12/15/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス④ プレイスその5

前回(プレイスその4)の続きで、今回もチャネルを中心とした産業構造のレイヤー化についてです。はじめに、あらためてレイヤー構造化の定義をしておきたいと思います。

レイヤーとは、層や階層を表す言葉です。ビジネスにおけるレイヤー構造とは、ビジネスの要素であるデータや情報、プロダクト(製品、サービス)が層の如く重なり合うようにしてできあがっている状態のこと、また、それぞれを連携させる仕組みやシステムのことを指しています。端的な例が、スマートフォンやタブレット端末、パソコンです。


通常、産業におけるレイヤー構造化の意味合いは、産業を構成する各プロダクト(製品、サービス)が独立してビジネスを成立させることができるということです。

消費者を対象にしたビジネスでは、消費者がプロダクトを、直接、自由に組み合わせて選択し、購入することができるという点に大きな特徴があります。


産業構造を分析するフレームワークとして有名なバリューチェーン(従来型の単層的なバリューチェーン)とレイヤー構造化されたチェーンを、消費者視点で比較すれば、次のような違いがあります。

単層的なバリューチェーンの場合、消費者はバリューチェーンの最後に位置する企業からプロダクトを購入(または利用)します。一般的にいえば、食品であればスーパーやGMS、CVS、または百貨店などから、アパレルであれば左記にあるようなチャネルに加え、専門店などで買うことも多いでしょう。家電製品であれば家電量販店からというのが多くなるでしょう。車は自動車のディーラーからといった具合です。

消費者は、バリューチェーンの最終段階にある販売または営業、つまり店舗(リアル、ネット)以外、たとえば開発や製造、或いは物流といったチェーンの途中の段階から、購入することは通常できません。消費者にとってのチャネルは、最終段階にある販売(営業)チャネルしかありません。


一方、レイヤー構造化されたチェーンであれば、消費者はチェーンの途中段階にあるプロダクト、謂わば中間製品とでも呼べるものを直接選択して購入することが可能です。販売(営業)チャネルは、チェーンの最終段階だけでなく、中間の段階にも存在しています。

スマホ、タブレット、PCなどが代表例になりますが、ゲーム、音楽、映像、書籍や雑誌の記事、印刷物、自動車、電力なども該当します。レイヤーの構造は、ハードウェア、OS、アプリケーション、通信ネットワーク、IoTデバイス、データ蓄積などになります。各レイヤーが束ねられたレイヤー構造とは、消費者に対する選択肢、或いは消費者にとってのソリューションを提供する階層で構成されていると捉えることができます。

ところで余談になりますが、レイヤー構造化が良いか悪いかというのは、また別の話です。筆者からすれば、たとえば音楽に見られるような製作者の意図や主張とは別に、アルバムの楽曲を切り売りしている状態などはちょっと肯定できるものではありません。また、筆者の家族などは、モノやサービスが横や縦に広がって、からめとられているだけで、そこには一見自由があるようで、むしろなくなってしまっているようだと言っています。


産業のレイヤー構造化、プラットフォームビジネスでよく使われる言葉に、「エコシステム」というのがあります。プラットフォームを提供するプロダクトと、それを補完するプロダクトを合わせたものをエコシステムと呼びます。

チャネルを基点に考えると、オムニチャネル(Omunichannel)もエコシステムです。オムニ(Omuni)とは、「全て」とか「あまねく」といった意味をもつ接頭語です。マーケティングでは、オムニチャネルのことを、リアル、ネット問わず、全てのチャネルをつないで、利用者にとっての境界をなくしてしまう統合型チャネルのことをいいます。ここでは、支払いや配送・荷物の受取りなどのバックオフィスも含まれます。

利用者に一貫して最適な購買体験や顧客体験を提供するといわれているオムニチャネルは、各チャネルが独立して機能を果たし、統合や一元化がされていないマルチチャネルの進化系といわれてきました。

けれども、ネットで注文した商品をリアルの店舗で受け取ったり、或いは支払いを済ませたり、ネット上で取得したクーポンをリアル店舗で使うとかいったくらいでは、リアルとネット、または異なる業態間で、顧客がストレスを感じることなく、自由に行き来できる、そのようなことくらいで本当のオムニチャネルといえるのか、筆者には疑問です。また、もしそれで小売業が納得しているのであれば、随分と情けない話のように思います。これではエコシステムとか、ましてや産業のレイヤー構造化などというには、ほど遠いでしょう。


スマホで実現されている端末、OS、アプリなどの関係とまではいいませんが、顧客の問題解決(本当に顧客の問題を解決しているかどうかはともかくとして)をとおして、消費者との接点を担う小売業は、自らの富の源泉を生み出す、或いは富を移動させたり蓄積させるといった発想を持ったり、構想を組み立てていくことが重要です。

つまり、何処に利益が蓄積されやすいか、儲かるかといった視点で、事業を見直すことが必要です。強大で独創的なメーカーと異なり、小売業はあくまでもメーカーあってこそというのは否定できません。であれば、マーチャンダイジングやサービスなどを編集するようなコーディネーターとしての役割を、もっともっと追求していくことができるはずです。


コトラーは、「顧客サービスプロセスから協働による顧客ケア」へと説いています。ネットで接続された世界において、国内の小売業が、Amazonや楽天以上に、通常の品揃えの幅や利便性はじめ、今日の変わりゆく多くの消費者の購買行動を満たすことなど、できるはずもないでしょう。

そうであれば、従来のリアル店舗とECサイトに、顧客の生活全般、ヘルスとウェルネス、金融、エンターテインメントなどの場を、もっと大胆に取り込んで、もう少し、人々の暮らしを総合的な観点から、CX(Customer Experience、顧客体験)について考えてもらいたいと思います。レイヤーを細かく重ねていくことで、新しいソリューションを生み出せるのではないでしょうか。それは(当然のことながら)内製化させる必要はなく、何を外部に委託するかを判断すればよいだけのことです。

とりわけ衰退が続いている百貨店などは、さして各社固有の商品があるわけでもありません。モノを集積した販売だけで終わることなく、様々な垣根を超え、CXをとおして、CS(Customer Satisfaction、顧客満足)を高めることに最大限注力すること、まずは少なくともそれをしっかり自分の頭で考えてみることから、本当のオムニチャネルやレイヤー構造化の端緒につけるのではないかと思います。


ブランディング (7)マーケティングミックス④ プレイスその5

前回(プレイスその4) の続きで、今回もチャネルを中心とした産業構造のレイヤー化についてです。はじめに、あらためてレイヤー構造化の定義をしておきたいと思います。 レイヤーとは、層や階層を表す言葉です。 ビジネスにおけるレイヤー構造とは、 ビジネスの要素である データや情報、プロダ...