前々回の「差別化の留意点i 始めに問うべきこと(上)」と、前回の「始めに問うべきこと(下)」では、ポジショニング戦略を考えていく前に、はじめに、自社の現状をしっかりと見ることの重要性とすべきタスクについて触れました。今回は、私たちが決して忘れてはならないことについて、簡潔に記述しておきたいと思います。それは、一言で表すと、
人は見たいものしか見ない
言い方を変えると、
人は自分が信じたいものを信じる
ということです。
これは、日本に限ったことではなく、米国でも欧州でも、その他アジアの国々でも、当てはまることだと思います。論理的に考えて行動しようとしても、数々のバイアス、たとえば、ハロー効果、バンドワゴン効果、後知恵バイアス、正常性バイアス、自己奉仕バイアスといったようなものが邪魔をします。(思考の罠i、罠ii、罠iii、罠iv、罠v、罠vi)
加えていえば、昨今の(というか、実は随分昔からあった)多くのフェイクニュース、平気でうそをつく人々、無数にあるにせ情報、こういった類いのものは、悲しいことですが、インターネットの浸透によって、非常に多くなったと思います。このような環境下で、我々はどうすればいいのでしょうか。
残念ながら特効薬のようなものを、筆者は挙げることができません。ただ、我々は、次のようなことであれば、理解し実行することができると思います。たとえば、
ターゲットにする消費者は、どのブランドを支持しているのか。
当該ブランドは、その消費者の頭(または心)の中で、どのような場所を占めているのか。
支持されているブランドが自社のものでない場合は、我々は競争相手を深く理解しなければなりません。そして、自社がその競争相手に対して、何ができるかを注意深く検討し、攻撃すべき弱点を見つけることです。
次に、競合商品に対して差別化できるポイントを探して、自社が主張できる根拠を、ターゲットに対して示すこと。
あとは、ぶれることのないメッセージを、繰り返し伝え、コミュニケーションをし続けること。
そして、忘れてはならないのは、市場リーダーのポジションが、どういうものかを正しく把握すること。それは、多くのケースにおいて、自社のポジションを確認すること以上に重要といえるでしょう。何故ならば、リーダー企業が保有するブランドを消費者が最も支持しているからであり、通常、2位以下の企業には、それを簡単にひっくり返すことはできないからです。自社がどう考えるかではなく、消費者がどのように見ているかという点が重要だからです。
つまるところ、消費者が今、考えている枠組みや前提といったようなものを、時間をかけて少しずつ壊していかなければならないということに行き着きます。それは、ある意味、競争のルールを変えていくということにもつながります。
トラウトとライズは、このように述べています。消費者の頭の中に梯子のようなものがあって、その梯子のひとつがある商品分野に該当する。梯子の各階段にはその消費者にとってのブランド名が刻まれていて、最上段が最も消費者の頭(または心)を占有している。新しい商品を市場に投入して、新市場を開拓したければ、新しい梯子を持ってくる必要があるということになります。
最後に、トラウトとライズの言葉を、少し長くなりますがそのまま引用したいと思います。「バカも休み休み言うべきだ。誤解は広告や営業努力でやすやす変えられるものではない。先入観のない人はいない。人は広告や営業マンの説得に接すると自らの先入観に照らして、同意したり却下したりする。今日のマーケティングで何が無駄な努力といって、人の考えを変えようとすることほどバカげていることはない。人が一度何かを思い込んだら、それを変えようとするのは不可能に近い。そもそも、真実って何だ? それは見込み客の頭の中にある認識である。あなたにとって納得のいかないものかもしれないが、避けて通る道はない。事実は事実として受け入れて、付き合っていく他はないのである。」