4/18/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス② プロダクト

前回のブランディング (7)マーケティングミックス① 4P概論では、マーケティングミックスの4P全体について述べました。今回は、最初のPのプロダクトについて、少し掘り下げてみたいと思います。

いかなるビジネスでも、通常、プロダクト(商品、製品/サービス)を提供することで、ビジネスを成立させています。プロダクトが高付加価値であろうとなかろうと、コモディティであっても、自社のプロダクトと他社のものとの違いを明らかにし、つまり差別化して、より優れたものであることを示して、買い手に提示しています。誰もが、ターゲット顧客に好印象を与え、少しでもプレミアムな価格や条件で購入してもらいたいと考えています。

そのためには、自社プロダクトと他のプロダクトとの違いを際立たせるもの、差別化につながる要素や要因を特定しなければなりません

これにはプロダクトが持つ(或いは発揮する)パフォーマンスの違いで、差別化するというのが最もオーソドックスなやり方です。そしてそれが買い手のベネフィットにつながるものでなければなりません。ブランドの観点でいえば、買い手の頭の中にポジショニングできるものでなければならず、そのためには競合プロダクトを徹底してリサーチする必要があります。


プロダクトのパフォーマンスは、プロダクトのカテゴリーによって中身が自ずと変わってきます。たとえば、食品関係ではおいしさや味覚であったり、使用する食のシーンであったりします。機械類であれば性能や耐久性、信頼性などがはじめに考えられるでしょう(ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法i 商品の機能による差別化ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法ii サービスによる差別化)。

ただ、ブランディングの観点からいえば、こういったパフォーマンスは、買い手が知覚できなければ全く意味を成さないことになります。上記の多くは機能的な意味合いが強いものですが、正確さや丁寧さ、迅速性や親切心、礼儀正しさや倫理観の高さといったことも、パフォーマンスに含めて考えるべきです。とはいえ、近年の国内市場では、こういったことが必要以上に重視されているように思え、本来の機能性(食品でいえば、おいしさ)などが軽視されている、または消費者には見えなくなってしまっているように思うのは、筆者だけではないでしょう。


マッキンゼーは、従来の機能的ベネフィット以外に、プロセス・ベネフィットリレーションシップ・ベネフィットという2つのベネフィットが、買い手を長く引きつけておく上で、非常に重要であるといっています。プロセス・ベネフィットは、プロダクト情報へのアクセスのしやすさ、幅広いプロダクトの品揃えとシンプルなプロダクトの選択/意思決定、手を煩わせることなくプロダクトを購入できる手軽さなどを表します。

リレーションシップ・ベネフィットは、個客ごとのサービスで得られる価値、情報共有をとおして獲得できる価値の交換、差別化されたロイヤルティ報酬などが含まれます。筆者は個人的に、製造業であろうとサービス業であろうと、アフターサービスまたはアフターフォローといったプロダクトの購入/利用後のサービスが、リレーションシップ・ベネフィットの決め手になると思っています。


ただ、ここで気をつけなければならないことは、こういった上記のような差別化のもとになるものは、マーケティングミックス前のプロダクト(商品、製品/サービス)コンセプトの策定段階で検討しておくべきものだということです。

つまり、マーケティングミックスにおけるプロダクトの検討段階では、特定した差別化要素や要因を掘り下げて、実体のある姿、形に仕上げていくということを行うことになるわけです。


それは具体的には、形態や形状、大きさ/サイズ、デザイン、色、パッケージ、プロダクト名などで、こういったものをここで決めていくことになります。また、必要に応じて、プロダクトの提供方法や付属品、保証や返品、アフターサービスなどを含めたサービスについても、ここで検討して決めていきます。すなわち、この段階で、買い手から見たプロダクトのイメージが出来上がっていくわけです。


繰り返しになりますが、プロダクトのコンセプトで検討された差別化ポイントを具体的にどのように表すのかを考えて決めることを、このマーケティングミックスのプロダクトで行うことになります。


また、当たり前のことですが、並行あるいは事前に、プロダクトで使用する原材料の特徴が差別化につながるものであれば、調達の安定性や安全性などを考慮しなければなりません。開発技術や生産技術に関するものであれば、これまで蓄積した技術の適用範囲や、設備投資の要不要、外部委託の可否などについて検討しなければならないでしょう。特許に関する検討も行わなければなりません。


業務の活動が広範囲に及ぶと、タスクも様々で、各部署が勝手に動いたり、各人が独自に考え、自分に都合の良い解釈をすることは珍しくありません。活動がバラバラに進行していきがちな状態に歯止めをかけ、ひとつに束ねていくのがブランディングです。


業務が複雑に進めば、意思決定も複雑になりがちです。何に重点を置いて決めるべきか。プロダクトの狙いは何か、主旨がシンプルであれば意思決定も素早くシンプルにできるはずです。業務も意思決定も、そもそもの狙いも、できる限りシンプルにすること、そのためには差別化するものを絞り込むこと、フォーカスするものを明確にすることが重要で、万人受けを狙ってはいけません

言い方を変えれば、論点は絞り込んで、ハッキリさせなければならないということです。また、誤解をおそれずにいえば、優れたプロダクトは品質が良いのは当たり前で、買い手は通常それを疑いません。であれば、このマーケティングミックスのプロダクトの段階では、買い手に良いイメージを持ってもらえるようにすることをより重視すべきです。


絞り込むのは前提で、何に絞り込むのかに知恵を絞らなければなりません。さもなくば、買い手の頭の中には留まりにくい、またはそもそも頭の中に入ることさえ難しいでしょう。フォーカスするものをシンプルにしてこそ、記憶される可能性が高まります。買い手の選択肢にプロダクトが入らなければ、何も始まりません。

今となっては古典的事例ですが、分かりやすいものに車が挙げられます。安全性を訴えたボルボの車、BMWはスポーティで高機能な車、ベンツは高いプレステージ性といったものです。品質と一口にいっても様々ですし、社会的承認に関係するものもあります。


最後に、プロダクトの名称について少し触れて終わりたいと思います。早稲田大学の恩蔵教授は、良い名称の条件を3つ挙げています。1つめは短くて簡潔であること。2つめは愛称があったり、構造が単純であること。3つめは韻を踏んでいたり、意味を持っていること。最近は、読み方が分かりにくかったり、覚えられないプロダクトの名称が多すぎるように思います。名称は全てのブランド要素(名称、ロゴ、シンボル、スローガン、キャラクター、パッケージデザイン、サイネージ、URLなど、自社プロダクトを他社のものと差別化するための情報)のなかで、中心的な存在であることを忘れてはなりません。

次回は2つめのPである価格についてです。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1

現在、景気は大きな後退局面にあると言えるのではないでしょうか。 賃上げにより(賃上げがあったとして)、名目賃金は増えても、モノの多くが1.5倍くらいはふつうに値上がりしているようなこの 異常な価格高騰により、所得は 実質目減りしています。 消費者は価格に敏感にならざるを得ず、価格...