4/26/2022

脱炭素経営の取組み (2)Scope2⑦

スコープ2から1へ、このブログを続けていく前に、排出量算定ツールを活用した可視化について、取り上げてみたいと思います。

国の「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」への対応もあって、大手はじめ、中堅・中小でも、可視化は10年以上前から対応しているという会社は少なくありません。実際、非常に強いこだわりや、信念をもって取り組まれてきている製造企業もいらっしゃいます。また、以前より、国や業界の方向感、企業/事業/製品特性などから、算定(或いは推計)方法は、積上げ法が推奨されてきたと理解しています。

2050年にカーボンフリーが目標値として設定され、多くの企業が可視化に取り組み始め、相当な時間や労力を費やしても、思ったほど先へ進まないということが見えてきています。そして何より、見えるようにできた後のネットゼロに向けた対策の検討と実行が何より大変です。このようなことから、最近は、按分法を採用する傾向が強いようです。筆者個人的には、脱炭素排出削減の主旨やゴールなどに照らせば、按分法がより現実的で実効性が高いと思っていますが、こればかりは、取組みの狙いや製品/サービスの思想などから、一概には言えないでしょう。

ところで、可視化(ひとまず仕上げるという意味での可視化)をするために残された時間は、あまりそう長くないかもしれません。というのも、脱炭素に関係するイニシアチブの動きが本格化しているからです。なかでもTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース、Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の提言に沿って、IFRS財団の傘下にあるISSB(International Sustainability Standards Board、国際サステナビリティ基準審議会)が、気候変動リスクの情報開示の国際的な基準案を公表し、23年にも企業への導入を目指しています。そこでは、業種別に重要な気候リスクや対策の開示内容を、数値指標を使って定めるものになるとのこと。IFRSからの公表はこちら(22年3月31日付)です。

また、周知のとおり、カーボンプライシングの導入も検討されています。炭素排出に伴う費用負担を、企業や消費者に求めるもので、CO2排出量に価格をつける制度です。先行して、企業向けのインターナルカーボンプライシングは、採用する企業が大手を中心にでてきています。

以上のようなことから、可視化については、早く数値化しておくことが重要であり、このためには、エクセルでゴリゴリやるのも悪くはないですが、一定の事業規模を有する企業は、効率よく取組み、まずは仕上げることが必要だと言えますし、また、そのツールが会計システムと容易く連動するのであれば、当該ツールを選択すべきと思います。加えていえば、国内の金融機関も、可視化を行っていない企業には、投融資を控える方向が顕著にもなってくるでしょう。

スコープ2ではまだしも、スコープ1、特にスコープ3ともなれば、企業規模や特性によっては、プラットフォーム的なデータ共有基盤も必要になることが考えられますから、尚更だといえます。可視化は目的ではなく、あくまでも手段、ひとつの過程に過ぎないため、逡巡は避けるべきであるのは明白です。

最後に、弊社では、現時点で最良と思われるツールを提供するサービス企業と、パートナー契約を締結しました。可視化やそのツールなどについて、お尋ねになりたいことがありましたら、info@truerisep.comまで、お気軽にお問合せください。


4/24/2022

脱炭素経営の取組み (2)Scope2⑥

作成したカーボンニュートラルマップ/CNマップに、電力消費に関する予実分析という機能があると仮定します(「予実分析」は、レベル1の「モニタリング&検証」直下にあるレベル2のひとつに該当するものとします)。

この予実分析では、通常、1施設内で、または各工場間で、月別に予測値と実績値を照し合せ、修正を加えたり、対策を練ったりします。何故、誤差がでるのか、今回の差はどうして大きいのか。もしくは、同等規模で同じような製品を生産する工場間で何故差が生じているのか。また、ある施設では実績値の把握に、他施設と比べ時間がかかっているとすれば、それは何故なのか、何がどう違うからそういったことが発生しているのか等々、検討を重ねているはずです。

単純化していえば、たとえば、その違いが製造プロセスにおよそ起因すると思われるのであれば、スコープ1で考えることになりますが、仮に、(製品含めた製造プロセスの特性を考慮した上で)調達している電力にその大きな要因があると考えられるのであれば、それはスコープ2で、調達電力の見直しをかけていく。当たり前と思われる読者の方もいらっしゃるかと思いますが、企業規模が大きくなれば、本社で各事業会社や施設の横比較をしっかり行っているところは、意外と多くないことがあります。

このような検討は、カーボンニュートラルに向けた取組みのロードマップを作成する上で、以下にあるアクションの2番目(問題の分析と解決方向の検討)に該当します。前回の「脱炭素経営の取組み」ブログでは、3つのステップでCNマップを作成すると書きました。その3つのステップは、以下の1(業務の洗出しと全体像の作成)に収まり、これをフェーズ1と呼ぶことにします。

1.業務の洗出しと全体像の作成
2.問題の分析と解決方向の検討
3.ロードマップの作成

フェーズ2(問題の分析と解決方向の検討)では、上記のような分析(例として記載した予実分析)や、論点の整理などを経て、解決方向を検討していくことになります。ここでは、そのものズバリの解があるに越したことはありませんが、大事なことは、仮説を作って、検証を重ねていく、それを組織で積み上げていくということです。なお、もしも、なかなか正しいと考えられる解を得られないことがあった場合は、いつまでも延々と時間をかけることなく、粗い仮説ベースで、フェーズ3の「ロードマップの作成」へ進み、取組みのかたちを整えていくことが重要です。カーボンニュートラルは、誰も取組んだことのない世界のことですし、また、状況次第では、問われる中身が変わることもありえるため、時には大胆なトライ&エラーを繰り返し、思いきって前進していくことが何より重要だと思います。

「脱炭素経営の取組み」ブログ第3回に記載しましたが、何のために脱炭素の取組みをするのかによって、フェーズ2で導き出す解決方向や、取組みの優先順位付けは異なるものになるはずです。たとえば、取組みは、自社の競争力を向上させるために行うのか、或いは、災害対応力をより強化していくたにするのかによっても変わってきます。前者であれば、たとえば、CO2排出量をいち早く削減し、サステナビリティを訴求していくことを主たる狙いとするのか、または施設・設備の効率化なのか。後者であれば、BCP能力の向上か、大規模停電への備えを万全なものにするのかなど、お互い重複するところはありますが、対策の軸を何に据えるかによって、打ち手やとるべきアクションは変わってくることには注意が必要です。何もかもを含んで、全てを同じようにやるというのは現実的ではありません。ゴールに沿って、濃淡をつけることが必要です。次回のこのブログでは、ツールを使った可視化について述べてみたいと思います。


4/21/2022

脱炭素経営の取組み (2)Scope2⑤

スコープ2におけるCO2排出量を削減する4つの方法のうち、どれに最も注力するのが効果的か、またはどれから始めるのがより適切なのか。企業の規模や業種の特性などにもよるため一概には言えませんが、現在の市況感や政治・経済・社会・技術などの動きを踏まえ、ゴールに向けた時間の長さと難しさなどを考慮すれば、筆者は3と4の組合せが、まずは早期に結果を示すことができ、且つ産業界や社会に強くアピールできる点で、良いのではないかと思います。

3の自家消費型太陽光に関しては、オンサイトPPAオフサイトフィジカルPPAを用います。契約期間の長さがネックになりうることについては、PPA事業者等との交渉で、電力需要家にとってのリスクを軽減するか、相応のメリットが得られるようすべきでしょうし、また、交渉の仕方次第で可能になるのではと思います。

とはいえ、3と4を選択するには、スピード感を伴った経営トップの判断・決断が何より重要になりますので、どこの企業でもできるわけではないだろうと思います。そこで、ボトムアップ的(或いは、ミドルアップ&ダウン的)にすすめる際、スコープ1を意識しながら、2でも効果を確実に得られるようにするための方法として、以下のようなやり方があります。

(排出量算定ツールを用いた可視化については、別途、記載する予定です。)

まず、電力調達の活動を一覧化します。一覧化の仕方は、電力調達に関係する業務の機能やプロセス、またはタスクを、できる限りレベル感(または粒度)を揃えて一表にします(弊社では、これをビジネスファンクションマップ/BFM、または俯瞰マップと呼んで、脱炭素に限らず、ビジネスの様々な場面で活用しています。なお、脱炭素経営の取組みでは、このマップを、カーボンニュートラルマップ/CNマップと呼んでいます)。

これについて、詳しく記載していくのは、このブログの範囲をこえていますので割愛しますが、CNマップを作る手順はざっくり書くと、次の3つのステップで構成します。

1.CNマップ作成の対象範囲を決める。

2.業務のながれに沿って機能(またはプロセス、タスク)を並べる。

3.並べた機能を一段階、ブレークダウンして、各機能の下に配置(記載)する。

1では、範囲を決める作業になりますが、ここで注意したいのは、いきなり全てを網羅しようとしないということです。また、ここでのCNマップは主にスコープ2を扱うため、スコープ2を起点にしていきます。たとえば、電力調達の方針策定、計画策定、商談・交渉、モニタリング&検証・・・、といった具合です。

2では、カーボンニュートラルに関係する業務の機能か、プロセス、またはタスクを抽出します。この際、あまり機能の細部には拘泥せず、ざっくり洗い出すことがポイントです。厳密に言えば、レベル1(最も粗い粒度)で括ります。「論理的思考」ブログをお読みになられている方なら、想像いただけると思いますが、レベル1の機能は、左から右へ順に、およそ同じレベル感(粒度)で記載していき、それらがだいたい業務のながれに沿うようにしておくことで、関係者の理解を助けるようにしておくことが重要です。なお、レベルの異なるものが混在していたり、重複、または欠落しないように注意してください。

3では、上記2で行ったレベル1のながれを、もう一段掘り下げます。各レベル1に対して、レベル2のものを、上から順に列挙し記載していきます。

今回の「脱炭素経営の取組み」ブログはここまでとし、続きは次回へまわしたいと思います。もし、イメージが湧きにくいということでしたら、info@truerisep.comまで、お問合せください。

4/17/2022

脱炭素経営の取組み (2)Scope2④

スコープ2のCO2排出量削減方法の4番目として挙げたカーボンオフセットとは、温室効果ガスの排出量削減や吸収量(クレジット)を購入する、または他の場所で削減や吸収を実現する活動を実施することなどにより、排出量の全部または一部を埋め合せることを指します。

まさに、言葉どおり(カーボン=炭素、オフセット=埋め合せるもの・相殺するもの)の意味ですので、実際にCO2を削減するわけではありません。削減に相当するだけの活動を行い、相殺するやり方です。したがって、CO2削減に取組みながら、削減しきれない分にカーボンオフセットを充てるというのが望ましいやり方とされています。実際、環境省のカーボンオフセットガイドラインでは、6つの重要な事項(ガイドラインP4)が明示されています。

カーボンオフセットの取組みには、オフセット製品・サービス、会議・イベントのオフセット、自己活動オフセット、クレジット付製品・サービス、寄付型オフセットといったものがあります(詳しくは、農水省のこちらのページをご覧ください)。

カーボンオフセットを活用した事例として、タケダ薬品工業のものがあります。個人的には、非常に分かりやすい例で、外国人のトップがいる企業ならではのやり方だと思っています。再エネの使用とカーボンオフセットへの投資により、2019年度時点で、スコープ1・2・3全てで、カーボンニュートラルを達成。そして2040年度までに、カーボンオフセットなしで、ネットゼロ達成を宣言しました。言葉がややストレートで恐縮ですが、できることはとっとやって、まずは結果を出す。その後、本来すべきやり方(または、やりたかったことで)、しっかり成果を見せていく。取組みにいち早く着手し、かたちやより良いすすめ方を模索しながら、先へ先へと進めていくというイメージです。異論もあるでしょうが、業界のトップ企業として、素晴らしいやり方だと思います。


4/13/2022

脱炭素経営の取組み (2)Scope2③

オフサイトPPA(フィジカル)、自社の敷地(需要場所)から離れた場所に発電設備を設置し、その設置場所から需要場所へ、発電した電力を供給/調達するモデルです。

電力需要家にとって、オフサイトPPAのメリットは、第一には、オンサイトPPAと異なり、敷地面積の制約がありません。オフサイトPPAは、送配電ネットワークを介して電力が供給されるため、広大な敷地が確保でき、送配電可能であれば、場所は何処でもいいことになります。それ故、第二のメリットとして、自社が消費する電力をRE100などの100%再エネにすることが可能となり、この点が現時点での一般的なオンサイトPPAとは異なります。

オンサイトPPAでは、構内ネットーワークを活用するため、電力需要家は発電事業者と直接契約できますが、オフサイトPPAの場合は送配電ネットワーク経由になるため、電気事業法上、直接の契約ができません。需要家は、小売電気事業者と契約し、太陽光の固定価格、電気事業者の手数料に加え、送配電ネットワークの利用代金として託送料を、長期間、一定の価格で支払わなければいけません。なお、発電事業者は、小売電気事業者と契約を結びます。

オフサイトフィジカルPPAの事例としては、小売流通業のセブン&アイが、NTTグループによるセブン&アイ専用の太陽光発電所建設によって、電力を調達することが知られています。先進的なものでは、不動産のヒューリックによるフィジカルPPAが挙げられます。これは、開発事業者が建設した太陽光発電所を、ヒューリックが買い取り、所有する点が特徴的で、自社グループ内で、100%再エネ電力の供給と調達を完結することを目指します。ほかにも、ソニー花王アマゾンなどがあります。

オフサイトバーチャルPPAは、フィジカルのような電力需要家と発電事業者の間での電の供給/調達関係はありません。というのも、発電事業者は需要家に対してではなく、卸電力市場へ全ての電力を売却し、需要家は卸電力市場から電力を調達するという仕組みになっているからです。需要家はオフサイトPPAと同様に、小売電気事業者と契約します。需要家は、卸電力市場から電力を購入するため、価格は市場価格とPPAの固定価格が合わさったものになります。このため、市場価格が低い場合は需要家から発電事業者へ差額を支払い、高い場合には需要家が受け取ることになります。

今のところ、オフサイトの電気料金はオンサイトと違って、平均的な電気料金よりも高くなる場合が多いとのことですが、太陽光の発電コストが今年度からさらに低下することが見込まれているようですので、通常分と同額に近づくか、或いは下回る可能性もあるようです。

自社の敷地外に発電設備を設置できる、つまり広大な敷地を選択できるオフサイトPPAは、再エネ100%を目指す企業にとっては、今後、おそらく重要な選択肢になると考えるのが妥当かと思います。次回は、カーボンオフセットについて、簡潔に述べたいと思います。


4/10/2022

脱炭素経営の取組み (2)Scope2②

前回の「脱炭素経営の取組み」ブログで、スコープ2のCO2排出量削減手段の3つめとして、挙げた自家消費型の太陽光発電は、電力需要家が設備機器を保有する自社保有のものと、発電事業者が保有する他社保有のものに区分できます。

自社保有型は、ソーラーシステムなどを自社で購入し、メンテナンスも自社で行うことから、電気料金はかかりません(但し、電気を全て太陽光で賄うことができる場合に限り無料となり、太陽光以外の電気を使用する場合はその電気料金は有料となります)。

他社保有型は、太陽光設備を第三者(PPA事業者)が保有し、メンテナンスもPPA事業者が行うもので、コーポレートPPAモデルと呼ばれ、近年、注目されています。なお、このモデルは、電気料金を自社消費分であろうと、PPA事業者へ支払う必要がありますが、オンサイトPPAの場合は、通常の電気料金よりは割安になると言われています。(なお、コーポレートPPAモデルは、太陽光に限るものではありません。実用にはまだ至りませんが、風力、水力、地熱、バイオマスなどでも適用可能です。)

このPPAモデルには、オンサイトPPA(フィジカル)オフサイトPPA(フィジカル)オフサイトバーチャルPPAの3つのタイプがあります。PPAとは、Power Purchase Agreementの略称で、電力事業者と電力需要家の間で結ぶ契約モデルのことです。オンサイトとオフサイトを合せて、フィジカルPPAと呼ばれたりもします。オンサイトとは自社の敷地内または隣接地に、オフサイトは自社の敷地外・隣接地外の遠隔地に、発電設備を設置することから、オン・オフと名称を変えています。ですが、この2つには敷地の内外以上に、大きな違いがあります。

電力需要家にとって、オンサイトPPA(フィジカル)初期投資が不要で、設備は発電事業者が設置、運用と保全も行うため、需要家は当該発電事業者からの請求書を受け取り、料金を支払うだけで手間がかかりません。また、自家消費のため、小売電気事業者や送配電事業者を介さず、仲介手数料、燃調費(燃料費調整額)、再エネ賦課金(再生可能エネルギー賦課金)の支払いが不要というコストメリットも魅力的です。更に、メンテナンス費用や固定資産税、保険料などを負担せずにすませることができます。

ほかにも、メリットとして、CO2削減による環境への取組みを訴求できるのは当然でしょうし、災害時における非常用電源としてBCP対策にもなりえます。また、補助金制度もあります。

一方、需要家にとってのデメリットには、PPAの契約期間が15年から25年程度と長く、契約期間中は電力購入の義務が発生し、価格などの見直しや設備を変更することができません。また、契約満了後に設備機器を発電事業者から無償で譲り受けるケースが多いとのことですが、技術の進歩が著しい今日では、必ずしも良いこととは言えないように思います。

とはいえ、太陽光発電のコストが低下してきたことにより、オンサイトPPAを導入する企業が徐々に増えてきています。特別高圧の電力を利用する工場や物流施設、商業施設などにおいて、大量の太陽光パネルを設置するスペースさえ確保できれば、企業イメージの向上にも資することから、今後、導入が活発化すると思われます。よく知られた事例としては、小売流通業のイオンが、自社商業施設の屋上で太陽光発電を実施しています。太陽光発電導入当初は自社保有型でしたが、2020年からオンサイトPPAの利用を開始しています。ほかにも、たとえば、キリンビールが昨年に複数の工場で導入を発表し話題となり、アサヒビールが今年の1月に名古屋工場で導入する計画を決定しました。

但し、再エネ賦課金や託送料金といった系統費用を支払う必要はありませんが、電気料金を大きく削減することにはつながりません

以上を踏まえ、オンサイトPPAについては、電力需要家の本モデル活用主旨とメリットが明確で、導入により実現できる見込みがあれば、この機に積極的に検討すべきモデルだと思います。

オフサイトPPAは、次回の「脱炭素経営の取組み」ブログへまわしたいと思います。


4/08/2022

脱炭素経営の取組み (2)Scope2①

スコープ2は間接排出で、自社が外部から調達している電力を中心としたエネルギーが、CO2排出量の算定対象です。但し、100%再生エネルギー由来で発電し、温室効果ガスを排出していない場合は、算定の対象外となります。また、自社で再エネ発電した電気、たとえば太陽光なども算定対象外です。なお、ディーゼル発電機のような自社発電でCO2を排出している電気は、スコープ1で算定することになります。

スコープ2のCO2排出量=エネルギー使用量×CO2排出係数

電気の場合は、電気の供給元ごとに算出します。A工場とB工場の供給元が異なる場合は、それぞれについて計算し、最後に合算します。電気使用量の確認は、電力会社の請求書などを確認します。CO2排出係数は、電力会社ごとに異なるため、比較する年を同じにする必要があり、このためには環境省から発表されている電気事業者別排出係数などを参照します。電気以外では、蒸気・温水・冷水の熱が該当し、算出のながれは電気と同じ、但し熱の種類ごとに計算することになります。なお、他者に電気や熱を供給した場合は、スコープ2全体の値から当該供給分を引く必要があります。

このスコープ2でのCO2排出量を削減する方法は、電気の場合、以下の4つに絞られます。

1. 調達する電気の排出係数を下げる。
2. 調達する電気を再エネ由来に切り替える。 
3. 自家消費型の太陽光発電を活用する。
4. カーボンオフセットを購入する。 

1と2は重複するところがありますが、ここでいう1は、電気料金も並行して下げる、またはできる限り上げないという意図や目的を含んでいます。

1は、現行電力調達先または新規(現行から切り替える)の電力会社に対して、排出係数低減交渉を行い、新たな排出係数(現行値より下げた係数)の電気を購入します。単に係数を一時的な場合も含め下げるか、または計画的に下げる、たとえば最終的にCO2フリー電源に切り替えるための過渡的措置として計画的に下げていくかは問わず、とにかく係数を下げます。CO2排出係数を下げながら、且つ電気料金の削減も試みるという点で有効な方法です。但し、現在のような電気料金が高騰し続け、先行きが非常に見えづらくなっている今、特に22年3月下旬以降の時点では、実現(係数を下げ且つ料金も下げる)の難易度は、かなり高くなっています。

2について、再エネ(再生可能エネルギー)由来の電気とは、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの発電が挙げられ、これらはいわゆる非化石エネルギーや非化石燃料と呼ばれています。一方、化石燃料とは、太古の昔に存在していた動植物の死骸が地中に堆積し、長い年月をかけて変化してきた燃料のことで、石油、石炭、天然ガスが該当します。

再エネは、エネルギー源として永続的に利用できるものとされ、エネルギー源が枯渇しないと言われています。加えて、何より、火力発電のような温室効果ガスを排出しないで(または非常に少ない排出量で)電気をうみだせる、電気を比較的どこでもつくれるということから地理的制約が殆どないとされ、これらが大きなメリットになります。加えていえば、純国産のエネルギーのため、エネルギー自給率を高められることも挙げられるでしょう。

デメリットとしては、誰もがすぐ頭に浮かぶことに、太陽光や風力などは天候によって発電量が大きく左右される(一般家庭ならさして影響ないでしょうが、工場ともなれば問題です)、エネルギー変換効率の低さも含め発電コストが高い、大規模発電に適しているとはまだまだ言えない、といったことなどが挙げられます。このため、再エネは、多くの企業、特に大手企業が主力電源にするにはもうしばらく時間がかかることになります。

なお、2の電気料金は、電力需要家が購入している再エネ切替前の価格がよほど高いものでない限り、通常、割高になるのは避けられません。とはいえ、手っ取り早くCO2を削減することは可能ですから、電気料金と削減できるCO2のバランス次第ということになります。電力会社によって、CO2削減メニューや価格が異なるため、電力会社の特性を見ながら、複数社から見積をとり、検討することが必要です。

3の自家消費型太陽光発電については、次回以降の「脱炭素経営の取組み」ブログで、カーボンオフセットについてはその後のブログで触れたいと思います。


4/07/2022

管理職4つの壁(2) 理解の壁③

理解の壁は、一見、容易に見えることが多いかもしれませんが、実は、ここが一番難しいと筆者は思っています。そればかりか、最近は、ますます難しくなっていると強く感じています。少し聞いてわからなければそれ以上理解しようとしない人とか、理解がまったくできない人ばかりか、理解をはじめから完全に放棄している人、こういった人たちがかなり増えていると思いますが、読者の皆さんはどのようにお感じでしょうか?

問題は、まったく違うところにあることは少なくありません。以前のブログにも書きましたが、筆者の本来の専門領域である新商品開発活動などはまさにそうですし、比較的知られているところでは、サプライチェーンにおける在庫管理などがあります。


閑話休題:直近5年から7~8年ほどくらいの間に、また、別の問題が上がってきたと感じています。それは、誰もが問題を正しく認識しているにも関わらず(全員です)、また、その問題解決はさして難しくないにも関わらず(まったく簡単なことです)、誰もその問題に取り組もうとしないことです。たとえ、上司から言われても、なんだかんだ言って取り組まないか、取り組んでいるように見せたりする。または、上司は見て見ぬふりをしている。10年か、或いはもう少し前くらいまでは、何が問題か、それを見つけるのが難しく、見つけたら、解決したも同じというようなことが、よく言われていました。今は、残念ながら、そうではないケースが増えていると筆者は思います。


管理職4つの壁における理解の壁では、問題を正しく理解するという、謂わば理性が重要です。とかく、感情に走りがちな今は、思い込みや勘違い、思考の停止や、責任回避が当たり前のようになってしまい(元々、人は自分が信じたいもの、見たいものだけを見る傾向が強いですが)、これには、問題を見つける行為の前段に位置づけられる、問題の定義をいかにするかが極めて重要で、これがほぼ全てといっても差し支えないかもしれません。

問題を定義した後は、問題を構造化することが必要で、多様な問題の場合には欠かせません。ハイレベルで(粗いレベルで、ざっくりと)、定義した問題を深堀していき、本質的な問題、根本的な原因を突き止めます。なお、これについては、「論理的思考」ブログで、述べていきたいと思います。

理解の壁①で、3つのタイプ、タイプAは思い込みや勘違いの場合、タイプBは思考の停止、タイプCは責任の回避、と述べました。タイプAには、フレームワークを用いて対象を可視化するなど、検討の枠組みを明確にして、それに対する思考を促します。

タイプBの場合は、ロジックツリーやイシューツリーなどを用いて、絶えず仮説や前提をおいて思考するように持っていく。はじめからすぐにできることはなく、精度が低かったり、まったく間違えていたりしますが、管理職やリーダーの立場にある人が、根気よく続けていけば、部下や周囲は徐々に、できるようになり、思考停止が少しずつなくなり(思考し始め)、最後はほぼなくなるでしょう。

タイプCでは、やはり対象の全体を俯瞰することが非常に効果的です。これは、タイプAにもよく効きます。ほかには、ビジョンを作ったり、継続的なリーダーシップ教育なども有用です。あと、日本で何処まで実効できるかは微妙なところですが、職務要件の定義と評価制度の見直しが挙げられます。ジョブ制度、職務給といった制度は、個人的には非常に意味があると思っています。


4/02/2022

イノベーションマネジメント はじめに

イノベーションとは何か。定義はかならずしも一様でなく、論争が巻き起こる分野でもあるため、あまり定義には言及したくない、厳格に捉え云々するのはどうなんだろうか、というのが筆者の正直な気持ちです。実際、過去に在籍したIBMでのイノベーションの定義は広範囲に及ぶものだった記憶があります。学術の世界ではなく、ビジネスの世界、それも営利企業を対象にすれば、イノベーティブな組織とは、およそ以下のいずれか(青字記載箇所)を備えており、イノベーションとは製品やサービスを生み出す、他社には簡単に真似のできないプロセスやビジネスシステムといった仕組み全体を指すことでよいのだろうと思っています。製品やサービスは、あくまでもイノベーティブな活動の結果です。

それでは、そのイノベーティブな組織とは、どういう特性を兼ね備えているかといえば、

優れた製品やサービスをとおして、市場で圧倒的な競争優位を構築している。

技術を駆使し、継続して、また、効率よく、企業価値向上に直結する革新的な製品やサービスを輩出している、またはそれを実行するビジネスプロセスを有している。

アライアンスなどで、外部とのネットワークを構築・活用して、自社に足りないものや技術を実現させ、企業価値を高めている。

といったものになると思います。

したがって、イノベーションとは、世の中が一変するような新たな価値を創造するものだけではない、と筆者は考えます。狭義に捉えれば、変革だけが対象になることが多いといえますが、実際には改革や、改善も、その内容によっては、イノベーションの対象になると筆者は思います。ただ、改善まで含めるとなると、誤解も生じかねないため、もう少し丁寧にいえば、継続的な改善活動を積み重ねた結果、これまでには存在しない新しい製品やサービスが生み出された場合、その改善活動全般をイノベーションということができるはずです。

では、そういったイノベーションを、どうマネジメントしていけばいいのでしょうか。また、イノベーションを創出するコツや秘訣とはどういったものなのでしょうか。この「イノベーションマネジメント」ブログでは、これまでのプロジェクトをはじめとした筆者の経験や、独自に学んだことなどを組み合わせながら、適度に分野(たとえば、新規事業創出、製品/商品開発プロセスなど)や、領域(ビジョン、プロセスなど)を設定し、それぞれに対して、できる限り簡潔に体系化させ、述べていきたいと思います。

なお、1つお断りがあります。それは、このブログは研究者の視点で書かれるものではなく、また研究者のためだけでもありません。あくまでもマネジメント(経営のマネジメントに限定するものではなく、ミドルクラスのマネージャーなども含め、もっと幅広く、セルフマネジメントする人たち全体)の視点で記述していきます。

「イノベーションマネジメント」ブログの初回の最後に、1点強調しておきたいことがあります。それは、企業にとって、仕組みは必須だということです。ただ、仕組みは作って終わりではなく、実行し、改良を加えていくことが肝要で、これは強調し過ぎてし足りないことはないと思います。筆者はこの仕組みと、教育、あと、組織文化が、企業の持続的成長には不可欠で、最も重要なものだと考えます。それは、自身のプロジェクト経験で痛感させられることがあり、それがコンサルタントしての大きなターニングポイントにもなりました。

また、遡れば、筆者が社会人になって初めて働いた会社、当時のセゾングループの基幹会社西武百貨店に対しても、そう感じています。小売・流通業界は西武百しか受けませんでしたが、縁あって採用され、10年勤めました。西武百はじめグループ全体が、ファッション、文化、感性といったものばかりに目がいきがちですが、かならずしもそればかりではなかったと思います。たとえば、80年代前半から半ばには、すでにクレジットのクレディセゾンはじめ、損害保険・生命保険、自動車販売等々の企業を擁し、「生活総合産業」を標榜していたイノベーティブな企業集団でした。

バブル経済の崩壊と共に、グループも解体などといわれ、実際そのとおりなのでしょう。ただ、何が最大の根本的な問題だったのかというと、個人的には、仕組みの欠如と、その仕組みを、組織文化を顧みることなく、西武百などの特性を考慮せず、導入しようとした点だったのではと思っています。

西武百に限らず、組織文化をないがしろにして、仕組みをつくり、崩壊または衰退していった会社はたくさんあります。仕組みがないのは致命傷になると思いますが、個性や特性を活かさず強制的に行うと、死に体になるのは当然で、これは国内外、共通しています。

読者の方々は、今後のブログを、自社に合うか、合わないところがあるとすればそれは何処かといった点などに留意されながら目をとおして頂ければと思います。仕組みは、必ず備えなければいけません。ただ、どのように作るのかが問題です。ですが、個人の能力や感性のみに依存するばかりで、仕組みを持たないのは問題外であるのは言うまでもありません。


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...