12/06/2022

R&Dと組織横断型活動 (3)マーケティング機能③

製品/商品開発に携わった方なら、計画は予定どおりには進まないとか、問題は組織/部門間の結節点で起こることが多いといったようなことを、少なくとも一度は感じられたことでしょう。このため、プロセスなんてしっかり作ったとしても機能しないことがしばしばあるのだから、作ること自体、あまり意味がないんじゃないかというようなことを仰られる方が時々いらっしゃいます。ですが、それはまったくの誤りです。実際はその逆で、だからこそ、プロセスは要所をおさえてしっかり作ることが重要なのです。ここでは、その要所になるのが、企画、設計、製造の3品質が該当するところになります。

一方で、プロセスを作り込んだら、それを頑な守り続けようとする人がいます。律儀でいいという見方もできるかもしれませんが、世の中は動いていますし、顧客ニーズは時に大きく変化します。顧客自身もどこまで自分の嗜好をわかっているかというと、モノにもよるでしょうが、半分くらいのケースではよくわかっていないというのが実情ではないでしょうか。

製品/商品開発においては、硬直した業務の進行は避けなければなりません。プロセス遵守も、程度の問題です。このため、製品開発プロセスをダイナミックなものにするためには、チーム編成を慎重に考えなければなりません。プロセスに命を吹き込むという感じでしょうか。勿論、作り上げたプロセスがいつも完璧に機能すれば、組織についてはあまり考えなくてもいいのかもしれませんが、そんなことは、まずありえません。特に、活動の前半部分にあたる企画や開発のところなど、変更が発生しないほうがどうかしています。それでは、柔軟性に富む製品開発プロセスとは、環境変化にしなやかに反応できる体制とはどういったものなのでしょうか。

チームについてはいろいろ述べる点がありますが、ここで最も強調しておきたいことは、R&D(技術)と営業からエキスパートが参画し、且つ経営層からやり手のエグゼクティブが加入することを担保させ、いわばリレーションシップマネージャー、またはリレーションシップチャンピオンといったような役割を担ってもらうこと。この技術は最高のものだ、これなら絶対売ってやる、会社は責任をもってバックアップするといったことを、周囲の目を気にすることなく言い放ち、実際それを確実に実行する人たちが必要です。そういったイメージが、リレーションシップマネージャーやチャンピオンです。

なかでもエグゼクティブの力は本当に必要で、どれだけ現場が頑張っても、会社の支援がなければ、大きな成功につなげることは難しく、またそうでなければイノベーションを組織的に生み出すことなどありえないといえるでしょう。

あと重要な点として、メンバーのスキルと行動様式が挙げられます。メンバーが必要なスキルを持っていなければ実行などそもそも無理なことは当たり前のことですし、スキルがあったとしても、たとえばリスクばかり気にしているようでは、新しいことなどできるはずもありません。

イノベーションを継続的に創出していくことができる組織というのは、端緒は、個人単位でのスキルの磨き込みや探求心を再現なく追求していくといったような謂わば上昇志向にあるのだろうと思います。その後、そういった個々人の姿勢や取組みを仕組み化していこうとする組織文化、そして、その背景にある各人が共有している組織全体のビジョンがしっかりあることだと筆者は考えます。

日々の仕事に流され続け、新しいことにトライすることもなく、毎日同じことの繰り返しで緊張感がない、マンネリ化してしまっているよう組織からは、イノベーションが生まれないのは当たり前のことです。未だコロナ禍にある現状では、いつもと違う新しい何かに取り組もうとする人が一人でもいる組織であれば、上席の人はその芽を大事にして、組織的につながる場を提供していくことから、イノベーションに向けた第一歩が、大変ささやかではあるでしょうが、始まるのだろうと思います。

やったことがないからやるのです。わからないからやるのです。やったことがあるのであれば、予めわかっているのであれば、敢えてやる必要はないといえます。やったことがないから面白い。やったことがないから、取り組む価値があるし、意味がある。やったことがないからと言って、向き合わない、やらないというのは、実はまったく逆のことなのです。それにそもそも、今、やっていることの一番最初の時は、誰もやったことがなかった。でも、誰かがやったから、今がある。そう捉えるべきだと思います。


R&Dと組織横断型活動 (3)マーケティング機能②

3つの品質の2つめにあたる設計品質は、企画品質を技術用語で開発資料(設計図や配合/調合書など)に落し込んだ品質、所謂、狙いの品質のことで、機能や性能について書かれたものです。開発における製品仕様の設計プロセスの中に位置付けられます。

ここでは、要素技術を樹形図化して、後工程の製造品質のところで展開しやすいものにしておく必要があるでしょう。また、前工程の企画品質でいうところのものが、設計品質においてどういうものに変換されているのかを、技術の専門家以外でも、理解できるよう平易な言葉で記述すべきです。インプットには、品質情報に関するもの以外に、コンセプトテストの報告書などのような顧客の声が反映されたものがあるのが望ましいといえます。

3つめの製造品質は、出来栄えに関する品質です。設計品質を目標にした製造上の品質、製品品質を指し、製造、生産技術、生産管理、品質管理などが担当します。設計に適合できているかどうかがポイントですが、元々到底製品化が不可能な場合もあるでしょうから、問題の原因が設計品質にあるのか、製造品質にあるのかといったことを見極め、該当するプロセスにおいて行うことが必要です。

ところで、顧客が認識する満足や不満には、どういった特徴があるのでしょうか。顧客満足とは、顧客が知覚できたもの(期待の充足)から、顧客の期待を差し引いたものといえます。

該当する商品のカテゴリーが市場において成熟しているものであれば、新商品に対する顧客の期待値は高くなるのが一般的です。一方で、カテゴリーの成熟度が低いものについては、相対的に期待値もそう高いものにはならない傾向があります。このため、成熟度が高い場合は、顧客が自身の好みにぴったり合っているか否かが重要になってくるため、注意が必要です。

また、顧客満足は、顧客が支払う費用と顧客が得られる価値の合算として捉えることもできます。費用は、活動の最後に発生するのではなく、活動の進行に伴い、費用が実態として積みあがっていくものです。

このような活動の動きに従えば、顧客価値も、最終段階で突然、発生するものとして捉えるべきではありません。アイデア段階から、価値が孵化していくと考えるべきです。その後、その価値はコンセプトで形成され、活動の進行に沿って価値が伝達されていくといえるでしょう。

この考え方に基づけば、部門横断型活動が円滑に進まない場合は、価値の伝達が社内でうまくできず、結果として、社外の顧客にその価値が伝わらなくなる(または伝わりにくくなる)といえます。組織横断型の活動をこのように捉えるならば、組織やその構成員次第で、見方や向き合い方、取組み姿勢、結果を求めてやり抜く態度やスキル、能力全般が変わってきますので、はじめのメンバー編成や、誰を責任者に配置するかといったことが、非常に重要になります。


12/05/2022

R&Dと組織横断型活動 (3)マーケティング機能①

R&Dと組織横断型活動におけるマーケティング機能とは、該当する領域のプロセス(業務、意思決定/評価)組織に、マーケティングの要素である市場/顧客志向の考え方を組み込むことをいいます。

このためには、はじめに、対象範囲にある活動全体の姿をはっきりと見えるようにすることが前提として必要になります。(全体像の具体的な作成方法については、本ブログの記載する内容や範囲を超えることになりますので、ここでは見送らせていただきますが、R&Dと組織横断型活動(1)はじめに②の後半で少し触れていますので、一度ご参照ください。また、詳しくお知りになりたい方は、info@truerisep.comまでお問合せください。)

全体像が明らかになったら、その全てを同じようにマネジメントするのは、現実的ではありませんので、濃淡をつけて行うことになります。マーケティング思考を取り入れて活動を進めていくわけですから、メリハリをきかせるべきは、顧客が認識できるところ(または、顧客に認識してもらいたいところ)になります。ここでは、R&Dを起点とした活動を対象にしていますので、品質で考える品質がもたらす顧客のベネフィットで考えることが必要であり、それを明確にしていくことが非常に重要となります(R&Dと組織横断活動型活動(1)はじめに③)。

ここでの主たる対象は、3つの品質を考察するプロセス、企画、設計、製造の各品質になります。なかでも、企画品質は活動の出発点になるため、特に重要ですので、関係者全員が理解できる、イメージすることができる言葉で表現することが不可欠です。

企画品質は、コンセプト開発に該当するプロセスの中に位置付けられます。当該プロセスをどのように構成するかは、各企業や担当責任者次第のところはありますが、一般的にいえばおよそ次のようばながれの中で捉えていくべきと考えます。

はじめに市場/顧客のセグメンテーション、次にそのターゲティングと課題仮説の設定、その後、競合の把握と差別化要因の特定、そして明確な顧客ベネフィットの構築、最後は評価と商品化の方向導出となります。この差別化要因の特定とベネフィット構築のところは、行きつ戻りつしながら、顧客にとってのベネフィットを明確にしていくというイメージです。

マーケティング思考で行うわけですから、たとえば、顧客は何を好んで買うのか、技術的な特徴は何か、市場で成功する重要なR&D上の要素は何かといったようなことについて、はっきりさせて記述することが必要です。また、コンセプトを構成する要素ごとに競合商品との比較を行い、各要素別に強みと弱みを明確にすることも重要なタスクとなります。

顧客が何を好んで買うかについては、まず顧客ニーズを分解し、系統図的なものにして、視覚的に分かりやすくするのがよいでしょう。たとえば、顧客ニーズは、機能、経済、環境、情緒/心理などに分類できます。そして、それぞれを更にブレークダウンしていきます。

機能であれば、性能や効能または味覚など、信頼性、操作性や取扱いの良さ、保守性や作業の効率性などにすぐ分けられますし、それぞれをより細かく分けていくことも必要です。経済であれば、商品/サービスのタイプにもよりますが、本体価格以外に、ランニングコスト、ライフサイクルコストなどに区分できます。環境であれば、省エネ、リサイクル、CO2フリー・・・。情緒/心理であれば、快適性、社会的な信用やステータスはじめ、様々なものに分けて捉えることができますし、そもそもその快適性の特性を、種類ごとに分けるだけでも、相当のパターンが考えられます。

要は、顧客がどういったベネフィットを求めているのか。また、どのようなベネフィットを提供したいのか、当社の価値提案は何なのかを突き詰めていくことです。100%正解などというのはありませんから、初期的段階では仮説ベースで作っていくことが、何より重要です。

少し長くなってきましたので、続きは次回とさせていただきます。

12/01/2022

R&Dと組織横断型活動 (2)マーケティング思考②

後工程との共創以外に、R&Dが活動に着手する前に、その方向づけを他部門と共創することも、非常に効果的です。また、あるべき姿を追求するのであれば、むしろこちらを優先させるべきです(前回に述べた、後工程と一緒になって創り上げていくことは、付随的なものになります)。

方向づけは、R&Dとしての戦略的な意思表明と、勝ちパターンの設定で構成されます。

方向づけには、R&D部門を中心に、調達、生産、営業、マーケティングなど、製品開発とその上市に関わる部門の関係者に参画してもらい、共創できる環境の前提を整えます。必要に応じて、事業部のトップや、企業の経営陣も巻込みます。

戦略的な意思表明では、R&D部門が、研究の誇りであるシーズの具現化に関する考えを述べると共に、ポリシーとしてのあるべき姿を明示することで、関係者に対して、意識と行動の統一をはかるようにしていきます。

言い方を変えれば、責任の所在をあいまいにすることなく、方向づけの場で、戦略的な意思決定と勝ちパターンの設定以降の踏むべきプロセスを明らかにして、売れるか否かを上市前にはっきりとさせるということになります。勿論、上市前に本当に売れるかどうかを100%見極めることは不可能ですが、あいまいさを排除すると共に、万が一にも失敗した場合には、何故うまくいかなかったのかを検証できるようにする意図も含まれます。

勝ちパターンの設定では、連戦連勝できる謂わば勝ち癖のようなもの、勝利の方程式といったものを、関係者全員が理解できる言葉で表したものになります。勝ちパターンには、該当するプロダクトやビジネスのデザインを、端的に記載する必要があります。(新規事業の場合は、Reflectionsのイノベーションマネジメントにおける新規事業創出、事業デザインI事業デザインIIを参照してください。)

R&Dを起点としたデザインでは、勝つためのシーズ/技術ターゲット顧客(または市場)ターゲット顧客のニーズを満たす機能機能を実現するコアプロセス、ならびに顧客のニーズ、以上5点をセットで表記することが重要です。

このように書くと、これは大変だなと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、最初の段階でフレームワーク化や、ワークシート化しておくと、2回目以降はそれに沿って検討することで済みます。また、最初の段階では、R&D単体で行うことでも構いませんが、マーケティングや経営/事業企画部門などの協力が得られれば、意外とスムーズにいくのではないかとも思います。ここで大事なことは、100点のシートを目指すのではなく、まずやってみること。60点でもまったく問題はありませんので、とにかくまずは作成に着手し、その後改良を加えながら精度を上げていくことが大事な点になります。

但し、他部門にお任せ、或いは丸投げ的なことにはならないように。マーケティング思考の主旨は、関係者が一同に介して、より優れた商品/サービスを創出していくことですので、これには、まず議論を尽くすことが必要です。本末転倒になっては、元も子もありません。


R&Dと組織横断型活動 (2)マーケティング思考①

企業サイドからマーケティングを定義すると、マーケティングミックス(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーションの4つのPの組合せ、通称4P)を最適化して、収益、販売量、マーケットシェアの最大化を実現するための組織的な活動全般ということができます。

ですが、今はこれだけでは十分とはいえません。ひとつ間違えれば、顧客を顧みない一方的なプロダクトアウト的な活動になりかねず、受容性の面で大きな課題を残す可能性があります。

デジタルの時代、顧客(消費者、企業)への商品/サービス提供はどのように行うのが適切か。R&D活動を的確に進めていくためには、何をすればよいのか。R&Dにとっての組織横断型活動の肝は何か。

これには、上述のマーケティングミックスの概念に、4Cの考え方を加える(または代替する)ことが、ひとつの答えになるといえるでしょう。4Cとは、Co-creation/共創、Currency/通貨、Communal activation/共同活性化、Conversation/会話、を表しています(フィリップコトラーのマーケティング4.0)。R&Dと組織横断型活動におけるマーケティング思考には、この4Cのエッセンスを取り込みます話をシンプルにするために、ここでは共創について考えてみましょう。

ここでの共創は、後工程と一緒になって創り上げることと同義として捉えます。つまり、研究は比較的早い段階から、開発を巻込んで活動を進めます。研究対象にもよりますが、基本的に研究が単体で、期日をあまり明確にすることなく活動を行うのではなく、研究体制とその期間を明示し、開発を巻込んで評価します。できれば、評価の責任者に開発の責任者も加えるのがよいでしょう。これには、少なくとも1年毎で評価するのは勿論のこと、研究テーマによっては、もう少し短い時間軸で行うべきで、製品化を見据えた研究を行う契機として捉えていきます。

開発の場合は、調達は勿論のこと、開発の初期的段階から生産と営業を巻込んで進めていきます。大事なことは、各部門がそれぞれお互いの領域まで踏み込むようにして、相手のタスクとゴールを理解すること、少なくとも理解するように努めることが必要です。量産試作の前の段階から共同で検討することが、より早く、より確実に製品化(商品化)する素地が整うはずです。

簡単なことのように見えて、異なる部門同士が共同で業務を進めることは、意外と難しい。個人ベースだとうまくいっても、利害が異なる部門同士が共創するには、議論を尽くす必要があるでしょう。どのようにすれば、縦割組織の弊害を未然に防止し、企業としてのゴールを素早く達成できるかは、後工程をケアするマインドが重要であり、独りよがりにならないようにすることが重要です。

バリューチェーンの最後(または最初)には、必ず営業またはマーケティングが控え、最終顧客の声や姿を反映させた見解を、前工程の部門と議論しながら、製品/サービスを仕上げていく。このようなことによって、マーケティング思考全体が整うことになります。


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...