11/27/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスxii

前回のマーケティングプランニング ②プロセスxiでは、「3.1 マーケティング仮説」における問題発見について述べました。今回は、発見した問題を解決する仮説づくりについて、簡潔に触れてみたいと思います。

前回で、問題解決はプロモーションから行うことになりましたが、そこでの問題は次のようなものでした。

①多数のカスタマータッチポイントを活かせていない。

②打ち手は場当たり的に行われている。

③ターゲット顧客にリーチできているかわからない。

④観光サイトが地域の魅力を発信できていない。

これらの問題に対して、すぐに挙げられる解決策には、以下のようなものが挙げられるのではないでしょうか。

①については、全てのタッチポイントを棚卸しながら、デジタル領域のトリプルメディア(ペイド、オウンド、アーンド)、なかでもオウンドメディアである観光サイトの目的と役割を定義し直します。その上で、地域ブランドの訴求、商品/サービスの情報提供と販売、問い合わせ対応などを、サイトの主旨と合致するものに再構築します。

 このためには、ページやコンテンツのデザイン上の統一感を持たせるのは勿論のこと、コンテンツ公開のフローとチェック体制、KPIなどを明確に設計します。 

これら一連のものは、④に直接つながるばかりでなく、③と②にも関係してきます。幾つかに分類されているであろうターゲット顧客層が欲する情報を、各特性に合わせた提供方法に整理し直します。

ターゲット顧客がサイト上で調べても必要なものが見つからなければあきらめ、当該デスティネーションへの関心を失ってしまう、そういった可能性が絶えずあることを忘れてはなりません。サイトの担当者は、情報ニーズに素早くこたえられる場所でなければならないことを、強く意識する必要があります。SEO(検索エンジン最適化)や、アクセス解析でサイト運用の改善点を把握できるようにします。

②の場当たり的な打ち手については、オウンドメディアである観光サイトの再構築後は、当面サイトの打ち手だけに集中するようにしながら、顧客のステータスごとにアプローチを考えていきます。現在の顧客なのか見込み客か、前者であれば既存の顧客か新規か、或いは休眠している顧客なのか。後者は顕在化している顧客か、潜在顧客か等々。このように、5つ程度のステータスに分けて、基本的な考え方とステータスごとに優先順位付けして、アプローチを練り上げます。 

たとえば、顕在化している顧客については、その人たちの課題を解決することで、売上げに結びつくようにしていきます。休眠顧客も同様です。潜在顧客については来ていただくため(或いはプロダクトを購入して頂くため)のモチベーションを喚起していくことを考えます。既存、新規の両顧客については、エンゲージメントを高めていける打ち手を考えます。なお、これら5つのステータスのうち、顕在顧客へのプロモーションを強化することが、デスティネーションの売上増大につなげやすいため、取組みは最優先で行うべきでしょう。

ほかにも、OTA(Online Travel Agency)の機能をサイトに加え、パートナー企業にもなりうるOTAとの協力関係や、営業体制を強化していくといったことなども挙げられます。

上述したような問題解決策のうち、どれが実際に大きな効果を上げられるのか、投資金額や運用面で投下する人員体制などの効果、実行可能性などの観点から、競合の動きや業界のながれなども考慮しながら、具体的に打ち手を絞り込んでいきます。どれも大事にみえる策かもしれませんが、効果があまり期待できそうにない施策や、効果を得るには時間がかかるであろう施策など、直近では不要と思われる施策を捨てる作業ともいえるでしょう。


11/16/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスxi

今回はマーケティングプランニングシステムにおける「3.マーケティング戦略策定」の最初のステップ、「3.1 マーケティング仮説」についてです。

前回のブログで、顧客を知ることの重要性について触れました。では、どのようにすれば、顧客を知ることができるのでしょうか。たとえば何故あのデスティネーションには人が集まるのか。感覚的に捉えることも大事ですが、議論が感覚的なものだけで終わることは避けなければなりません。事実を集め、集めた事実を元に、分析していくことが必要です。

事実を集めるために、大規模なアンケート調査を行うことがありますが、ただやみくもにデータを集めて分析すればいいというわけではありません。重要なことは、「こういうことだろう」という仮の答え(仮説)をつくって、その仮説をもとに調査内容を決め、調査の対象や調査の方法、調査の項目などを決定していくというながれにすることが重要です。仮説に基づき行った調査結果から、仮説を検証し、必要に応じてその仮説を修正していきます。(仮説については、右記ブログをご参考ください。営業力強化(2)価値ある提案をするために⑨営業力強化(2)価値ある提案をするために①)

仮説をつくるためには、はじめに、何が問題になっているのか、何に対して答えを出さなければいけないのかを明確にすることから始めるのがよいでしょう。そのためには、自らデスティネーションへ行き、そこで過ごしながら自分も観光客の一人になってみることもあるでしょうし、ほかの観光客を観察したり、観光客やサービス提供者などに話を聞いてみることも必要でしょう。また、当然のことながら調査資料にもあたります。こういったことを総合的に組み合わせて、仮の答えである仮説を考えてみるのが一般的といえるのではないかと思います。

ただ、これは一般的なやり方だけであって、人によって方法はいろいろありますから、上記のようにするのが必要だというわけではまったくありません。実際、仮説づくりに慣れている人は、分野にもよるでしょうが、はじめから直観を働かせて、えいやー的に(?)仮の答えを出す人たちがいます。情報の少ない段階から、こういうことができる人に共通していえることは、問題の全体像を考えるからだと筆者は思います。全体像を捉えようとするからこそ、はじめは部分的な仮説であっても、新しい情報を加え分析を重ねていく過程で、仮説の精度を上げていくことができるようになるわけです。

仮に、あるデスティネーションの観光客が年々減少していたとします。ここで考えるべきことは2つあります。はじめに、何が問題なのかを考え、次に、その問題(仮説)を解決する方法を考えること。前者は問題発見、後者は問題解決、この2つをいずれも仮説で行うことです。

問題発見を仮説で行う際、問題はこれではないかというあたりをつけることから始めます。ここで気をつけなければいけないことは、網羅的にしようとしないことです。とにかくこれだと思える問題をざっくりと3つから、せいぜい5つくらいまでを挙げてみることです。たとえば、

競合するデスティネーションと比べてアクセスが不便なため客足が遠のくなどの問題がある(たとえば鉄道の運行が1~2時間に1本の上、最寄り駅から目的地まで徒歩で30分くらいはかかるなど)。

法人などの大口顧客を対象にした販売チャネルへの営業活動に問題がある(営業パーソンの営業活動にあてる時間が少ない、営業パーソンの数が少ない、営業パーソンが魅力的なモノやサービスの提示ができないなど)。

広告・販促は、予算配分が今も10年前も変わらず、マス媒体やラッピング電車などの交通系広告中心に行われている。

次に、問題と考えられる上述の3つ、アクセス、チャネル、プロモーションについての初期仮説を検証します。調べると、たとえば次のようなことがわかりました。

アクセスについては、競合デスティネーションと比べて、一見大差ないように見えていたが、競合はレンタサイクルは当然のこと、料金均一の小型タクシーや、乗り合いタクシーを積極的に投入するなどして、観光客に不便さを感じさせない移動交通/インフラの基盤を整備していた。

チャネルについては、競合と比較して営業パーソンの数は少ないようだが、チャネル別の売上では競合と比較してそうそん色があるわけでもなく、むしろ健闘しているようだ。問題は結局、法人ではなく個人客の取り込みにある。

広告・販促などのプロモーション全般については、多数ある顧客接点(カスタマータッチポイント)を活かしているとはいえず、場当たり的に打ち手を連発している状態。また、そもそもターゲット顧客に情報が届いているのか、見てもらっているのかどうかなども不明。観光サイトは一応あるものの、競合と比べて情報がわかりやすく整理できておらず、地域の魅力をうまく発信できているともいえない。潜在顧客の目で見れば、行ってみたいという動機づけになるようには到底思えない状況下にある。

これらの調査結果から、当面の問題をアクセスとプロモーションに絞ることにしました。なかでも、アクセスについては相応の費用がかかるだけでなく、実現可能性の面でも時間がかかることから、まずはプロモーションにおける問題解決を先行して行います。続きの問題解決の仮説づくりについては、ブログの長さの関係から、次回にまわしたいと思います。


11/09/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスx

今回は、マーケティングプランニングシステムの「2.状況確認/Situation Review」下にある「2.2 SWOT分析と課題特定」についてです。

SWOT分析は、ご存知のとおり、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)について分析を行ったものです。前者の2つが内部環境、後者2つが外部に関するもので、それぞれの頭文字が使われています。随分以前から、優れた戦略はこの4つの条件を考慮したものであるといわれてきました。

強みとは、自ら(企業、デスティネーションなど)の経済価値や競争優位を生み出すうえでの経営資源やケイパビリティのことをいいます。弱みとは、経済価値や競争優位創出を困難にするような経営資源やケイパビリティとなります。

機会とは、経済上のパフォーマンスや競争上のポジションを向上させるチャンスのことで、脅威とはその逆となりますので、機会を捉えながら、脅威を無力化させていくことが必要となります。

SWOT分析のフレームワークはシンプルで、誰にもわかりやすいものです。的確に分析をすすめれば、4つの要素を全て明確に示してくれるため、優れた戦略を考えだす契機となります。ただ、その4要素を特定していく際、そのやり方や基準については何も語ってくれません。

SWOT分析は、導き出した強み、弱み、機会、脅威について、それぞれどのようにすればよいのかという問いかけを、正しく行うために用いるべきです。たとえば、

強みを活かすためにはどうすればいいのか

弱みを克服するか、回避するためには、どうすればいいのか

機会をどうやって、捉えればいいのか

脅威を無力化することはできるのか、等々


続けて、「3. マーケティング戦略策定」にすすみたいと思いますが、このまま書き連ねていくと、また長くなってしまいますので、3.1 マーケティング仮説」以降は、次回に回すことにして、マーケティング戦略全般について、筆者がふだんから思っていることを少し述べて終わりにしたいと思います。

成功するマーケティング戦略とはどういったものでしょうか。差別化や価格といった何か1つに頼るのではなく、様々なものを1つに組み合わせて、独自性の高いものにしたものが成功につながるといえるでしょう。

競合より、いろいろなものを少しずつうまくできたとしても、それは必要かもしれませんが、十分とはいえません。

次のような文言は、成功を約束するものではありません。たとえば、絶えず顧客の期待を上回ること、絶え間ない商品/サービス改良に努めること、高成長市場にいち早く参入すること、サービスを磨き上げること、高品質を維持し続けること・・・。

常識を打ち破ってこそヒットが生まれるなどといわれることがあります。マーケティングには、いろいろなPがあります。Product、Price、Place、Promosionの所謂4P以外にも、Positioning、Package、Publicity、Permission(許可、承認)等々、これらの固定概念を打破すればいいのでしょうか。こういったPにそつなく対処できれば、少しは成功できるかもしれませんが、十分とは到底いえないでしょう。設定したゴール次第なところはありますが、情報があふれかえっている現在では、そもそも全体の中に埋もれてしまいます。

成功の鍵は、目立つこと。これがあまり上品な言い方でなければ、お客様に他者よりいち早く、よく知っていただくことだと筆者は思います。勿論、知ってもらうだけで即、成功につながるわけではありませんが、少なくとも検討の土俵に乗れる可能性がでてきます。加えていえば、常識破りなものであれば、メディアが取り上げてくれるでしょう。ただ、常識を打破することと、非常識な振舞いは当然、別個のものです(当たり前ですが)。

何を目立たさせるか。それは、まず全てのPを見直して、突出したものを見出すこと。ただ、それは独りよがりなものでなく、購入する人、デスティネーションへ来てくれる人の気持ちや立場になって考えることだと筆者は思います。自分のところのデスティネーションを儲けさせてくれる人を特定する。だからこそ、顧客を知ることが必要です。


11/01/2023

ツーリズム (5)マーケティングプランニング ②プロセスix

ツーリズム産業にとって、マスメディアの影響力は依然として非常に大きいものがありますが、ウェブサイトの閲覧者数やSNSのフォロワー数なども、即時性、即効性があるという点で、重視すべきことは明白です。ですが、多くの地方自治体では、まだまだそういう状態にはなっておらず、観光客増大に向けた打ち手の面で、改善余地があるように思います。

デジタルマーケティングでは、「リード」という言葉が頻繁に使われます。見込み客のことを指しますが、何をもって見込み客(リード)とするかは、業種や企業によって異なるため、ここでは次のように定義します。

  • デスティネーションが、消費者と何らかの接点を有し、アプローチすることができる。
  • 消費者が、デスティネーションそのものを認知している(名前くらいは聞いたことがあるというレベルのものも含む)。

リードをマネジメントしていくという点において、デスティネーション内にあるリード情報を棚卸して、実数を把握することが重要であり、ここから取組みの第一歩が始まるといえるでしょう。ターゲットに設定しているセグメントの市場規模がどれくらいで、それに対して現在保有しているターゲットのリード数はどうなっているのか、その割合を把握します。

ターゲットに対するリードカバレッジ=保有ターゲットリード数÷市場ターゲットリード数×100


プログラム監査では、デスティネーションの方策に従って、リードに対する調査を行うべきです。たとえば、もし上記のKPIが低ければ、広告宣伝費をかけてリードをもっと増やすようにすべきですし、割合が高いようであれば、保有するリードとの関係を深めていく必要があります。マーケティング監査のプログラム監査では、そういったことがどのように行われているのかを調査することが望まれます。

もしターゲットのリード獲得単価があまりにも高いようであれば、リード獲得に関する施策や活動自体の内容は再考したほうがいいでしょう。

ターゲットリード獲得単価=マーケティング活動費÷ターゲットリード獲得数


保有するリードをいかに見込みの高いリードに変えていくか、見込みありと判断できるリードはどれくらいの数なのか、具体的にデスティネーションへ来てもらえそうな人は何人で、増えているのか変わらないのかといったことなどを把握しておくことは極めて重要です。

プロスペクトリード移行率=プロスペクトリード数÷保有リード数×100%

リード接触指数=リード接触回数÷保有リード数×100%


パーチェスファネル(purchase funnel)という考え方があります。消費者が購入するまでの過程が、逆ピラミッドになる、漏斗のように見えるため、パーチェスファネル(漏斗)と名付けられ、AIDMA(またはAIDA)モデルの発展形といわれています。

Attention: 注意

Interest: 興味

Desire: 欲求

Memory: 記憶

Action: 行動

ファネルの階層には幾つかの説があります。ただ、デジタルのマーケティングファネルを考える時は、こちらのほうがしっくりくるようにも思います。

Awareness: 認知

Consideration: 考慮

Conversion: 購入へ向けたアクション(問い合わせ等含む) 

Loyalty: ロイヤルティ(愛着や信頼)

Advocacy: 支持

ただ、一方でファネルの限界も指摘されています。筆者が在籍していたアクセンチュアでは、2014年くらいに、カスタマーエクスペリエンスには終わりがないとして、パーチェスの道のりはリニアからループへと変わり、カスタマージャーニー自体がダイナミックなものになってきていると語っていました。

道のりや階層をどのように捉えるのか、また、5段階である必要があるのかどうかといったことには、絶対的な正解があるわけではありませんので、デスティネーションにとって使いやすく実効性があるもの、関係者共通で理解を得やすいものにすべきでしょう。ただ、いずれの場合でも、認知興味関心比較検討行動/購入といったながれは、おさえておく必要があるのは間違いありません。


ブランディング (4)ターゲティング ②セグメントの評価i

市場特性は、様々な要因に左右されます( ブランディング (4)ターゲティング ①セグメントの評価項目 )。 規模と成長率だけを考慮すればいいというわけでは決してありません。 大規模で右肩上がりに成長を続けるセグメントが有望であることは事実ですが、それ以外の要因が同じであることはめ...