ケビン・レーン・ケラーは、ポジショニングを決める上で、差別化のポイントと疑似化のポイントを的確に選択することが非常に重要であると述べています。
差別化のポイントとは、端的にいえば、競争相手の商品との違いを表すベネフィットのことで、ここでのベネフィットとは消費者が買いたくなる要因です。
疑似化ポイントとは、競合商品と共通する機能や特徴のことを踏まえ、自社商品の価値が競合商品の価値と、同等であるとみなされるポイントのことをいいます。ケラーは、英語の原文ではポイント・オブ・パリティと呼んでいます。
従って、優れたポジショニングとは、競合商品との差別化ポイントに留まることなく、疑似化ポイント(ポイント・オブ・パリティ)についても、十分考慮されているということになります。
ケラーに従えば、ポジショニングを決めるための大まかなながれは、以下の2つです。
1. 競争上のフレーム・オブ・レファレンスを規定する。
2. 差別化と疑似化それぞれのポイントを確立する。
1のフレーム・オブ・レファレンスとは、競合商品と比較できる基準となる枠組みのことをいいます。ここですべきことは、自社ブランドの競争相手になる商品(または商品群)を決めて、それらが消費者にどのように見られているのか、位置付けられているのかを理解することです。ケラーは、適切なフレーム・オブ・レファレンスを規定すれば、具体的な差別化ポイントと疑似化ポイントの切り口が定められるといっています。なおケラーは、対象になる商品をカテゴリー・メンバーシップと呼んでいます。
ただ、このフレーム・オブ・レファレンスを規定するのは、そう簡単ではありません。たとえば、新しい清涼飲料を考える場合、レファレンスを狭義に捉えれば他の清涼飲料ということになりますが、単純に飲料に広げた場合だけでも、ミネラルウォーター、日本茶や中国茶、アイスコーヒーやアイスティー、フルーツ系飲料、スポーツドリンク、栄養飲料等々、コンビニや自販機で購入できるものだけでもいろいろあります。これに、もし飲食店や自宅で作れるものまで含めるとなると、膨大なレファレンスとなります。従って、当然のことながら、自社商品の企画段階、たとえばコンセプト開発時点での主旨を明確にしておく、仮説をしっかり出しておくことが非常に重要なタスクになります。
2の差別化のポイントと疑似化のポイントを確立することについては、差別化ポイントを選択する上で、最も考慮すべきことは、消費者からみた望ましさや好感度と、その望ましさの実現性であるとし、ケラーはそれぞれに以下のような基準を設けています。
好感度の基準
関連性: 差別化ポイントは自身と個人的に関連があるか。
独自性: 差別化ポイントは他に存在しない唯一のものか。
信用性: 差別化ポイントは信頼に値するか。
実現性の基準
実行可能性: 差別化ポイントを創出できるか。
伝達可能性: 差別化ポイントは消費者の知識と合致するか。
持続可能性: 差別化ポイントを維持・強化していくことができるか。
ケラーは、疑似化ポイントを他のブランドと共有されている連想と意味づけ、これにはカテゴリーと競争という2つがあり、カテゴリー疑似化ポイントは、ブランド拡張する際、カテゴリーの非疑似性が強いほど、カテゴリーの疑似化ポイントを確立しておくことが重要だと述べています。
競争的疑似化ポイントは、競争相手の差別化ポイントの効力を失わせるために作られる連想のことをいい、相手が優位になっている領域においてブレークイーブンに持ち込み、ほかの領域で自社が優位に立つために行うもの、一例としてミラービールのライトのおいしさはそのまま残してカロリーを控えめにしたケースで説明しています。
なおケラーは、差別化ポイントと疑似化ポイントは、その属性やベネフィットの面で、負の相関関係にあることが多いため、注意が必要といっています。たとえば、高品質と低価格、低カロリーとおいしさ、安全性とパワーといった具合です。また、それぞれの属性やベネフィットが、長短両方を有していることもあると述べています。たとえば、伝統は経験や専門性をほのめかすプラスの面がありながらも、一方で旧態依然とした時代遅れの産物などと、マイナスの要素として捉えられてしまうといった一面があるとしています。
映画007でお馴染みのBMWは、ラグジュアリーでありながら高度な機能を誇っていることで知られています(ただ近年のBMWの動きを見ていると、もしかしたら、それはもうすでに過去のことになってしまったのかもしれませんが・・・)。筆者がニューヨーク州イサカで勉強していた時は防水なのに通気性に優れた軽量のゴアテックス素材を用いたLLビーンのダウンジャケットをいつも愛用していました。相矛盾するかのようなものを両立させるには、技術だけでなく、消費者にそう思わせることが必要で、それができてはじめて相手のブランドを凌駕できるようになる、そのためにはケラーのいう差別化ポイントと疑似化ポイントをうまく確立させることが重要だということになります。