7/23/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスii

前回の本ブログでは、長期のプランニングプロセス3タイプのうち、1.ステップ・バイ・ステップについて述べました。今回は、2.ストラテジックプランニング&マネジメント(SPM)です。ツーリズムにおけるSPMのながれを、ビジネスストラテジー的な視点で捉えれば、以下のようなものになります。

2.1 現行パフォーマンスの評価

2.2 現行戦略の評価

2.3 戦略オプションの創出

2.4 戦略オプションの評価

2.5 戦略の選択

2.6 戦略の実行

2.7 戦略の評価とコントロール 

2.1ですべきことは、ゴール(業績目標)の達未達を確認することですが、ゴールを明確に設定していなければそれもできません。また、そのゴールが誰にとってのゴールかも曖昧であればパフォーマンスを評価することも一様ではなくなります。更にいえば、ゴールがはっきりしていなければ、もともとの戦略立案自体が意味をなさないことになります。

観光庁によれば、地域の観光生産額把握には3つの要素があり、算式で表すと以下のようになります。

観光総生産額=観光総消費額×域内調達率

観光総消費額=観光入込客数×一人当たり観光消費額 

ここで気をつけなければならないことは、観光総消費額が大きくても、原材料の調達や加工が地域外であったり、サービス提供企業の本社が域外であれば、稼ぎの多くが最終的に地域の外に流出することになります。また、観光入込客数がどれだけ増えたとしても、一人当たりの消費支出が小さければ、経済効果は限定的なものになるということです。

一人当たりの観光消費額を増大させるためには、観光客の滞在時間を増やして、より多くの買い物をしてもらったり、娯楽サービスを含め飲食の機会を増やしたり、日帰りから泊りがけにつながるように宿泊施設を充実させたり、そのための交通インフラを整備するといったことが必要になります。何に注力するか、何処から始めていくかといったことなどは、まさにどういったビジョンを描き、実現に向けた戦略を創っていくか次第といえます。

上記指標以外にも、観光客のリピーター率や満足度、述べ宿泊者数、観光に伴う地域の環境負荷量、観光産業の成長に伴う地域住民の生活の質向上など、いろいろなものが挙げられると思います。

2.2のデスティネーションの現行戦略評価では、デスティネーションがその活動領域やターゲット市場において、実際に何をしているのかをまず明らかにすることが必要です(2.1で一部先行して行うこともあります)。業績を左右する政策や活動、当該デスティネーションの観光市場におけるポジションや能力を考察し、その事業の活動範囲と競争優位性を見極め、現行戦略を明らかにしていきます。この時重要なことは、戦略のロジックが実際の活動から読み取れるか、読み取れたとして戦略は正しくアライメントできているかを判断することです。

現行戦略が明確になったら、次は実際の戦略評価へ進みます。デスティネーションの戦略的資産は何か、組織は策定した戦略に沿って編成されているか、外部環境の機会は活用されているか、脅威は回避できているかといったことを検討していきます。ここでいう戦略的資産とは、基本的に、たとえば侵されることのないユニークなポジショニングであったり、他者が模倣できないような組織能力などを指しています。

デスティネーションの競争優位性の土台が戦略的資産にあることは明白です。従って、成功する戦略ロジックは、デスティネーションのポジショニングか、デスティネーション全体の組織能力、この両者のいずれか、または両者に競争優位性が基づいている必要があります。最も望ましいかたちは、他デスティネーションに対して当該デスティネーションのポジショニングが強固なものであるため、参入障壁が築かれていること、他デスティネーションからみて当該デスティネーションの組織能力を簡単には模倣できないため、観光客が他所には行かない(リピート需要につながる)といったようなことです。

デスティネーション/地域の稼ぐ力を検討するには、デスティネーションをバリューチェーンや5F(マイケルポーターの5Forces)などを用いて、業界を分析するのがよいだろうと思います。デスティネーションにとって、川上と川下にあるプレイヤーの力関係がどのように変化しているかを判断し、競争の度合いや質などを検討します。特に、競合するデスティネーションの戦略は定期的に確認して、将来の動きを予測することが重要です。デスティネーションの戦略的資産であるポジショニングと組織能力については、定点的に他所と比較し評価しておきます。競合デスティネーションが、当該デスティネーション独自のポジショニングを侵してこないか、市場は変化(たとえば拡張または縮小)していないかを検討します。

長くなってきましたので、2.3 戦略オプションの創出は、次回にまわしたいと思います。


7/15/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ③プロセスi

ツーリズムの長期プラン策定プロセスには幾つかのパターンがありますが、代表的なものは、以下の3タイプになるでしょう。

1. ステップ・バイ・ステップ

2. ストラテジック・プランニング&マネジメント

3. シナリオ・プランニング

漸進的にプランを策定していくステップ・バイ・ステップ(SBS)がおそらく最もポピュラーなものだろうと思います。ストラテジック・プランニング&マネジメント(SPM)と重複するところは多くありますが、異なる点として、SPMでは当たり前とされている環境スキャニング(Environmental Scanning)を、SBSでは通常行わないことが挙げられます(但し、SBSとSPMを組み合わせれば、環境スキャニングは行われることになります)。

SBSの進め方(ハイレベル)は、次のとおりです。

1.1 現状分析

1.2 ビジョニング

1.3 ゴールの設定と戦略の方向導出

1.4 プラン策定

1.5 プラン実行とモニタリング

1.6 プラン評価

1.1では、デスティネーションのフィジカルプロダクト(デスティネーション4Pのひとつ)や、ツーリズムに関係するプログラム(イベントやアクティビティ等観光客のために催される出来事全般、デスティネーション4P)をはじめ、ツーリズムのマーケット動向、政府や自治体の政策などに関する分析を行います。その後、分析の結果を強みと弱み、問題やイシューなどにまとめて、デスティネーションに関する論点を整理します。

次に、状況に合わせてリサーチを詳細に行い、精査していきます。たとえば、スポーツイベント(プログラムのひとつ)に関する他デスティネーションとの比較や競争環環境などについて、10Asのフレームワークなどを用いて考察を進めます。これにより、他所にはない競争優位や、見直さなければならない機能、リソースの再配置、更には需要がまだ開拓されていないような市場などが明らかにしていきます。

1.2は、ビジョンを策定するステップです(参考:新規事業創出 (2)ビジョン②)。ここでのインプットは、前ステップの1.1現状分析の各アウトプットから結論として何が言えるのかを導出したものが該当します。中でも観光客のデスティネーションに対する認知度にどう向き合うかが重要なポイントです。アウトプットは、ビジョンステートメントになります。デスティネーションマネジメントの組織、マーケティング、商品開発それぞれの活動をその中身も含めてどのようにしたいのか、あるべき姿はどういったものかということを検討し、書面化します。

1.3でまずすべきことは、ゴールセッティングです。これまでもほかのブログで何度か述べてきましたが、はじめにゴールで、次に戦略ですので、これは絶対間違ってはなりません。ゴールなきものは戦略とは呼べません。ゴールは前ステップのビジョンステートメントに基づき設定します。長期プランですから、直近のことばかりを見ていては、大胆なゴールにはなりえません。

長期をいつの時点とするかは、デスティネーション次第ですが、およそ5年からくらい先が妥当なところだろうと思います。ただ、前年対比数%増で5年を積み上げたものを数値として設定するということは、できる限り避けたいものです。というのも、設定するゴール次第で、戦略が変わってくるからであり、あまりにも小さくまとめたゴールであれば、戦略もこれまでとさして変わらないありきたりのものになるのは避けられず、であれば長期プラン策定の意義の多くが失われてしまうことになるからです。戦略の方向導出については、どうしても長文化しますので、これは回を改めて、また、1.4以降についても同様とさせていただき、次回はストラテジックプランニング&マネジメントについて述べていきたいと思います。




7/08/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ②コンテンツ

ツーリズムの各プランは、長期プランの内容に基づき、策定・実行されるべきであるのは言うまでもありません。ですが、長期プランの中身が曖昧だったり、前回のブログで述べたようなアウトカムが欠如しているようであれば、プランの一部の内容がいつのまにか一人歩きしてしまい、長期プラン全体ですべきことや、本来の企図したものと異なるものになりかねません。

ツーリズムプランのコンテンツには、およそ以下のような内容を盛り込む必要があります。

  • 進むべき方向と戦略(ミッション、ビジョン、ゴール、ストラテジー)(ストラテジーとは、ゴール達成ための競争優位を発揮できるアライメントされた打ち手のまとまり)

  • 組織構造と財源(組織化の単位と仕事の調整・評価の仕方、ステークホルダーの役割と責任、資金調達の中身)

  • マーケティング&ブランディング(ターゲットマーケット、ポジショニング、観光の仕方と滞在時間の長さなど)
  • 優先順位付けされたアクションプランと予算
  • リサーチ情報

UNWTO(国連世界観光機関)のレコメンデーションを意識しながら、ツーリズムプランを10Asで考えると、以下のようなものを挙げることができます。

  • アウェアネスデスティネーションブランディング、マーケティング戦略
  • アトラクティブネスアトラクションに関する商品開発(新商品/サービスの開発と既存商品/サービスの改良)
  • アクティビティイベントや祭り等に関する商品/サービス開発
  • アクセス: 各交通機関の利便性やサービス、遊歩道等の整備
  • アベイラビリティ: 流通チャネル、カスタマータッチポイント、IT/デジタル化
  • アピアランス: 観光客が到着する場所の環境整備(広義の商品/サービス開発. デスティネーションブランディングとの整合性が保持されている環境、特に最初に足を踏み入れる地点の雰囲気や外観)

  • アプリシエイション: 人材の能力(知識、スキル、ホスピタリティ含む取組み姿勢)、外国語によるコミュニケーション能力(インバウンドの場合)、地域コミュニティに向き合う姿勢

  • アシュアランス: モノ/サービス品質の保証、公衆衛生と食の安全、治安、規則
  • アクション: マーケティングに関するリサーチとプロモーション

  • アカウンタビリティ: 組織構造、業績評価、経済情勢と観光市場の動向


ツーリズムプランを検討する時は、大項目になる論点を一度、英語で挙げてみることをお勧めします。何故ならば、シンプルで分かりやすく、はっきりとするからだと筆者は思います。たとえば、

1. Where are we now?

2. Where we want to be?

3. How do we get there?

1は、デスティネーションは現在何を売り物にしているのか、それは市場においてどういったポジションを占めているのかなどを考えます。そして、観光客の実績と今後を予測します。

2は、ミッション、ビジョン、ゴールなどが該当します。

3は、デスティネーション全体の戦略、たとえば提供する顧客体験が如何に傑出したものであるかとか、新商品/サービス開発に多くの時間とリソースを投入し、他所から決して真似のされようもないものに仕上げているなど、そういったことなどを含めて、具体的に記述します。


7/01/2023

ツーリズム (4)デスティネーションプランニング ①長期プランの重要性

ツーリズムのプランニングは、他産業のものと比べて、より多くのステークホルダーが関係するため、その人たちをうまくプランニング活動に巻き込むことが重要です。行政、観光協会やツーリズムのプロフェッショナル、DMO、商工会議所/商工会、大学等アカデミックな機関、宿泊/飲食/商店/交通等の関係者、地域住民等といったところかと思います。

あと、忘れてはならないのが消費者です。公開されているツーリズムプランニングのドキュメントやプロセスについて、ソーシャルメディアを使って、オープンなディスカッションを望む人たちがいます。こういった人たちをないがしろにするわけにはいきません。中には、外国人の方もいるでしょう。インバウンド需要で恩恵を被っているデスティネーションであれば尚更です。

そういった消費者からの意見や、期待、思いといったものを、一次調査をとおして収集分析し、プランニングの重要なインプットにすることが必要です。デジタル社会でのツーリズムプランは、日々進化(またはアップデート)することが周囲から期待されるため、自ずと包括的・統合的であることが求められることになります。

ツーリズムプランは短期も重要ですが、何より長期の視点が欠かせません。様々なデータを時系列でおさえながら、観光客と地域住民の双方を見て、プランを立て実行していくには、相応の時間がかかります。デスティネーションプランの目標値や成熟度などで相違はあるものの、通常2~3年程度で実現できるものではありません。

長期でプランを立てるベネフィットには、以下のようなものが挙げられます。

  • 将来の展望を描けること(描かざるをえなくなること)。

  • ビジョンとゴールが設定でき(同上)、依ってたつところを明確にできること

    • 地域や社会などからの注目が集められること
    • ビジネスなどの機会探索の場として活用できること
    • プランニングの過程でステークホルダーをしっかり巻き込むことによって、それぞれのオーナーシップを喚起できること

    長期プランのタイムフレームは、5年から長いもので30年くらいまでと考えるべきでしょう。今年は2023年ですから、区切りがいいところで2030年や2050年ということになるのだろうと思います。

    モリソンは、ツーリズムプランニングには次の5つのアウトカムを備えておくべきだと述べています。

    • 取りうる選択肢が確認できること(デスティネーションにとって重要な要素、たとえばマーケティングや商品開発などに対する幾つかのオプションが提示されているなど)
    • 予期せぬ事態に適応できていること(経済情勢の変化や電気・ガス等インフラの需給状況、地場産業の業績、法規制、テクノロジー動向などについて言及されているなど)
    • 他所にはないユニークなものが保持されていること(伝統・文化・自然、祭りやイベントといった地域固有のものが維持されているなど)
    • 優れた価値が生み出されているものであること(ツーリズムにおけるサステナブルな開発、ツーリズムに対するコミュニティの理解、ツーリズムに対するビジネス上の協力姿勢、ツーリズムに適した組織体制、ツーリズムに関する情報が整備されているなど)
    • 不適切なものが回避されていること(不要な競争環境や過度な摩擦、地域住民との敵対的・非友好的な関係、自然や歴史遺産の破壊、文化的アイデンティティの喪失、公害、過度な季節間格差などが回避されているなど)

    以上のようなことを盛り込んだ長期プランの策定及び実行には、どうしても担当責任者に相応のリーダーシップが求められることになります。次回はプランの内容について述べてみたいと思います。



    ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

    市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...