6/17/2023

地方創生 沿線価値向上③

沿線の価値とは、誰にとっての価値でしょうか。その沿線住民にとっての価値が、最も重視されるべきだと筆者は思います。その沿線が鉄道会社であれば、鉄道会社にとっての価値は二の次とすべきでしょうし、ましてやその沿線住民ではない人々にとっての価値は、更にその後位にあるものだと思います。

筆者は以前、東京都目黒区の祐天寺に10年以上暮らしたことがあります。自宅から徒歩5分のところに東急東横線の祐天寺駅がありました。当時は、渋谷駅が東横線の終点で、メトロ副都心線との相互乗り入れをする前のことです。筆者の家族も含め、渋谷が通過駅になることに抵抗感を覚える人は多く、特に3世代くらいにわたって祐天寺に暮らす人ほど、その思いが強かったという記憶があります。実際、それが嫌で引っ越した人は少なくありませんでした。

当時は相互乗り入れによって、渋谷により多くの人たちが集まるようになると言われていましたが、乗り入れが始まってから、結果はその真逆で、渋谷の乗降客数は減り続け、渋谷は通過駅と化し、新宿3丁目や池袋へと人が流れていき、渋谷の姿は当初企図したものとは、大きく変わったように思います。とはいえ、街としての渋谷の魅力低下は、相互乗り入れが開始されてから始まったものではなく、当時のセゾングループ(西武流通グループ)の70年代半ばから90年代初頭にかけての拡大、文化戦略の推進、その後のグループ解体とおよそ軌を一にすると考える人は少なくないでしょう。ただ、相互乗り入れが渋谷離れを決定的なものにしたというのは事実のようです。

電鉄会社の思惑が見事に?裏切られた事例といえますが、似たようなことが起こるかもしれないと筆者が危惧するのが、大阪第2の商業地域である難波です。難波には、大阪メトロ、南海、近鉄、JRの4社が乗り入れています。中でも南海電鉄にとっての難波駅の位置づけは非常に大きく、大阪の玄関口のみならず、同社最大の商業集積エリアです。

南海電車は大阪の難波が始発駅で、梅田へは乗り入れていません。それがJR西日本との共同運行によるなにわ筋線の2031年開業(予定)によって、大阪梅田へ直接行けるようになるとのこと。現在、梅田は大阪で最もホットなエリアとされ、街の再開発が今でも続いています。そこへ直接乗り入れられるようになるわけですから、南海電鉄にとっては長年の悲願が実現されると言われています。ですが、本当にそうでしょうか。それに、そもそも何のために、梅田まで路線を延伸させる必要があるのでしょうか。

難波は南海電鉄にとって最重要な駅であるのは明白です。大事なことは、沿線住民は勿論のこと、それ以外の人たちも多くが難波へ来て、そこでお金を使ってくれることだと思います。今でも、梅田へ行きたい人や、梅田から難波へ来たいと思う人は、大阪メトロを使えばいい、ただそれだけのことです。JR難波駅と違って、メトロ難波駅の改札口は不便なところにあるわけではありませんから。しかも、その南海電鉄が梅田へ乗り入れる路線は、現在の南海難波駅からではなく、新しい難波駅を、今の南海難波駅から少し離れたところにわざわざ作るとのこと。

ところで、首都圏在住の方には理解しにくいかもわかりませんが、梅田の大きな問題のひとつは、阪急、阪神、大阪メトロ、JRの4社の梅田駅または大阪駅が、それぞれ離れたところにあるため、電車を乗り換える場合は、必要以上というか、不要なまでに歩かされます。しかもその間、大量の通行人は四方八方から、思い思いの方向へ歩いています。筆者は昔から、梅田の回遊性の悪さ、不便さに辟易していましたが、東京に長く住んで、大阪の一種、異様ともいえるそのバラバラな状態にガマンできなくなってしまいました。

その最たるものが、梅田の阪急電車の3F改札口から1Fに降りて阪急百貨店本店を右に見ながら進み、メトロ御堂筋線南改札口(また、谷町線東梅田駅)へとつながる動線です。東京であれば、通常、電鉄系百貨店の本店は親会社の電車の改札口を出たところすぐか、その上にあったりします。新宿、池袋、かつての渋谷(東横店が該当、本店は駅から離れすぎ)など、例外はありません。ところが梅田は違います。その理由は、(少なくとも一部の)東京人の目からすれば、明らかなものとして映るんじゃないかと想像します。

街としての魅力が下がり続けていた渋谷と同じようには比較できないとは思いますが、今の難波に流出を食い止めるだけの街としての魅力があるのかというと、個人的には少々疑問です。活気があったころの難波や心斎橋ははるか昔のことです。その後、緩やかに凋落が始まり、そして外国人観光客でごった返していた。その頃よりは、少しは日本人にとっての良い賑わいを取り戻しつつあるようですが、それでもまだまだ(大阪弁的に表現すると)しんどいように思います。続きは次回とさせていただきます。


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