新商品の価格はどのように決めるのがいいのでしょうか。
コロナ禍以降、モノの値段は高騰(または暴騰)し、根拠のないめちゃくちゃな値付けになってしまったのものが少なくありません。なかでも、お米はその代表格といえるでしょう。たとえば、大分県産のひとめぼれの特Aが、2024年の秋だと10kgで4,280円だったものが、25年には値段が上がり続け、筆者の知る限りで最高値の時には14,000円にもなりました。その後、値段は一定せず、11,000円くらいまで僅か1日くらいで下がったかと思えば、また上がったりするなど、消費者をバカにしたような値段がつけられ続けています。
野菜農家や果物農家、または畜産農家などと違って、米農家が生産する米の値段が、短期間で、1.5倍や2倍どころか、3倍以上にもなるというのは狂気の沙汰で、説明などつくはずがありません。何故なら、たとえばハウス栽培をする野菜や果物農家にかかる電気代とか、多くの肥料を輸入に頼るような畜産農家などと違って、米農家にはそういったインフラや原材料などに係るコストがないからです。勿論、まったく要らないというわけではありませんが、極めて小さいものに過ぎません。
このように近年のプライシングには、常識とか倫理といったものが通用せず、事業のあるべき姿やビジネス上のセオリーなどは消失した感があります。ですが、いつまでもこのような状態が続くわけでもなく、いずれそういった事業者は淘汰されることになるでしょう。
新商品のプライシングは、市場における当該商品の位置付けを考えて決めるというのが、おそらく最も適切なやり方です。モノであろうとサービスであろうと、新商品は、次の3つのいずれかに該当します。
革新型: 比較できる類似品が存在しない、まったく新しい商品
改良型: 機能強化、サービス付加など、既存品の延長線上にある商品
模倣型: 他社商品と比べ目新しさのない商品
自社が新たに開発している新商品が、上記3タイプのどれに該当するかを正しく判断することが、はじめにすべきことです。
革新型であれば、自由な値付けが可能ですが、そもそも買い手が当該品のベネフィットを理解してくれるかどうかはわからず、適正価格の設定とその後の価格コントロールは、参入してくる可能性のある企業を想定しながら行う必要があるため、非常に難しいものがあります。
革新型の価格戦略には、スキム価格と浸透価格を適用することができます(ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その6)。但し、自社新商品の価値を、経営者や担当者が過大に評価するケースは珍しくないため、何が革新的なのか、本当に革新的なのか(実は改良型に過ぎないものを革新型として売り込もうとしていないのかとか、実際のところは他社追随型の模倣品であるにも関わらず経営層向けの受けを狙ったものではないのかなど)を、見極めなければなりません。
改良型では、改良によって買い手が得られるベネフィットが適切なものか、また、そもそも買い手は改良を望んでいるのかといったようなことを正しく把握しなければなりません。また、当然のことですが、競合の動きは慎重に見極めなければならず、無用な価格競争に陥っては元も子もありません。やり方としては、差別化プライシング、競争的プライシング、製品ラインプライシングの3つに大別できます(価格その4、価格その5)。
模倣型の場合は、買い手からすると、目新しいベネフィットは見当たらないため、費用構造を念入りに分析し、考えなければなりません。また、自社のブランドイメージを毀損するような値付けだったり、市場ポジショニングと乖離した値付けをするようなことになると、取り返しのつかない失敗につながる可能性もあるため、細心の注意を払って行う必要があります。模倣型では、協調、適応、日和見、略奪という4つ価格戦略のいずれかを用いることができます(価格その6)。
繰り返しになりますが、新商品のプライシングは、対象となる新商品が革新型なのか、改良型なのか、模倣型なのか、どれに該当するのかを慎重に見極め、その新作の位置付けを明確にすることから始めます。
注意しなければいけないことは、いきなり細かい点から入ってあれこれ論じたり、いくらにすれば損をせずに済むかといったような、謂わば局所的な検討や、リスク回避的ともいえるような思考や行動は避けなければならないということです。新商品の可能性を自ら狭めたり、むやみに広げたりすることがあってはなりません。まずは、高いところから考える、全体を見るといった思考アプローチで、新商品のタイプ(革新型、改良型、模倣型)を考えることが必要です。
位置付けを明確にしたら、次は当該新商品のベネフィットを評価することになります。これについては、次回にしたいと思います。