ここまでの3段階手法では、マクロレベルのX-YZモデルについて概説してきました。(Xについてはこちら、YZについてはこちら)
今回は、メゾレベルのI-D-Uモデルです。このモデルは、ブランドをポジショニングする時に、どのベネフィットを強調すべきかを決定することに役立ちます。
I-D-Uモデルは、次の3つの単語の頭文字をとったもので、IはImportant(重要性)、DはDelivery(実現性)、UはUniqueness(独自性)です。このモデルは、商品は、それが保有するベネフィットの独自性を、消費者(ユーザー)が他のブランドの中から、識別できるようになっていなければならないということを表しています。
ジョン・R・ロシターとラリー・パーシーは、ベネフィットを購買動機で考察することを薦め、購買動機は7つあるとしています。その7つは、次のとおりです。
1. 問題を除去するため
2. 問題を回避するため
3. 今のままでは満足できないため、或いは十分な満足が得られないため
4. ほかとの組み合わせで回避するため(接近と回避の混合)
5. 感覚的に満足できるため
6. 知的好奇心や刺激、習熟などが得られるため
7. 社会的承認が得られるため
1から4を負の購買動機、5から7が正の購買動機です。なお、現在使用しているブランドの中身がなくなったり(たとえばコーヒー粉が使用することでなくなったり、メロンを食べたのでなくなった場合)、消耗したり(たとえば使用しているバッテリーが耐用年数をこえた場合)、そういったことで再度、購入するという行為(動機)については、リピート購買に該当するため、つまりはじめて購入するブランドの選択ではないために、上記の購買動機には含まれるものではないと両氏は述べています。
この7つの購買動機に基づいたポジショニングする場合は、大半のケースにおいて、ブランドがまだそこにポジショニングしていない場合に限ります。また、それは最も重視される購買動機(一次的動機)に基づいてポジショニングするというのが、意思決定のルールになります。なお、もし他のブランドがすでにそこにポジショニングしている場合には、次に重視される購買動機(二次的動機)に基づいてポジショニングします。
ロシターとパーシーは、分かりやすい例として、歯磨き粉を挙げています。歯磨き粉の属性または広義のポジショニングには、味・舌触りと、虫歯予防があります。ただ、多くのベネフィットが7つの購買動機のどれにぴったり当てはまるのかははっきりとはしません。味・舌触りは、上記5の感覚的に満足できるという購買動機になるかもしれませんが、食べ物の後味などを除くためといった問題を除去するため(上記1)であったり、虫歯予防などの問題回避(同2)といったこともあります。また、米国の場合だと、クレストの人気が非常に高いため、問題回避というよりも、社会的承認(同7)から購入している人も一定割合はいるでしょう。このように購買動機には曖昧な部分があるため、定性調査を行う際には、心理学の専門家に一次的購買動機を識別してもらうことが重要になる場合があるとロシターとパーシーは補足しています。
ところで両氏が紹介したM.S.ロスの研究結果は、かなり興味深いものです。それは、最も成功している多国籍ブランドの2/3以上は、ひとつの一次的購買動機に集中させているということです。ある調査によると、特定の動機にフォーカスしたブランドのほうが、複数の動機に基づいたブランドよりも、販売数量、マーケットシェア、マージンいずれも高かったということです。
最も強い購買動機ひとつに集中することは、消費者の理解を容易くし、記憶にとどめやすくするということがあるのでしょう。歯磨き粉のように、最も強い購買動機(なんらかの問題を回避すること)が最も多くの購買者をひきつけるのであれば、その最も強い購買動機から離れることなくポジショニングすることが不可欠なことということになります。
ただ、マーケティングアプローチ(ブランディング (4)ターゲティング ③3つのアプローチ)には、ひとつまたはごく少数のセグメントに絞って、大きなシェア獲得を狙う集中型マーケティング、またはニッチマーケティングというのがあります。ニッチを狙うのであれば、最も強い購買動機ではないポジショニングを選択するのが得策かもしれないとロシターとパーシーは述べていますし、かもしれないというよりは、そうしなければニッチとして成立しないだろうと思います。
これについて、たとえば両氏は、サッカリンやホルムアルデヒトなどは使用せず、全て天然成分から作られたというベネフィットを訴求した歯磨き粉の二次的購買動機や、通向きのワインの例などを紹介しています。
ロシターとパーシーは、7つの購買動機について、「もし~ならば」というチェックリストとして活用することで、優れた水平思考的なポジショニング戦略を探ることに役立つとしています。(水平思考/ラテラルシンキングとは、既成概念や理論にとらわれずに、水平移動によって刺激を誘発することで、自由にアイデアを出す思考法のこと)
よく知られた例として、タイレノールが挙げられています。それは、頭痛を鎮めるという問題除去型のポジショニングをしていた大半のアスピリンに対して、タイレノールは頭痛を鎮めることを接近動機として、これに胃痛を回避するベネフィットを組み合わせ、接近・回避の混合動機を利用したとロシターとパーシーは述べています。
最後に、両氏は、各購買動機の幅は非常に広いために、大多数の消費者を引きつける購買動機の中にも、ブランドの差別化を可能にするような差別的なベネフィット機会があると強調しています。
続きは、次回とさせていただきます。