前回は、ロシターとパーシーのポジショニング3段階手法におけるX-YZモデルのXについて述べました。ここで重要なことは、商品カテゴリーで当該ブランドをどのようにポジショニングするのか(Xの決定)、そのXには4つの選択肢があって、そのうちのどれを選択するかは慎重に決めなければならないということです。今回は、このX-YZモデルのYとZについてです。
X-YZモデルのYとZでは、競合ブランドに対してどのように自社ブランドをポジショニングするのか(Y,Zの選択)を考えます。これは、消費者(ユーザー)を表すYについてポジショニングするのか、或いは商品ベネフィットであるZに基づいてポジショニングするのかのどちらかを決めるということです(本稿では消費者を念頭において記述しているためユーザーと表記せず、消費者と記載しています)。
ブランド/マーケティング担当者は、このYとZの2つのどちらを対象にするかを決めなければならず、これがX-YZモデルにおける2回目の意志決定になります(1回目の意志決定は、Xの決定を指します)。
X-YZモデルのYは、消費者に関するポジショニングです。このポジショニングの選択肢には、次の2つがあります。
Y. 消費者に関するポジショニング:
Y1. ターゲット消費者が初心者(技術的商品の活用)
Y2. 購買動機が社会的承認にあたる商品
企業(または事業単位や商品ライン)は、特定した市場の専門家や、特定商品の専門家である必要があり、このためには特定の市場や商品に特化しなければならないとロシターとパーシーは述べています。そして、この状況が適用できる時には、Y1かY2を選択すべきだと説いています。
Y1のターゲット消費者が初心者については、およそ初心者というのは商品の属性を十分理解できるかというと、そうでない場合が多いはずです。また、それが技術的な商品であれば尚更で、それは日本に限ったことではないでしょう。このため、技術的な商品であればあるほど、企業は商品特性への言及はほどほどにして、商品の消費者に焦点を当てるべきということになります。たとえば、今日の例でいえば、3Dプリンターやブロックチェーンによるビットコイン、複雑な金融商品などが、まさに当てはまるでしょう。
ロシターとパーシーは、ターゲットとなる初心者が本当に初心者となるのは、商品が性質的に技術的なものであり、実際、多くの初心者が新規のカテゴリーユーザーではあるが、その逆は必ずしも成立しないといっています。つまり、多くの新規商品カテゴリーが技術的なものではないため、初心者というのは当てはまらない(もしくは当てはまりにくい)としています。
Y2は、本来的にはZの要因になりますが、消費者の承認が重要なものとなるため、Yの要因として扱われています。当時の米国では、ファッション衣料や高級車などの商品カテゴリーでは、社会的承認が最大の購買動機であると捉えられていました。また、それは今でもそう大差なく通用するのだろうと思います。
日本と異なり米国の場合は、身につける衣料や雑貨、自家用車などが、各消費者の社会における地位やステータス、立場を表します。わかりやすくストレートにいえば、米国ではたとえば、世帯主の収入がさほど多くない人はレクサスのような高級車には決して乗りません。一方で、今日の日本ではまったくそうではなく、レクサスに限らず、アルファードやベルファイヤーといった高価格帯帯の車に、世帯主収入はおろか、世帯収入が車の半分や1/3以下の家庭が、こぞって乗っています。ですので、このY2要因を適用させるのは少し難しいように思えます。両国に共通するものでいえば、ひとつには、たとえば脱炭素やサーキュラーエコノミー関連の商品群などが代表的なものになるでしょう。
X-YZモデルのZは、商品のベネフィットに従ってポジショニングするもので、その他全ての状況があてはまるものとしています。
Z. 商品べネフィットに基づいてポジショニング:
Z1. その他全ての状況
その他全ての状況と説明されていますが、実際は殆どのブランドがここに該当します。商品のベネフィットは、消費者ではなく、商品と関連付けられ、ひとつまたはそれ以上のベネフィットに、商品特性のメッセージと共に位置付けられます。
消費者、商品ベネフィット、どちらのポジショニングの場合でも、どのベネフィットが強調されるべきかを決める必要があり、これにはI-D-Uモデルを用いて検討します。これについては次回で概説することにします。