今回は、価格をライフサイクルで考えます。ライフサイクルは、プロダクトとブランドで違いはあります。けれども、ブランドのライフサイクルマネジメントについて、プロフェッショナル、アカデミック両方のフィールドで公に認められた理論を筆者は知りませんので、ここではプロダクトのライフルサイクルで、価格を捉えることにしたいと思います。ちなみに、ブランドのライフサイクルがプロダクトのライフサイクルよりはるかに長いとされる理由は、たとえばソニーのウォークマンをみれば、分かりやすいのではないかと思います。
プロダクトという視点では、ウォークマンは1979年に発売された初代ウォークマンから2代目のウォークマンII、その後に続く薄型ウォークマンといったところになります。一方、ブランド視点では、左記のカセットタイプのウォークマンから始まり、CDやMDのウォークマン、ラジオウォークマン、DVDウォークマン、さらにはネットワークウォークマンなど、ウォークマンといっても時代の変化と共に様々なものがあり、これらは一括して、ウォークマンブランドと呼ぶことができます。このようにウォークマンをブランドで捉えれば、そのライフサイクルは半世紀近くにもなることがわかります。
プロダクト価格をライフサイクルの各ステージ(導入、成長、成熟、衰退)で捉えた場合、以下のような顕著な傾向があり、プロダクトライフサイクル理論の有効性が証明されています。
導入期: 買い手(消費者、または小売流通企業)は、新しいプロダクトに関する知識をまだ持ち合わせていないため、当該プロダクトに対する価格感度が低いのがふつうです。というのも、プロダクトが新しいために、競合他社の類似するプロダクトも少ないか、もしくはそもそも存在しないからです。このため、新しいプロダクトを提供する企業は、プロダクトの価値を、広告宣伝や販促などをとおして、買い手に伝えていく必要があります。この時に、需要を正しくおさえておくことができれば、価格は自由に設定することができるといえます。
成長期: 導入期を経て、買い手の認知度が高まり、市場規模が拡大していきます。他社の参入(単なる模倣品から新しい価値を付加したものまで)により、競争が激しくなるため、先発企業は後発企業の価格戦略に応じて、これまで述べてきた価格の打ち手を実行します(価格その4、その5、その6、その7)。
成長期では、価格は低下傾向にあり、またSNSなどでの口コミも広がるため、プロダクトを繰り返し購入する、または継続利用する消費者が増え、耐久消費財のようなカテゴリーでは商品の普及が進むことになります。
大手企業であれば、プレミアムプライシング、価格バンドリング、地理的プライシング(価格その5)などの手法を用いてプロダクトラインのバリエーションを広げたり、経時的ディスカウンティング(価格その4)でコストリーダーシップを強化していくことが多くなるといえるでしょう。特定の消費者セグメントなどに絞り込んだニッチの分野でプロダクトを提供する小規模事業者は、大手企業の干渉を回避するための差別化戦略を強める必要があります。
成長期をうまく泳ぎ切り、次の成熟期で確実に生き残れるようにするために最も気をつけなければならないことは、強みを徹底的に活かしながら、且つ適度にバランスのとれた戦略を実行することです。
独自性が大事だからといって、差別化戦略のみに注力したり、コストリーダーシップ戦略をとっているからといって、それだけすむことはまずありません。業界を横断した純粋な戦略というのは必要なく、あくまでも同業他社の戦略と比較して、独自性に強みがあるのか、コストリーダーがなしうる価格の安さなのかといったことを考えることが必要です。
ふつうに考えれば(もしくは自分におきかえて考えれば)誰でもわかることですが、品質が良ければ価格は気にしないという消費者であっても、他と比べて常識をはるかに逸脱したような値段をつけたモノを購入する人は、まずいないでしょう(いたとしても、統計的にエラーの範囲に位置づけられるはずです)。同じように、安いからといって品質などどうでもいいとか、価格感度の最低セグメントに居る消費者がいつも必ず価格プレミアムを受け入れないということも少ないはずです。
つまり、成長期ではその後に必ず来る成熟期に向けた準備をするためにも、独自性の確立に加え、コスト効率の良い方法を考え出さなくてはならないということです。そのためには、ひとつの市場セグメントだけでなく(市場の切り方、捉え方を工夫すれば、セグメントはひとつだけには終わらないはず)、複数のセグメントの需要に適合したプロダクトの特性と価格の組合せをバランスよくとることが非常に重要になります。
成長期に参入する企業は、独自性が高いと消費者が考えるプロダクトをプレミアム価格で購入/利用しようとするような市場セグメントがあるか、または、規模の経済を追うことができるだけの価格感度が高い市場セグメントがあるかを自らに問うべきです。
前者については、そういうセグメントが存在していれば、長期間のブランドロイヤリティを期待することができます。たとえば、新製品のハイスペックなiPhoneを買い続ける顧客とか、少し古くなりますがかつてのソニーのテレビとか、ハーレイダビットソンの大型バイクとか、悪路でも走破できるイメージを醸し出すジープなどが、筆者の頭には浮かびます。後者については、価格が安ければプロダクトを変更したり、購入したりする消費者がいる場合、浸透価格戦略を適用することができます。かつてのソフトバンクの携帯プランであったり、デルやコンパック(現ヒューレットパッカード)のPCなどが良い例といえるでしょう。
成熟と衰退のステージについては、長さの関係から次回にしたいと思います。