10/25/2024

ブランディング (5)ポジショニング ③差別化の留意点i 始めに問うべきこと(下)

ポジショニング戦略を立案する際、ジャックトラウトとアルライズの「6つの自問」を用いて、はじめに自問自答しておくことが極めて効果的です。前回の始めに問うべきことでは、ひとつめ「自社の現在のポジションは?」とふたつめ「どんなポジションを築きたいのか?」について触れました。今回は、残りの4つの問いについてです。


3. ライバルは誰か?

自社だけで市場を独占することは、資本市場社会においてはありえません。必ず競争相手が存在します。相手をよく理解し、どのように向き合うか。トラウトとライズは、市場のリーダーに対して、勝負を挑むのではなく、迂回しろと説いています。そして、まだ誰も手にしていないポジションを掴めといっています。 

ここでいうライバルとは、自社にとっての競争相手というよりは、消費者の頭の中で自社と戦う競争相手という理解が正しいでしょう。つまり、自社はライバル視していない相手が、ライバルである可能性があるということになります。ひとたびライバルがわかれば、トラウトとライズは、次の4つのパターンに言及しています。 

 

トップブランド(企業)がすべきことは防衛戦 

二番手は積極攻撃 

規模で劣る場合は側面攻撃 

ローカルブランド(企業)であればゲリラ戦

 

戦う場所は、リアルであろうとネットであろうと、小売りの店舗ではありません。消費者の頭(または心)の中でライバルと戦うわけです。それは一見して目に見えないため、かなりやっかいです。多変量解析などを用いた市場調査を行うことで、頭の中をマッピングしなければなりません。 

トラウトとライズは、消費者は単に商品を買うのではなく、選び取っていて、ブランドの長所や短所よりも、ポジショニングを重視すべきだと述べています。また、市場全体のポジションを切り崩して、仕切り直すことを薦めています。


4. 資金は十分か?

トラウトとライズは、消費者の頭のなかのシェアを獲得するには、(当たり前といえば当たり前のことですが)お金がかかるといっています。資金が限られているのであれば、地域を限定して広告を打つべきといっています。一例として、ニューヨークは全米で一番スコッチウイスキーの消費量が多いため、ニューヨークでNo1スコッチというポジションを獲得できれば、そのスコッチを全米に拡大できるとしています。


5. 同じことを続けられるか?

人の記憶には限りがあります。相手にわかりやすく要点を伝えたければ、3、5、7といった奇数にするといったことは知られています。但し、9つとなった途端に、理解に混乱が生じます。場合によっては、5つでも多いといわれることがあります。また、人は忘れがちな上、頭は混乱することを嫌います。加えて、周囲の環境が変化するため、自社のブランドを際立たせようと思えば、ひとたび決めたポジションとそのメッセージを、消費者に対して繰り返し伝える、同じことを言い続けることが必要です 

ライバルも積極的に活動していることでしょう。このため、消費者に覚えてもらい、一番に想起してもらうためには、独自性に富んでいることは勿論ですが、シンプルで分かりやすいことが重要です。わかりづらいことはご法度だと筆者は思います。 

本ブランディングのブログでも触れましたが、消費者は自分たちが経験してきたプロダクトの利用状況などから、利用可能な代替できるプロダクト、つまりとってかわることのできるベネフィットを常に検討しています(ブランディング (3)セグメンテーション ②消費者市場)。これにはいろいろな理由が考えられるでしょう。情報過多の時代において、自分に自信が持てない人たちは、他人が買うものを買う傾向が高いことが挙げられます。たとえば、何故これほどまでにSUVの車が多いのか。SUVを本当に必要としている、または乗ることを楽しんでいる人はそう多くないように思います。自分では選べないから、あの人たちが選んだもの・おすすめのものを購入する。理性的に考えたらすぐにわかるようなことでも、都度、感情に流されてしまうため、いつも心が揺れているということになるのでしょう。 

とはいえ、一方では、人の気持ちや心、ましてや頭の中にいたっては、そう簡単には変わりません。何に焦点を当てればいいのか。それは、自分たちが獲得したいポジションのコンセプトを、消費者がわかるように、繰り返し訴え続けることに尽きるといえるでしょう。トラウトとライズは、「ポジショニングとは、累積的なコンセプトである」と述べています。「長期的に広告し続けてこそ効果がでる」として、「何年間も同じことにこだわり続けなければ意味がない」といっています。


6. 自社にふさわしい広告を作っているか?

世の中、販売されている商品と広告が驚くほど釣り合わないものが多いと感じるのは筆者だけではないでしょう。ましてや会社の体質や文化、雰囲気などと、正反対の広告に出会うことも少なくありません(該当する会社の中の本当の姿を知る機会を得る人は、そう多くはないでしょうが)。プロダクトのポジションと広告がマッチしていることは重要と捉えるのがふつうのはずだと思えるのですが、意外とアンマッチのものが散見されます。人は、事実ではなく、イメージで判断する、ポジショニングも消費者の頭の中の少し具体的なイメージであるとすれば、広告には代理店丸投げではなく、もっと積極的に関与してもいいのではないでしょうか。

 

まず、現実を直視すること。自社のおかれている状況を、少し時間をかけて、一から順に見直すことが、最初にすべきこと。一足飛びに、課題解決の打ち手や、ポジショニング戦略を考えるのは、避けなければなりません。


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