前回(プレイスその3)は、コトラーのチャネルパートナーシップの4つの段階を中心に概説し、産業構造のレイヤー化にも少し触れました。本ブログのマーケティングミックスのプレイスについては、チャネルに絞って述べてきていますので、プレイスその4でもチャネルに限定して、産業構造のレイヤー化についてもう少し述べることにしたいと思います。
スマートフォンの普及と共に、一気に広まった感のある産業のレイヤー構造化は、産業を構成する各プロダクト(製品、サービス)が独立してビジネスを成立させることができる点に大きな特徴があります。
スマートフォンには、OS(オペレーティングシステム)があって、それを動かす端末(ハード)を提供する企業がいて、様々なアプリを提供する企業が存在し、そして通信事業者(キャリア)がいます。アプリひとつとっても、その企画や開発、運用を請け負う企業が多数存在し、大手から分野に特化したり、AIなどの最新技術を活用する中小、新興企業などがまさに星の数ほどあるといっても過言ではありません。
スマートフォンでは、消費者は、たとえば端末はiPhoneで、ニュースや情報、SNSなどのコミュニケーション、エンタメ、ゲーム、趣味関連など多岐にわたるジャンルから好きなアプリをダウンロードし、キャリアはドコモ(或いはau、ソフトバンクなど)を選択して組み合わせます。
かつて圧倒的な強さを誇っていたマイクロソフトは、このスマホの世界では、Windows OSの優位性を獲得できずに終わっています。また、それ以前にも、クラウドサービスの登場によって、パッケージソフトのOfficeの必要性も失っています。マイクロソフトの独占を崩したのは、新しいテクノロジーやプレイヤーの登場であるのは間違いありませんが、消費者がそういった新しいものを選択したという事実と、選択肢の幅が広がったということが重要であり、ここにレイヤー構造化したビジネスの特徴があるといえるでしょう。
モジュール化、ソフトウェア化、ネットワーク化が、ビジネスをレイヤー構造化するように仕向けているともいえ、スマホやタブレット、PCといった広義のコンピュータ業界とその周辺及びそれに関係する業界、たとえばゲーム、テレビ放送、電子書籍、印刷、自動車、さらには2016年の電力小売の完全自由化に伴い消費者の選択肢が一気に広がった電力業界も例外とはいえないでしょう。
このようなレイヤー構造化は、従前の既成概念や慣習を打破し、業界を横断して、新たな産業を創り出してきました。この世界では、プロダクトの提供者と利用者を結びつける場/プラットフォームを介して、ビジネスが行われるものが多くあり、誰もが知るAppleやGoogleなどは、このプラットフォームで大きな成功を収めています。
Amazonも、企業や個人の出品者と購入者を、自社ECサイト上でつなぐ販売の場/プラットフォームを提供しています。今日、知らない人は誰もいないのではないかと思えるくらいです。規模は違いますが、国内の百貨店やGMSなどのインターネットショッピングも、多くが自社のプラットフォームで行っています。ただ、これをレイヤー構造化の例として挙げている専門家の方も時々いらっしゃいますが、筆者はあまりそうは思いません。何故なら、そのプラットフォームでは、消費者が商品またはそのパーツを自由に組み合わせて選択できるわけではないからです。
たとえば、百貨店の高島屋のサイトであれば、高島屋が扱う商品だけで(ほかの百貨店や小売業態のものを扱うわけではなく)、高島屋のサイトにある和菓子の鶴屋吉信は鶴屋吉信が提供する完成された最終商品だけであり、通常全く同じ商品が他の百貨店たとえば三越でも売られています。
ネット上で、消費者が好きな商品やサービスを選ぶことができるというのがレイヤー構造化というのであれば、リアルの店舗でも昭和やその前の時代からレイヤー化されていたということにもなりかねません。レイヤー構造化された産業の特徴が拡大解釈され過ぎていると筆者は思います。この点については、次回でもう少し述べることにしたいと思います。
その百貨店で、三越と伊勢丹が、4~5年前にウーバーイーツと出前館を活用したフードデリバリサービスを始めました。ウーバーイーツも出前館もインターネット上で、お店とメニューの選択により、多様な食をワンストップ的に行う食のデリバリという新しいレイヤーを作り出しました。両社とも、様々な飲食店やレストランと組むことで、非常に多くの選択肢を消費者に提供することには成功しています。但し、三越と伊勢丹の取組みが、うまくいっているかどうかはなんともいえませんが・・・。
続きは次回にしたいと思います。