前回のSMMブログでは、サービス企業における5つの大論点を挙げ、ひとつめの「顧客の期待を理解しているか?」について述べました。今回は、ふたつめのサービスコンセプトについてです。
サービスコンセプトは明快か?
モノ商品でいえば、食品はおいしさ、化粧品は美しさ、医薬品は病気からの回復などと捉えられるように、商品(或いは製品)はニーズを満たす手段です。コンセプトは、通常、考え方や概念と訳されます。これから、コンセプトはニーズから捉えた商品の考え方と定義づけることができます。なお、コンセプトは突き詰めていえば、顧客のベネフィットを表したものといえるでしょう。コンセプトは、マーケティングの出発点です。コンセプトが形成された後に、それを具体化していく諸活動が行われていきます。
ものづくり企業では、商品コンセプトの重要性は誰もが理解していることですが、サービス企業の場合は、必ずしもそうとは言えないのが実情ではないでしょうか。ですが、無形性、同時性、異質性、消滅性、顧客との共同生産といったサービスの特性(SMM(3)サービスの特性①、同サービスの特性②)に鑑みれば、サービス企業こそ、コンセプトをもっと重視し、周知徹底すべきであるのは明らかです。
サービスは、提供完了時点のかたちが明確でないものが多く、どこに重点をおいて仕上げればよいのかわかりづらいことが多数あります。加えて、サービスに対する顧客のニーズは、モノ以上に、多種多様な感があるということも、コンセプトをもっと重視しなければならない理由になるといえます。
したがってサービスコンセプトは顧客ニーズの観点から定義されるべきであり、且つ誰もが理解しやすい明快なものでなければならないということになります。 ここでいう誰もが理解しやすい明快なものというのは、潜在顧客含めたあらゆる顧客に対してばかりでなく、自社の従業員や経営層に対しても重要です。
何故ならば、サービスコンセプトに基づいたサービスを提供する段階、つまりサービスデリバリにおいては、自社の従業員の多くが関係してくるからです。モノづくりの場合であれば、工場で働く従業員が顧客と直接接することは通常、殆どないといって差し支えないはずです。一方で、サービス業の場合は、現場のスタッフ一人ひとりが、様々なニーズを持つ顧客と関わって、サービスを完了させることに能力や時間を費やすため、彼ら彼女たちがサービスの一部とみなされることが多いといえるでしょう
さらに、前回の論点である顧客期待のところでも述べましたが、サービスには変動幅が存在します。というのも、サービス品質はサービス提供者によって差が生じるからです。そういった差を少しでも最小限にとどめるためには、サービスの核となるコンセプトを明快にすることが、能力や行動、態度などが様々な従業員たちのサービスに対する解釈を、サービス企業の企図した方向に持っていく素地を整えることにつながります。
サービスコンセプトには、誰に対して、何を、誰が、どのように提供するのか、何故そうしなければいけないのかといったこと、つまり顧客提供価値/Value Propositionを明快に記述しておく必要があります。そのためには、対象の焦点をハッキリとさせるのは勿論ですが、対象自体を絞り込むことも重要です。この焦点を絞り込むことや、サービスコンセプトの構成要素や要件などについては、別途、SMMブログで詳細に考えていきたいと思います。
ところで、アメリカ・マーケティング協会の定義に従えば、マーケティングとは「顧客に向けて価値を創造、伝達、提供し、組織及び組織を取り巻くステークホルダーに有益となるよう顧客との関係性をマネジメントする組織の機能及び一連のプロセス」です。
このため、マーケティング担当者の仕事は、顧客のニーズを明らかにし、商品の特性ではなく、ベネフィットを売ることだと言われてきました。時折使われる例えには、顧客はドリルを買うのではなく穴を開けたいんだとか、清涼飲料を売るのではなく顧客が飲んだ時の爽快感を満たすものを提供する、といったようなものがあります。(ベネフィットについては、SMM以外のブログでこれまで何回か述べてきました。たとえば、ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場、R&Dと組織横断型活動 (1)はじめに③)。
サービスにおけるベネフィットは、通常、コアサービスをとおして、顧客が得られるものとされています。補完的サービスについては、それがどれほど素晴らしいものであったとしても、コアサービスの属性の何かひとつでも充たされなければ、顧客はサービス全体をとおして、不満を感じることが多くなると考えられています(SMM(2)サービスの構成要素 ①コアサービスと補完的サービス)。
一方で、顧客がコアサービスに納得していたとしても、顧客はそれを当たり前のことと思うかもしれません。たとえば、ホテルの場合であれば、コアサービスはAホテルでも、Bホテルでも、その顧客にとっては同じようなものとして感じられるかもしれないからです。実際、同じグレードのホテルであれば、そうなるのが普通かもしれません。
しかし補完的サービスであれば、AとBの違いを感じることが少なくありません。特に、ホテルで人を介して行われる補完的サービスでは、ホスピタリティが異なることが多いといえるでしょう。 つまり、
顧客が十分なベネフィットを感じられるようにするためには、まずは、コアサービスについては全ての属性で一定水準は必ず満たすようする。
その上で、補完的サービスで、自社の強みを徹底して伸ばすようにしていく。
このことによって、サービス企業は顧客に対して、競合他社との違いをはっきりと見せることができ、
補完的サービスによる差別化をとおして、当該サービス企業は競争優位を実現させていくことができるようになるといえます。
従って、サービス企業のマーケティング担当者は、コアサービスをあらためて確認し、補完的サービスはコアサービスのどういった面を補って、サービス全体を強化するのかということを明確にすることが重要です。 そして、顧客がどういったサービスベネフィットを期待しているのか、それを顧客は得ることができたのかを検証しなければなりません。
次回は、「サービスデリバリのギャップは何か?」についてです。