前回(価格その8)は、プロダクトライフライクルの導入と成長のステージについて述べました。
今回は、成熟と衰退のステージについてです。
成熟期: プロダクトライフサイクル上、市場規模は最も大きくなり、且つ大きな変化がなくなるこのステージでは、市場の成長が見込めない分、参入企業同士のパイの奪い合いが起こり、激しい競争が繰り広げられます。
小売業によるPB商品も登場し、価格競争はピークに達するため、価格は通常、成熟期において最も低くなります。一般的なプロダクトの場合は、大半の時期をこの成熟ステージで費やすことになります。このステージでは、価格の自由度はかなり制限されることになりますが、生き残るための価格は効果的に設定しなければなりません。
消費者は似通ったプロダクトを比較できるようになり、価格感度は最も高まります。特に成熟後期では、価格に非常に敏感で他社プロダクトに価格次第で切り替える消費者と、価格はさほど重視しないブランドロイヤリティの高い消費者に大別できるようになります。割合は前者のほうが大きいため、価格競争がさらに激化することになります。
このステージでは、参入企業は他社から売上げを奪うことでしか成長できないため、競争が価格の引き下げを誘発するばかりでなく、特に後期では弱小企業は市場からの撤退を余儀なくされるようになります。
このステージでマーケットリーダーが存在する場合は、プライスリーダーとなります。プライスリーダーはコスト管理をはじめ、需要予測の精度改善、パッケージの簡素化、チャネルごとにプロダクトの多様化を推し進めるなどして、利益を確保、増大させていきます。小規模事業者は、成長期以上に、一段と細かい対応を、消費者に対して行う必要があります。
衰退期: 需要が下降傾向にあり、企業の生産と販売能力が過剰な状態にあるこのステージでは、消費者がプロダクトの購入/利用をやめ、企業の利益水準は低下し、退出する企業が増えていきます。
私たちがふだん目にしやすい業界でいえば、百貨店や量販店(総合スーパー)などをすぐに思い浮かべる人がいることだと思います。現状のコストを低く抑え、新たな事業/プロダクトの開発原資を捻出することは必要ですが、現行コストで固定費の占める割合が大きければ、事業/プロダクトの差別化要素(たとえば対面販売や好立地、多数の品揃え、適正価格など)を大胆に見直すことができたとしても、自らの存在意義を失うことにもつながりかねず、市場の衰退による影響はかなり深刻なものがあります。
メーカーでいえば、 LPレコードやカセットテープからCDに移行した音楽業界では、プロダクトからの撤退のみならず、姿を消したハードウェアメーカーも少なくなく、またレコードなどのソフトウェアも同様です。
ただ、 このステージで消滅したプロダクトがある一方で、需要がいったん落ち込むものの、その後回復したタイヤ業界のような事例もあります。国内タイヤ業界は、1970年代の2回のオイルショック、80年代の世界同時不況、タイヤのラジアル化進行による需要減退、90年代のバブル崩壊など厳しい時期がありましたが、輸出の促進や、タイヤのサブスクリプション化をはじめとしたサービスビジネスの強化に加え、そもそも自動車産業の世界的な隆盛などから、一時的な低下で終わっています。
衰退期におけるプロダクトの価格は、 下げ止まった状態から上昇することが珍しくありません。コレクターやマニアなど、そのプロダクトをどうしても欲しいという消費者が存在するためです。レコードの温かみのあるサウンドが好きという消費者は今でも多く、単なる懐古趣味ではなく、レコードのプレイヤーや針などの需要も一定数量あるのが事例のひとつに挙げられます。
こういった業界では、競争も少なく、比較的小規模事業者でも、設備投資を極力せず、マーケティング費用もできる限り抑え、プロダクトのラインアップを縮小させて、キャッシュフローの最大化が図れるように価格を設定すれば、プロダクトを継続提供するための利益を創出することが可能となります。
次回以降は消費者心理について、初回は消費者の価格概念についてです。