ジョン・R・ロシターとラリー・パーシーのポジショニング3段階手法について、これまでX-YZモデル(その1、その2)と、I-D-Uモデル(その1、その2)について概要を説明してきました。
今回は、3つめのa-b-eモデルについてです。このモデルは、X-YZモデルで消費者の頭の中におけるブランドのポジショニングを選択し、I-D-Uモデルで多数あるベネフィット(Z)の中で、強調するもの、言及するもの、省略するものを決定しました。最後は、選択の最終段階として、ベネフィットのどういった側面にフォーカスするかというミクロレベルでの意志決定となり、ここではa-b-eモデルを適用します。
このモデルは、マーケティング/ブランド担当者が望ましいと考えるブランドポジションを獲得するために、属性、ベネフィット、情動のどれにフォーカスするかを決める時に役立つものです。3つの用語の意味は、以下のとおりです。
属性: あるものに共通して備わっている性質などのことで、かたちのある商品であれば物理的な特徴を指し、サービスのようにかたちがないものではその性質のことをいいます。また、それが消費者や顧客を対象にしたものであれば、性別や年齢、家族構成や職業、収入、出身/居住地域や利用する交通手段、趣味嗜好などになります。
ベネフィット: ロシターとパーシーは、ベネフィットとは「購買者が望むもの(主観的な除去・軽減、もしくは主観的報酬)」と定義しています。ベネフィットについては、このReflectionsでもこれまで何度か述べてきました(ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場、ブランディング (3)セグメンテーション ③法人市場、R&Dと組織横断活動型活動 (1)はじめに③、SMM (4)サービス企業の論点 ②明快なサービスコンセプト)。
情動: 両氏は、情動を「購買者が感じること」として、「ベネフィットが実現する前後に起こったり、ベネフィットとして独立して起こること」と説明しています。喜びや悲しみ、驚きや恐れ、怒りなどの感情で、急激なものであったり、一時的なもの、情緒とウィキペディアでは記述されています。このような感情的経験を刺激することで、購買に関する意欲を喚起します。
なお、動機については、消費者(購買者)が商品を望む理由のことで、負と正の購買動機があります(詳しくは、ブランディング (5)ポジショニング ⑤3段階手法iii I-D-Uモデルその1をご覧ください)。
繰り返しますが、ミクロレベルのa-b-eモデルは、属性、ベネフィット、情動のどれにフォーカスして、ポジショニングするかということに関する意志決定を支援します。
属性にフォーカスする状況には、主に、
①専門家がターゲットの場合
②提供するものが無形のサービスの場合
③同質的なベネフィットを有するブランドが情動へフォーカスすることの代替案となる場合
この3つがあるとロシターとパーシーは主張しています。通常、顧客ベネフィットを強調することがマーケティングセオリーといわれることが多い中で、この属性フォーカスの考え方は、ユニークであり、且つ優れたものだといえるでしょう。
3つの属性フォーカスの状況のうち、①の専門家については、属性から生じるベネフィットを専門家は(専門家であるが故に)すでに知っているためです。
②の無形サービスについては、ロシターとパーシーは、商品(製品、サービス)がより無形であるほど、そのプロモーションにはより具体的な属性が必要になるというリン・ショスタックのジャーナル・オブ・マーケティングとマーケティング・オブ・サービスの論文を引用し、このことは「具体的な属性が、未だ経験されないベネフィットの代理指標になるから」と述べています。
わかりやすい例として、たとえば、従業員が身なりを整え、整理が行き届いた清潔なレストランで食事をするほうが、意図せず雑然とした空間になっている店よりも、選ばれる可能性は高いといったケースなどが挙げられます。ある属性が、良質なサービスを提供する証拠として、消費者に提供されるということになります。
③同質的なベネフィットを有するブランドが情動へフォーカスすることの代替案となる場合については、同等のブランドが存在する場合には、小さな属性を追加したブランドを、消費者は選好する傾向が強いという幾つかの実験結果に基づいています。競合するブランドが同等のベネフィットを強調することが非常に多い日本においては、もっと注目されていい属性フォーカスといえるでしょう。
ベネフィットと情動へのフォーカスは、次回にまわしたいと思います。