9/16/2024

ブランディング (5)ポジショニング ①差別化の方法ii サービスによる差別化

差別化5つの方法として、前回は商品の機能による差別化について述べました。今回は、サービスによる差別化です。

サービスによる差別化

メーカーの差別化で古典的事例として挙げたいのが、米国アウトドア用品を製造販売するLLビーンです。同社は100%の満足を保証し、購入者が満足できなければいつでも返品ができることを長年うたってきました。実際、筆者は90年代に7年近く米国に滞在し、LLビーンの普通ではない保証(100%の顧客満足保証)を実体験しました。ついつい買いたくなるようなモノが溢れているカタログには、高機能で高品質な商品の用途やストーリーと、安心感(同上)が載っていたのを、今でも覚えています。当時、カジュアルウェアのエディバウアーも似たような保証を行っていたと思います。  

こういった100% Guaranteedは、90年代の米国では、ホテルやレストランなど、多くのところで見たように記憶していますが、ほんものの保証となると、当時はごくわずかだったように思います。 

ところで、100%保証とは異なりますが、論理的に説明すれば即座に、顧客の問題を解決してくれるのが、今のアマゾンではないでしょうか(昔はそうではなかったですが、時間が経つにつれて、大きく改善してきました)。日本企業はサービスが良いと今でもよく言われていますが、筆者はあまりそうは思いません。一例として、詳しくは述べませんが、アマゾンとの対比として、楽天のサービスを思い浮かべると、納得される方も多いのではないでしょうか。 

ほかにも、永遠にリペア(修理)してくれるルイヴィトンのバッグも有名です。個人的には、自社製品に対する愛情に満ちているといっていいパナソニックが頭に浮かびます。随分古い話になりますが、終売したワープロの修理を、同社担当者が親身になって対応してくれたことには感激したものです。同じ家電メーカーのシャープは、2000年代だったと思いますが、アフターサービスを抜本的に見直し(昔はサービスが低いことで有名だった)、売上げ拡大につなげました。 

それ以外では、たとえば必ず定刻に荷物を届けてくれるのがクロネコヤマトの宅急便。フライトで、定刻どおり現地に到着したいのならルフトハンザ航空等々。サービスによる差別化が、競争力の源泉になっている例は、たくさんあります。 

B2Bの領域で、サービスによる差別化がグローバルで成功したケースに、IBMのソリューションサービスが挙げられます。90年代初頭に破綻しかけていたIBMを、外部から招へいされたルイス・ガースナーが、コンピューター製造企業から、ITを使って顧客のビジネス課題を解決するソリューション企業へと変貌させ、驚異的な復活を成し遂げました。これは、サービスによる差別化の事例ですが、それ以上に、ビジネスモデル転換の成功例といったほうが、より適切かもしれません。というのも、IBMはこれ以前にも、サービスの良さには定評があったといわれています。ただ、そのサービスとは、製品と一体化したサービスであり、たとえばそれは行き届いた製品修理サービスのようなものでした。 

ガースナーが推進したのは、顧客ニーズを対象としたサービスであり、製品とは切り離したサービス、たとえばデータセンターやアウトソーシングなど、従前では考えられなかったIBMと競合する製品をも扱うことになったからです。ちなみにガースナー退任後、CEOとなったサミュエル・パルミサーノが、プライスウォーターハウスクーパースの経営コンサルティング部門(当時PwCコンサルティング)をグローバルで一括して買収し、サービスビジネスへの大きな転換を完成させました。

余談ですが、そのガースナーは、IBMのトップに就任する前は、マッキンゼー、アメリカンエキスプレスのサービス企業、RJRナビスコの製造企業で働いた経験を持っていますが、サービス企業を経営することのほうが、製造企業よりもはるかに難しいと述べています。

このIBMの変容が契機となって、国内のNECや富士通といったIT企業も同様の手法を採用したことはよく知られているところです。また、このソリューションサービスは、ITの分野にとどまらず、その他多くのB2Bの分野へ広がることにもなりました。

建機メーカーのコマツもサービスビジネスを展開し、大きく成功した企業です。営業赤字になった2001年から経営改革を断行した同社は、KOMTRAX(コムトラックス)という建機の稼働管理システムを構築しました。これにより、世界中の建機の稼働状況をリアルタイムに把握し、正確な需要予測を実現させたことは、当時、業界の革命とまでいわれたほどです。今日、IoTがほぼ当たり前になりましたが、2000年代に完成させたのは驚嘆に値することです。

複写機メーカーの富士ゼロックス(当時、現富士フイルムビジネスイノベーション)やリコーは、複写機本体の販売から、複写機をリースにして使用料に応じた課金システムを構築、その後、顧客企業のプリント環境の一括管理による印刷コストの削減へと、サービスを大きく発展させました。 

販売からリースによる課金体系構築への転換は、タイヤのミシュランの事例も有名です。もはや古典的事例といってよいかと思いますが、走行距離に応じて代金を支払う従量課金型は今日、ブリジストンでも大きく展開しています。 

このようなサブスクリプション・ビジネスは、サーキュラーエコノミー(CE)の広がりもあって、大きく成長してきました。CEモデルの大きな特徴であるモノのサービス化、所謂PaaS(Product as a Service、サーキュラーエコノミー事例③サーキュラーエコノミー6つのモデルと事例①サーキュラーなアプローチ①)は、オランダのフィリップスの子会社であるシグニファイは照明器具を売るのではなく、明るさを売るサービスビジネスを展開しています。同様に、パナソニックも多様な製品でサブスクリプション型のサービスを行っています。スウェーデンのエレクトロラックスは、掃除機の販売だけでなく、掃除した面積に課金することをしています。 

ハードウェア系だけでなく、ファッション衣料雑貨でも、米国のレント・ザ・ランウェイが2009年からファッションアイテムのレンタルを始め、当初は大きな話題となり、成功も収めたことで、米国内はもとより、米国外の他企業へも飛び火しました。今日、PaaS型ビジネスは、シェアリングビジネスなどと併せて、一定の市場規模を確立しましたが、逆にミーツー(me too)企業も多数現れたことなどから、差別化し競争に勝ち抜いていくには、さらなる改良や創造が必要になっているといえるでしょう。

 

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