6/01/2024

ブランディング (4)ターゲティング ③3つのアプローチ

フィリップコトラーは、各セグメントを分析・評価して、自社が対象にするターゲット市場の設定には、3つのアプローチがあると述べています。全てのセグメントを対象にするのか、複数か、ひとつだけなのか、市場とプロダクトの特性や企業の経営資源などによって、選択するアプローチは異なります。


無差別型マーケティング

無差別型マーケティング(Undifferntiated marketing)とは、市場が多様なセグメントで成立しているという認識を捨てて、市場全体を単一なものとして取り扱うアプローチのことをいいます。つまり、自社の標準的なプロダクト(製品、サービス)を、全ての顧客に提供するというやり方です。

これは消費者ニーズの違いに着目するのではなく、共通しているものを考えるアプローチであり、マイケルポーターのいうコストリーダーシップ戦略が該当するというか、それに端を発しているのだろうと思います。大量流通、大量広告などをとおして、自社プロダクトがいかに優れているかを、あらゆる消費者に訴えかけていくもので、所謂マス・マーケティングの時代のものといえるでしょう。この無差別型マーケティングは、時代の変化と共に、市場の多様性が明らかになるにしたがい、徐々に疑問が呈されるようになりました。 

ひとつのオファーで市場全体をカバレッジするやり方では、今日、難しいと思えるでしょうが、それでも完全にコモディティ化しているような製品(特にB2B市場)や、太古の昔から人間が生きていくうえで欠かすことのできないような青果物(特に一般的な野菜や果物)、また、インフラを担うプロダクトたとえば普通の電力やガス、水道といったものには、このアプローチが通用するでしょう。また、新しいテクノロジーの台頭により、できる限り市場を広くカバレッジしようとする場合、特に消費者市場に対しては、今でもこのやり方でそこそこいけると思われます。

 

差別化型マーケティング

差別化型マーケティング(Differentiated marketing)は、ターゲットとして選択した各市場セグメントに対して、それぞれ異なるプロダクトを提供するアプローチを採用します。市場の多様化に合わせてプロダクトも多様化させていくこのやり方は、企業の売上を拡大させることに直結します。 また、ライフサイクルの成熟期にあるようなプロダクトは、この差別化型マーケティングのやり方が効果的です。

その一方で、差別化型マーケティングは、製品ラインを広げることで、プロダクトとマーケティングのコスト増大リソースの分散などを招きます。高コスト構造と、非効率になりかねない組織の運営やリソースの活用は、経営に決して小さくない影響を与えます。加えて、各製品ラインの多様化は、顧客から見て、よくわからないブランドの発生を招くなどして、顧客が混乱する可能性があり、挙句の果てに顧客の離反を招きかねません。

優れたコーポレートブランドイメージを持つ企業の下で、ブランド同士のカンニバリゼーションや、相互に矛盾し合う(たとえば高品質と低価格など)ブランドが似たようなイメージで存在するといったことが発生するリスクを内包します。 

2000年代半ばに、資生堂が200を超えるブランドを1/3近くに減らし、一見うまくいったように見えたブランド再編が、その後、基幹ブランドのひとつを、同じ要件(仕様やパッケージデザインなど)で、流通チャネルを横断して展開させたことにより、消費者の見方が大きく混乱したという例があります。このケースにおいては、当時の資生堂はマーケティングのセオリーに反したといえますが、そもそものところで、コスト削減や経営効率の向上を重視しすぎたために、消費者の気持ちや消費行動を見落としていた、或いは軽視しすぎたといえるでしょう。

しかしながら企業の体力やリソース力次第では、 市場を制圧するほどの方法にもなるため、今日でいえば、たとえばトヨタ自動車のような巨大企業には、魅力的なアプローチとなります。

 

集中型マーケティング

経営資源が限定されている中小規模の企業や、企業規模は大きくてもこれまでとはまったく異なるプロダクトのカテゴリーに参入する場合などは、潜在的なセグメントを含めて全ての市場に攻め込むことはとてもできるものではありません。こういった場合には、ひとつまたはごく少数のセグメントに絞って、大きなシェアを獲得しようとする集中型マーケティングは魅力的なアプローチです。  また、インターネットビジネスにおいては、小規模な新興企業にとって、非常に有効な方法にもなっています。

集中型マーケティング(Concentrated marketing)、またはニッチマーケティングは、対象セグメントの顧客について、明快ではっきりとした深い知見が必要となります。気をつけなければならないことは、市場セグメントは時間の経過と共に変化していくため、いつまでもそのセグメントの魅力が自社にとって高いとは限らないということです。 

実際、学習し成長していく顧客が、このセグメントには特に多数存在するため、生産や流通を限定することで経営面での経済性を獲得してきたことが、当該セグメントの変化と共に、逆に制約になりうる可能性は否定できません。ましてや、当該セグメントが成長し、大手企業にとっても魅力ある市場として映れば、参入してくるかもしれません。従って、集中型マーケティングを採用する企業は、自らの成長と共に、リソースを分散させていき、更なるニッチ市場を開拓したり、ターゲットセグメントの数を増やしてプロダクトの幅を広げて、事業を分散させる必要性が高まります。


どのアプローチを用いるかは、市場の多様性、企業の経営資源、プロダクトのカテゴリーとアイテム数の多さ、プロダクトのライフサイクルによって異なります。上述のとおり、無差別型マーケティングは各消費者の嗜好や欲求が似通っている時に適用しやすくなります。

一方、集中型マーケティングは、市場セグメンテーションが明確な状態、つまり消費者ニーズなどが分散している市場で、且つ経営資源が豊富な大企業による独占状態ではない場合に、効果的なアプローチとなります。近年の楽天による通信ビジネスへの参入は、NTTドコモ、au、ソフトバンクの3社による事実上の無差別型マーケティングが行われている環境下において、差別化型もしくは集中型のマーケティングを行わない限り、マーケティングセオリー的には勝機がなく、ほぼ自殺的な行為といえるのではないでしょうか。

ここまで見てきたように、市場をセグメントし、ターゲットを選定する活動は、マーケティング戦略の策定において極めて重要なステップです。狙うべきターゲットセグメントが決まれば、次は自社のプロダクトを選んでもらうためには、何をすべきかというステップへと進みます。


ブランディング (7)マーケティングミックス③ 価格その3

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