしやすく、わかりやすいのではないでしょうか。アクセス性や経済性以外にも、JR東海エージェンシーの調査では、①「特性体感・経験」、②「自己拡大」、③「リフレッシュ」、④「関係強化」、⑤「自然満喫」、⑥「現地交流」を用いて、「観光地としての価値ベネフィットに関するイメージ分析」を行っています。①から⑥のイメージは、それぞれ次のとおりです。

「その場でしかできない経験ができる」「ワクワク・ドキドキを味わえる」「話題になっている場所を訪問できる」

「自分の生活や生き方について考えることができる」「自分自身を見つめ直すことができる」

「気分的にリフレッシュできる」「日頃の疲れを癒すことができる」

「同行者と今まで以上に仲良くなれる」「同行者と語り合うことができる」

「大自然を満喫できる」「自然を身近に感じることができる」

「さまざまな人たちと出会うことができる」「現地の人たちと仲良くなることができる」

D・A・アーカーは、四半世紀以上も前に、ベネフィットを機能的情緒的自己表現の3タイプに分け、情緒的と自己表現ベネフィットを追求すべきと述べました。

市場はどのようにセグメントできるのか。細分化した各市場には、どのような人たちが、どういったベネフィットを求めているのか。プロダクトに求めるベネフィットに応じて、消費者をグルーピングしていくことが必要です。新商品開発に携わったことのある方なら、活動の最初から最後まで、ベネフィットという言葉がついてまわることをよくご存知のはずです。それほどベネフィットは重要であり、誤解を恐れずにいえば、ベネフィットこそが最も重要なものといえます。

最後に、セオドア・レビットは、消費者セグメントについて、次のようにいっています。心に留めておくべき名言だと思います。「消費者はひとつのセグメントに属しているのではなく、同一時間帯の中でも、その都度多種類のセグメントに属していると見なければならない


2/12/2024

ブランディング (3)セグメンテーション ①主旨と要件

ブランドのポジショニングを考えることは、マーケティング活動で最も重要なことと言って良いのではないでしょうか。「製品を売るのではなく、ポジションを作り出すこと」という言葉もあるくらいです。

ポジショニングとは、自社プロダクトが他とはハッキリ異なる点、すなわち差別化のポイントや、利用者にとっての主たるベネフィットを、潜在顧客の頭または心の中に刷り込んでいく活動のことをいいます。ちなみに、直訳では、Positioning(ポジショニング)は位置付け、Position(ポジション)は位置ということになります。位置付けるためには、連続、不連続関係なく、行為が集積されている必要があります。

ジャックトラウトは、差別化できるまでのステップを、分かりやすく4つに分けています。

はじめに、自社と競合が消費者にどのように見られているかを把握する。

次に、他者との違いを考えて自社が差別化できるアイデアを探す

その後、独自性を感じてもらえるように、エビデンスを示しながら、信頼を獲得していく。

最後に、独自性の良さを分かってもらえるように、コミュニケーションを繰り返す。(ツーリズム(5)マーケティングプランニング ②プロセスxv ポジショニングその2)


ポジショニングは、その検討を始める前に、セグメンテーションとターゲティングを考え、決めておかなければいけません。(ツーリズム(5)マーケティングプランニング ②プロセスxiv ポジショニングその1)

ケラーは、消費者のブランドに対する知覚や選好などが人によってまちまちであるため、市場を明確に細分化し、ターゲット市場を選定しなければならないと述べています。ここでいう市場(マーケット)は、当該プロダクト(製品、サービス)に対して顕在化している顧客と潜在顧客の集合体のことをいいます。

市場セグメンテーションとは、消費者の特徴やニーズ、行動などに基づき、異なるプロダクトを求めることが考えられる集団ごとに分類していく行為のことをいいます。ただ、市場をできる限り厳密に分割しようとして、細かく捉えていくことが実効性の面でできればいいのですが、リサーチなどに要する時間や費用などを考慮すると、ほどほどにしておくのが賢明でしょう。

セグメンテーションの変数は、一般的にいって以下のようなものが挙げられます。

  • 地理的/ジオグラフィック変数(国、地域、市、近隣区域、居住地、気候、人口密度、地域特性や都市化の進展度、規制等)
  • 人口動態/デモグラフィック変数(性別、年齢、世代、家族構成、ライフステージ、所得、職業、学歴、人種、国籍、宗教等)
  • 心理的/サイコグラフィック変数(社会的階層、ライフスタイル、価値観、嗜好、趣味、習慣、性格、購買理由等)
  • 行動/ビヘイビアル変数(購買経験の有無など過去の購買状況、ヘビー・ライトなどの使用頻度、品質・サービス・プレステージ・経済性・利便性・迅速性などのベネフィット、購買や返品に関するパターンや仕方等)


攻略したいセグメント、つまりターゲティングを検討する際、定量的に推定しやすいジオグラフィックやデモグラフィックの変数を用いることが、どうしても多くなってしまいがちです。ですが、新しい切り口を見つけ出したところが、他社よりもずっと早く、より大きな成果を得られる可能性が高いことを考えると、サイコグラフィック変数はもっと活用されるべきでしょう


フィリップコトラーは、効果的なセグメンテーションの条件として、次の5つを挙げています。

  • 測定可能性:セグメントの規模、実質賃金などの購買力、プロフィールが測定できること
  • 維持可能性セグメントから十分な利益を獲得できること 
  • 到達可能性:マーケティング活動を行う上で、セグメントに到達できること
  • 実行可能性:セグメントを惹きつけるマーケティングプログラムが実行可能であること(例として、小規模事業者が市場を幾つかにセグメントし、それぞれに対してマーケティングプログラムを策定したくても、人員不足やスキルの欠如などの理由から実行できない場合、そのセグメンテーションは当該事業者には意味をなさないということ)
  • 差別可能性:マーケティングプログラム毎に異なる反応が得られること。(コトラーは例として、未婚と既婚の女性が香水の販売に同じような反応をする場合は異なるセグメントにはならないとしていることに注意が必要です) 


意思決定を含めて、マーケティングプログラムを策定・実行するプロセスを的確に機能させるためには、セグメンテーションが当該事業者にとって実効的でなければなりません。さもなくば、そのセグメンテーションはまったく意味をなさないことになります。

加えて、そのセグメンテーションが、独自性に富んでいることも非常に重要な要件であることは、これまでの一連のポジショニングのブログをお読みになられている方なら、すぐにおわかりになられることだと思います。戦略から実行に至るマーケティング活動は、セグメントが的確か否か、つまり実施するセグメンテーションの質の高低に左右されるといえます。それほど市場セグメンテーションのタスクは重要です。続きは次回とさせていただきます


2/05/2024

ブランディング (2)ブランド用語③ パーパスブランディング

ESGs、サステナビリティ、脱炭素、サーキュラーエコノミー等々、気候変動に対応した経営、また、CSV(Creating Shared Value/共有価値の創造)経営が、今日求められています。世の中が変わりつつある以上、企業や事業体も経営やオペレーションの変革を進めていく必要があります。

ブランディングについても、従前のやり方に加え、新たな視点を取り込んで行うことが重要です。近年、パーパス経営という言葉をよく耳にします。パーパスはご存知のとおり、目的とか意図といった意味ですが、ビジネスでは存在意義という意味で捉えられています。

パーパスとは、社会に対して、どのような存在意義を示して、どういった面で社会に働きかけていくのか、貢献するのかということを表し、パーパスステートメントはこれらを記述したもの

ストラテジックファクターズのグラハムケニーは、パーパスステートメントは、通常、顧客に向けたものであり、ステートメントの意義は顧客を単なる取引の相手としてではなく、関係性を築くものとして捉える要素を組織に加えるものとしています。

ケニーは、パーパス、ミッション、ビジョン、バリューの違いを次のように述べています。ミッション、ビジョン、バリューといった方向性を示すステートメントの大半は、組織そのものを中心に据えている一方で、パーパスは組織を外から見つめて、事業が人々の暮らしにもたらす違いを考えるもの。

ミッションとは、通常、事業者の存在目的と事業を表現しているもののこと。存在目的はやや抽象的なもの、事業は具体的な部分となり、この2つが合わさったものがミッションステートメント(参考: ツーリズム(5)マーケティングプランニング②プロセスi)

ビジョンは企業や組織のなりたい姿を指し、漠然とした思いや夢を語るものではななく、望ましいのは5年後や10年後といった時間を区切ったもの(参考: 新規事業創出 (1)イントロダクション)

バリューとは、組織が最も重要と考えるものであり、組織構成員の行動や考えを司る価値観や原理原則といったもので、ビジョンの根幹にあるものがバリュー(参考: 新規事業創出 (2)ビジョン①)

上述に沿ってパーパス・ブランディングを考えると、次のように捉えることができるでしょう。

パーパス・ブランディングとは、社会における自らの存在意義を、組織の内外に認知してもらい、多くの共感を獲得していく行為を指し、コーポレートブランドの範疇に属するもの

このブランディングに関するブログは、主にプロダクトブランドを対象に記述していますので、パーパス・ブランディングについて、詳細に述べることは割愛させて頂きますが、プロダクトブランディングを考える上でも非常に重要な概念であることには変わりありません。

パーパス・ブランディングは、製品/商品開発活動においては、ポジショニング戦略を考える上で、前提となる重要な概念です。従来のブランディングが顧客のイメージをコントロールしていく側面が強かったのに対して、パーパス・ブランディングは顧客に行動を起こしてもらおうとする要素が強いといえ、これはまさにインターネット社会だからこそ実現できる考え方です。

パーパス・ブランディングでおそらく最も重要なことは、社会に対して提示した自分たちの存在意義、思い、思想といったものに対して、共感してくれる人たちが、自分ごととしてそのストーリーを創りだしていく、そういった仕組みをデザインしていくことといえるでしょう。


1/29/2024

ブランディング (2)ブランド用語②

ブランド・ポジショニングは、コアとなるブランド連想とブランド・マントラを示すことが多いと、ケビン・レーン・ケラーは述べています。

ブランド連想とは、ある特定のブランドが与えられた時に、特定の感情や概念、カテゴリーなどが思い浮かぶこと。たとえばAmazonというブランドなら「品揃えが豊富」とか「すぐに届く」といったことを、筆者が大好きなピエール・エルメなら「楽しい気分」や「独創的なおいしさ」などを人々に想起させます。コアとなるブランド連想とは、ブランドの特徴を最もよく表す属性とベネフィットといった連想の集合体を指します。

一方で、ブランド再生という言葉があります。これはブランド連想とは逆に、ある商品カテゴリーなどが与えられた時に、特定のブランドを想起すること。たとえば「スマートフォン」ならiPhoneとか、「高級な国産車」だとレクサスという具合です。

ブランド・マントラは、ケラーによると、コアとなるブランド・プロミス(顧客に対するコミットメント)やブランド・エッセンス(ブランドの価値を集約したもの)に類似する用語で、ブランドが表現するものをより明確にするためのものとしてブランド・マントラを定義するとし、簡潔に伝達できるものでなければならないとしています。

ブランドを提供する者にとって、いかなる環境下であっても、自らのブランドが(できる限り)アイデンティティどおりに、人々の頭の中に瞬時に、また頻繁に想起されることは非常に重要です。

人々にとってそのブランドが目立っていること、他のブランドよりも真っ先に思い浮かぶことが必要であり、このような突出性を、ブランド・セイリエンスといいます。的確なブランド・セイリエンスがあってこそ、ブランドが購入/利用されるというわけです。

ブランドを知っていること、知ってもらっていること、所謂ブランド認知がなければ何も始まらないことになりますが、このブランド認知は、深さと幅の2つの視点で考えるべきです。

ブランド認知の深さとは、瞬時にブランドを想起するのか、思い出すのに時間がかかるのかというように、認知の程度の差のことをいいます。ブランド認知のとは、思い出される状況や場面のことといっていいでしょう。たとえば、仕事をしている時に思い出されるといっても、どういった時か、オフィスで、お客様先で、または出張先で、オフィスといっても一人で机に向かっている時か、グループワークをしている時か、昼か夜かなど、様々な状況や場面があるはずで、この幅が多ければ多いほど、購入の契機になりやすいといえるでしょう。

ケラーは、ブランドの構造を考える時の概念として、ブランド・ビルディング・ブロック(BBB)を提唱しています。BBBは、6つの要素をピラミッド型で構成させているものです。ピラミッドの底辺にあるのが、ブランド・セイリエンスです。

セイリエンスの上には、左側にブランド・パフォーマンス、右側にはブランド・イメージ、パフォーマンスの上がブランド・ジャッジメント、イメージの上がブランド・フィーリング、そしてジャッジメントとフィーリングの上にあるのがブランド・レゾナンスです。

ブランド・パフォーマンスは、「主要な成分とそれを補う特徴」「製品の信頼性、耐久性、サービス性」「サービスの効果、効率、サービスとの共感」「スタイルとデザイン」「価格」などを含み、ポジショニングはこれらのパフォーマンスにかかっています。

ブランド・イメージは、人々が認識しているブランドの姿 (前回のブログ)ですが、「使用者のプロフィール」「購買状況と使用状況」「パーソナリティと価値」「歴史、伝統、経験」の4つがイメージに係るものとされています。

ブランド・ジャッジメントは、人々のブランドに対する評価や意見などのことで、「品質」「信用」「考慮」「優位性」が判断をするうえで、特に重要とされています。

ブランド・フィーリングは、人々のブランドに対する感情的反応のことをいい、「温かさ」「楽しさ」「興奮」「安心感」「社会的承認」「自尊心」の重要な6つのタイプがあるとしています。

ブランド・レゾナンスとは、人々のブランドに対する同調の程度を指し、「行動上のロイヤルティ」「態度上の愛着」「コミュニティ意識」「積極的なエンゲージメント」に分類できるとしています。

ケラーは、このブランド・ビルディング・ブロックを考えることによって、ブランド・アイデンティティ、ブランド・ミーニング、ブランド・レスポンス、ブランド・リレーションシップの4つのステップを進めやすくなると述べています。


1/22/2024

ブランディング (2)ブランド用語①

ケビン・レーン・ケラーは、ブランドの名称、ロゴ、シンボル、スローガン、キャラクター、パッケージデザイン、サイネージ、URLなどを総称してブランド要素と呼び、自社製品やサービスを他社のものと差別化するための言語的或いは視覚的な情報としています。

そのケラーが提唱した顧客ベースのブランド・エクイティ・モデル(CBBEモデル)には、強いブランドを構築するためには、「アイデンティティ」「ミーニング」「レスポンス」「リレーションシップ」という4つの段階があり、これらをまとめて「ブランディング・ラダー」と呼んでいます。

ラダーは、ブランドがなにものなのかを表すアイデンティから始まり、それが終わると、次の段階のミーニングへと昇っていきます。つまり、アイデンティが創出できなければ何事も始まらないということです。従って、明確なポジショニングを確立するためには、ブランド・アイデンティから着手しなければいけないということになります。

ブランド・アイデンティとは、デビッド・A・エーカーの定義に従えば、「ブランド戦略策定者が創造したり、維持したいと思うブランド連想の集合体」で、ブランドを提供する主体が、自らのブランドをどのように認識してもらいたいのかと思うブランドの姿といえます。

ですが、どれだけブランド・アイデンティをつくっても、消費者がそのように認識してくれるとは限りません。

ブランド・イメージとは、調査などによって明らかにされた消費者が実際に認識しているブランドの姿のこと。端的にいえば、ブランドが消費者にどう思われているかを表します。

強くて良好なブランドイメージを消費者に連想してもらうためには、それを実現するマーケティングプログラムが必要で、プログラムを立案する時には、一貫性のある戦略的なコミュニケーションプランを策定することが重要です。というのも、アイデンティティとイメージにはギャップが存在するか、もしくはそもそもイメージがまだ存在しない場合もあるでしょうから、2者(アイデンティティとイメージ)を橋渡しして、自らが望むアイデンティティに近づけていくのが、コミュニケーションの役割であるからです。そして究極的には、アイデンティティとイメージを完全に一致させ、さらにブランドの提供者と消費者で、ブランドの価値を共創していくことが、ブランドに関するコミュニケーションの目的といえるでしょう。


ブランド・エクイティという概念があります。エクイティに対する見解は必ずしも一様ではなく、結果として、無形資産のブランド論をさらにわかりにくいものにしていると思います(もともとブランド論自体が、ほかの経営理論と比べ、抽象的な要素が多くわかりづらい点があるのですが)。

ブランド・エクイティとはブランドの資産価値を表します。ケラーは「ブランド化された製品やサービスのマーケティングから上がる成果が、ブランド化されていないものと何故異なるのかを説明するもの」としています。

ブランド・エクイティは、もともとエーカーが提唱した概念で、5つの要素で構成されています。①ブランド・ロイヤルティ、②ブランド認知、③知覚品質、④ブランド連想、⑤他の所有権のあるブランド資産(特許、商標、チャネル関係など)

学習院大学の青木幸弘教授は、「ブランドという"器"の中に蓄積されていく無形資産的な価値に着目し、その維持・強化と活用を提唱」したブランド・エクイティ論の登場は大きいとしながらも、ブランド「価値評価の困難性から、"アイデンティティ"概念へと急速にシフトしていくことになる」と述べています。

また、同教授は「マーケティングの本質的役割を"成長の仕組み"或いは"売れるしくみづくり"として考えた場合、ブランド構築とは、それを一歩進めて"売れ続けるしくみ"を作り上げることだという言い方もできる」と指摘されています。

アーカーによるブランド・エクイティの概念を、ケラーが消費者心理学の考え方を取り入れ、顧客ベースのブランド・エクイティという概念で精緻化しました。ケラーの考え方では、知覚品質はブランド連想の一種として扱われています。また、ブランド・ロイヤルティはブランド・エクイティの重要な構成要素としてではなく、ロイヤルティはエクイティの結果として解釈されています。


1/15/2024

ブランディング (1)ブランディングとは②

ブランディングで最も重要なことは、ポジショニングをとおして、独自性に富んだ価値提案を確立し、それを人々の心の中に根付かせることだ前回の本ブログ(ブランディング)で述べました。では、どうすればそれが実現できるのか。チャレンジングなテーマですが、これからここで少し向き合っていきたいと思います。

すすめていくにあたり、はじめに整理すべきことが幾つかあります。たとえば、ブランディングとは何でどうやるものなのかとか、そもそもブランドには幾つかの専門用語(ブランドアイデンティティやイメージなど)があってそれとの関係などをはじめにはっきりさせておくべきだとか、組織としてブランドに取り組む時に前提として必ずおさえておかなければならないこと等々、こういったことを、このブログのはじめの数回で確認します。その上で、独自性に富む価値提案によって裏打ちされたポジショニングを考えていきたいと思います。

今回は、ブランディングの意味とブランディングのプロセスについてです。ブランディングとはブランドを付与する行為を指しますが、アルライズはこれを、「見込み客の頭のなかに、自らの商品と類似する商品は、市場に存在しないという認識を作り出すこと」といいました。また、ライズはトラウトと共に、以下のことをいっています。

「一番手になること」

「もし一番手になれなかったら、自分だけのカテゴリーを作りなさい」

このことから、ブランディングの成功要因は、買う人の立場になって、いかに目立たせるかということだといえるでしょう。また、ブランドが何かを象徴するものでなければ、成功はおぼつかない、というか失敗するともいえるはずです。

では、ブランディングのプロセスは、どういったものになるのでしょうか。ケビンレーンケラーは、ブランドマネジメントのながれを、4つのステージで定義しています。

A. ブランドのポジショニングと価値の確立

B. ブランドマーケティングプログラムの計画と実行

C. ブランドパフォーマンスの測定と解釈

D. ブランドエクイティの強化と維持

この中で、Aのポジショニングと価値を明確にして確立することが最重要であるのは明白です。ここでつまずけば、この後のステップは無意味なものになるばかりか、消費者のブランドに対する認識との相違(ブランドアイデンティティとブランドイメージとのギャップ)を、埋めることができなくなります。そして結果として、せっかく時間をかけて創り出した商品自体が、日の目を見ないまま眠ってしまうことにもなりかねません。

消費者の頭(または心)の中に、自らのブランドと競合ブランドの棲み分けをしっかり行える場所を確保していき、競合よりも自社のほうが優れていて望ましい、また、消費者が競合を想起しないようにもっていくいくことが、ポジショニングですべきことです。競合と何が違うのか、それは圧倒的に違うものなのか、似通った点はあるのか、あればそれはどこの何なのか、何故消費者はこちらの商品を選択してくれるのかといったことを明確にします。

ケラーは、この最初のステップ(ブランドのポジショニングと価値の確立)を行うにあたり、重要な概念として、以下のとおりメンタルマップ、競争上のフレーム・オブ・レファレンス、類似化と差別化のポイント、コアとなるブランド連想、ブランド・マントラの5つを挙げました

  • メンタルマップとは、消費者の頭や心の中で、ブランドに結びついた様々な連想を視覚的に表したもの

  • 競争上のフレーム・オブ・リファレンスは、ターゲット市場と競争の性質を明確にする準拠枠(準拠枠とは心理学などで用いられ、人がものごとを認識したり、判断する時の基準のこと)
  • 差別化ポイントとは、消費者が同内容のものは競合には見つからないだろうと考えるようなブランドの属性やベネフィットのこと。類似化ポイントとはブランドにとって他ブランドと共有されているもの
  • コアとなるブランド連想は、ブランドの特徴を最もよく表す連想(属性とベネフィット)の集合

  • ブランド・マントラとは、ブランドの最も重要な点やコアとあるブランド価値を3~5つの短い言葉で表したもの

ブランドのポジショニングと価値の確立を詳しく見ていく前に、より大きな枠組み、ビッグピクチャーをはじめにおさえたほうがいいでしょう。また、上述のとおり、ブランドに関係する用語の意味や位置づけなどを確認していきます。たとえば、どのようなブランドになりたいのかといったブランドビジョン、どのようなコミットメントを顧客に対してするのかというブランドプロミス、ブランドのアイデンティティやイメージなどについてです。次回はこのあたりから始めたいと思います。


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...