6/08/2024

SMM (4)サービス企業の論点 ①5つの大論点と顧客期待の理解

サービス企業は、サービスの品質を、企業活動の中心に据えるべきでしょう。顧客は、サービスが提供される活動をとおして、サービスの品質を知覚します。顧客のなかには、受け取るサービスの全てに最高を求める人も少なくありません。ですが、サービス企業にとって、提供するサービス全てを最高品質のものにすることは現実的ではありません。自社のパーパスや戦略に従い、コストとのバランスを考慮しながら、何を重視するのかしないのかを決めねばならず、このためには、誰のどういった要望を対象にしているのかを、明白にしておくことが必要です。

サービスは、サービスカテゴリー(SMM(1)サービスの種類と特性 ①サービスの定義と4つのカテゴリー同②有形の行為同③無形の行為)によって程度の差こそあれ、無形性、同時性、消滅性、異質性、顧客との共同生産といった大きな特性を備えています(SMM(3)サービスの特性①同サービスの特性②)。そこでは、モノ消費に見られるようなたとえば購入前の広告宣伝に大きな効果を期待することは難しく、あくまでもそれぞれの顧客が品質をどう知覚するかによって、満足度やリピート需要が大きく変わってきます。

顧客の受け取るサービスが低品質であれば、顧客は不満を抱き、離反して他社のサービスを利用する可能性が高まります。このような競争上不利になることを未然に防ぐには、企図したサービス品質の維持と向上が不可欠であり、オペレーション部門や人事部門を含めた組織横断型の活動を推進させなければなりません。

サービス品質は、サービス活動全体をとおして醸成されるものであり、また、品質の良し悪しは、サービス活動全体の結果といえます。そのサービス活動全体を俯瞰できる業務を担う組織が、マーケティング部門です。顧客のサービスに対する購買/利用行動を見て、顧客の期待に思いを馳せながら、新たなサービスコンセプトを策定し、サービスの現場と擦り合わせる。マーケティングミックスを練りながら、顧客へアプローチしていく。サービスを利用した顧客の満足度を分析し、関係各部署へフィードバックしていく。こういったサービス全般に関係する組織がマーケティングにほかなりません。

サービスコンセプトを策定する時は、STP(市場をセグメントし、ターゲティングして、ポジショニングしていくこと)の検討が必要であり、マーケティング部門の重要なタスクです。企業が提供するサービス品質について、ターゲット顧客がどのように知覚しているのかは絶えず考察すべきであり、それを多角的に検討できる組織は、各組織との接点を多く持つマーケティングしかありません。

上述を踏まえ、SMM(サービスマーケティング&マネジメント)視点で、筆者が現在考えるサービス企業の大きな論点には、次の5つを挙げたいと思います。

  • 顧客の期待を理解しているか?
  • サービスコンセプトは明快か?
  • サービスデリバリのギャップは何か?
  • コミュニケーションを組織的に行っているか?
  • 組織文化は競争優位の源泉になっているか?



顧客の期待を理解しているか?

顧客は、受け取るサービスの品質について期待を抱きます。事前の期待と実際にサービスを受け取った後のものを比べて、サービス品質を評価します。一般的にいって、期待どおり、または期待以上であれば、高品質なサービスを受けたと感じます。 

顧客の期待を把握するためには、的確なマーケティングリサーチが必要です。仮説は何か、何をリサーチで得たいのか。リサーチの対象と回数は適切か。また、その内容はサービス品質に焦点を当てたものかなどは必ずおさえておかなければなりません。そのためには、顧客の期待に基づく(或いは、期待に応えられる)サービス品質の基準が設定されていることが重要です。たとえば、リーズナブルなビジネスホテルと、高額なシティホテルでは、当然のことながら、個人であろうと、法人であろうと、期待する内容はサービス対象毎に大きく異なり、それぞれに合った見方や基準などが、顧客のなかに存在すると考えるのが普通です。 

顧客の期待について考える時、ヴァラリー・ザイスハムルほかが考案したサービスビジネスにおける顧客期待の性質と決定要因モデルを活用、または参考にするのが、良いだろうと思います。ザイスハムルによると、サービスに対する顧客の期待には、

①望ましいサービスレベル

②備えておくべきサービスレベル

③サービスレベルの許容範囲

④予想するサービスレベル 

の4つがあると説いています。①は顧客が望む理想的なサービスレベル、②は顧客がこれだけは備えておいて欲しいと考えるサービスレベル、③は①と②の間に収まるもので顧客が許容できる範囲のサービスレベル、④は顧客がサービス企業に期待する現実的なサービスレベルのことをいい、この顧客が予想するサービスレベルによって、②の備えておくべきサービスのレベルが決まると述べています。 

たとえば、レストランで料理を注文する場合、昼時時の特に混雑している時間帯であれば、注文する料理をすぐに聞きに来なかったり、注文しても料理が素早く出てこなかったとしても、それほど不満を言うお客はいないでしょう。ところが、ランチタイムを過ぎて店内にはお客がまばらであるにも関わらず、店員がすぐに対応しなければイラつく人は少なからずいるはずです。

このように、顧客が予想するサービスのレベルによって、備えておくべきサービスレベルは変わってくるということになります。サービスに対する期待が高い場合は備えておくべきレベルは高くなり、期待が低い場合は備えておくべきレベルも低くなります。

③のサービスレベルの許容範囲については、多くの場合、サービスのパフォーマンスや品質はサービスを提供する人によって差があり、変動の幅が存在するのがふつうです。これを前提として、サービス企業はその変動幅が、顧客の許容範囲内にあるか絶えず問われていることになります。顧客が受け取るサービスの良否を気にせずにすむ範囲が、サービスレベルの許容範囲です。 

このことから、サービス企業は、顧客の許容範囲を理解することが非常に重要になります。また、顧客は自身の経験値が増えるほど、望ましいと考えるサービスレベルの値が上昇する傾向が明らかになっています。 

このように考えていくと、全てをより良いものにしようとするのは、心構えは素晴らしいのでしょうが、現実的には不可能なことと捉えたほうがよいでしょう。下手にやることを決めて、それを行ってしまうことが、そもそも間違いだと考えるべきです。つまり、何をやらないかを決めることが非常に重要だということになります。

やらないことを決めるためには、サービスの構成要素であるサービスプロダクト(コアサービスと補完的サービス)モノプロダクトサービスデリバリービス環境のそれぞれについて慎重に考えなければなりません(SMM(2)サービスの構成要素 ①コアサービスと補完的サービスSMM (2)サービスの構成要素 ②4つの要素)。たとえ、競合他社が提供していようとも、自社は提供しないそういった捨てる決断を経営者が行うことから、顧客の期待を的確に理解できる第一歩が始まるといえるのではないでしょうか。 

誰もが推察できるように、顧客の期待は、様々な要素に影響を受けます。それらの要素は、サービス企業がコントロールできるものもあれば、できないもの或いはコントロールしにくいものがあります。 

前者には、顧客に約束しているサービスが該当します。約束しているものは、明示的である場合と、明示されるものから派生するなどして暗黙のうちにしている約束などが含まれます。後者には、顧客の過去の経験や、顧客のニーズ、特に今この瞬間に顧客が必要としていることに加え、顧客が予想するサービスレベルなどが含まれます。 

顧客との対話をとおして、顧客の期待を理解し、コントロールしていくことが必要であることはいうまでもありませんが、従業員同士のコミュニケーションや、スタッフと経営層、時には顧客と経営層のダイレクトコミュニケーションも重要なものとなるでしょう。外部メディア、特に口コミについても、顧客が望ましいと考えるサービスレベルや、顧客が予想するサービスレベルに影響を与えることを考えれば、SMM(サービスマーケティングマネジメント)における統合的なマーケティングコミュニケーションのあり方が、決定的に重要となります。このコミュニケーションについては、4つめの論点である「コミュニケーションを組織的に行っているか?」で触れたいと思います。

長くなってしまいました。次回は「サービスコンセプトは明快か?」について、述べたいと思います。

 

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