筆者が在籍した2つの会社での経験をもとに、組織文化についての学び、Lessons Learnedをここで書き留め、サービス企業における組織文化に関する大論点を終えたいと思います。(私が組織文化にこだわる理由(上)はこちら、同(中)はこちら)
1. 企業は外見で判断してはいけない。
PwCコンサルティング在籍時に、統合に際し、日本IBMの社員と接した時の印象から、私がIBMに対して抱いたことは、本質的には、決して正しいものではありませんでした。組織に横たわる強さや弱さといったものは、そう簡単に読み取れるはずがなく、ましてや多様な社員で構成されているグローバルカンパニーであれば尚更です。共有された暗黙の前提認識を、慎重に考察することが必要です。
2. 組織文化は会社の成長と共に、見直していかなければならない。
企業の成長、事業の成熟化に伴い、マネジメントの仕方も進化させていかなければならず、それには、取り巻く外的内的環境を踏まえ、必要に応じて組織文化も変えていかなければなりません。ましてや、会社のオーナーが神格化された創業者で、その人が一線から退こうとしている時などは、組織文化の変革が必要になるといえるでしょう。
変革にあたり、肝に銘じておくべきことは、組織は、創業者と創業者を取り巻くリーダーの信条や価値観から導き出された複雑な構造であるということ。その構造を深く理解せずして、組織文化の変革はありえないということです。また、正しく理解できたとしても、変革の方向とその実現に向けたアプローチが的確でなければ、成功はありえません。誤った取組みを避けるためには、常日頃から、経営トップが自ら、会社の組織文化の今を知っておくことが、前提として必要になります。こういったことを、某大手企業の経営陣の方にお話すると、そのようなアセスメント的なものは10年前にやったとか、5年前にしたからもういいだろうということを仰られる人が少なくありません。毎年しなければいけないものではありませんが、5年前ではその結果は適切なものとはいえないでしょう。
3. 組織文化は短期間で変えられない。
およそ10年程度、本業で大きな成功を収めている企業の組織文化は、他者から見ればそこに看過できないよう欠陥(たとえば当たり前のことを当たり前のようにできないなど)を内包していたとしても、企業が成長を続ける限り、組織全体は、安定的で堅固な状態を維持するのではないでしょうか。
組織文化を変革するには、少なくとも5年くらいは先を見据えたロードマップのもと、人を含めた詳細な計画の手順と、進捗を客観的に判断できる組織体を作ることが不可欠です。これまでも何度か触れてきましたが、文化の変革は時間を要します。ただ、もし時間をあまりかけられないというのであれば、人の入れ替えを大胆に行い、変革の契機を見いだせる場合があります。というのも、一般的にいえば、職務に自信のある社員を変えることは難しくても、自信がない社員はそれほど時間をかけずに変えることができることがあるからです。
4. 新しい試みには、象徴的なことを加えるべきである。
経営トップが明確なビジョンを示したり、自身の考えを表明する時などは、新しい方向に進む組織にとって、象徴的なこと、シンボリックな出来事を加えることで、非常に大きな効果をもたらすことがよくあります。
たとえば、PwCと日本IBMのケースでいえば、知識の共有による両社共通のアセット構築、両社オフィスの相互利用、両社間をまたがる人の異動、両社によるクライアント企業への共同提案、社内外でのマーケティングと広報活動ならびにブランディング、業務プロセスと情報システムの統合、両社共同の能力開発制度の設計などが挙げられます。こういうことを、前もって計画的にアナウンスして公開していく、そういったことが両社の社員に一種の安心感とモチベーションを維持・強化していくことにつながるのは明白といえるでしょう。
5. 継続的な対話が、道を開くきっかけになる。
最小単位の組織で、その組織が直面する課題について対話を続けること。そしてその課題が明確になれば、その組織の文化のやり方で解決していく。仮に、その組織文化が課題解決の障害になるようであれば、その時点で、文化を少し変えてみることを検討する、こういったことがそれぞれの現場で、日頃から継続的にすべきことです。
但し、組織文化に弱いところがあっても、その文化において、強みが依然発揮されている組織であれば、その弱みは放置しておいてもいいかもしれません。弱みを克服して文化を変えていこうとするよりも、強みを活かしたやり方を優先して考えた方が良いと筆者は考えます。人の個性や癖などと同じようなものだと思います。
対話は言うまでもなく、双方向です。必ずそこにフィードバックがなければいけません。最小単位の組織から、もう一段範囲を広げた大きな組織、更にその上の大きな組織へと、対話の場を設けていく、コミュニケーションサイクルをまわしていくことが、草の根的かもしれませんが、組織には有効だと思います。それにはかなりの忍耐も必要になるでしょう。ただ、そうしておくことで、ある日突然、晴天の霹靂のように、やり方をこれまでと全く違うものに変えるなどと言われることも、なくなるか、少なくとも相当程度に弱まるだろうと考えます。
組織文化は、ある面では、その組織の「らしさ」ということができます。そのらしさを奪うことなく、組織・会社を永続的に発展させていくためには、どうすればいいのでしょうか。やり方は幾つか考えられますが、少なくとも、先がよく見えないまま、拙速に取り組みを進めることは、良い結果を生みだすことにはつながらないと言い切れます。
組織は戦略に従うというのは、チャンドラーの名言です。一方で、戦略は組織に従うという主張もあります。ただ、その戦略も組織も、組織文化のなかで共有されてきた価値観や信念から導き出されたものといえるでしょう。であるとすれば、自ずととるべき打ち手は、ある程度限られたものになってくるのではないでしょうか。
人間の性格は人それぞれです。人を伸ばしたければ、その人にあったやり方をしなければなりません。幼少の時でもある程度はそういえるわけですから、成年になれば当たり前のことです。状況に応じて行うことが重要です。人が集まって構成された組織の文化も、同じことだと思います。