フィリップ・コトラーは、ブランドの完全なポジショニングをブランドのバリュープロポジション(提供価値、価値提案)とよび、それはバリュープロポジションの根拠となる顧客ベネフィットを全てミックスしたものと定義しています。
消費者や企業などの買い手は、支払う金額に見合うものが得られるかどうか、その価値を考えます。売り手は自らのブランドを、そのものが持つ価値の観点からポジショニングする必要があり、コトラーは、それを検討する時には、以下のものを考えるべきだと述べています。
ベネフィットでポジショニング
用途または適用でポジショニング
ユーザーの属性でポジショニング
顧客企業との違いでポジショニング
品質または価格水準でポジショニング
商品カテゴリーにおける企業の位置付けやプレゼンスでポジショニング
企業の特性や特徴などでポジショニング
また、コトラーは上記のようなポジショニングを検討する際、企業は次のような間違いを犯さないように注意しなければならないといっています。
アンダーポジショニング(購買動機や核となるベネフィットを的確に訴求していない)
オーバーポジショニング(ポジショニングを狭く捉えすぎたために潜在顧客を逸失してしまう)
混乱を招くポジショニング(相反する幾つかのベネフィットを同時に主張する)
的外れなポジショニング(気にもとめられないようなベネフィットを訴求する)
疑わしいポジショニング(企業または当該ブランドの実態と乖離したベネフィットを訴求する)
ところで、買い手の購入予算が無尽蔵などということは通常ありえませんが、売り手は意外とこの点を忘れがちになることがしばしばあるようです。自分が買い手の場合だと、売り手が提供する商品については、値段が高いとか、品質がイマイチなど、あれこれ言っているのに、自分が売り手になった途端に、平気で高値をつけたり(少しでも高く売りたいから)、品質をちょっと落としたり、容量などを減らしたりしている(少しでも多く儲けたいとか、損は絶対したくないとか、はじめに製造原価ありきなど)ように思います。
コトラーは、売り手は自らのブランドをその価値に基づいてポジショニングしなければならないとし、これをバリューポジショニングと呼んでいます。このバリューポジショニングには、以下の5つのタイプがあります。
1. ベネフィットが多くて価格が高い
2. ベネフィットが多くて価格が同じ
3. ベネフィットが多くて価格が安い
4. ベネフィットが同じで価格が安い
5. そこそこのものをはるかに安い価格で
1は、最高級の車たとえばフェラーリであったり、最高級のホテルたとえばリッツカールトンの1室1泊200万円であったり、クリスチャンディオールの十数万円はするプレステージという化粧品などがそうでしょう。各カテゴリーには必ずといっていいほど、最上級の品質と他に類を見ない優れたスタイルやデザインを、最高の価格で提供している商品(モノ、サービス)があります。
コトラーはこの「良いものをより高い価格で」については、同じ品質を持った廉価な模倣品による攻撃を受けやすく、経済の後退局面では消費者が支出に敏感になるため、リスクが大きくなると指摘しています。
2については、コトラーは米国でのレクサスのマーケティング活動を例に挙げています。ベンツなどの高級車と比較したキャンペーンは、四半世紀ほど前のことになりますが、今でも参考になる点は多々あるのではないでしょうか。最近の車でいえば、フォルクスワーゲンのティグアン(2代目)が該当するように思います。ドイツはじめ欧州で圧倒的に売れたSUVです。
3は、消費者から歓迎されるのは当たり前でしょう。但し、その価値が本当に長続きするかどうかはわかりません。カテゴリーキラーの代表格だったかつてのトイザらスやホームデポ、ウォルマートなどをコトラーは挙げています。また、80年代に一世を風靡したベネトンや21世紀初頭くらいまでの(?)デルなどが、そうではなかったかと思います。
4については、主に小売業、特に(かつての?)GMSや、ディスカウントストアなどをイメージして頂ければわかりやすいように思います。また、アマゾンも基本サービスについてはここに該当するでしょう。製造業の例として、コトラーはパーソナルコンピュータにおけるかつてのIBMやアップルのようなリーダー商品の互換機を、両社より20-30%程度安くして販売した多くのPCメーカーを挙げています。
5は、LCC(格安航空会社)がまさに該当します。随分前のことになるかもしれませんが、小売業のプライベートブランドや、90年代くらいまでの(?)無印商品とか、少し前までの台湾などに代表される電気製品などもここに入ってくるのだろうと思います。
つまるところ、バリュープロポジションとは、「何故、あなたのところから買うのがよいのか」という買い手の問いに対して、売り手が答えるべきものを表します。
バリュープロポジションの観点に従えば、自社が競合に勝つための考え方は、突き詰めると、次の2点になります。
より安い価格をつけるか
ベネフィットをさらに増やすか
前者については、実際の販売価格を低めに設定するもの(これが一般的でしょう)と、販売価格は安くないが買い手の総コストが安くなるものに分けることができます。総コストを安くするケースとして、たとえば故障が少ないとかメンテナンスに時間がかからないなどのランニングコストの安さとか、提供サービスの活用でより大きなコスト削減が期待できるといった場合などが挙げられます。
消費者相手であろうと、法人企業であろうと、持続的成長を志向するのであれば(実は当たり前のことではあるのですが)、今日ほど、バリュープロポジションをはっきりと打ち出すことが求められていることはなかったと感じています。