11/17/2025

ブランディング (7)マーケティングミックス④ プレイスその1

前回まではマーケティングミックスの価格について論じてきました。(参考: ブランディング(7)マーケティングミックス③価格24(プライシングまとめ①)価格25(プライシングまとめ②))

今回は、3つめのPのプレイス(Place)についてです。

フィリップ・コトラーとケビン・レーン・ケラーは、プレイスの変数には、チャネル、流通範囲、品揃え、立地、在庫、輸送があるといっていますが、今回のこのブログでは、チャネルに絞って述べていきたいと思います。


消費者にとって、プロダクトを購入/利用するためのチャネルは増え続けています。リアルの店舗か、ネットか、(ダイレクトマーケティングなどの)メールか郵便か電話か、テレビなどの通販、或いは訪問か等々、多数の選択肢があります

プロダクトの提供側でも、自社が直接行うのか、或いは卸売/流通企業を通すのか、代理店や仲買人などの中間業者を活用して販売するのかといったことを検討しなければなりません。ただ、どのチャネルを選択しようとも、基本的に共通していえることは、プロダクトコンセプトに合致したチャネルを選定することと、そのチャネル(リアル店舗か、ネットか、カタログかなど)をマネジメントすることが必要であるということです。

ここで基本的としているのは、一部の食品や日用雑貨品、特にバス・トイレタリー用品のようなカテゴリーに属するいわゆるコモディティ化が大きく進んだ商品の場合は、チャネル選択を厳密に行うことなく、流通のカバー率を向上させる施策、差別流通的なやり方で商品を販売してきたメーカーや卸が一定数存在してきたからです。今日では限定的な選択流通が増えてはいますが、無差別流通がなくなるわけではありません(また、なくす必要もないでしょう)。こういった理由から、基本的にとしています。


ところで、プロダクトコンセプトに合致したチャネルというのは、マーケティングミックスの観点でいえば、消費者とどういうコミュニケーションをしたいのかということに行き着きます。つまり、プロダクトコンセプトに基づいて設定したターゲットオーディエンスは、どういうメディアで、どのような行動をしているかを推定した上で、コミュニケーションメディアを選択するということです。この観点からすれば、マーケティングミックスにおける意思決定では、プロダクトからプライスへ進み、次はプレイスではなく、プロモーションを考えてから、そのプロモーションを実現するにふさわしいプレイスは何処かを決めるほうがより適しているともいえるかもしれません。


チャネルは、チャネルごとに提供する価値が異なります。リアル店舗であれば業態(売り方)の選択がある上、出店エリアも決めなければなりません。今日では、1種類のチャネルしか持たない企業は少なくなりました。市場で存在感を発揮するために、どのチャネルを活用するかは慎重に検討しなければなりません。1つのチャネルだけというのも問題ですが、多すぎると管理に手間取るばかりか、チャネル同士の対立が生まれる可能性があります。コンフリクトが発生すると、エンドユーザーのイメージ悪化が起こり、ブランドを存続・強化させていくことが困難になることも想定できます。

また、選択したチャネルによっては、プロダクトの価格帯を調整する必要があります。たとえば、飲料やアルコール類、特にビールなどは、同一商品であっても通常の販売価格が、小売業態によって30%以上の違いがあることが珍しくありません。さらに同じ業態であっても、食品スーパーやGMSの場合であれば、多くが商品をハイ&ローで提供していますが、食品スーパーのオーケーや、GMSの西友、また業務用スーパーなどはEDLPで商品を提供しています。(EDLPについてはこちらをご覧ください→ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その14)

このように顧客接点を持つ小売企業でやり方(ハイ&ローかEDLP)が異なる場合、仮にメーカーが商品を時々大幅値引きで販売していれば、ハイ&ロー型の小売企業では問題がなくても、EDLPの方では、同様の展開はできません。したがって、メーカーは自社ブランドの価値を高められるチャネルを慎重に選択するのは勿論のこと、選択したチャネルに対して支援を継続して行う必要が生まれるということになります。


大手企業であれば、経営資源も豊富にあり、いろいろなやり方を試すこともできますが、中小・零細企業(以下「SMB」、Small and Medium-sized Busines)であればそんな余裕はないでしょう。SMBであれば、優れたプロダクトの企画と提供を実現できるニッチ市場に特化できるチャネルを選択したり、買い手ごとにきめ細かい対応ができるようなチャネルにフォーカスするほうが賢明です。

まずはひとつの領域に焦点を絞り、そこで突出する(いわば消費者からみて目立つ)ことをしなければなりません。但し、選択したチャネルでフォーカスするのは、プロダクトそのものではなく、差別化につながる顧客へのベネフィットであることを忘れてはなりません。

このチャネル選択で最も重要なことは、当該プロダクトの潜在顧客がどこにいるかを見極めることです。そして、どういったやり方でその潜在顧客に、自社のプロダクトを知ってもらうかということに尽きるといえるでしょう。

ブランドの観点でいえば、選択するチャネルが自社のブランド戦略に合致していなければなりません。自社ブランドが果たす約束を、当該チャネルで実行できるかどうかが、ブランドには問われます。このように考えると、基本的には卸売企業や仲介業者に一任するというのはありえないでしょう。

B2CのSMBであれば、チャネルが提供している価値やイメージを消費者がどのように見ているのか、そのチャネルの中で自社プロダクトの役割はどうあるべきかを、必ずおさえておかなければなりません。

続きは次回といたします。


ブランディング (7)マーケティングミックス④ プレイスその3

フィリップ・コトラーが、マーケティング3.0を米国で発表したのが2010年、あれから15年が経ちました。 マーケティング1.0が製品中心のマーケティング、2.0は消費者志向のマーケティング、そして3.0が価値主導のマーケティング です。 3.0では、企業のビジョン・ミッション・価...