前回のSMMブログでは、サービス企業における5つの大論点の二つめ「サービスコンセプトは明快か?」について述べました。今回は、三つめのサービスデリバリについて、考えていきたいと思います。
サービスデリバリのギャップは何か?
サービスデリバリとは、顧客が実際に経験する一連のサービス活動のことを表します(SMM(2)サービスの構成要素 ②4つの要素)。
サービスデリバリを行うためには、人、技術と道具(ITを含む)、プロセス、そして顧客が必要であり、これをサービスデリバリ・システム(サービスをデリバリするための仕組み)と呼び、 サービスを生産する仕組みといってよいでしょう。
このサービスデリバリ・システムが、所定のサービス環境の下、モノプロダクトを使いながら(使用しない場合もあります)、サービスプロダクトを提供します。たとえば、レストランであれば、お店がサービス環境で、メニューがモノプロダクト、料理がサービスプロダクトです。そしてサービスデリバリが行われます。レストランにおけるサービスデリバリ・システムは、次のようになります。人は調理人と給仕、技術と道具は調理技術と器具・厨房やレシピ、プロセスはサービスのフロー特に調理と給仕の手順、顧客は食事をする人たちとなります。
最近は、このサービスデリバリの誤りによる問題が多発しているように思います。たとえば 飲食関係でいえば、(あっては困るのですが)食中毒、特にO157によるもので、これなどは、決められたルールや手順などを守っていれば、防げる事案です。
このようなサービス提供の前提を欠いている事案も一応含めて考えると、サービスデリバリにギャップが発生する理由には、次のようなものが挙げられるでしょう。
市場と顧客
- 不明確な企業/事業戦略
- 曖昧な市場の定義、選択した市場の間違い
- 競合に対する認識の誤りや不足(競争相手に対する過剰な意識、競争相手を見誤るほか)
- 新規市場の開拓間違い(誤った市場を新規に開拓する)
- ターゲット顧客の選定ミス、役割を果たさない顧客、いびつな顧客ポートフォリオ
プロダクトとサービス環境
- 品質の保証と標準化
- プロダクトを提供するまでの準備の不足
- モノプロダクトの不備や不足
- 新規プロダクトの多さ(継続的な改良の欠如、競合に追随、無料提供、クロスセリングやアップセリングの不在など)
- 不適切なプライシング、財務的なシミュレーションの欠如
- プロダクトとサービス環境の不整合、プロダクトとサービススケープのバランスの悪さ(ラブロックは、サービススケープを物理的環境のデザインによって人の五感が受ける印象と定義しています)
プロセスと仕組み
- 曖昧な目標設定
- 貧弱なサービスデザイン、属人的な業務プロセス
- 品質向上に対する意識の希薄、品質向上プロセスの欠如
- 知識・技術の蓄積や移転の不足、ツールの欠如(デジタルを含む)、知識と行動の乖離
- 多数ある煩雑な非付加価値業務
- コンティンジェンシープランの未整備
組織と人
- 経営トップの鶴の一声
- トップ・ミドル・現場の非協力な関係、インターナルコミュニケーションの欠如や不足、低い納得性・モチベーション、グループシンク
- 組織間の対立(現場と経営、フロントとバックオフィスほか)
- 不明瞭な役割とタスク(権限と責任を含む)
- 人の採用と育成に関する様々な問題
- 人の評価と報酬における問題(実行と評価がリンクしていない、やってもやらなくても変わらない、ほか)
- 需要と供給の不整合(需要のピークと底、顧客の組合せ等)
- サービス仲介者との協力関係(流通チャネルのコンフリクト、選択したチャネルの間違い、ほか)
市場と顧客、プロダクトとサービス環境、プロセスと仕組み、組織と人の4つの分野で、最も多くギャップが発生するのは、一般的にいえば、組織と人になるでしょう。ですが、そのギャップ発生の根本原因が何処にあるかというと、必ずしも組織と人ではなく、プロセスと仕組みにあったり、プロダクトとサービス環境であることが少なくありません。また、更にいえば、そもそものところの出発点である市場と顧客で、誤った選択をしてしまい、それを最後まで引きずるということも考えられます。
いずれにせよ、サービスデリバリには様々な問題やリスクが内在しています。サービスの生産を主に人手に頼っているサービス企業では、サービスデリバリが最も重要な要素になるといって差し支えないでしょう。このサービスデリバリとサービスマネジメントシステムについては、別途、SMMブログで詳細に考えていくことにしたいと思います。