4/01/2025

ブランディング (6)日本市場の特殊性⑥

正直者はバカを見るという言葉がありますが、今日では、正直者は死ぬと言い換えてもいいのではないかと思う時があります。この正直者は死ぬというのは、筆者より20才くらい年配のアナリティクスの大家だった方が、かれこれ15年くらい前に、都内をタクシーで一緒に移動した時に言っていたものです。

日本に限ったことではありませんが、巷の一部で言われているように、エコはエゴになりました。食品スーパーや百貨店などで、ビニールは環境に良くないからといってレジ袋は有料になり、その後、環境に悪くないはずの紙でできたショッピングバックも有料になりました。紙は勿論ですが、ビニール袋も、物置などに長年放置しておくと、ボロボロになります。レジ袋はプラスチックから出来ています。

小売業では(小売業に限りませんが)なんでもかんでもエスカレートして、25年2月1日から、高級食品スーパーの成城石井が、それまで無料だった小さな保冷剤を1つ11円で、商品につけるようにしました。顧客がそれを望まなければ、生ものを買っても保冷剤はなしということです。

商品の販売者責任というのは、どうなっているのでしょうか。しかも高級食品を定価で販売している小売企業です。春から秋にかけて、要冷蔵/冷凍品を買ったお客に対してどう説明するのか、その感覚が筆者には理解できません。民法はバランスと知人の法律家が以前言っていたのを思いだします。このバランス感覚を欠いた保冷品の販売姿勢に対しては、訴訟のやり方次第で、成城石井側は敗訴するのではないかとさえ思ってしまいます。成城石井はブランドになったなどと評されている向きもありますが、少し驕りがあるのではないでしょうか。


事業に対する基本的な考え方や、依ってたつところのものがないか、または著しく希薄なために、このようなことが平然で行われると筆者は考えます。これは、成城石井の例に限らず、日本の企業や日本人は、大変残念なことではあるのですが、相対的にそういえることが多いと感じています。自分はどう考えるか、自分の部署や会社はどうかということが、欧米と比べてあまりにもなさすぎるというのが、長年働いてきた者の実感です。


ビジネスとは直接関係ありませんが、横断歩道を渡る時もそうです。日本では、たとえ絶対車が来ないような状況下で、自分が進む方向の信号が赤だったら、その横断歩道を渡る人は殆どいないでしょう。筆者が見てきた欧米はそうではありませんでした。かといって、イタリアのナポリのように、赤でも青でも関係なく、横断歩道を渡るというのも問題ですが・・・。

決められたことをとにかく守るというのは聞こえがいいかもしれませんが(とはいえ、人が見ていないところでルールを無視する人が一定数いるのも事実です)、皆がそうするから、しているから、自分もそうするというのは、みんなで渡れば恐くないというのと同じものです。自分だけ渡ることは決してしない国や企業、そこで働く人々というのは、少し想像しただけでも恐ろしいものがあります。出る杭は打たれるといった没個性化と同じで、欧米から理解されるはずはなく(実際のところは理解される必要はないのですが)、欧米と対等に議論して物事を決めていくということは出来なくてふつうでしょう。


日本の企業では、自分はどう考えるかという"What"を抜きにして、どうやるかという"How"さえ気にしていれば、これまで仕事で不自由することなく、どうにかやってこれました。経験やスキルといったものは、非常に限定的なものでよく、むしろ幅広い視野や知見を持っている者のほうが、疎んじられてきたといえるでしょう。

このような歯止めがきかず、何事もなし崩しに進んでいく現象は、どうすればいいのでしょうか。思考が停止し、無思考状態にあるこの現状をどうすれば打開できるのか。考える力を養えといっても、一朝一夕にはできず、随分と時間がかかります。


企業には信頼が必要で、事業に成功するためには信頼は不可欠といっても、もはやそれは戯言と言わざるをえません。信頼は必要ですが、それがあるからといって成功するわけではなく、むしろ一見して悪いことを見えないようにして取り繕うといったことが、(悲しいことですが)成功には必要になっているようです。

じゃあ、せめて信頼できるリーダーのもとで仕事をしたいといったところで、そのリーダーが本当に信頼に値するかは、すぐにはわかりません。人は見たいものだけを見て、信じたいものだけを信じるという確証バイアス(問題解決力 (2)問題とアプローチを考える ③思考の罠ii③思考の罠vi)が邪魔をします。また、自分だけはそうじゃないと思う人も少なからずいるはずです。答えは簡単にでてきません。


では、どうすればいいのか。(結局そうなるのかと思われるかもしれませんが)考える力を一人ひとりが身につけていくことと併せて、組織のガバナンスを作り変えて、組織単位を小さくしていき、考えることのできる人をたくさん増やす、特定のリーダーに依存せず、必要以上に大きな権限を持たせないというのが、一つの答えとしてあるでしょう。中央で、本社でなんでも決めるのではなく、もう少しローカライズすべきです。東京と地方では、人々の暮らしや意識、考え方は大きく違います。そして、一人ひとりが、あきらめることなく、頑張って続けるということしかないのだろうと思います。自分らしくあり続けるということを、いつも考えて、それを実行していくしかないと思います。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その3

マーケティングミックス2つめのP、価格についての3回めです( ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1 、 同その2 )。 製品やサービスの特性は、価格の決定に影響を与えます。たとえは、 モノ は多くの場合、在庫が発生するため、納入先である流通業(卸・小売)が納...