差別化の方法4回目は、チャネルによる差別化です。3回目までは、商品の機能による差別化、サービスによる差別化、人による差別化について述べました。
チャネルによる差別化
日本特有のチャネルに、自動販売機があります。海外で、日本ほど自販機が至るところにある国はありません。今日ほど、コンビニが多くなかった時代には、自販機は非常に重要なチャネルでした。これで大成功したのが日本コカ・コーラです。20世紀には、何処にでもコカ・コーラの自販機はあるという状況だったため、好き嫌い問わず、必然の結果として製品は売れ続けていました。
コンビニといえば、店舗数で依然、他社を大きく引き離しているのがセブンイレブンです。同社のドミナント戦略により、ある地域には何処を見ても、セブンイレブンだらけで、結果的にセブンで購入するという人は今でも多いのではないでしょうか。
グリコのオフィスを対象にした置き菓子サービスのオフィスグリコは、2000年代前半からサービス展開を本格化させ、2021年時点で約10万台のサービス拠点を保有しています。同社によると、仕事の合間にお菓子を食べてリフレッシュ、BCP対策の一環、また、コロナ禍での利用など、様々な効果があったとしています。
コンピュータ製品を製造販売し、サービスビジネスも展開するデルは、今日、ITの世界の巨人です。同社は、もともとはエンドユーザーに直接、製品をカスタムメイドで提供する直販モデルで成長を遂げた企業です。デルの成功により、その後、各IT企業がこぞって直販モデルを取り入れました。
文房具のプラスは、コクヨによるチャネル支配に対抗するため、アスクルを設立し、直販モデルによる成功を収めました。
生活協同組合の生協は、組合員からの出資金で運営する形態をとり、食品などの宅配を行う点で、チャネルによる差別化の先駆けといえるでしょう。価格は必ずしも安いわけではなく、食材などの安全や安心を重視すると同社はうたい、現在では、共済、福祉、介護といったサービスも展開しています。
ヤクルトレディによる訪問販売は、知らない人がいないくらい有名です。乳酸菌飲料のヤクルトは、ヤクルトレディと呼ばれる販売員が個別に各家庭を訪問し、ヤクルトの各商品を販売しています。このスタイルは、今から60年以上前に始まりました。ヤクルトレディを構成する人の多くは主婦で、訪問先の多くの消費者が主婦でもあったため、信頼関係を構築しやすかったのだろうと思います。同社には、「愛の訪問活動」というのがあり、ヤクルトの販売会社と地方自治体の間での契約に基づき、安否確認を兼ねてヤクルトレディが一人暮らしの高齢者の自宅を定期的に訪問しながら、商品を届けるという取組みが継続して行われています。 そのヤクルトは、10年以上も前に、日本と同じやり方で、ベトナムなどへも進出し、今では世界40ヵ国近い地域で活動しています。国内で行ってきたやり方を海外に持ち込み、事業の成長を可能にしました。
化粧品の訪問販売には、ポーラ、ノエビア、メナードなどのものが挙げられます。「ビジネスに参加した人がさらに参加者を広げていく取引」として知られるのが、ネットワークビジネスです。上記の化粧品会社3社が、厳密にネットワークビジネスかというと、必ずしもそうとはいえない点があり、解釈は人によって違いがあるでしょう。ネットワークビジネスは、事業拡大の仕方や取扱商品特性など、各社それぞれ異なるようですが、米国で創業されたアムウェイやシャクリー、国内では栄養補助食品の三基商事、国内で女性用下着などを扱うシャルレなどは、比較的よく知られているように思います。人と人の関係性を活用したチャネルによる差別化を行う企業は多数存在しています(但し、筆者には各社が実際のところ、どういったやり方でビジネスを展開しているのか、どれくらい成功しているのかということはわかりません)。
ネットワーク的なビジネスから事業をはじめ、カタログ通販で会社を大きく成長させたのが千趣会です。ネットビジネスにも比較的早く取り組んだ同社ですが、消費行動の変化、競争相手の増大などにより、会員数は減少し、売上げも低迷するようになりました。また、扱う商品アイテムが増えたことで、販売経費などもかさみ、現在、利益は大きく縮減したものになりました。世情に合わせて、比較的安価なものをおしゃれに売ろうとして、当初は成功していましたが、時代の変化を読み切れず(たとえば1億総中流といわれた時代が終焉したタイミングや終焉の仕方、今日の状況など)、ターゲティングとそれに合わせた商品構成が、結果から見れば、中途半端なものになってしまったといえるのでしょう。
チャネルによる差別化は、ネット販売が今日のように当たり前となる以前から、カタログ通販会社の増大とその多様化、特定のカテゴリーに特化した小売業態、たとえばにユニクロに代表されるようなファストファッションを売り物にするSPA(speciality store retailer of private label apparel、製造小売業)、100円ショップ、家電量販店、さらには街中にある衣料雑貨専門店の品揃えの変化など、消費者行動のみならず、時代の変化を捉え、業界の潮流を読んで、機敏に、自社のMD、商品企画、製造などに反映させ続けることで、差別化を継続して行えるのだろうと思います。