5/01/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その1

現在、景気は大きな後退局面にあると言えるのではないでしょうか。賃上げにより(賃上げがあったとして)、名目賃金は増えても、モノの多くが1.5倍くらいはふつうに値上がりしているようなこの異常な価格高騰により、所得は実質目減りしています。消費者は価格に敏感にならざるを得ず、価格重視で商品を選別する人が多数を占めるようになるのは当然だろうと思います。価格を重視するタイプの消費者以外では、価格と品質のバランスを強く考慮する消費者と、プロダクト(商品)がよければいくらでも価格を支払う消費者というようなタイプが挙げられるでしょう。


メーカーであれ小売であれサービス業であれ、提示した価格が本当に最適なものだったのかどうかはわかりづらいものです。売上げが悪ければ当然ですが、たとえ売上げが良かったとしても、もう少し高い値段をつけるべきだったのかと思うことが誰しも一度くらいはあるはずです。価格の上昇は利益に直結するだけに、事業に与えるインパクトは非常に大きくなります。価格を1%上げて、販売数量が変わらなければ、利益は10%以上増えるというケースも少なくないようです。今日のような大きな景気後退局面では、よくあるパターンとして他社よりも安く売ってシェアを確保するというのもありでしょうが、残クレで高級車に乗るといったような(筆者には)考えられないような消費行動をとる消費者が増えているのも事実です。今日では、どういったタイプの消費者を、どういう商品で狙っていくのかが、ますます重要になってきています。


このようなことを考えると、価格設定の最も一般的なやり方であるコストプラス法(実際にかかったコストに、利益を上乗せして価格を算出する方式)というのは、消費者の心理や価格の弾力性、他社との競争の観点などから、あまり適切なやり方とはいえないでしょう。ブランドエクイティ構築のための価格設定として、ケビン・レーン・ケラーは、バリュー・プライシングと、長期間の値引き方針を決めるエブリデイ・ロー・プライスの2つのアプローチを挙げています(これについては、後日述べる予定です)。


価格の決め方は多様です。また、価格の捉え方もいろいろです。定価、希望小売価格、標準小売価格、オープン価格、基本料金、販促価格、割引価格、販売奨励金、ほかにも、一括払い、分割払い、レンタル、リース、ダイナミックプライシング、さらにはサブスクリプション、残価設定型クレジット(残クレ)等々。あまり複雑に考えるのはよくありませんが、価格と一口に言ってもいろいろあって、プロダクトの特性によって、幾つかを組合せることで、たとえ高価なものであっても、買い手に意識させずに、プロダクトを提供することが今日では可能になっています。


消費財は産業材と違って、消費者の主観的なものの見方や先入観などが、価格に大きく影響しますつまり、消費者がプロダクトを使用/利用する場面によって、価格に対する感じ方(価格感度)が異なるため、それを使って価格を考えていく、価格戦略を練るというやり方は効果的といえるでしょう。所謂TPOのOであるオケージョン/場面を想定するというものです(Time、Place、Ocassion)。但し、プロダクトコンセプトの策定段階で、こういったオケージョンが特定されていることは珍しくないため(というか、特定されているべきだと思いますが)、当該コンセプトに従って行う必要はあります。


飲食店を例に挙げれば分かりやすいでしょう。朝食、昼食、夕食、夜食などの時間帯別オケージョン。店内で食べる、テイクアウトする、宅配してもらうといった空間別オケージョン。個人、友人、職場の同僚や上司・部下、恋人、夫婦、家族などの利用者別オケージョンなどが、すぐに想起されることだと思います。ただ、ここで気をつけなければいけないことは、オケージョンを幾つも挙げることができても、プロダクトでフォーカスしたものに従って、実現可能なオケージョンを選択しなければ意味がありません。

飲食店の例を続ければ、時間帯は昼食、空間は店内飲食として、商圏内の他店を調査すれば、およそどれくらいの価格帯でメニューが構成されているかはすぐに掴めます。これに主な利用者をたとえば職場の同僚とすれば、自ずと競争相手を絞り込みやすくなるはずです。


但し、利用者の属性には注意が必要です。たとえば、利用者がメタボで食事を改善しなければならないような状況にあったとすれば、塩分控えめで野菜中心のランチを選択するかもしれず、その場合はランチ代が少々高くなってもやむなしと考えるかもしれません。また、同僚とのランチの時には、周囲の目を気にせず仕事の話をしたい人もいるでしょう。こういった場合には、事前に予約をして、落ち着いた雰囲気の店を選ぶかもしれません。こういった場合には、支払う代金が高くつくものになってしまっても気にしない人がいるはずです。オケージョンばかりに気をとられて、肝心の利用者の属性・タイプを軽視するようでは、本末転倒なことになりかねません。マーケティングミックスにおいて、プロダクトでフォーカスすることになったものを、価格は後押しするものでなければなりません。

では価格はどのように捉えるのがよいのでしょうか。次回以降で述べていくことにしたいと思います。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その5

マーケティングミックス2つめのP、価格についての5回めです。 前回は先発企業の差別化プライシングについて述べました( 価格 その4 ) 。 今回は、同じく先発企業の競争的プライシングと製品ラインプライシングについてです。 競争的 プライシング と、3つの消費者特性(差別化プライシ...